スーパーヒーロー作戦CS   作:ライフォギア

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第67話 魔法と仲間と英・雄・五・人

 混沌とする戦場の中に次々と乱入者が現れる。

 それらをモニターする特命部、二課、S.H.O.Tの元に通信が入ったのは、オーズとウィザードが姿を現してすぐだった。

 

 各組織のメインモニターに映し出されたのは厳格な雰囲気を醸し出す眼鏡の男、木崎政範。

 3組織を代表して特命部の黒木が木崎に反応する。

 

 

「木崎警視!」

 

『ご無沙汰です。

 少々予定からは早いですが、勝手ながら0課が接触しているライダーを向かわせました。

 警視庁国家安全局0課、現時点を持ってそちらの合同組織に参加させていただきます』

 

「ありがたい。最高のタイミングです」

 

 

 厳格なイメージに沿う硬い口調。対する黒木も敬語を崩さない。

 別組織且つ位が上の者達の会話なので当然ではあるが。

 黒木は木崎が映っているのとは別のサブモニターを見る。

 そこに映るウィザードとオーズを見て、黒木は頷いた。

 

 

「成程、彼等が0課に協力している仮面ライダーという事ですね」

 

『いえ。片方はそうですが、もう片方は違います。

 オーズに関しては現場に向かう操真晴人……0課の協力者であるライダーが、偶然に鉢合ったそうです。

 加えて0課が接触している後藤慎太郎と仁藤攻介、それぞれバースとビーストも現着しています』

 

「そうでしたか。

 ……新たに、合計4人のライダー。うち1人は偶然とは……」

 

 

 現場で一際目立った暴れっぷりのジェノサイドロンや、大量に蠢く怪人や戦闘員をモニターする黒木。

 東京エネタワーの戦いは敵増援に伴い過酷さを増していっている。

 エネタワーという非常に目立つ建築物を中心とした騒動に加え、ジェノサイドロンのような大型機械までも暴れ、当然ながら避難警報も出ていた。

 遠く離れた安全圏にはいるもののマスコミも群れてきているようだ。

 詳しい事は情報封鎖されているものの、大規模な戦闘が行われていること自体は隠蔽しようもなく、実際に生中継という形で報道されているのも各組織が確認している。精々巨大ロボットが映っている程度の映像しか流れてはいないが。

 ともあれ、目立つ場所な上に報道もされている為、恐らく日本に居ればこの戦いに気付く者は多いだろう。

 

 

(戦線と被害の拡大による戦闘の露見。それに伴う増援の多さ……。

 ありがたいことではあるのだが、な)

 

 

 未だかつてない程、一気に味方が増えた。

 中にはダンクーガのように微妙なラインのものもいるが、少なくとも現状は味方だ。

 しかし味方が増えているのにも拘らず、戦局を一気に持って行けるほどではない。

 それだけ戦場は過酷な状態にあるのだと、黒木は戦場の彼等の事を想い、両の手をグッと握り締めた。

 

 

 

 

 

 0課から派遣された仮面ライダー3人の内の1人と、報道と騒ぎを聞きつけてやって来た仮面ライダー。

 それが2人、オーズとウィザードだった。

 吸血マンモスは新たな2人のライダーの出現に一度後退し、反対にWとフォーゼの足止めをしていたアルティメットDが前に出た。

 未だふらつく士をオーズに任せ、ライダー側はウィザードが前に躍り出る。

 

 

(絶対強いよな、コイツ)

 

 

 ウィザードとオーズがこの場に来て初めて目にしたのは、Wとフォーゼがコテンパンにされ、見知らぬ青年がマンモスの怪人に殺されかかっていたという状況。

 故に見知らぬ青年、士が仮面ライダーであると推察は出来ても確定はできていなかった。

 とはいえ最低でもライダーが2人いる状態で此処までやられているのだ。

 見た目からして強そうだし、という理由込みでウィザードはアルティメットDが強敵だと考えた。

 

 そこで、ウィザードは真正面からではなく、搦め手を使う事にした。

 彼の力、魔法の力で。

 

 

 ────キャモナシューティングシェイクハンズ!────

 

 ────FLAME Shooting Strike!────

 

 

 銃形態のウィザーソードガンの手を開き、そこに左手を重ねた。

 変身の為の指輪、フレイムウィザードリングの力がウィザーソードガンに宿り、銃口に炎がともされる。

 先のトリガーエクスプロージョンやライダー爆熱シュートと同じ炎の一撃だ。

 しかしウィザードはそれをアルティメットDの足元、地面に向けて撃ち放つ。

 

 着弾した地面を中心に炎が広がり、アルティメットDの行く手を阻む。

 とはいえこれくらいの炎で怯むのなら苦労はしないわけで、アルティメットDは一瞬動揺を見せるもののすぐに前進を再開した。

 

 

 ────BIND! Please────

 

 

 だがその一瞬の隙の間にウィザードは右手の指輪を付け替え、魔法を発動する。

 アルティメットDの周囲に魔法陣が複数出現し、鎖が飛び出した。

 鎖に雁字搦めにされたアルティメットDは力づくで引き剥がそうともがくが、相当にウィザードの魔力が籠められているのか中々千切れない。

 その隙にWとフォーゼはサイクロンジョーカーとベースステイツに戻りつつオーズ達の側へと移動し、4人のライダーは合流を果たした。

 

 

「来てくれたんスか、映司先輩! ありがとうございますッ!!」

 

「久しぶりだね、弦太朗君。それに翔太郎さんとフィリップさんも。遅くなってすみません」

 

「いや、割とナイスタイミングだぜ。映司」

 

「なら良かった。……あの、ところでこの人は? この人も、もしかして……?」

 

 

 近寄るWとフォーゼはかつて共闘した相手であるから、オーズにとって既知の存在。

 しかしオーズが肩を貸して支えている青年、士に関してはまるで知らなかった。

 だから2人に聞いてみたのだが、そんなオーズの支えを士は自ら振り払う。

 そして肩で息をしつつ、足元をふらつかせつつも、彼は再びディケイドライバーを腰に宛がった。

 

 

「あっ、ちょっと……」

 

 ────KAMEN RIDE……DECADE!────

 

 

 心配するオーズを余所に、士はディケイドに再変身。

 一度深呼吸をして呼吸や姿勢を整え、他のライダー達に振り返る。

 

 

「見ての通り、俺も仮面ライダーだ。オーズ、それに……よく知らない全身宝石ライダー」

 

「呼び方適当過ぎだろ? 俺はウィザードね」

 

 

 バインドの力を決して緩めず、それでいて余裕の声色でウィザードが答える。

 そんなウィザードにWが声をかけた。

 

 

「ウィザード……ああ、お前がか。なぎさちゃんとほのかちゃんから話は聞いてるぜ」

 

「おっと、意外な名前。知り合いなんだ?」

 

「まあな」

 

 

 しかしのんびり話している暇も無く、アルティメットDは遂にバインドを打ち破ってしまう。

 驚くような仕草をするウィザードだが、一応体勢を立て直すまで止められたらいいな、程度だったので想定の範囲内だ。

 とはいえ加減してバインドを打ったわけでもないので、相当な馬鹿力である事はその通りなのだが。

 

 

「さって……ライダー5人か。随分揃ったな」

 

「初対面の人もいるけど、ま、細かい話は後でいいか」

 

 

 Wとウィザードの言葉と共に、ディケイドをセンターに5人のライダーが並ぶ。

 向かうは、究極の名を冠する化物。

 それに対するは、何十年も昔から受け継がれる英雄の名前を受け継いだ5人。

 その中、余裕を見せるような魔法使いが左手を顔の近くに掲げる。

 

 

「さぁ、此処からは俺達の──────」

 

 

 状況説明等々、聞きたい事はオーズとウィザードには沢山ある。

 だが、やるべき事が目の前に転がり、それを理解している今、言葉はいらない。

 故に彼等が言葉少なに並んだ事は必然で、魔法使いの言葉が、戦いを再開する合図だった。

 

 

「ショータイムだ」

 

 

 5人が一斉に動き出し、それぞれに攻撃を仕掛ける。

 ディケイドとウィザードが銃を持ち、それぞれ別の方向から射撃。

 それに気を取られている敵にWが蹴りを決め、オーズがトラクローで切り裂く。

 さらにWは一旦退いてフォーゼが代わりにオーズと共に攻撃。

 既にかなり体力を消耗しているWとフォーゼは入れ替わり立ち代わりで攻撃し、オーズが繋ぎになっていた。

 拳、蹴り、やっているのはフォーゼだけだが頭突き。

 それらが銃撃と共に波状攻撃となってアルティメットDに浴びせられ続けた。

 怯んだ様子を見せるアルティメットDではあったのだが。

 

 

「ヌ、グ……オオオオォォォォッ!!」

 

 

 殻に籠るように身体を縮めた後、獣のような咆哮と共にアルティメットDは力を解き放つ。

 瞬間、体からは紫色の波動が拡散し、周囲の空間に凄まじい振動を与えた。

 振動に巻き込まれた者達、つまり5人のライダー達はそれぞれに鎧から火花を散らして吹き飛んでしまう。

 同じ方向に吹き飛ばされたW、ウィザード、オーズは片膝立ちのままアルティメットDを見据えた。

 

 

「ああいう攻撃もあるのか。こりゃ苦労するわけだ」

 

「チマチマした攻撃じゃ埒が明かねぇ。かといって大技の連発は試したしな」

 

 

 トリガーエクスプロージョン、ライダー爆熱シュート、ディメンションブラストの同時攻撃。

 1つ1つが必殺級の火力を持ち、かつそれを全て当てたのにも関わらずアルティメットDは耐えきり、あまつさえ反撃したという実績がある。

 どうしたものかとWが2人分の脳を動かす中、ウィザードが行動に打って出た。

 

 

「大技、ね。ならさっきよりも強めの魔法で、動き止めてみるかな」

 

「あン?」

 

 

 疑問符を浮かべるWを余所に、ウィザードは両手の指輪を付け替える。

 左手には緑色の宝石の指輪を、右手には竜が火を吹いているような赤い指輪を。

 そしてウィザードはウィザードライバーを操作し、変身と同じ動作で左手の指輪をかざした。

 

 

 ────HURRICANE! DORAGON────

 

