日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第9話 冬の日

 

「…何でもう109前にいるんだろう?」

蓮司の言葉に、全員頷くしかなかった。勇子たちは今、109前にいる。

ブレザーを着ているのだが、寒い。

そして、大輔はもう意識を取り戻している状態だった。

「大輔君、もう大丈夫なのかい?」

「…覚えてないのか?」

蓮司の言葉に大輔は首を傾げた。

「…気が付いたらここだったって感じなんだけれど」

「…俺が目を覚ましたのは戦闘中だが」

「…何があったんだ…?」

皆で首を傾げる。船島がああ、と小さく言った。

「知ってるのか?」

「まあな」

 

 

令子の家を抜け出した勇子たちは、蓮司を先頭にして霊獣の群れと戦う羽目になったのだ。下手にその状態で日暮れを迎えれば、秋の狂暴化した霊獣に襲われない保証はどこにもない。全員全力で戦闘にかかっていたはずだ。

冬士は大輔を抱えて移動するため、攻撃にはまわっていなかった。それもあってなかなか霊獣を振りきれなかったのだが、結果的には囲まれ、どうしようもないという状態に陥った。

大輔はそこで意識を取り戻したらしい。

 

 

「お前らの記憶もそこまでだろ?」

「ああ」

「なら間違いない。 あの後デカい馬に乗った野郎が現れてな、あたりを閃光に包んで、俺たちはインセクト層に飛ばされたんだ」

船島は言った。

「インセクト層ってことは、タイプ蟲人(インセクト)の霊界、かな?」

「そうだな。 タイプ蟲人はかなり多い」

船島が頷いた。鷹が言った。

「あたしはバード層に飛ばされたよ」

「…そんなの、転移能力のある者としか思えない。 俺たちだけを飛ばしたんだろうか」

「ああ。 あいつは西洋の悪魔だろうな。 ここ50年ぐらいでかなり東洋に勢力拡大してきてる」

冬士は小さくつぶやいた。

「セーレ…」

「ん? なんか言ったか?」

「…いや、なんでもない。 そいつには礼を言わなきゃなんねえな」

109前に飛ばされたということは、おそらくその悪魔は勇子たちが次に向かいたいところを知っていたか、はたまた、ここにいる被害者を助けるように仕向けたいかのどちらかであろう。

「…今はあいつを助けることに集中するぞ」

「わかった」

冬士が言えば、皆は頷いた。

 

 

 

 

109に入る前に冬士と大輔の身に起こったこと。

それは、まず、冬士が千夏に無事を知らせるメールを送った結果、長い長いメールが返信されてきたこと。

そして、大輔が心配していたあの卵はトエが持ってきており、いつの間にか孵っていたことである。

その結果が、とんでもないことを引き起こすとは、この時大輔と冬士は知りもしなかった。

 

 

109の4階。

建物の構造だけは変わっていないが、内装はひどい荒れ方である。

「…テンタクルの巣窟だわ…」

令子のつぶやきに、冬士は言った。

「知ってるか? テンタクルって触手型霊獣の総称らしいぜ」

「…へ? そうなの?」

勇子が聞き返す。蓮司が答えた。

「ああ。 ここにいるタイプは日本固有種で、エルオデスって名前になってる。 アメリカザリガニかニホンザリガニかって感じだよ」

「何か違いがあるんですか?」

「エルオデスは群れるし、頭がいいからね。 それに、水気の塊であることが多いから、物理攻撃が効きにくい」

「蓮司さんの天敵じゃないですか」

「同僚にそういう趣味の子がいたから耐性はついてたよ…あれは地獄だ」

冬士が先頭を歩いて行く。鬼気を放っているわけではないのに、エルオデスたちは勝手に身を引いて行く。

「避けられてる…?」

「…冬士君、もしかしてここのブレーンに会ったのかい?」

「はい。 話は先につけてあります」

 

エルオデスはテンタクルと総称されるタイプの霊獣の中では最も厄介な種類である。組織的に動き、人の言葉を理解することもできる。トエを見ればわかることだが、人型をとる―――つまり、高等な変化術も持っている。下等生物扱いはしてほしくないものだ。勘違いして被害に遭う者が後を絶たないのだから。

 

少し奥の方に入ると、そこに少年が1人立っていた。

「影山!」

「山村」

「マジで迎えに来てくれたんだ」

「ちゃんと来るっつったはずだぞ」

冬士は少年―――山村圭吾の手を取った。

 

 

 

 

 

「…よかった」

金髪の青年は、馬の頭を撫でる。

青年は空を見上げる。

「…早く帰れるといいね」

 




文字数が少なくて予想以上に展開が速いです…。
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