日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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スローペースですみません。


第5話 客の中

「朱里、たっだいま~」

「勇子時間ぴったりだな」

「えっヘん! 待たせたりはしないわ!」

勇子がそう言って着替えのために準備室へ向かう。すぐ後に付いて来ていた大輔はアレンを見やった。

アレンはなかなか整った容姿をしているし、話しかけやすい雰囲気を纏っていることもあり、かなりお呼ばれしていた。その奥で丁寧に皿を下げたり注文を取ったりしている冬士は周りの女性客から視線を集めっぱなしだったが。

「お帰り大輔。うまく回れたか?」

「……ああ」

大輔は言葉少なめに朱里に答え、着替えて出てきた勇子と入れ替わりで奥に入っていった。

「3班戻ってきたよ!」

「了解」

アレンが返す。冬士は今日は一日働きづめになる予定である。その代わり明日、冬士は自由に行動することになっている。大輔は3日目に自由時間が与えられている。これは称号持ちの義務でもある、イベントごとの際にトラブルが起きないように抑止力として校内を回る、というものがあったために行われることになったもの。冬士は当初、3日目に自由日にしてくれと言っていたのだが、朱里が押し切った。ちなみにこの時なぜかアレンも冬士の意見を推していた。

ともかくである。

勇子は赤っぽい髪に合わせた赤っぽいネコミミカチューシャをつけ、ロングスカートタイプのメイド服を着ている。

「……着替え早いな」

「え、だって巫女服みたいに禊いらないじゃん?」

「形式守ってたのか」

「……いくら蘆屋系でもそこぐらい守るからね?」

神成家の意外な一面を知った気がした朱里だった。

 

 

 

 

 

<冬士サイド>

恐ろしいまでの繁盛を見せるAクラスの生成り喫茶に、8人ほどの生徒が固まって現れる。ああ、こいつらさっき来たグループと同じか。メンバーが同じと言っているのではなく、同じやつを目当てにしているという話である。

というか俺が一番近いので俺が必然的に相手をする羽目になる。情報は流れちゃいねえだろうが、それでもあまりな……。

ともかく、対応した。

「お帰りなさいませお嬢様、お坊ちゃま」

これ絶対言えとアレンから言われてしまったセリフだ。こいつら相手にわざわざ笑う必要もない。目的がはっきりしているからな。

席へ案内してすぐに俺は朱里の方へ向かう。

「朱里」

「冬士?」

「あのテーブルの相手をしてくれ」

「え? 俺はまだ……」

訳が分からず朱里は首を傾げた。

「お前目当てだ」

「お、おう」

朱里と俺が持ち場を入れ替わり、朱里が担当していたテーブルの相手をする。なるほど、相手が男ならそりゃ渋るわな。問題ない。

注文を取る直前だったようだしな。

とっとと注文取って女子に代わるか。つか代わってもらおう。

朱里は俺の読み通り、中学の知り合いらしい。まああまり長話できるわけじゃないが、多少ならいいだろう。

「冬士」

「勇子?」

「厨房に回ってちょうだい。千夏を使うわ」

「はは、結局アイツ使うんだな」

「あそこまで執事の似合う土御門もそう居ないわよ」

一体どこで式神を利用してるんだろうな、この学園祭。料理してんのもほとんど人間だし。いや確かに、式神使ってるやつらは使ってるんだが。

宣伝に回っているのは式神だしな。

俺は着替えるためにいったん下がった。服を着替えると家庭科調理室へ向かう。後ろから千夏の気配が近付いてくるのが分かった。まったく、嫌な距離感だ。

 

 

 

 

 