 ────ビュー! ビュー! ビュービュー、ビュービュー!────

 

 

 擬音でできた歌と共に緑色の魔法陣が出現し、それがウィザードを通過するとともに、彼の姿は緑色に変わる。

 ウィザードの4つの基本スタイルの1つ、ハリケーンスタイルにドラゴンの力を加えた強化形態、『ハリケーンドラゴン』だ。

 緑の風を吹かせるスタイルを見たWは「おぉ」と感嘆の声を上げる。

 

 

「そいつが魔法ってやつか。……今の変な歌なんだよ?」

 

「歌は気にするな、ってやつじゃないですか?」

 

「何でお前が弁解すんだよ映司」

 

 

 先輩達のやり取りを余所に、続けてウィザードはベルトを操作して手形を逆転、右手の魔法を発動する。

 さらにその後、もう一度右手の指輪を付け替えて、それも発動した。

 

 

 ────チョーイイネ! スペシャル! サイコー!────

 

 ────チョーイイネ! サンダー! サイコー!────

 

 

 ドラゴンのスタイルの時にその力を最大限発揮するスペシャルの指輪。

 フレイムドラゴンならば胸にドラゴンの頭部が出現して火を吹くが、ハリケーンドラゴンならば背中にドラゴンの翼が付く。

 

 翼を得たウィザードは飛翔し、アルティメットDの周囲を高速で旋回し始めた。

 回転と共にアルティメットDを中心に竜巻が巻き起こり、そこにサンダーの魔法が付与される事で雷の竜巻となる。

 竜巻の風は壮絶なもので、アルティメットDですらも徐々に空中に浮き始めるものの、その切り裂かんばかりの暴風と雷に彼は耐え続けていた。

 幹部クラスにも効果がある2つの魔法を併用しているのにも拘らず、だ。

 

 一方、それを見つめるオーズ。

 オーズ・タトバコンボの頭部、タカヘッドには超視力が備わっている。

 それが竜巻内部のアルティメットDを捉えており、このままでは耐えきられる事も察知していた。

 

 

「……俺がもうひと押しします! そこに続いて凄いの1発、お願いできますか!?」

 

 

 オーズはオーズドライバーを水平に戻して腕と足のメダルを引き抜き、残ったタカメダルと同じ赤いメダルをセットしながら他の3人に呼びかける。

 呼応するのはWと、吹っ飛ばされた状態から復帰して駆けてきたフォーゼ。

 

 

「ない事はねぇけど……あの竜巻ン中じゃあな……」

 

「だったら俺が何とかするぜ! 任せてくれよ、先輩ッ!!」

 

 

 切札はあるが竜巻の中の相手に当てられるか分からないという翔太郎に、フォーゼが自分に任せてほしいと訴える。

 そんな凄まじくアドリブ任せの土壇場のやり取り。

 だがそれだけで、彼等の次の行動は決まった。

 

 

 ────タカ! クジャク! コンドル!────

 

 ────タージャードルー!!────

 

 

 オーズの体が真っ赤に染まり、タカヘッドは頭から翼が生えたようなタカヘッド・ブレイブへと進化。

 胸のエンブレムはまるで不死鳥を象っているかのような意匠となっている。

 この姿は空を舞う炎のコンボ、『タジャドルコンボ』。

 タジャドルコンボとなったオーズは左腕の専用装備、『タジャスピナー』の円盤部分を開いた。

 中に収められているのは7枚のセルメダル。

 その内3枚を引き抜き、代わりにタジャドルコンボの変身に使用した3枚のコアメダルをはめ込み、蓋を閉じる。

 最後に変身に使用するオースキャナーをタジャスピナーに当てると、円盤内部が回転してメダルが次々と読み取られていく。

 

 

 ────タカ! クジャク! コンドル ! ギン! ギン! ギン!────

 

 ────ギガスキャン!!────

 

 

 鳥系メダルのコンボだけあり、オーズは背中の翼を広げて飛翔。

 さらに彼の体は炎に包まれ、さながら不死鳥のように空を舞った。

 タジャスピナーによって発動した『マグナブレイズ』。

 

 普段ならばこの状態で体当たりして敵を撃滅するが、彼は炎を纏ったその状態でハリケーンドラゴンと同じようにアルティメットDの周囲を旋回し始めた。

 すると竜巻はタジャドルの炎を巻き上げ、雷に加えて炎までもが螺旋を描く凄まじい渦へと進化。

 炎が加わっただけでなく、タジャドルとなったオーズ自身も竜巻の形成に一役買う速度で旋回している為、竜巻そのものの回転数まで上がっていく。

 

 

「おっしゃあ! 続くぜ、映司先輩ッ!!」

 

 

 派手に巻き上がる炎と雷と風を見て、先輩に負けられないと闘志を燃やすはフォーゼ。

 彼は右腕に対応するスイッチを引き抜き、新たに一際巨大な、ロケットのエンジン部分を模したようなオレンジ色のスイッチを装填した。

 

 

 ────ROCKET! SUPER!────

 

 

 装填時の音声はロケットスイッチそのまま、その後に『スーパー』の音声が続く。

 その音声通り、このスイッチの名は『ロケットスイッチ スーパー1』。

 

 

 ────ROCKET ON────

 

 

 スイッチを発動させた時、それは通常のロケットスイッチとは違う力をフォーゼに与える。

 右手だけに付いていたロケットモジュールが左腕にも装備され、フォーゼ自体も見た目は変わらないが体色がオレンジ色に、瞳はオレンジから青い輝きへと変わる。

 これはフォーゼのステイツチェンジの一種、『ロケットステイツ』。

 ある大切な人から貰った特殊なスイッチで変身する姿だ。

 

 続いてフォーゼは左手のモジュールを一時的に解除してフォーゼドライバーのレバーを引いた。

 

 

 ────ROCKET LIMIT BREAK!────

 

 

「『ライダーきりもみクラッシャー』ァァァッ!!」

 

 

 雄々しく叫ばれたのは必殺技の名前。

 この姿でのリミットブレイクは、ロケットの推進力を最大限に生かした一点突破の攻撃だ。

 両手のモジュールを用いてフォーゼは錐揉み回転しながら圧倒的速度で竜巻に突入。

 フォーゼは竜巻と同方向の錐揉み回転をする事で回転数を増すのに加え、炎と雷を纏う事で通常のライダーきりもみクラッシャーを超える力を発揮していた。

 その炎と雷を纏った超回転のキックは、竜巻内部のアルティメットDへと見舞われる。

 

 炎に焼かれ、雷に撃たれ、風に切り裂かれていたアルティメットDは、さらに錐揉み回転しながらの脚の正面衝突を食らい、上へ上へと持って行かれる。

 そうしてフォーゼの一撃を食らったままアルティメットDは竜巻の頂点から飛び出した。

 同時にウィザードとオーズが離脱した事で竜巻が収まるが、フォーゼの勢いは一向に収まらない。

 そしてまだ、最後に残った2人がいる。

 

 

「今ならいけるぜ、士」

 

『切札、久々に切ろうか』

 

「ああ」

 

 

 その言葉に、ディケイド黄色のカードを取り出して答えた。

 ディケイドライバーにそれを装填しながら、彼はニヤリと笑う。

 

 

「ちょっとくすぐったいぞ!」

 

 ────FINAL FORM RIDE……D・D・D・DOUBLE!────

 

 

 スクラッチの後、コールされるのはWの名前。

 ディケイドはWの背中に回り込むと、銀色のセンターラインに沿って両手を押し当てた。

 するとディケイドが使ったカードの効力がWに発揮される。

 次の瞬間、Wは『真っ二つに割れた』。

 

 

 ────CYCLONE! CYCLONE!────

 

 ────JOKER! JOKER!────

 

 

 同時に右半身に同じ色の左半身が現れ、左半身に同じ色の右半身が現れる。

 そうしてWは『2人に増えた』。

 

 『ファイナルフォームライド』。

 

 他の仮面ライダーを変形させ、新たな力を付与したり、武器に変えたりするディケイド特有の能力。

 そしてこれはディケイドがWに与える力の形。

 片や、フィリップの意識が入った緑色のW、『サイクロンサイクロン』。

 片や、翔太郎の意識が入った紫色のW、『ジョーカージョーカー』。

 2人で1人の仮面ライダーであるWの概念を破壊している、型破りな姿だ。

 

 フォーゼのライダーきりもみクラッシャーの最後の一押しがアルティメットDを上空に打ち上げた。

 アルティメットDは大技を何度も食らった影響か、ロクに着地姿勢もとれずに落ちていく。

 そこに3人となったディケイドとWが、持てる力の全てで跳び上がった。

 

 

 ────FINAL ATTACK RIDE……DE・DE・DE・DECADE!────

 

「ハアアァァァァァァッ!!」

 

 

 3人の叫びが重なり、3つのライダーキックは自由落下をするアルティメットDに炸裂。

 上空で起こった爆発の後に、地上に着地したのはディケイドと1人に戻ったWだけだった。

 爆発が収まった時、そこにアルティメットDの姿はない。

 即ち、それは勝利を意味していた。

 

 

「……うおっしゃーァァァッ!!」

 

「ふぃー……」

 

 

 ベースステイツに戻って着地していたフォーゼが叫ぶ。

 対照的にウィザードは息を吐いて、一旦の落ち着きを見せているのだった。

 

 

 

 

 

 一方、ロッククリムゾンと戦うリュウジンオー。

 素早さ、力、どちらもリュウケンドー達を上回るリュウジンオーは、ロッククリムゾン相手にも一歩も引かない戦いぶりだ。

 そしてその戦場には既に、病室で寝ていた筈の剣二ことリュウケンドーが姿を現していた。

 

 先程、リュウガンオーと翼によって新たなキーの調整が終わった事を鈴から教えられた剣二はレオントライクを駆って戦場に飛びだしたのだ。

 いくらある程度の休息があったとはいえ痛みは残ったまま、体もふらついている。

 それでもその新たなキーを活かせるのは自分だけだと、傷を押してやって来たのだ。

 

 そんなリュウケンドーは今、ロッククリムゾンを軽くあしらいつつ一度距離を取っていたリュウジンオーに詰め寄っていた。

 

 

「おい……! お前、何が目的なんだよ!」

 

