日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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ちょっとグロくなる、はず。


第8話 都心大霊災

「結構ドギツイ内容だよ? 覚悟ある?」

勇子に問われ、吉岡は頷いた。結界を解かれた朱里もゆっくりと近づいてきた。

「じゃあ先にルール決めとこうか。 この話を聞いても、一切冬士と大輔に同情なんてしないこと。 いいわね?」

「は? なんで?」

「俺が可哀想とか言われるのに耐えられると思うのか?」

「確かにそれは無理だな」

「ようは、あんま感傷的になってこっちの傷まで抉ってくれるなってことだ。 あんま気にすんなよ」

冬士がそう言ったのを皮切りに、しんと教室は静まり返った。

 

 

 

 

 

 

その日、勇子は両親に会いに渋谷に来ていた。勇子の両親の家があるのはある程度都心に近い場所だったため、そこまで出てきたのである。勇子の両親は知り合いだった大輔の両親と会うために渋谷に向かうことになっていた。勇子を渋谷に連れて行ったのはそのためだった。

駅で雅夏親子と出会って、勇子はすぐに大輔と仲良くなった。

「父さんたちは少し話してるから、あまり離れないようにな」

そう言われて、勇子は正面の広場のベンチで話でもしていようと思って勇子は大輔とともに広場に出た。

その正面にいたのは、美形なのだがすれていて近づきがたい雰囲気を纏った少年と、それに寄り添ったかわいらしい少女だった。

「こんにちは」

勇子は少年と少女に挨拶をする。少年は小さく礼を返し、少女は「こんにちは」と笑顔で返してきた。大輔も礼をして、少年たちに声をかけた。

「私は勇子。 彼は大輔。 よかったら一緒に遊んでくださいませんか?」

見方を変えて、勇子が男だったらどういう構図になるのかを考えてみればわかる話だが、非行少年が女子学生に対してかける言葉と何ら変わっていない。案の定少年の方は警戒の色を浮かべたが、何も言わない。

「はい、是非! 私は紫苑です。 こっちのぶっきらぼうなのは兄の冬士です、よろしくお願いします!」

男子にどちみち拒否権などないのである。大輔は勇子の性格からなのか、女は会話が早いと既に思っているのか、何も言わない。冬士は少し呆れたように息を小さく吐いた。大輔と冬士の目がふと合った。お互いに拳を突きだして、何となくの友情が完成である。

そんな間に勇子と紫苑の会話は進み、いつの間にか勇子が行きたいという秋葉原に向かうことになっていた。

「…お前あれか、アッチ系を見るのが好きなタチか」

「否定はしないがなんでいきなりそっちの思考に至った、冬士」

勇子から突っ込みを入れられて冬士は肩をすくめた。

「田舎者だ、どう見ても」

「てか、さっきの台詞明らかに東京ではアウトでしょ。 私どこのヤンキー崩れなわけ」

勇子が肩をすくめて言えば、紫苑が笑った。そんな紫苑を見て、冬士は柔らかく微笑みを浮かべた。勇子も大輔もそれに釘付けになった。

「…どうした?」

紫苑から勇子たちに視線を移した冬士はさっきまでの無表情に戻っていた。勇子は小さく笑って言った。

「ううん、美人だなあと思って。 あ、私父さんたちに言ってくるね。 ちょっと待ってて」

大輔も小さく冬士に何か言って両親のもとへと向かった。

「父さん、母さん、たった今友達ができたよ」

「あら、よかったわねぇ」

「てことで、遊んできます。 秋葉原行ってくる」

「勇子、馬鹿じゃないの。 親から離れるなんて誘拐してって言ってるようなものよ」

勇子の母の名は神成真実である。

「真実、勇子に式神を付けよう。 この子は言ったら聞かないんだし」

「もう! 雄二さんは勇子に甘いッ!」

勇子の父、神成雄二は柔らかく笑う。

「でも、ね?」

「…わかったわ。 勇子、いつも言ってる通りにね。 17時までには帰ってらっしゃい」

「はーい」

勇子は式神を1体付けられて冬士と紫苑、もう話が終わっていた大輔のもとに戻ってきた。

「…何か増えたか?」

「あ、うん。 視えるの?」

「いや、俺は見鬼じゃないが、何となく気配でな」

「あらら。 ごめんね、うち陰陽師でさあ。 気にしないで、父さんたちがGPS代わりに付けてるだけだから」

勇子はそう言って、冬士と紫苑に案内してもらって秋葉原へ向かった。

 

