日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第2話 噂

 

生成りというのは、嫌われてしまうものである。一つは、“憑き物”であるためだ。何が憑いていようが関係はない。とにかく忌み嫌われるものだ。

しかし中でもつらいのはやはり鬼である。故に、冬士と大輔は鬼であることは告げなかった。鬼なんてものは通常の状態では人間界に出現することはほぼないと言っていい存在である。そんなものの生成り―――般若といえばわかりやすいが、それが傍にいると知れば、普通の人間ならば嫌悪することだろう。

生成りというのは、霊災の後遺症という形になる。問題があるのはこの後であり、日本に限らずアジア圏に流れる霊脈と呼ばれる霊気の流れは強力だが、普段は安定している。これが人為的にぶらされたりすると、“堕ちる”現象が起きる。生成りがおそれられるのはこのためだ。

生まれつきも、途中で成ったものも関係ない。一般人からは皆、恐れ忌み嫌われる。

 

 

 

 

 

「馬鹿じゃないのか、2人とも!!」

昼休みになり、今までのイライラが最高潮に達した春樹が怒鳴り散らし始めた。

「まあまあ」

勇子がいさめる。

春樹が怒る理由は分かりきっている。冬士と大輔が生成りであることを明かしたのが問題なのだ。

「ただでさえ生成りへの風当たりは強いんだぞ!? まして冬士は体質のこともあるんだ、何回襲われたか…忘れたわけじゃないだろう?」

「春樹! それは冬士の前ではタブーだっつってるだろ!!」

いつもは声を荒上げることがないとクラスから認知されている千夏までもが怒鳴る。しかしクラスに残っている者はいない。生成りと同じところにいたいというものは少ないだろう。だからこそ、千夏や春樹がどれほど冬士や大輔を大事にしているのかが皆に伝わることはない。