「フン、ふらついてるぞ。使えない奴は引っ込んでろ」

 

「ンだと、テメェ!」

 

 

 彼がこの戦場にいるとリュウケンドーは聞かされてはいた。

 ジャマンガと戦っているという点では一緒だが、有無も言わさず一度攻撃してきたリュウジンオーに詰め寄るのは剣二の性格故。

 攻撃してきたが今は一応共闘している、という意味で言えばリュウジンオーはクリスと同じだ。

 しかし、クリスと違ってどうにもリュウジンオーはいけ好かない。

 スカした奴のような感じなのもそうだが、それ以上にリュウジンオーとクリスは『何か』違う。

 フィーネに捨てられ、誰かを守ろうとするクリスとは違い、リュウジンオーは明確にリュウケンドー達に悪意を持っているように直感したからだ。

 人を襲った、とかではない。だから戦うべき相手なのかは分からない。

 ともかくリュウケンドーは、感情的な意味でリュウジンオーを味方とは思えなかったのだ。

 

 

「ヌウゥゥゥゥ!!」

 

「フン」

 

「ッ、おわァッ!?」

 

 

 ところがロッククリムゾンはそんな2人の様子に構わず突っ込んでくる。

 助走をつけて拳を振るってくるが、リュウジンオーは悠々と避け、反応が遅れたリュウケンドーは紙一重で地面を転がって躱す。

 どうもロッククリムゾンはリュウジンオーに対して頭に来ているらしく、積極的に彼を狙って拳を振るっていた。

 しかし、1発たりともその俊敏な動きを前に当たる様子は無く、精々近くにあった建物の壁を壊す程度しかできていなかった。

 

 おまけにリュウジンオーの武器、ザンリュウジンの切れ味は凄まじいらしく、振るえばロッククリムゾンの体から火花が散った。

 彼にダメージを与えられたのは全力の拳で向かった響と伝説のライダーである2号のみ。

 その事実を考えれば、リュウジンオーが如何に圧倒的な力を持つ戦士なのかが分かる。

 

 

「バーカ」

 

 

 遅くはない。だけど決して速くはない。

 当たらなければ何でもない上に、リュウジンオーはロッククリムゾンに有効打を与えられる。

 だからリュウジンオーはロッククリムゾンに勝負を挑んだのだ。

 問題なく戦える相手、しかも極めて単細胞な直線的な攻撃ばかり。

 そんな彼をリュウジンオーは煽るが、それに対してロッククリムゾンは。

 

 

「ッ!! バカ……バカだとォ!!」

 

 

 子供のように地団駄を踏んだかと思えば、彼はその身を岩の球体に変身させてリュウジンオー目掛けて勢いよく転がった。

 勿論それも余裕で躱すリュウジンオーだが、どうもロッククリムゾンの様子がおかしい。

 攻撃が躱された後、方向転換をするでもなく、壁にぶつかっては跳ね返るように別の場所へ突っ込み、また壁にぶつかっては別の場所へ突っ込み……を繰り返し始めたのだ。

 おまけに勢いが凄まじく、それは戦場全体に影響を与え始めた。

 

 

「えっ、うひゃぁッ!?」

 

 

 響の眼前をロッククリムゾンが通過し、間抜けな声を出してしまう。

 何が、とロッククリムゾンの進行方向を見てみれば、戦闘員までもが纏めて薙ぎ倒されていた。

 ヴァグラスのバグラーならともかく、同じジャマンガ所属の遣い魔すらも、だ。

 敵と味方の区別も付けず、出鱈目にあっちへ激突、こっちへ激突。

 響達だけでなく怪人や戦闘員すらも若干のパニックに見舞われる中、アリガバリとモグラングを相手にする2号だけがその状況を理解していた。

 

 

(マズイ……暴走してやがる!?)

 

 

 ロッククリムゾンの『暴走』。

 それは2号も一度だけ身を持って体験し、力の2号と謳われる彼がパワー全開で止めに入った事のある状態。

 敵味方の区別も付けず、破壊行動のみを繰り返すその様は正に暴走。

 原因も知っている。

 それは、ある言葉が引き金なのだが──────。

 

 

 

 

 

 ジャマンガ本部に帰還していたレディゴールドはウォームと共に戦場をモニターしている。

 広がるのは、ロッククリムゾンが見境なく暴れる意味不明な光景。

 そしてロッククリムゾンと旧知の仲であるウォームから聞かされた言葉には、文字通り開いた口が塞がらなかった。

 

 

「はぁ? 『バカ』?」

 

「うむ……あやつは『バカ』という言葉にすぐにキレてしまっての……。

 そうすると、ああして見境なく暴れ出すのじゃ……」

 

「……呆れて物も言えないわ」

 

「はぁ……あの癖、治ってるのを期待したんじゃが、間違いじゃったなぁ……」

 

「そこで暴れ倒すのが一番バカだって、アイツ気付いてないの?」

 

「それ絶対にロッククリムゾンの前では言うでないぞ」

 

 

 そう、ロッククリムゾンは『バカ』と言われると、キレてしまうのである。

 

 

 

 

 

 2号もかつては何の気もなく口にした『バカ』の一言で大層苦労したものだ。

 だから2号はロッククリムゾンの頭が悪いと思いつつも、日本に来てから『バカ』の二文字を口にしないように気を付けていたのだ。

 確かに、その理由は誰が聞いても「くだらない」と言うだろう。

 しかしそれによる暴走と、そこから噴き出す力は何の洒落にもなっていない。

 

 暴走するロッククリムゾンは戦場を球体の状態のまま爆走する。

 敵も味方もお構いなし、勿論、周囲の被害にも構いはしない。

 エネタワー周辺の建物はジェノサイドロン達によってただでさえ甚大な被害が出ているというのに、ロッククリムゾンの暴走も伴って壊滅してしまうのではないか、というところまで来ていた。

 しかしリュウジンオーは肩にザンリュウジンを乗せて、ただそれを傍観するだけだ。

 

 

「おい、何で止めに行かねぇんだ!」

 

「派手に暴れまわればいつかはバテる。そうすれば、今よりも簡単に勝てるだろ」

 

「被害とか考えねぇのか!? みんながいつも過ごしてる場所なんだぞ!?

 ロッククリムゾンだけじゃねぇ、ヴァグラスの連中がこの辺りをどうにかしちまおうとしてんだ! 避難してる人達だって……!!」

 

 

 エネタワーの転送は町そのものを飲み込むほどに大規模なものが予想されている。

 戦闘区域周辺の避難は完了しているが、町1つ全てという広域避難など間に合うはずもない。

 リュウケンドーはほんの少しだけ期待したのかもしれない。

 人々の危機を訴えれば、こいつも少しは動いてくれるかもしれない、と。

 

 

「知るか」

 

 

 だが、その思いは簡単に踏みにじられた。

 

 

「大切なのはどう戦うかじゃない。どうすれば必ず勝てるか、だ」

 

「その為なら、敵を放っておくってのか!!?」

 

「フン。そもそも町は既にこの有様だ。守って何の意味がある」

 

「テッ、メェッ……!!」

 

 

 結局、それを最後にリュウジンオーは何も言わず、微動だにする事はなく。

 自分達の部隊所属ではないが敵でもない、という立ち位置はクリスもリュウジンオーも同じだ。

 が、明確な差がある。それは『被害を考えるか』。

 もっと言うのなら、『戦うことで守るつもりがあるか』という事だった。

 クリスはそもそも争いをなくしたいという思いの下で戦っているが、リュウジンオーは敵を倒す事そのものが目的であるかのように見える。

 クリスの信条をリュウケンドーが知る由もないが、恐らくそういう心持ちを何となく察したのだろう。

 そしてリュウジンオーのそれは、敵と戦うという一点は同じでも、決して相容れるものがないものだった。

 

 

「クソ……ッ!!」

 

 

 味方にも町にも、これ以上被害は出せない。

 リュウケンドーは痛む体を引き摺ってロッククリムゾンの元へ跳ぶ。

 未だ暴走を続けるロッククリムゾンの前に躍り出る彼だが、その突進を受け止める事もできず、いいように吹き飛ばされ、建物の外壁に激突してしまった。

 

 

「ぐああああっ!!」

 

 

 傷が開く。ロッククリムゾンから受けた怪我が痛む。

 そもそも戦いで受けた傷は今日受けたものだ。

 傷が塞がるどころか、その兆候すらない状態で戦場に出ている彼は、それだけでも大分無理をしている。

 そこにウルフバイクに乗ったリュウガンオーと、その後部座席で天羽々斬を纏って立つ翼が現着した。

 キーを届けにパワースポットから直接戦場に来た彼等は、近くまで慎次の車で向かい、戦場に入る際にウルフバイクに乗り換えたのだ。

 ちなみに翼がパワースポットで見つけた宝石は慎次に預けてきた。

 

 

「剣二!」

 

「不動、さん……翼……」

 

「遅れてすみません。……無茶をされましたね、剣二さん」

 

「へっ……! 何の、これしきよ……!」

 

「った、く……俺達が、つくまで……じっと、してりゃ、良かったんだ……」

 

 

 よろりと立ち上がるリュウケンドーに対し、リュウガンオーもウルフバイクから降りて鍵を渡そうとする。

 が、バイクから降りた直後にリュウガンオーも膝をついてしまい、息も絶え絶えだ。

 彼は『剣二と比べて』重傷ではないが、一般的に見て十分に重い怪我を負っている。

 その上で戦闘までこなしているせいか、既に限界も近そうだった。

 

 

「これを、受け取れ……リュウケンドー」

 

「すまねぇ、俺の鍵なのに……」

 

「気にするな。お前が強くなることは、俺達全員が、助かるんだからな」

 

 

 リュウガンオーは鍵を渡すと、再びウルフバイクに乗って戦場を去った。

 翼曰く、此処に来るまでの間にオペレーターや司令官各員から口酸っぱく、鍵を渡したら離脱しろと言われていたらしい。

 そもそも翼に託しておけばいいのに此処に来たのは、リュウガンオーが自分の手で後輩に渡したかったから、という我儘からのものだ。

 そんな思いが籠った託された大切な鍵を手に、リュウケンドーはゲキリュウケンを強く握りしめて立ち上がった。

 自分の体に残された力を限界まで、いや、限界以上に振り絞って。

 

 

「見ててくれ、不動さん。勝ってみせるぜ……このキーで!!」

 

 

 新たなキーを展開しゲキリュウケンに差し込むリュウケンドー。

 そうして発動する直前、瀬戸山からの通信が入る。

 

 

『キーの名前は『ダガーキー』だ! リュウケンドー!』

 

「おう……! ダガーキー、召喚ッ!!」

 

 

 ────『マダンダガー』────

 

 

 ゲキリュウケンのコールの元、剣先より飛び出る魔法陣が何かを召喚する。

 それは魔法陣から飛び出ると、一直線にリュウケンドーの手に収まった。

 逆手で手にしたそれは、ダガーの名の通り。

 

 

「短剣……?」

 

(……これ、は?)

