日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第10話 鬼龍鬼、初物にて

 

鬼龍鬼、という霊獣を聞いたことがなかった倉橋の生徒たちは皆首をかしげた。

全校集会中である。

 

「今回、皆さんにお伝えせねばならないことがあります。 鬼の生成りだった影山冬士さんが、龍鬼としての特徴を示したことにより、龍鬼認定を受けることになりました。 同時に、雅夏大輔さんも龍鬼認定を受けることとなりました」

 

龍鬼という霊獣は皆知っているのだ、その先が問題だった。

 

「なお、これから龍鬼のことを2つのタイプに呼び分けることが決定しましたので、それをお伝えしておきます。 教科書等に出てくる飛燕をはじめとする、大輔さんまでの龍鬼はすべて“龍龍鬼”、冬士さんのことを“鬼龍鬼”と呼ぶことになります」

 

何のことかすぐに理解はできるが、具体的に一体何が違うというのかを皆は知りたかった。

「学園長」

「はい」

「具体的に違いって何ですか」

「そうですね、あまり言わない方がいいのですが…龍龍鬼は術に長け、鬼龍鬼は白兵戦向きだということでしょうか」

真千も自信はなさそうで、皆の視線は一気に冬士と大輔に集まってしまった。ステージの真千の横に立っていたためだが、冬士が答えた。

「残念ながら俺はまだ完成された龍鬼じゃないんで、どういう性質があるかとかその辺はこれから調査するってことらしいです。 俺しかいないのにどうするのかとかそういう突っ込み入れていきたいと個人的には思ってるんすよ」

冬士が今までよりも饒舌になったのだということをわかる人はいないだろう。

仕方ないだろう、なんせほとんど食堂にも出てこない生徒である。

す、と立ち上がった生徒。眼鏡が光っている。

「1つ提案をいいでしょうか」

この生徒、倉橋の生徒会長である。名は、相模永仁(えいじ)

「はい」

「影山君。 君はあまり食堂に来ていないよね。 ぜひ、来て欲しいんだ。 君が来てくれれば、たぶん…皆も来てくれるようになると思うから」

「…はい、善処します」

冬士はあっさりと答えた。

3年生の生成りの生徒のことを生徒会長が気にかけているとはっきりしただけでも十分ではないか。そんな目をしている冬士に、勇子と千夏は盛大にため息を吐いた。もちろん、ステージの下での話である。

「欲が無い」

「まあ、だからこその冬士だよなあ。 …ああ…今日から一人部屋だわ」

「お、寂しいの?」

「寂しいに決まってんだろ。 今の今まで4年間同じ部屋で寝てきた仲なんだぜ…」

「チッ…そこは“一緒に寝てきた仲”でしょ」

「勇子の前でどっちとも取れる台詞吐くわけ無いだろ馬鹿かよ」

これ以上腐海を広げんじゃねえよ。

勇子と千夏は今まで通り話しているのだが、これからはその間に冬士が入ることはなくなる。冬士の扱いは生成りのままだが、倉橋にいる霊獣の中で最強クラスの力を誇る霊獣に成長したことは間違いなかった。

 

 

 

 

 

昌次郎は珍しく春樹の傍にいた。いや、仕方がない。冬士を見ていなくてはならないのだから必然的にこちらに移動してくることになるのである。ようやく仕事らしい仕事をやってくれた、と蓮司が満足げに笑っていた。

春樹は手を握りしめていた。

いつも一緒にいた勇子、千夏、大輔のところに冬士がいないという今の状況がおかしいものに見えて仕方がない。千夏から発せられた朱雀の霊気は、隠行で隠されてはいるものの、確実に霊獣を削るということで、傍にいることに慣れているうえ、冬士よりもはっきりと霊獣化の進んでいる大輔以外の生成りは近付くことを許されなくなった。

冬士とのやり取りはこの至近距離でメールになっている。

同じ土御門一派として、土御門分家と影山が仲がいいのはよいことだととらえている春樹。しかし千夏にも冬士にも憧れやら思慕やら、いろいろと自分が抱いていたらしいことに気付き、混乱もしているのだ。

春樹が面会を許された千夏も冬士も血だらけの状態でへらっと笑っていたわけだから、春樹は肝を冷やした。何があったのかは、霊気を視てすぐに分かった。冬士と千夏、正純からは、冬士が龍鬼になりかけていたことを教えていなかったことを謝罪された。

仕方ないと春樹にはわかってしまっていたから、責めることはしなかったし、責めるのがお門違いなのもわかっていた。

そもそも冬士がキマイラ層にとんでしまったあの時に、龍に出会ったらしいあの時に、大輔が龍鬼になりかけていたのに、冬士がなっていないはずがなかったのだ。

千夏はさすがに正純から教えられていたようだったし、勇子もおそらく勘付いていただろう。大輔がわかっていないはずはない。

亜門の反応も全く変わらないものであったことと、ようやくばらしたんだなという辰巳の言葉を聞いて春樹は確信した。亜門は確定未来が見えているというではないか。おそらく知っていたのだろう。辰巳は龍の生成りだ。とすれば、龍が気付かないはずはない。春樹はそれが龍鬼への龍の反応であることを知らなかったためスルーしていたが、龍は気に入った龍鬼にはよくすり寄ったり懐いたりするという。グールと戦うはめになったあの時に春樹の龍は思いっきり冬士にすり寄っている。千夏がいたからそのせいだと思っていたが、冬士の方にも理由があったようだ。

「…」

そんな冬士のそばには、今は朱里とアレンと亜門がいる。

 

 

 

「んじゃ、今日から千夏が部屋移動?」

「ああ。 犬護と千夏がチェンジだ」

「あー。 犬護一人部屋だったもんねえ」

アレンが納得したようにうなずいている。朱里は亜門を見た。亜門は肩をすくめた。

「俺が同じ部屋でもよかったんだけどな? でもほら。 ルイと同じ部屋いやがるやつ多いだろうし?」

「そっか、四月朔日は半妖でしたね」

朱里はああ、と息を吐いた。

「そういうこと。 仕方ないさ。 にしても、冬士の心配してくれてる女の子がこれだけ冬士の傍にいるってのも珍しいよな」

「朱里はうざくねえからな」

「女の子にうざいとか言っちゃだめだぞ、影山」

「やたら世話を焼いてくるのはうぜえんだよ。 俺が生成りだってわかっても俺を部屋に監禁する物騒な女が多くてな」

「女運がないな」

「でもわかる、冬士は閉じ込めて自分だけが見れるようにしておきたい感じだ」

アレンと亜門が繰り広げるトンデモ会話に冬士がドン引きの表情を見せた。

「あ、影山ひどくねその顔!」

「鹿池、なめちゃいけないぜ! こいつは人を蛾でも見るような目で見ることがある!」

一体何の話だ。

そんな疑問を朱里は呑み込んだ。ここで突っ込んだら自分で笑ってしまう気がした。

冬士が鬼龍鬼になろうが、生成り先生が増えようが、生成り生徒が増えようが、もう彼らの日常生活は変わりそうになかった。

 

野本が、おそらく正純の次に冬士への対応に慣れているということで事情聴取を受けながら講師という形で倉橋に勤めることになった。吉岡たちがガッツポーズをしたのは言うまでもない。おそらく直接話を聞きだしに行く気だろう。

そんな皆を見ながら、アレンは友達にメールを送った。

 




祝・100話突破。

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