「千夏、構うな。 …封印はしっかり働いてるが、最悪の場合ってのもあるからな。 クラスには言っとくべきかもしれねえな」

「…でも、そんな、1人じゃないときに襲ってくるなんてことあるだろうか。 冬士が生成りであることを知っていれば、捕えるのが簡単じゃないのは分かりきってるのに」

冬士は小さく息を吐いた。

「むしろクラスっていう人質に使える雑魚がいっぱいいるって話になるだろうな。 俺としちゃ、本題を隠せりゃそれでいいんだが」

冬士が大輔を見る。大輔は小さくうなずいた。

「…何だよ、その本題って?」

「…防音結界張ろうか」

勇子が言うと、千夏が頷いた。勇子が結界を張ると、千夏が言った。

「実は、大輔が龍鬼になる可能性が出てきた」

「なぁッ!? り、龍鬼…!?」

「ほう、それは珍しいもんになりそうじゃな」

「!!??」

近くで聞こえた声に勇子まで飛び上がった。冬士は気付いていたらしく、すでに体の正面を声の主に向けていた。

「闇先生、びっくりしちゃうじゃないですか!!」

「…あーあーあー! 俺のバカ、部外者に情報渡った、死ぬ、お袋に殺されるー!!」

頭を抱える千夏だが、冬士と大輔は目を細めて小さく言った。

「「泰山府君…?」」

「!」

勇子が目を見開いた。

「はっはっは。 ちぃーと違うぞ」

闇は笑って言った。

「ワシの名は閻魔闇。 泰山府君はワシの秘書」

「防音張ってるからって言っていい冗談と悪い冗談があると思います」

「春樹、たぶんマジだよ。 “カノン”が反応してる」

勇子は冬士を見て言った。春樹は冬士を見て、改めて闇を見た。

「…本当に先生が閻魔様であるとして、何でそれを言ったんですか? 信用させるためですか?」

「ぶしつけじゃのう。 だが、一理ある」

闇はからりと笑って見せた。千夏は闇を見て、言った。

「…そういうことか」

「千夏、わかったのか?」

春樹が眉根をひそめて千夏に問う。千夏は頷いた。

「龍鬼はタイプ竜(ドラゴン)、合成獣(キマイラ)、鬼(オーガ)の複合分類種霊獣だ。 …地獄の獄卒は?」

「! タイプ鬼…! で、でもそれじゃあ、閻魔様は龍鬼を連れて行こうとしてるっていうのか!?」

春樹が真っ青になる。闇は首を横に振った。

「連れて行くのではない。 見守らせてもらう」

「…見守る…?」

大輔が眉根をひそめた。

「龍鬼が自然発生型で成体になるのは非常に稀じゃ。 せっかくの自然発生型、奴らの二の舞は踏ませんよ」

冬士の脳裏に船島の言っていた“とある家”の影がちらついた。

「…闇先生」

「なんじゃ、影山?」

「俺の体質のことを、皆に言っとかないといけないと思うので、時間をいただけますか」

「…構わんよ」

闇はにっと笑った。

 

 

 

 

 

「…あいつら馬鹿か」

咲哉が低くつぶやくと、背の高い、190センチ後半はあろうかという少年が声をかけてきた。

「咲哉、どうした」

「…迅。 …ほら、生成りのダチがいるって話したじゃん。 あいつら、生成りだってこと暴露したっぽいんだわ」

「…そりゃ普通に考えりゃアホだ。 …でも土御門がソレを許したんだろう?」

「そう! そこがなんか変なんだよ!」

咲哉と話しているのは、咲哉の千陣谷家の分家筋である千駄ヶ谷家の長男、千駄ヶ谷迅である。髪は銀髪で、金髪のメッシュが入っている。はっきり言って、咲哉よりも陰陽術のセンスがある。咲哉に弟がおらず、彼が従兄弟でなかったら確実に迅は咲哉の兄弟として養子に迎えられる立場にある人物である。

土御門千夏と千駄ヶ谷迅、この2人を『神童』と呼ぶ。

「…何か隠したい他のことがあるとか」

「…周りが嫌がるようなことか?」

「それなら生成り以上のことはねえだろ。 もっとほかのこと。 千夏にいなら何か知ってるだろう」

迅が“にい”“ねえ”と呼ぶのは相手を尊敬しているからである。同年代に対しても適応するのは千夏を呼ぶ迅を見ていればわかる。

「…何だろうなぁ…」

「…まあ、神成が知ってて千陣谷が知らないなんてことはあんまねえだろ。 千陣谷だって土御門一派なんだから」

迅はそう言って袋を開け、パンにかぶりついた。

咲哉も袋を破り捨て、パンにかぶりついた。あんまり深く考えたって仕方ないのだ。咲哉はあまり深く考えることをやめることにした。勇子といい千夏といい迅といい冬士といい大輔といい、咲哉のおおよそあずかり知らぬところでとても大きな規模のものを背負っている気がしてならない。

もう会って4年目だというのに、まだあまり冬士と大輔のことを知らない自分にも腹がたつが、教えてくれない冬士たちに少し苛立っているのも事実だった。

知りたければ言及すればいい。冬士はうまくはぐらかすかもしれない。だが大輔はそこまで口達者ではない。何か聞き出せるかもしれない。

「行動しなければ始まらない。 ってな?」

迅が咲哉の心を読んだように言った。

「お前には絶対覚(さとり)が憑いてる」

「そんな化け物は憑いてない。 咲哉は表情にすぐ出る」

「迅が表情筋薄いんだよ! 鉄仮面!」

そんな2人の漫才を見て茶化しはじめるクラスメイト達。

2人はBクラスにいる。

 

それぞれのクラスで、それぞれの日々が回り始めた。

 




千陣谷家・・・土御門一派。蠱毒を中心に扱う家。土御門家からある程度の独立を果たしている。

千駄ヶ谷家・・・千陣谷家の分家筋で、宗家に同じく蠱毒を使用する。
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