 

 

 リュウケンドーが今までに得てきた新たな鍵は、大抵が別の姿へ変身するか、その姿に対応した獣王を召喚するかだった。

 このように武器を召喚するタイプはマダンナックルを除けば初めてだ。

 これが、パワースポットに行く必要すらあった強力な武器なのか。

 何か能力があるのか、単純に切れ味が物凄いのか。

 初見のリュウケンドーには何とも推し量れない。

 同時に、それを見たゲキリュウケンも何か説明しがたい『感覚』に襲われる。

 しかしリュウガンオーが命を懸けて持ってきてくれた力だ。

 絶対に何かあるという確信だけはある。

 

 

『リュウケンドー! マダンダガーの刻印を敵に向けるんだ!!』

 

「刻印……? こいつか!」

 

 

 それを解明するのは瀬戸山の役目。

 マダンダガーには持ち手と刃の間に円形のテーブルのようなものがある。

 そこには不思議な刻印が浮かび上がっていた。

 瀬戸山の言葉通り、今一番止めるべきであるロッククリムゾンに刻印を向けた。

 すると、円形のテーブルから光り輝く文字のようなものが次々と連なった鎖のように現れる。

 光の文字達はロッククリムゾンに吸い込まれるように消えていき、最後の一文字まで消えた頃には彼の暴走は完全に止まっていた。

 

 

「ヌゥ……!?」

 

 

 頭に血が昇って暴れ回っていた事をロッククリムゾンは自覚した。

 また自分が我を忘れていた事も。

 ただ、何よりも彼が驚愕しているのは、無理やり頭を冷やされて冷静にさせられた事。

 言うなれば、完全に止められた事。

 2号ですらも全力で格闘してようやく止めたそれを、だ。

 だからこそその力にロッククリムゾンのみならず、マダンダガーをまじまじと見つめながらリュウケンドーも驚いていた。

 

 

「すげぇ……。おっし、もう一発!」

 

 

 再び向けられる紋章。繰り出される文字の羅列。

 それは自分に何が起きたのか未だ呆然とするロッククリムゾンに向かい、今度はロープのように彼の体に巻き付いていく。

 光の文字による鎖、『ダガースパイラルチェーン』。

 その鎖はロッククリムゾンの馬鹿力を持ってしても外せない程に強力だった。

 

 

「これなら……! ゲキリュウケン、止めを……!?」

 

 

 完全に身動きを取れなくさせた事で、大技を一撃食らわせるほどの余裕ができた。

 周囲からロッククリムゾンをフォローしようと迫る戦闘員達も、全て翼が斬り伏せている。

 止めの一撃を、と、相棒に呼びかけるリュウケンドー。

 しかし、そんなゲキリュウケンの様子はおかしかった。

 

 

『ぐっ、おおぉぉぉ……!!?』

 

「どうした、ゲキリュウケン!?」

 

『そ、そうか……。これは……!!』

 

 

 稲妻を帯びて苦しむような呻き声を上げるゲキリュウケン。

 そんな剣たる相棒は、突如として青い光に包まれ、リュウケンドーの手を離れて空中へ浮き始めた。

 逆の手に持っていたマダンダガーも同じくだ。

 マダンダガーをリュウケンドーが手にした時から芽生えていた、ゲキリュウケンの中にある不思議な『感覚』。その正体だった。

 

 

『この短剣は、私の仲間だ!』

 

 ────ツインパワー────

 

 

 ゲキリュウケンの柄がマダンダガーの柄と繋がり、同時にゲキリュウケンが新たな力をコールする。

 同時に短剣だったマダンダガーの剣が伸びて、それは一本の巨大な両剣へと変わった。

 相棒の新たな姿、新たな力に、リュウケンドーは手を伸ばした。

 そしてその力の名前を力強く叫ぶ。

 その名が、手にしたゲキリュウケンを通して伝わってきているかのように。

 

 

「『ツインエッジゲキリュウケン』!!」

 

 

 手にして感じるその力。

 マダンダガーと合体した事によりゲキリュウケンの力が大幅に上がっている事を、リュウケンドーも感じ取っていた。

 

 

(すげぇ力を感じる……! こいつがマダンダガーの真の力ってやつなのか!?)

 

 

 ツインエッジゲキリュウケンを右手に携え、リュウケンドーはその刃をロッククリムゾンへ突き立てる。

 マダンダガー側の刃が鎖を、そしてロッククリムゾンの頑強な装甲を貫き、そこを中心に亀裂が入った。

 その攻撃で敵を縛りつけていたダガースパイラルチェーンも砕けてしまったが、問題はない。

 初めて感じる痛みに苦しむロッククリムゾンは隙だらけだ。

 

 

「ファイナルキー、発動ッ!」

 

 ────ファイナルクラッシュ────

 

 

 間髪入れずに必殺の一撃を発動する。

 今までの魔弾戦士の必殺技はファイナルブレイクだったのに対し、ツインエッジゲキリュウケンが発声したのは『ファイナルクラッシュ』という言葉。

 マダンダガーが齎したもう1つの力。

 それがファイナルブレイクの上位技、ファイナルクラッシュだ。

 ツインエッジゲキリュウケンの両刃が青く輝き、その力をロッククリムゾンに振るう。

 

 

「ツインエッジゲキリュウケン、『超魔弾斬り』ッ!!」

 

 

 一閃。

 現在のリュウケンドー最強の一撃が岩石巨人へ炸裂。

 呻き声と共に、最初に与えた亀裂がロッククリムゾン全体に広がっていった。

 今の一撃に力の殆どを出し尽くしたリュウケンドーはゲキリュウケンを支えに膝をついてしまう。

 受けた傷で無理をしたせいで、体力は全くと言っていい程残っていない。

 それでも彼には確信がある。

 今の一撃に対しての、確信が。

 

 

「岩石巨人よ、闇に抱かれて眠れ……」

 

 

 相手の最後を見届けるその言葉と共に、ロッククリムゾンは爆散。

 大きな岩が砕けて無数の破片となり辺り一帯に転がっていく。

 

 2号しか対抗できないとされていた岩石巨人ロッククリムゾン。

 その圧倒的力を持つ相手にリュウケンドーは見事リベンジを果たしたのだ。

 リュウガンオーが命を懸けて届けてくれたマダンキーが、文字通り勝利の鍵になってくれた。

 今の戦いを見届けた翼は、辺りの戦闘員を斬り伏せながらリュウケンドーに駆け寄る。

 

 

「剣二さん、お見事でした」

 

「おう。ありがとな、翼。……不動さんにも、後でもう一回、礼言わねぇと。

 さっすが先輩だぜ……」

 

 

 何気なくリュウケンドーが口にした『先輩』という言葉で翼は思い出す。

 先輩らしい事を後輩にしてやりたいと言っていた銃四郎の言葉を。

 

 

(先輩らしい事を……か)

 

 

 響の顔が脳裏を過りつつも、翼はリュウケンドーへ再び声をかける。

 

 

「剣二さん、一旦戦線を離脱するなら肩を貸します」

 

「ああ……って言いたいけど、お前の手は煩わせないぜ」

 

 

 リュウケンドーは新たにキーを取り出し、ゲキリュウケンで発動。

 発動したのはレオンキー。獣王ブレイブレオンを呼び出す為の鍵だ。

 魔法陣より呼び出されたブレイブレオンはリュウケンドーを守護するように、周囲の戦闘員達に躍りかかっていく。

 

 

「こっちは自分でどうにかするからよ、お前は他の連中のトコに行けよ」

 

「しかし……」

 

「俺もンな軟じゃねぇさ。1人でも多く戦える奴が今は必要なんだ。

 俺と不動さんの分も、頼むぜ」

 

 

 ジェノサイドロンやウォーロイドの転送でエネタワーに溜まっていたエネロトンの一部が消費された為、大規模転送までの時間は伸びている。

 しかしカウントダウンが止まったわけではなく、長引けばどんどん不利になるのはこちらだ。

 リュウガンオーが戦線離脱の際に誰にも頼らなかったのも、そういった事を危惧しての事だろう。

 リュウケンドーもまた、同じ事を考えていたのだ。

 その意を汲んだ翼は、怪我人を放っておく事になるという一瞬の躊躇いはありつつも、すぐに決断を下す。

 

 

「はい!」

 

 

 そして翼は跳んだ。

 戦闘員の群れに千ノ落涙を降らせ、手にした剣で道を切り開きながら、戦場の奥に進んでいく。

 彼女が目指す場所は、彼女にとっての後輩がいる場所だった。

 

 

「立花ッ!」

 

「翼さんッ! 不動さんと剣二さんは!?」

 

「双方無事。その上、新たな鍵でロッククリムゾンを打ち倒したわ。

 じきに、この戦場全体に伝わる筈よ」

 

 

 言葉通り、ロッククリムゾン打倒の知らせがS.H.O.Tから戦場の戦士全員に届く。

 凄まじいまでの強敵だったそれを倒したと聞いて、ある者は純粋に喜んだ。

 またある者はリュウケンドーが倒したと聞いて、サンダーキーの時といいまた無理をしたのかと呆れた。

 1つ言える事は、その報は間違いなく戦士達の士気を挙げる吉報であったという事だろう。

 

 

「良かった……剣二さん……!」

 

 

