日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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キャラが一気に増えます。


第5話 放たれた毒

 

冬士が学校に来るようになったのは3日後のことだった。

「影山…おはよう」

「…はよ」

冬士はきょとんとしてから挨拶を返す。席に着けば、すぐに千夏に問う。

「俺がいない間に何があったんだ?」

「ん、なんか春樹の不器用が炸裂したらしい」

「ちょ、千夏!!」

「へぇ…」

慌てて春樹が振り返るが、もう遅い。冬士はニヤニヤし始めているし、勇子も自分の席で何かをラッピングしながら肩を震わせている。大輔がラッピングを手伝っているが鉄仮面と評された彼も口端が上がっている。

「…千夏…今日君への宿題はいつもの3倍だ」

「げぇっ!! なんだよその八つ当たり!!」

「うるさいな! 大体実技出来てるのにテスト赤点ってどういうことだよ!! 中間テスト赤点だったら許さないからな!!」

「実技で点数稼げるからいいじゃんかあああ!!」

「甘いぞ千夏!! 冬士を見習え! サボりマスターでも中学では常に一桁だったって話じゃないか!!」

「冬士は頭の出来が違う! 俺に数学と英語のセンスを求めないでくれ!」

ぎゃいぎゃい騒ぎ始めた千夏と春樹をほほえましく見守っている勇子と大輔、冬士。3人は顔を見合わせてくすくすと笑った。

「…影山頭よかったんだな」

「まあ…道徳の時間がものすごくつらかったことしか覚えてねえわ」

「勉強じゃねー」

冬士の横に来た男子生徒が笑うと、冬士は目を細めた。

「…なあ、吉岡」

「!」

「…驚くことかよ?」

「…いや…だって俺とお前、同じクラスになったの小4だけじゃねえか」

「…」

周りの生徒たちもわらわらと集まってくる。

「俺が覚えてるのが意外か?」

「ああ。 あの時お前、…あれ?」

吉岡と呼ばれた少年は少し頭を押さえた。勇子が席を立つ。

「どうしたの?」

「…いや、今なんだか、記憶がラグったっていうか。 …俺もしかして呪術かかってるのか?」

「…冬士と同じ小学校なら可能性高いよ」

ギャーギャー言っていた春樹と千夏も黙っている。

「それ、どういうことだよ?」

「春樹から冬士が何度か狙われたことがあるっていうのは聞いてるの?」

「ああ、聞いてる」

「!」

今度は冬士が目を見開く。

「…吉岡…そうか、そういうことか」

「なんだよ、影山?」

冬士は勇子を制した。俺が話す、ということである。

「…まず、吉岡正、小山雄心、西尾優香、萬谷将太、杉本賢史。 小4の時の2組の担任教師の名前は?」

「―――」

全員が固まった。

「…覚えてねえな、これ」

「…そうね。 時限式だったのかもしれないわ」

「おいちょっと待ってくれ。 マジで話見えなくなってきた」

吉岡は冬士に説明を求める。

「俺の小4の時の担任は、“野本泰蔵”」

「「「!!!」」」

クラス内が騒然となる。

 

野本泰蔵―――現在でも身柄を拘束されていない、生成りを“堕と”して霊獣にしようとする集団、ダークバーレルのリーダーだった男である。現在は逃亡生活で忙しいのか、はたまた死んだのか、とにかく消息は分かっていない。とにかく祓魔庁に追いかけられている。

 

「―――思い出した」

そう口を開いたのは西尾優香だった。

「?」

「そうだよ、影山君はあの時野本先生に売られたって叫んでた。 大人なんて信用できない、みんな殺してやるって叫んでた」

西尾の瞳が恐怖に染まっていく。

「…そこであなたが冬士を突き放せば、冬士はクラスメイトにまで売られた、もう俺は生きてる価値なんてないんだな、だったら霊獣にでもなってやろうか―――って言い出すのよ。 シャレにならないからやめて頂戴」

勇子がぴしゃりという。

「おいおい、俺そこまで言わねえぞ」

「ウソだな…。 千夏がさらわれたとき真っ先に死のうとした奴が言うセリフか?」

大輔にまで言われ、冬士はふいとそっぽを向いた。

「…俺もちょっと思い出した。 ああ、記憶が繋がったぞ」

「案外簡単だったな。 乙種言霊か」

千夏が言った。吉岡は千夏を見る。

「…でも、こんなことして、いったい何がしたかったんだよ、野本は」

「簡単な話だ。 学校で冬士を孤立させたかったんだ。 冬士はもともと素行不良で警察に世話になってるからな。 一人で行動するように仕向けて、拉致るつもりだったんだろう」

