日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第6話 蒼碧の

廊下に出た冬士は玄関まで一気に走った。直線距離にして50メートルはある廊下である。冬士はそこを早く、とつぶやいて走り抜けた。時間にしてわずか6秒ほどである。しかしすでにそこにそれはいた。

「…悪趣味だなッ…!」

保健室の方を見ると、符が貼られていた。

(トエは呼べねえ…)

冬士は目の前の蠱毒を見る。1体でも十分強敵だが、それが3体。分が悪い。

「おい、影山!」

はっと振り返るとCクラスの生徒がそこにいた。

「! バカか、教室に戻れ! 死にてえのか!?」

「そりゃ怖えけど、1対3は無茶だ」

言われてしまえばそうなのだ。冬士は小さく舌打ちする。

目の前にいるのは蠍だけだが、本当は冬士の中で警笛が鳴っている。

 

―――これだけじゃない。もう1匹いる。

 

どこなのかわからない。だから冬士は焦っている。

「もっとヤバいのがまだいる」

「…マジでヤバいってわかったらお前見捨てて逃げるわ」

「ちゃんと見捨てて逃げろよ、田崎」

「…名前覚えてくれたのかよ」

「まあな」

冬士は蠍の尾を右に躱した。当たれば一撃で死ねるだろう。

「…こいつは火か…水剋火、急急如律令!」

冬士は水符を投げた。蠍は水を受けて姿がぶれ、ラグが起き、霧散して消えた。

田崎も符を投じる。

「金剋木、急急如律令!」

投げられた符は3枚だが、それでも多少ラグが起きる程度である。

「影山、お前一体どんな霊力量してんだよ?」

「さて…火と土は一般レベルだがな?」

「他は霊獣でカバーっすか…やべっ!」

田崎は左に避けたのは、刀。黒い刃の刀だった。

「…これは?」

次の瞬間、咲哉の声が廊下に響いた。

「馬鹿野郎、離れろっ!! そりゃあ犬神だッ!!」

冬士はとっさにCクラス教室の窓を開けて田崎を教室に放り込んだ。

「いでっ!」

「窓を閉めて封印符をしろ」

「ああ」

中にいたメガネの男子生徒―――丸田が頷いて窓を閉めた。

冬士は飛ばされた衝撃波をよけた。顔を上げた冬士の間の前に立っていたのは、犬の顔をした人間だった。

 

 

 

 

 

そのころ、教室では闇がくすくすと笑ってみんなに話をしているところだった。

「冬士って不思議な男じゃなあ? 皆が何も知らんのは知ろうとしないからじゃ。 なのに何も知らないままでいようとする者すら守ろうとするあの姿勢、理解できぬよ」

「―――」

皆何も言わない。生成りと聞いて、それがどういうものなのかぱっと判断できるのは多少知識のある者だけである。

「…土御門千夏、この3日で冬士の身の回りががらりと変わったが、何があった?」

「はい、まずは冬士の体質のことももろもろで、冬士の祖父にあたる方と話しました。 冬士には護法式が4体いることになります」

護法式、ようはいつでも呼べる状態にしてある式神である。

「…山村につけてあるアイツと?」

「はい、トエもです。 あとは鬼が2体、龍が1体です」

千夏が答えると、闇は小さくうなった。春樹と勇子が符を全員に配り始めた。

「これ、さっきの符?」

「これが私の秘策。 生成りなんかと一緒に戦えるか!って思うなら使わなくていいよ。 皆の通常使う霊気の10倍はくだらない量を一気にもっていくように回路がかわってるから。  これ使ったら3日はまともに符を撃てなくなるよ」

勇子はそう言って、符を配り終える。

「鋼山さんは火をイメージする言葉を、相手に符を投じるタイミングで叫んで」

「わかりました」

朱里は頷いて考え込んだ。

闇はケータイを取り出して電話をかける。

「もしもし、学園長? …ええ、これから校舎内で大暴れすることになりそうじゃが、まあ、死人が出なかったら、それでいいってことにしてくれるかの? …えー、ワシはほとんど金は持っとらんぞ」

笑って学園長と話をする闇を見つつ、生徒たちはゆっくりと布陣を始めた。

 

 

 

 

冬士はじりじりと後退していた。

相手が犬神らしいという判断から、皆が教室に戻っていったのだ。別にそれは構わない。護法式たちに出てきてほしいとも思ってはいない。

でも、死にたくもない。

しかし、いったい何がこうも冬士を冷静にするのか。

冬士は淡々とそれを考えていた。

犬神の目に光がないからだろうか?

他の蠱毒がもういなくて1対1だからか?

いやそんなことではない気がするのだ。さて、いったいなんだろうか?

冬士の頬を刀がかすめる。そこを冬士は一瞬鬼を前に出して傷つかぬよう防いだ。

ギインッ

金属同士のすれ合う音がした。

その時だった。

「刃となりて我が敵を切り裂け、急急如律令!」

迅の声がした。

ガツンと金符で作り出された槍が犬神にぶつかる。

「!」

「―――ビンゴ」

犬神にラグが起こる。

犬神が振り返ろうとした。冬士がすっと符を取り出した。

「蔓となりて我が敵を戒めよ、急急如律令!」

犬神にぶつければそれは蔓になり犬神が振り返るのを邪魔する。その間に迅は教室に戻ってドアを閉める。

Aクラスの教室まではもうそんなに距離がない。あと3メートルといったところである。

「…!」

犬神の姿は人型に近いものだった。それが、犬の姿へ転じ始めているのだ。

「…突っ込んでくる気かよ」

冬士はすっと息を吸う。

「―――全門開門(オールリベレーション)!!」

廊下の窓も、冬士の後ろのドアも、すべてがガタガタと大きな音をたてて揺れる。犬神が犬の姿に転じきるのと、冬士の姿が変わるのがほぼ同時だった。

真っ青な長髪に黒と白のメッシュの入った髪。その間から覗く大きく、しっとりとした光沢をもった、半透明の青い角。瞳は鮮やかな碧色。制服のブレザーの上から、藍の羽衣のような布が巻きつけられている。

犬神が咆えた。

冬士は犬神に向かって手を伸ばす―――。

 




豆知識です。
陰陽道では、一般にイメージするのとはちょっと色が異なっています。
火・・・赤(朱)
水・・・黒(玄)
土・・・黄
木・・・青
金・・・白(素)
となっています。
ついでなので一般だと作者が思っているほうも。
火・・・赤
水・・・青
土・・・黄
風・・・緑
こう思ってた方少なからずいるのでは?私はこう思ってました。w
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