 響も純粋に喜びを見せている。

 ロッククリムゾンと一度でも相対したが故に、それがどれだけ凄い事なのかがよく分かるのだろう。

 現場を実際に見た翼も勿論嬉しく思っているが、何時までもそれに浸っている余裕がある戦場でもない。

 周囲を見やる翼。

 見えるのは、ジェノサイドロンと戦う分離状態のダンクーガとFS-0O。

 ウォーロイドや戦闘員を相手に立ち回る数多くの戦士達。

 と、そんな状況の確認と同時に、戦闘中のメンバーに今度は特命部からの通信が飛んだ。

 

 

『全バディロイドの錆の除去、完了しました! バスターマシンの発進、いつでもいけます!』

 

 

 森下の言葉はこれまた吉報である。

 吉報であるのだが、問題はバスターマシンの操縦者であるゴーバスターズ達がスチームロイドを追っている、という事実だった。

 

 

「どうする? メタロイドも放っておけないよ!」

 

「そうだね。それに転送装置を外すならバスターマシンは1機でも多くいた方がいい」

 

 

 イエローバスターとブルーバスターが言い合う。

 その言い合いは通信回線を開いたまま行われ、戦士達全員に伝わった。

 ゴーバスターズの3人は現在、東京エネタワーに逃げこんだスチームロイドを追う為にエネタワーの外の階段を登ろうという段階だった。

 今回の戦いの目的は敵の撃滅ではなく、エネタワーに取り付けられた転送装置の破壊、あるいは解除だ。

 その為には巨大な戦力がどうしても必要だが、現在出撃している戦力達はジェノサイドロンとウォーロイドに足止めを食らっている。

 

 今回の任務は転送装置が最優先。そうであればバスターマシンに乗り込むべきだ。

 しかしスチームロイドを放っておいて修理でもされた場合、例の錆びる煙が再び脅威になる。

 どうする、とレッドバスターが迷うその時、通信を聞いてエネタワーまですっ飛んできた2人がゴーバスターズの前に降り立った。

 

 

「ならばメタロイド追撃は、私達が引き継ぎます!」

 

「翼! それに響まで……いいのか?」

 

「はい。ノイズは確認できる限り全て殲滅、増援が出てくる気配もありません」

 

「それに、新しくノイズが出てもクリスちゃんがいてくれます!」

 

 

 クリスが戦列に参加しているのは既に伝わっている。

 イチイバルの制圧能力を持ってノイズがほぼ全て叩きのめされ、戦闘員の群れにも絶大な効果を発揮している事も。

 とはいえ明確に仲間、というわけではないのだが、それに対して信頼を置いているような口ぶりの響にレッドバスターは目を丸くした。

 

 

「クリスって、雪音クリスか……信用できるのか?」

 

「大丈夫です!」

 

「根拠は」

 

「直感ですッ!」

 

「感覚じゃ困るんだが」

 

 

 思いっきり不安なレッドバスターなのだが、響の目はどこまでも真っ直ぐだ。

 それに困惑するレッドバスターとは別に、響の直感に同調する者もいる。

 

 

「私も大丈夫だと思う。クリスちゃん、悪い子じゃないと思うし……」

 

「ヨーコ、お前まで……」

 

 

 イエローバスターもまた、仮面越しでも分かるくらいに大丈夫だと訴えかけてきていた。

 この2人や弦太朗がクリスに入れ込んでいるのは知っている。

 それにレッドバスターも、クリスが真の意味で悪い奴だとは思えないと考える事もあった。

 やれやれと思いつつ、言い合う時間も勿体ないし今はそれで通す方が早いと、レッドバスターは頷いた。

 

 

「……とりあえず、今は分かった。メタロイドの反応は展望台付近に移動してる。頼むぞ!」

 

 

 レッドバスターはブルーとイエローに呼びかけた後、司令室にバスターマシンの発進を要求。

 そしてシンフォギア装者2人に後を任せてエネタワーから離れていった。

 残された響と翼は顔を見合わせて頷くと、早速エネタワーの外部階段を駆け上がり、時折ショートカットの為に、エネタワーの鉄骨を壁蹴りして上へ上へと登っていく。

 スチームロイドはパワーこそ高いが鈍重で、とても鉄骨を壁蹴りできるような身軽さはない。

 一方でシンフォギア装者はかなり身軽な部類だ。

 さらに言えば天羽々斬は機動性に優れ、ガングニールは脚部ユニットでジャンプや加速が得意である。

 だからか、スチームロイドが外部階段を登り切って展望台に侵入したのと、2人がそれに追いついたのは同時だった。

 

 

「追いついてきやがったか!! ……あぁ? ゴーバスターズはどうしたよ?」

 

「貴方相手に、あの3人の手を煩わせる必要はないという事よ」

 

「言うじゃねぇか小娘ども! こうなったら逃げ場もねぇ、来いよッ!!」

 

 

 左腕のベルトコンベアを振り回して威嚇するように吼えるスチームロイド。

 相対するのは2人のシンフォギア装者。響が拳を、翼が剣を構えて立ち塞がる。

 

 

「思えば、こうして2人だけで並び立つのは初めてね」

 

「そういえば! 何だかちょっと緊張しちゃいます」

 

「フッ、いつも通りでいいわ。私が合わせる」

 

「えっ……な、何だか申し訳ないです……!」

 

「気にしないで。お互いの擦れ違いとはいえ、立花には迷惑をかけた。

 此処からは立花の先達者として、私も努めさせてもらうわ」

 

「へ? 私『も』、って……?」

 

「少し、思うところがあってね」

 

 

 翼の脳裏に浮かんでいたのは、銃四郎から聞いた話。

 共に戦ってくれる後輩。そんな後輩に先輩らしい事をしてやりたいという想い。

 翼もまた先輩。

 しかしガングニールや奏への拘りのせいで、響には随分と酷い当たり方をしてしまった。

 それは響がやや無神経だった事も起因しているが、それでも翼は自分に非があると戒める。

 故に、より深く思うのだ。自分も少しは『先輩』で在ろうと。

 

 

「行くわよ、立花ッ!」

 

「はいッ!!」

 

 

 息を合わせ、同時にスチームロイドへ突進する装者2人。

 それに合わせて左腕のベルトコンベアを横薙ぎに振るってくるが、身を屈めて前転する事により回避。

 空振りに終わった攻撃から凄まじい風が感じられた事から、パワーは相当である事が窺い知れる。

 

 攻撃を躱した直後、剣と拳がそれぞれにスチームロイドを攻撃する。

 一発目は頭を屈めて回避され、そのまま距離を取ろうとしてきた。

 隙を与えまいと、翼は剣を鮮やかに連続で振るいながら敵を追い詰めていく

 そうして振った中の1回がスチームロイドの右腕に当たるが、金属同士がぶつかった甲高い音が鳴るばかりで、敵にダメージはない。

 

 

「おらおらぁ、効かねぇぞォッ!?」

 

 

 右腕で攻撃を弾いたスチームロイドが勢いそのままに右手を翼に振るうが、それを躱す。

 翼に気を取られた瞬間に響が間合いを詰め、右拳を見舞った。

 響も相手の硬さに気付いたのか、見た目が固そうだからという判断からか、大きく振りかぶった一撃だ。

 腹部に直撃した拳でスチームロイドは後ろに仰け反ってしまう。

 

 

「おぉう!? チィッ、女だてらにいいパンチしやがるッ!」

 

 

 スチームロイドは怯みつつもすぐに体勢を立て直してくる。

 あまり効いていないのか、と、響は仰け反りから回復したスチームロイドを追撃せず、その場で構え直した。

 腕部ユニットを使った全力パンチというわけではなかったが、それでも相当に力を籠めて振り抜いたはずの拳を鳩尾に入れたのに、この回復の速さ。

 効きの弱さに少し怯む響だが、対照的に翼の顔は冷静沈着だった。

 

 

(かなりの大振りだが一撃は重たく、身のこなしも鈍重ではない。

 装甲も硬く、少なくとも相当に力を籠めなければ有効打とは言えない。

 とはいえその堅牢さはロッククリムゾン程ではない、か)

 

 

 此処までの流れで翼はスチームロイドを観察していたのだ。

 全てを把握したなどと驕るつもりは無いが、それでも力と防御性能程度は分かった。

 ロッククリムゾン程ではないが力もあり、防御力も高く、速くはないが遅くも無い立ち回り。

 全体的に高水準な敵で、決めの一撃も相当なものを叩きこまなければならないだろう。

 響が繰り出せる最強の一撃、絶唱級のパンチは溜めに時間がかかる。

 翼が繰り出せる最強の一撃、天ノ逆鱗は展望台内部という閉鎖空間ではそもそも繰り出せない。

 

 

(通常攻撃に限れば、私の攻撃よりも立花の拳の方が効いている。であるならば……)

 

 

 以上の事を頭の中で纏め、結論を出し、次の一手を繰り出す為に翼は響に小声で話しかけた。

 

 

「立花、策というほど大仰なものではないが、聞いてほしい」

 

「は、はい!」

 

 

 翼が簡潔に纏めた内容を聞き、頷く響。

 理解した事を確認した翼もまた、応えるように頷いた。

 

 

「いける?」

 

「頑張りますッ!」

 

 

 響と翼が接近、拳と脚と剣を振るってスチームロイドに接近戦を仕掛けていく。

 対するスチームロイドも応戦するが、小回りを利かせてスピーディに戦う2人についていけていない。

 翼は元々こういった素早い立ち回りが得意だ。

 対し、大振りばかりでストレート過ぎると士に指摘されていた響の戦い方だが、既にそれは改善されていた。

 これも士や弦十郎との特訓の賜物だろう。

 

 

「ちょこまかちょこまかとォッ!!」

 

 

 やや短気な様子を見せるスチームロイドの動きはさらに乱雑になっていく。

 2人はそれらを全て躱して攻撃を仕掛けていくが、素早い動きを意識している為か、大きな一撃を放ててはいない。

 敵は相当に力を籠めなければダメージを通せない鎧を持っている。

 つまり今の2人の攻撃は当たってこそいるが効きは弱い、という状態だ。

 しかし2人の目的は倒す事ではなく、敵を展望台の窓際に近づける事だった。

 

 

(今ッ!)