千夏が言えば、吉岡はなるほどと考え込んだ。

萬谷が口を開いた。

「でも、冬士拉致られた時4人じゃなかったっけ?」

「…ああ、でも日向は逃がしたから3人だった」

「…そこで、何かされて吉田と永山は腕と脚がぶっ飛んだのか」

「…まあ、そうなる。 あんま詳しく聞かないでくれ、俺も記憶がおぼろげなんだ」

冬士は窓の外を見る。

クラスメイト達は一気に話されたショッキングな内容に考え込むものが多かった。通常ならばおおよそ西尾のような反応が正しいと言えるが、そんなことでは陰陽師はおろか、祓魔師なんてやっていけはしない。現場では人も死ぬ。生成りというのは本来、霊獣に取り殺されてしまう可能性から抜け出て、後遺症を抱えてでもなんとか生き残った、本来は喜ぶべき存在である。

怪我をした人間が大事にされるにもかかわらず、感染症の人間が隔離され、迫害されたこともある。隔離は仕方ないとして、迫害は行き過ぎだ。生成りというのは、その迫害のみを受けている状態と同じだ。生成りは陰陽医からも嫌われることが多い。誰を信じていいのかわからなくなってしまう。

「…影山は、信頼できる奴がいるんだよな」

吉岡が冬士に言う。冬士は何も言わなかった。

「冬士?」

千夏が冬士をつつくと、冬士ははっとしたように振り返った。

「悪ぃ、聞いてなかった」

「…どうした? 青いぞ?」

千夏が言うと、冬士は春樹に視線を移した。

「この3日のうちに新しく人間が出入りしてねえか?」

「え、してるけど」

「誰だ?」

「祓魔庁の人だよ。 僕が私服で外に出たとき襲撃受けちゃって、そのガードで」

「ッ、最悪だ」

「! まさか!」

春樹が立ち上がった。クラスメイト達が顔を上げた。

「そんな、いったい何が!?」

「俺からじゃわからねえが、そうとうな怨念の塊だ。 蠱毒系じゃねえか?」

冬士はそう言いつつドアを開けようとする。

「冬士、うかつに外に出たら!」

「そんなこと言って、もし犬神みたいなのだったらどうするんだ? 俺は確実に御影を開放する。 クラス内で拳を振ってみろ、一撃でレベル10フェイズ5の御登場だぞ」

 

霊獣というのは、霊災を引き起こす。霊獣はレベル分けがされている。1から10までで、さらにフェイズが1から5まで。最も巨大なものはレベル10フェイズ5の霊獣が起こす霊災ということになる。建物の倒壊だけでは済まない。

その場にいる人間がその霊力量に耐えきれず圧死するということも、かつて起きている。

 

「…わかった」

春樹がしぶしぶ折れた。勇子が吉岡をどついた。

「!?」

「闇先生呼べ! あと、鋼山さんにはがっちり結界掛けろ!」

勇子は叫んで皆を動かし始めた。冬士はドアを開けて歩いて行く。クラスから離れるためだ。

「…まさか祓魔庁の中にまでいたなんて…!」

「野本がもともと祓魔庁に所属していたことを考えれば、無くはない話だ」

鋼山と呼ばれた少女がクラスの端っこに移動する。

「ここでいいんですか?」

「うん。ここで鋼山さんに結界を張るからね。 この中にいれば大丈夫だから」

「…はい」

この少女、鋼山朱里という。

「…」

勇子は朱里の目を見て言った。

「…そんな目する人、珍しいわ。 これが終わって冬士が無事だったら、お友達になりましょ?」

「…いいですね。 私も、いい加減のけ者は嫌ですから」

そして、放送が入った。

『校内に蠱毒を探知しました! 場所は、1年棟Cクラス前!』

「…さすが咲哉、仕事が早いこと」

勇子はニッと笑い、吉岡が呼んできた闇に符を渡す。

「なんじゃ? 蠱毒?」

「はい。 そしてその蠱毒全部燃やしてやろうと思います。 鋼山さんには言霊で参加してもらうわ」

勇子はそう言って、闇に符を押し付ける。

「…ほう。 ワシの火の術回路で火力の底上げか。 なかなか策士じゃの」

「あはは。 千夏ならもっとすごいこと1人でやりますよ。 だから神童なんじゃないですか」

勇子は笑った。

その眼は、ぎらついた炎がたぎっていた。

 

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