「朱里先輩!」

「鉱山、久しぶり」

朱里は、8人の中学の知り合いに驚きを隠せずにいた。

「どうして皆がここに……? 県違うんだよ?」

「うん、見たくて来ちゃった!」

それで済まされるならば学校なんてなくていいのである。

今日は平日なのだから。

「本当は、私たちの前にも8人来てるんだけど、朱里とは入れ違いになっちゃったみたい」

「そ、そうだったんだ……」

よくもまあ学校も許可したものだ、と朱里は思ったが、ハッと我に返る。

「ごめん、あまり話していられないんだ」

「うん、繁盛してるもんね」

「頑張れー」

「ありがとう。じゃ」

注文票が手元になかった。冬士に渡してしまったためである。朱里は隣の食器を下げて準備室へ戻った。

冬士の姿が見えないので近くにいた大輔に問う。

「大輔、冬士は?」

「……調理班に行った」

「そうか……わかった」

朱里は冬士がいなくなった分しっかり働かねば!と意気込んだ。

そこに千夏がやってくる。

「千夏?」

「おう、冬士が調理班に行ったら俺が戻ってくる仕様なんだよ」

「千夏、逆よ。アンタが来るから冬士が向こうに行くの」

「冬士が逃げてますって風に聞こえるように言わないでくれる? 俺結構傷付くのよ?」

勇子はやっぱり容赦がなかった――。

千夏が着替えてくる間に朱里は知人たちから注文を取り、伝え、他の客の方を回る。

こうしてざっくり1時間ほどが経った。

 

「お疲れ朱里」

「アレンもお疲れさま」

朱里とアレンは小休憩を挟むことになった。アレンの分は千夏が、朱里の分は勇子が働いてくれるそうである。あの2人はやるといったらやる!タイプであるため、朱里もアレンも特に心配はしていなかった。

「……アレン」

「何?」

「……皆を呼んだの、アレンだろ」

「……バレた?」

「隠す気なかっただろ」

アレンがテヘペロ☆として見せれば朱里は何となくだがこのいとこの考えに思い至った。中学の二の舞にしてほしくなかったのに同じ状況が出来上がっているという何とも不可解な状況ではあるが。

「……冬士たちまで巻き込んで」

「アイツは乗ってきたからさ」

「……この調子だと来れるのは皆来るんだろ?」

「まあね。大体入れ替わりのタイミングで来るらしいから、朱里の仕事があっている間に集中してくると思う」

「俺の担当時間まで流したのか……」

「そうしないと朱里ずっと働き詰めにするでしょ?」

「グッ……」

確かにそうである。冬士にいちいち教えてもらうわけにもいかないし、そもそも2日目は冬士は見回りのために屋上待機なのだから。

こういう時は冬士が称号持ちなのが恨めしいところである。

それを言ってしまうならば、本来は千夏と勇子、春樹、迅も称号持ちであるため警備に当たらねばならない。しかしそれだともともと人数が少なかったAクラスの出し物の運営が立ち行かなくなってしまう。よって今回は特別に昌次郎が警護に当たっている。

十二神将を出しているのだからまあ、大丈夫だろうということで委員会等は黙ったのだが、逆を言うならばこういうことである――春樹、裕子、千夏、迅の力を合わせたとしても、昌次郎には遥か遠く及ばない。

「さて……俺はそろそろ戻る。アレンは?」

「ちょっと考え事する」

「へえ?」

朱里が目を細めると、アレンはバツが悪そうに顔をそむけた。

「……叶も来るんだな?」

「……そうだよ。とりあえず、アイツと冬士をいかにすれ違わせるかを考えとく」

「……」

朱里の顔から表情が消え失せた。

「……アレン。なんでそれを先に言わなかった?」

「……朱里、俺、影山と一緒に影山の自由日というか警護日を3日目にしてって言ったよね?」

「……今からでも調整できないか」

「祓魔庁の管轄である十二神将が動いてるからプラン提出があったんだぞ? 今更どうこうできるかよ。だからやれるだけやってみるさ」

「……すまない、アレン」

朱里は俯いた。

「謝るなら影山にしなよ」

「……ああ」

朱里はネコミミカチューシャの位置を調整し直し、ホールに出て行った。

アレンははあ、と息を吐いた。

「……影山とアイツを会わせないって……難易度高いなあ……」

アイツは絶対に影山を狙ってくる。アレンにはそんな、絶対外れない!と思えるほどの自信があった。こういう時には外れてほしい直感が当たるなんてよくある話だが、それがまさに現実になろうとしているので、アレンは盛大に溜息を吐いたのだった。

 




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