 

 

 窓際近くまで近づいたところで翼がさらにスチームロイドに接近。

 大振りに、力を籠めた太刀を見舞った。

 それに対してスチームロイドも左手のベルトコンベアで鍔競り合う事で応戦。

 天羽々斬を纏う翼は素早さが売りだが、決して力が弱いというわけではない。

 全力まで込められた刀にスチームロイドも意識を集中せざるを得なくなってしまうが、それこそが翼の狙いだ。

 

 

「立花ッ!」

 

「おおおォォッ!!」

 

 

 足のアンカージャッキを使い加速して敵の懐に入り込んだ響が、右腕に全力のエネルギーを籠めた一撃を放つ。

 エネルギーを籠めた事で開いていた右腕の腕部ユニットが、直撃と共に作動。

 2号すらも認めた強大な威力の衝撃がスチームロイドの全身を駆け抜けた。

 

 

「うおおおぉぉぉぉぉッ!!?」

 

 

 突然懐に飛び込まれ、瞬時に放たれた一撃。

 それはスチームロイドを展望台の窓から突き飛ばし、外へ放り出してしまうほどの威力だ。

 飛行能力を持たないスチームロイドは重力と殴られた一撃の勢いで、放物線を描いて地上へ落下していく。

 間髪入れず、かつ躊躇なく、翼はスチームロイドが吹き飛んだ際に割れたガラスを通り、外へ躍り出た。

 

 

「この一撃でッ!!」

 

 

 落下するスチームロイド目掛けて剣を投げ、それが一気に巨大化。

 同時に右足を伸ばした翼が巨大な剣の柄に蹴り込み、両足に展開された剣型のブースターで加速。

 10m以上の剣を重力落下と翼のブーストで敵に押し込む、単純威力なら翼の最強技。

 

 

 ────天ノ逆鱗────

 

 

 巨大な剣が落下するスチームロイドに叩きつけられる。

 が、今までのメタロイドの中でも強力な部類に入るスチームロイドは両腕を交差させて巨大な剣の切っ先に拮抗。

 真正面からそれに耐えて見せた。

 

 

「ッ……!!」

 

「そう、簡単にゃ、やられねぇぜぇぇぇぇ!!」

 

 

 翼も相当に押し込んでいるのだが、スチームロイドは耐え続ける。

 だけど、忘れてはいけない。今の翼は1人ではないのだ。

 

 

「翼さんッ!」

 

「ッ!? 立花!?」

 

「私も、力を合わせて!!」

 

「……ええ、お願いッ!!」

 

 

 同じくエネタワーから跳びだしてきた響が左足を突き出しながら剣の柄に足を宛がう。

 隣り合わせになる形となった響と翼はお互いに頷きあうと、より一層に力を籠めた。

 翼の両足のブーストがさらに火力を増し、響が両足のジャッキを使って瞬間的に強烈な勢いを加えた。

 響が加速や跳躍に使うジャッキのパワーが加わった天ノ逆鱗は一気に威力を増し、剣の切っ先はスチームロイドを両腕の防御ごと貫いた。

 

 スチームロイドを貫いて地上に刺さった剣の柄から響と翼が降り立つ。

 一方、空中で天ノ逆鱗に貫かれて真っ二つになったスチームロイドは声も無く爆散し、それを見送った2人は顔を見合わせた。

 直後、最初に声をかけたのは響からだった。

 

 

「やりましたね! 翼さんッ!!」

 

「ええ」

 

 

 得意気な笑顔で翼へガッツポーズを送る響。

 スチームロイドを展望台から押し出す役を響に任せたのは、彼女のパワーを買ったからだ。

 そして翼の期待通り、響の一撃は見事にスチームロイドを外へ押し出し、必殺の一撃を繰り出すだけの隙を与えてくれた。

 

 そう、ついこの前まで響へ冷たく当たって来た翼が、響を頼ったのだ。

 翼は「先輩として」と言っていたが、彼女の中で『先輩後輩の在り方』はまだまだ確立していないし、はっきりとしてもいない。

 ただ漠然としたものを思い描いているだけの段階だ。

 しかし、今回の結果が連携からの勝利であった事。それを導いたのは翼だった事。

 そうして勝利を分かち合うその姿は、先輩と後輩のそれであるのではないだろうか。

 

 いつの間にか頼れるようになった後輩のあどけない笑顔。

 それを見た翼もまた、フッと笑みを零すのだった。

 

 さて、そんな勝利の余韻も束の間、レッドバスター達が合流したバスターマシンとジェノサイドロンとの戦いの衝撃が戦場全体に轟いていた。

 

 

「のんびりとしている場合ではないわね。立花、まだ戦える?」

 

「はい、翼さんと一緒ですから!」

 

「……フフッ。なら、行きましょうッ!」

 

 

 2人だけの共闘にて見事強力なメタロイドを倒した2人は、次なる戦場に向かっていった。

 

 

 

 

 

 さて、スチームロイド撃退の後に他の仮面ライダーやクリス等に合流した響と翼。

 そこで彼女達は新たな戦士2人と邂逅する事になる。

 

 背中の翼を用いて戦場を荒っぽく飛び回っている、メカニカルな外見の戦士が1人。

 金色が目立つライオンのような意匠の戦士が1人。

 そう言えば弦十郎からの通信で、新たに0課からの仮面ライダーが3人と、同時に合流した仮面ライダーが別に1人いると聞いている。

 恐らくあの2人がその4人のライダーの内の2人なのだろうという事は、簡単に想像がついた。

 

 

「貴方方が、新たに協力してくれる仮面ライダー、ですか?」

 

「お? 何だ何だ、綺麗な嬢ちゃんだな! 

 俺はビースト! 魔法使いで、仮面ライダー……らしいぜ!」

 

 

 何故疑問形なのか翼には分からないが、ビースト本人が仮面ライダーという名称に慣れていないのだ。

 一方、響と翼の姿を視認したメカニカルな外見のライダー、バースが降り立ってきた。

 

 

「君達が、この部隊の戦士……なのか」

 

「は、はい、立花響って言います! よろしくお願いします!」

 

「ああ。俺は後藤慎太郎、仮面ライダーバースだ」

 

 

 響のバースへの第一印象は、口数の少なさや雰囲気から、『翼さんみたい』だった。

 後藤の堅物感が翼に通ずるものがあったのかもしれない。

 一方でバースからの2人への印象は『こんな年端もいかない子達が』、という戸惑いだった。

 相手は女子高生。そう思うのも無理はないだろう。

 

 さて、あまり長話ができない状況、自己紹介ついでに固まっていた4人は、すぐに戦闘員と怪人掃討の為に散り散りになってしまう。

 そんな中、ビーストはいつぞや木崎に言われた言葉を思い返して戦っていた。

 その言葉をざっくり要約すると、『敵に魔力で動く敵がいるから、キマイラの食事にできるかもしれない』という話だ。

 

 

「フッフッフッ……お前等が魔力で動いてるってのはネタが上がってんだ……」

 

 

 ビーストは戦っている最中に、どれが魔力で動いている敵なのか気付いたのだ。

 特定の戦闘員を倒すと魔力が吸収され、その戦闘員がジャマンガの遣い魔である、と。

 故にキマイラの食事、魔力補給が死活問題になっているビーストは目の色を変えていた。

 色々な戦闘員がひしめいているが、遣い魔も相当な数がいる。

 ならば、する事は1つ。

 

 

「お前等全員……キマイラの食事になってもらうぜぇぇぇぇ!!」

 

 

 ビーストは敵を倒していく。特に重点的に遣い魔を。

 勿論、人を守る魔法使いである彼は他の敵は見逃す、何て事をする気はない。

 それでもやはり、いつ食えるか分からない魔力の補給源だ。

 そういう理由もあって、ビーストはかなり張り切って大暴れをしているのだった。

 

 

 

 

 

 アルティメットD、ロッククリムゾンの撃破。

 シンフォギア装者がスチームロイドを追っているのと同じ頃。

 仮面ライダー2号とモグラング、アリガバリの勝負は、驚くほど呆気なく決着が付こうとしていた。

 何せ現段階にて、モグラングはライダーパンチの一撃で撃破されているのだから。

 

 

「ぐ、ぅぅぅ……! 仮面、ライダァァァ……!!」

 

 

 怨嗟の声を上げるのは残されたアリガバリ。

 対し、仮面ライダー2号も少々の疲れは見せつつも、決してふらついたり膝を付いたりする様子は無かった。

 

 

「へっ、お前等に負けてやる気は元々無かったが……。

 負けられない理由が、ついさっき増えたんでな」

 

「理由、だ、とォ……?」

 

 

 2号は近くの戦場にいるリュウケンドーの方を見た。

 ブレイブレオンに跨り、どうにかこうにか体を動かしながら雑魚相手に奮闘している。

 彼はつい先程、仲間から貰った鍵があったとはいえ、2号が倒し切れなかった強力な幹部であるロッククリムゾンを倒して見せた。

 一度惨敗しているにも関わらず、だ。

 その時の光景を思い返しながら、2号は再びアリガバリへ向き直った。

 

 

「俺は昔、お前と同じタイプの改造人間に負けた。子供まで巻き込んで、こっぴどくな。

 でも俺は仲間や、色んな人のお陰で勝つ事ができた。此処に俺がいる事が何よりの証拠だ。

 ……アイツも同じだ。一度やられて、仲間と力を合わせて勝った。

 自惚れるわけじゃないが、俺が勝てなかった相手に、だぜ?」

 

 

 一息吐き、2号は睨むように顔を動かしながら拳を握った。

 

 

「若い奴がそこまでやってんだ。だったら俺が一度負けた相手……。

 まして、前にリベンジした相手に負けるなんて情けない姿、後輩に見せられるかッ!」

 

 

 モグラングもアリガバリも一度は倒せなかった強敵だ。だから2号も苦戦を予想した。

 ところがリュウケンドーが見せた勝利が、2号の闘志を燃え上がらせたのだ。

 そうして、2号は跳ぶ。

 痛む体を押して全力で左腕の爪を振るうアリガバリ。

 かつてはその爪から繰り出される攻撃にライダーキックを叩き潰されたが、今の2号にそんなものは最早、通用しない。

 

 

「『ライダァァァァ! 卍、キィィィィック』ッ!!』

 

 

 繰り出されるのは身体の捻りを加えた蹴り、ライダー卍キック。

 回転がアリガバリの攻撃を全て跳ね除け、回転の副次効果で威力の上がった蹴りがアリガバリの胴体へ直撃する。

 吹き飛び、アリガバリは間もなく爆散。

 

 着地した2号は再びリュウケンドーの方へ目を向けた。

 ロッククリムゾンに負けた事は無い。しかし勝った事も無い2号。

 確かに撤退させたという意味では勝ったと言えるのかもしれないが、逃がし続けてきた事は良い事ではない。

 それを一度はロッククリムゾンに敗北して、しかも大怪我を負った状態のリュウケンドーが倒したのだ。

 その事実に素直に感嘆しつつ、2号は「フゥ」と溜息を付いた。

 

 

「まだまだ頑張んねぇと、まぁた怒られちまうかなぁ……」

 

 

 かつてアリガバリに大敗を喫した2号。

 そんな彼へ想いの籠った怒号を、檄を飛ばしてくれた恩師の顔が浮かんだ。

 若いのが体張ってるのに何をやっていたんだ、とでも言われそうだと2号は苦笑する。

 響の名字を聞いて、懐かしい敵にあったからだろうか、少しだけ過去を思い返してしまった。

 しかし回想も早々に切り上げ、再度2号は拳を握り直した。

 そうして2号は、満足に動けない状態にあるリュウケンドーのフォローへ回る。

 ジェノサイドロン達を頼りがいのある後輩達に任せつつ、自分もまだまだ気張らなければと気合を入れ直しつつ、2号は戦場を駆けていった。

 

 

 

 

 

 バディロイド復帰に伴い、既にバスターマシンは現着。

 スチームロイドをシンフォギア装者に任せたゴーバスターズ達はバスターマシンへ合流を果たしていた。

 ジェノサイドロンへ相対するは、6機のバスターマシンとダンクーガを構成する『VBM』、即ち『ヴァリアブルビーストマシン』の4機。

 復帰したバディロイドの中には当然Jも含まれており、マサトもビートバスターへ変身し、FS-0OからBC-04へ乗り換えている。

 当然それに伴ってJもスタッグバスターに変身済みだ。

 

 人型であるゴーバスターエースになっているCB-01。

 それに搭乗するレッドバスターが一先ず、ダンクーガ側に呼びかけた。

 以前までと同じように相手への通信の仕方が分からないので、戦闘区域全体に伝わるように、だが。

 そしてそれに応対したのはノヴァイーグルのパイロット、飛鷹葵だった。

 

 

「此処まで粘ってくれて助かった。が、何で合体しない?」

 

『ああ、実はダンクーガって合神して5分しか持たないのよ。

 で、上からの司令で渋ってたってワケ』

 

「上、か。やはり組織立ってるらしいな、ダンクーガは」

 

『なぁに? こんな時に探りが入るの?』

 

 

 合神という言葉は初耳だが、恐らくニュアンスからして合体と同じ意味だろう。

 ダンクーガ側ではそういう名称なのだろうとレッドバスターは特に疑問も持たないが、ダンクーガの内情の方にはどうしても興味が出てしまった。

 勿論、葵に言われるまでもなく、そんな状況でないのは彼もよく分かっている。

 

 

「……いや、止めておく。それで、何で合体するなって言われてたんだ?」

 

『例のメガゾード……だっけ? アレを錆びさせる煙が消えたでしょ?

 だから追加で何かしら出てくる可能性があるから温存しとけ、って言われてね』

 

 

 スチームロイドの煙が消えたという事はバスターマシンの発進ができるという事。

 だが、裏を返せば敵もメガゾードを発進させられるという事でもある。

 ダンクーガ側も分析等々ができるのか、それを予期し、強力ながら5分しか持たない合神を出さない方針で動いている、という事らしい。

 納得できる話だ。何より、見計らったかのようにその危惧が当たってしまった事を仲村の通信が告げてきた。

 

 

『皆さん! メガゾード転送反応です!!』

 

「……どうやらその予想、当たったらしい」

 

『あらら、悪い予感ってどうしてこう当たるのかしらね』

 

 

 溜息を付く葵。レッドバスター含めたゴーバスターズも心境はそんな感じだ。

 ともあれ引き続き、特命部からメガゾードについての情報が通信で伝えられていった。

 

 

『メガゾード、タイプはα、β、γ、δ! 転送完了まで、あと3分です!』

 

「タイプ違いで4機ねぇ、随分投入してくるじゃないの相手さんも」

 

 

 飄々とした言葉を連ねるビートバスターだが、油断も余裕もそこには無かった。

 複数体のメガゾードと戦うのは初めてではないが、エネタワー転送という時間制限がある中でその数はかなりの脅威。

 メガゾードはタイプ毎に性能が違うが、どれにも共通するのはバスターマシンに匹敵する力を持っているという点。

 それが4機だ。プラス時間制限がある中で余裕を持てという方が無理であろう。

 

 

『転送はエネタワーのエネトロンを使用しているようです。

 確かに減少はしていますが、再充填に既に入っています! 正直、余裕は殆どないです!』

 

「ジェノサイドロンとウォーロイドの転送から時間を稼がれ過ぎたね。

 これじゃ、むしろ相手がメガゾード出し放題みたいになりかねないよ」

 

 

 森下の報告を聞き、ブルーバスターが提起した問題は2つ。

 1つ、転送に伴ってエネタワーのエネトロンが減りはするが、相手の時間を稼ぐ手段が豊富な為、このままだとエネタワーにエネトロンが溜まり切って大規模転送が始まってしまう。

 

 もう1つは、エネトロンを溜める『容器』とも言える転送装置がエネタワーにある限り、そこに集まってくる膨大なエネトロンを使ってメガゾードを幾らでも出せてしまう。

 それだと大規模転送が始まらないにしても、こちらがジリ貧だ。

 

 しかし、あくまでも余裕を崩さないビートバスターが声を上げた。

 

 

「ま、シンプルに考えれば、一気呵成で転送装置をエネタワーから外せば終わりって事よ!

 とっとと相手さんぶっ潰して、転送装置に辿り着くぞッ!!」

 

 

 そう、転送装置にエネトロンが溜まっているからメガゾードの転送分のエネトロンが確保できているし、そもそもの目的である大規模転送の危険があるのだ。

 結局うだうだ言っても目的はシンプル。転送装置を取り外すか破壊する。それだけだ。

 

 

「陣さんの言う通りだ。まずはメガゾードが来る前にジェノサイドロンを叩くッ!」

 

 

 レッドバスターの一声で全機体が動き出した。

 ジェノサイドロンはウォーロイドと違い有人機であるが、操縦席にいるのはバグラーである事が分析で既に判明しており、生体反応も無い。

 だから彼等も思いっきりぶつかっていける。

 

 

『メガゾードが後に4機も来るなら、私達の合神は……』

 

「ああ、温存しておいてくれ。そっちの上司の読みが正しいみたいだ」

 

『OK。でも、合神しないと火力が足りないの。今はフォローに回らせてもらうわね。

 ……一緒に戦うのも三度目なんだし、少しは信用してくれるかしら?』

 

「そのつもりだ。少なくとも、今はそうしないと始まらない!」

 

 

 レッドバスターと葵の、お互いに顔も知らない者同士の会話。

 だが、今は戦場で共に戦う同士だ。

 何より葵の言う通り共闘は三度目。信頼できないわけでもない。

 

 さて、計10機の味方機だが、相手はジェノサイドロンだけでなくウォーロイドもだ。

 地上で仮面ライダーを初めとした戦士達も戦ってくれているが、その殆どは戦闘員や怪人に手一杯。

 挙句にウォーロイドは量産機。数も馬鹿にならない。

 そこで巨大なジェノサイドロンを一気に倒す為、ビートバスターはある提案をした。

 

 

「此処は俺とJに任せな! 他の連中でウォーロイドを頼むぜ」

 

「えっ、陣さん……大丈夫なの?」

 

「心配すんなヨーコちゃん。まだお披露目してない合体の話、前にチラッとしたろ?」

 

 

 得意気に語るビートバスターが何をするつもりなのか察したスタッグバスターは、SJ-05をBC-04に近づかせ、同時にBC-04は人型形態のゴーバスタービートへと変形する。

 

 

「つーわけで見せ場だ! 行くぞ、Jッ!」

 

「了解!」

 

 

 パネルに『GB7』のコードを入力。

 合体がスタートし、まずはSJ-05が幾つかのパーツに分離。

 SJ-05のアニマル形態でクワガタの顎部分に相当するパーツが、ビートの左腕に盾のように装着される。同時に、ビークル形態の機首部分は銃のように右手で掴んだ。

 さらにビートの胸部に大型のガトリングが合体し、残りの細かいパーツが背面に合体。

 最後に、ビートのバイザーが開いて本来の顔が露わとなった。

 

 ゴーバスタービートがSJ-05を武器や鎧として装備しているような印象を受ける2体合体。その名も──────。

 

 

「完成、『バスターヘラクレス』!」

 

 

 ビートバスターの気取るような宣言の後に、バスターヘラクレスは早速ジェノサイドロンへ右手の銃、『スタッグランチャー』を向けた。

 さらにスタッグランチャーに加え、胸部のガトリングの『ガトリングバズーカ』を同時に発射。

 そこから放たれるビームと弾丸はジェノサイドロンに炸裂し、その巨体を揺らした。

 

 

『かなり火力のある形態なのね』

 

「あったりまえよ。バスターヘラクレスは見ての通り火力重点。

 2体合体つったって、ゴーバスターオーやダンクーガにも引けはとらねぇぜ!」

 

 

 断空砲の引き金を預かっているノヴァライガーパイロット、くららがバスターヘラクレスの火力に小さく驚いていた。

 ジェノサイドロンは戦艦という役割も持っているため軟にはできていない。

 少なくとも葵達であれば、ダンクーガに合体しなければ苦戦する程度には。

 戦場で幾度か同タイプのジェノサイドロンを相手にした事のあるダンクーガのパイロットだからこそ、それに有効打を与える火力がどれほどのものかが理解できたのだ。

 

 

「さって、エネトロンも無限じゃねぇ。一気に決めてくぜ!!」

 

 

 バスターヘラクレスは一切の容赦なく持てる火力を叩きこんでいく。

 怯み、火力によるゴリ押しで徐々に後ろへ押されていくジェノサイドロン。

 どうやらその火力は内部にまで影響しているようで、操縦するバグラー達も慌てているのかジェノサイドロンの挙動が少しおかしい。

 

 不安定な挙動は隙だ。ならば、そこを逃す手は無い。

 バスターヘラクレスはスタッグランチャーと左手の盾、『スタッグシールド』、そして両脚部の『ビートキャノン』を全て前方に向け、胸部のガトリングも含めたそれら全てにエネルギーがチャージされていく。

 全砲門から放たれるのは、敵を粉砕する一点集中の大火力。

 

 

「「『ヘラクレスクライシス』!!」」

 

 

 通常攻撃の火力すらも断空砲の砲手であるくららのお墨付きだというのだから、チャージされた全砲門の攻撃を単独の敵が受けるなど、耐えられる筈もない。

 十分だと判断して撃ち止めたバスターヘラクレス。

 その前方に立ち尽くすジェノサイドロンは、既に機能の全てを停止し、外観も装甲や一部のパーツが吹き飛んでいた。

 まもなく、ジェノサイドロンは爆発。

 爆発は周囲のウォーロイドを一部巻き込み、その後には敵の破片が散らばるだけだった。

 

 そして息つく暇もなく、第二陣の転送が完了する。

 

 

「シャットダウン完了……とは、いかねぇよなぁ」

 

『メガゾードα、β、γ、δ、来ます!!』

 

 

 上空より転送された巨体が地面へ着地し、大きな土煙が上がった。

 4機のメガゾード、全員が素体状態のままである。

 スチームロイドの特性を誰も引き継いでいないのは、それを引き継げば自分自身が錆びてしまうからだろう。

 相対するのはエース、GT-02、RH-03、バスターヘラクレス、そして4機のVBM。

 遠方からでも分かる鋼鉄の巨人達の睨み合いの中、ノヴァエレファントのジョニーが軽めに口を開いた。

 

 

『団体様到着ですね。これでラストオーダーにしてほしいのですが』

 

「ところがどっこい転送装置を止めねぇと、追加オーダー入りまくりだぜ。

 つーわけだから、ダンクーガさん方も本腰入れてくれよな!」

 

『って事らしいぜ、葵!』

 

『オッケー! じゃあみんな、行くわよッ!!』

 

 

 ビートバスターの解説の後、朔哉と葵の気合十分な声が響き渡る。

 この状況を前にしても戦意を高揚させているのは、流石に数多の戦場に介入し続けてきたダンクーガパイロットと言ったところだろうか。

 そうして4機のVBMは、葵の号令の元に1つとなる。

 

 

「『超獣合神』ッ!!」

 

 

 合体のキーワード。そのコールにより、4機のマシンは1体の人型形態へ組み上がった。

 中空にて合体したそれは、地上へ降り立った。

 戦場を駆ける弱者の味方にして調停者、しかし今は純粋な人類の味方、ダンクーガ。

 

 

「ダンクーガはγを頼む。陣さんとJはδ、リュウさんとヨーコはβ、俺はαを叩く!」

 

 

 次に飛ぶのはレッドバスターの号令。

 レッドバスターを信頼する他のバスターズは、ただ「了解」の言葉を口にする。

 メガゾード戦においては一日の長があるゴーバスターズの言葉なら確実だろうと、葵も「オッケー」と口にする。

 結果としてその指揮に文句を言う者はおらず、各々の機体は指定された相手と相対する事となる。

 

 巨大VS巨大の複数戦。

 ジェノサイドロンとの戦い以上の衝撃は、戦場を震わせようとしていた。

 

 

 

 

 

 一方、特命部司令室。

 

 

「……森下さん、気になっている事が」

 

「何だい?」

 

「今転送されて来たα、質量がおかしいんです」

 

「質量が……? まさか、δが取りついてる?」

 

 

 異変に気付いたが確証の得られない仲村の言葉を聞いて、森下が首を傾げる。

 メガゾードの質量はメタロイドの特性をチューンされる事で多少変化するが、そんな程度なら仲村も疑問に思ったりしない。

 森下の推測は以前、αに取りついて来たδの事を踏まえた上での発言だ。

 しかし仲村はそれに首を振って否定の仕草を示した。

 

 

「それなら寄生していたδ分の重量だけ、質量は重い筈なんです。

 でも今回はその逆で……『軽すぎる』んです」

 

「軽い……!?」

 

 

 森下の程度の大きな驚きには理由がある。

 メタロイドの特性を引き継いだチューンにせよ、δが取りついているにせよ、メガゾードは基本的に素体状態から『軽く』なる事はない。

 にも拘らず、今回は全く初の事例、軽いメガゾードが現れているというのだ。

 

 そして一方、S.H.O.T基地でも同じように異変に気付いた物がいた。

 オペレーターの1人、瀬戸山だ。

 

 

「何だこれは……!? メガゾード出現と同時に、強力な魔的波動が!!」

 

「反応の原因は特定できるか?」

 

 

 焦る瀬戸山に、あくまで司令官として冷静に勤める天地。

 ところがその反応、実は既に特定はできている。

 理由は単純。かなり特定しやすかったからだ。

 何せそれは魔的波動も、その質量も、何もかもが巨大だったから。

 

 

「魔的波動は……メガゾードの、タイプαからです……!!」

 

「何だと!?」

 

 

 本来有り得ない筈の場所から出ている魔的波動は、司令室を混乱に陥れた。

 

 

 

 

 

 一方同時刻、場所は変わって海鳴市。

 なのはは高町家の自室、自分の勉強机に座って、スマートフォンで動画を見ていた。

 

 

『ご覧ください。これ以上の立ち入りは禁止されていますが、この遠方からでも、戦闘の激しさが見て取れます。ヴァグラスが引き起こした大規模な戦闘に、ゴーバスターズだけでなくダンクーガも現れています。以前のように、今回もダンクーガは我々の味方なのでしょうか?』

 

 

 なのはが食い入るように見ているのは、特にダンクーガ関係の報道を熱心に行う『イザベル・クロンカイト』がリポートするニュース映像。

 かなり遠くからの撮影である為、詳細は分からない。

 ただ、バスターマシンやダンクーガと言った巨大戦力は流石に目視できてしまい、その数の多さが戦闘の規模を物語っていた。

 今回はエネタワー周辺の町1つに及ぶ広範囲に避難指示が出ており、東京全域には避難準備の報が入っている。

 当然、海鳴市も範囲内だ。

 

 戦闘の激しさからか、二課や特命部、S.H.O.Tの職員がマスコミを遠くへさらに追いやっている。

 その様子は報道が生中継故、民衆にも伝わっていた。

 

 なのははチラリと、机にハンカチを敷いて大切に置いてある相棒、レイジングハートを見やった。

 

 

(ひょっとして、晴人さん達もあそこにいるのかな?

 仮面ライダー……って言ってたから、もしかして……)

 

 

 仮面ライダーの名は有名な都市伝説。人を守る仮面の戦士の話だ。

 自分を守ろうとしてくれた晴人や攻介がそれであるのなら、これだけの騒ぎだ、聞きつけて飛びだしているかもしれないとなのはは考えていた。

 事情は少し違うがその予想は当たっている。

 

 なのはは迷っていた。

 自分にも魔法が使えて、それなりに戦える。

 正直に言えば今すぐにでも飛びだしたいし、力になりたい。

 しかしなのはは年齢不相応にしっかりとした考えを持っていた。

 自分は特別な力はあるが、特別な訓練を受けたプロではない。

 自分なりに訓練もしているし、それ以前に厳しい戦いを潜り抜けた経験こそあるものの、自分がゴーバスターズ達の迷惑にならないと言い切れるだろうか?

 そもそも自分が魔法を使えるという事をあまり他人に知られるわけにもいかず、この事が知られれば、知った側の人間にも迷惑がかかる可能性が考えられた。

 

 思考は子供らしくなく、大人びている。

 それでもひとたび戦いとなれば、無茶してでもやりたい事をやり切るのが彼女なのだが。

 

 そしてそんな迷いを断ち切るような『感覚』が、彼女を襲った。

 

 

(ッ!? 嘘、今のって……!?)

 

 

 スマートフォンの映像の中では、新たにメガゾードが4機現れていた。

 自分を襲った不気味な感覚、本来ならば二度と感じる筈の無い『それ』。

 その感覚にしばらく呆然としていたなのはは、映像と窓の外を交互に見やった。

 

 

(もし今の感覚が気のせいじゃないなら、大変な事になっちゃう……)

 

 

 自分はその感覚の正体を知っていた。

 最初に彼女が経験した事件にて何度か経験していたからだ。

 その感覚が正しいのなら一大事だ。

 それも町1つどころか、下手を打てば世界の。

 

 そんな切っ掛けが彼女の背を押した。

 なのはは机のレイジングハートを手に取り、語り掛けた。

 

 

「ねぇ、レイジングハート。もしも私の気のせいじゃないなら、これを解決できるの……」

 

『現状、地球においてはマスターただ1人です』

 

「そう、だよね……」

 

『どうしますか?』

 

 

 相棒の問いかけに一瞬だけ考えてしまうが、それはそう長いものではなかった。

 

 もしかしたら、今の感覚が気のせいなどではなく、自分の力が必要かもしれない。

 もしかしたら、自分を助けてくれた晴人達も戦っているのかもしれない。

 例え全て間違っていても確実なのは、ヴァグラスは誰かを困らせている。

 

 ならば、答えは1つだった。

 

 

「行こう、レイジングハート!」

 

『了解』

 

 

 こうして高町なのはは誰にも気づかれないように家を飛び出す。

 人気のない場所まで走り、誰もいない事を確認してレイジングハートを掲げた。

 

 何処かでほんの少し、だけど確かに重ねた絆が、あの戦場には集いつつある。

 そして此処に1人、希望の魔法使いが繋いでいた絆があって。

 

 

「レイジングハート、セーットアップ!!」

 

 

 桃色の羽が舞う。

 こうしてまた1人、誰かの為にと戦う戦士が飛び立った。




────次回予告────
もう感じる筈の無かった、あの出会い、あの戦いで経験した感覚……。
駆けつけた私は、それが気のせいじゃない事を知りました。
私にしかできない事。私だからできる事。
初めて会う人も沢山ですけど、力になります!

次回、スーパーヒーロー作戦CS、第68話『紅い翼と桃色の羽なの』
リリカルマジカル、がんばります。

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