 

 

大輔はあまり口数が多くなく、冬士とはほとんど視線だけで話しているような状態だった。それでも冬士がかなりうまく汲み取ってくれていたためほとんど会話に支障はなかった。

勇子と紫苑はあっという間に親しくなり、冬士と大輔もあっという間に視線を交わしてお互いの考えがわかるぐらいにはなってしまっていた。というのも、冬士も大輔も人間観察ばかりしているタチの人間だったらしいのだが、冬士がいろいろと大輔から情報を引き出してしまったらしい。結果、大輔は簡略化した質問をオウム返しして冬士から同等の情報を引き出した、と。

電車でもバスでも喋らなかったが、徒歩であたりをまわっていく間に4人は仲良くなれた。勇子にとっては初めての東京でのお友達ができたわけだったが、これがその後の悲劇を生むことになった。

 

 

 

「楽しかった。 ありがとうね、紫苑、冬士」

「私も楽しかったです、勇子さん」

時刻は16時ごろで、勇子は少し早いがもう渋谷に帰ろうかという話をした。大輔も冬士も紫苑も、異論はなかった。遊び飽きたから帰る。当り前のことだった。

 

帰りは来た時よりも早く帰りついた。

渋谷駅に着き、電車を降りれば、もうすぐそこにある広場に勇子と大輔の両親が待っている。冬士たちもこのまま帰ると言っていたから、ここで2人とは別れることになる。

しかし、広場には勇子の両親も大輔の両親もいなかった。大勢の人で駅が溢れてきていた。

「…お前らの御両親、いねえみたいだな」

「うん…おかしいなぁ…」

その時、冬士ははっとして勇子を見た。

「?」

「…勇子、式神(GPS)はどうした?」

「…あれ? ない。 式神がない」

式神が消えるなんてことは、考えられるのは2つのパターンだ。

一つは、術者が故意に解く。これはおそらくないだろうと勇子は思っていた。

もう一つは、何らかの形で雄二が式神を維持できなくなったという可能性だ。こちらであるならば、雄二は戦闘に参加している可能性が考えられる。ここで勇子がとるべき行動は、冬士を避難させることである。

なぜならば、冬士は陰陽師ではない。紫苑と話している間にわかったことであるが、紫苑の両親はどうやら陰陽師である。見鬼でない冬士を陰陽師から遠ざけるために、陰陽師であることは明かしていないらしい。

大輔は両親が陰陽師であることをはっきりと知っている。

となれば、必然的に、霊獣に対抗する力を持っていないのは冬士であり、霊獣から一番に逃がさねばならないのは冬士ということになるというわけである。

「…最悪だよ、まったく。 父さんたち第1級陰陽師が出るって、どんな霊獣よ」

「…だが、おかしいだろ…。 まだ、放送がはいってない」

大輔の言うとおりだった。まだ霊獣出現による避難指示放送はあっていない。

「…ステルス型、とかですか?」

「隠形を使うほどの霊獣は上位、レベル7以上。 そんなのが顕現するなら、とっくにいろんな霊獣が先に顕現してるわ。 レベル7以上の特徴はフェイズ4か5で顕現することだから…」

勇子はそこまで言って、動きを止めた。

「どうしました?」

「…私は馬鹿だったよ。 最悪だ、ここを離れよう!!」

勇子は叫んだ。勇子の頭には最悪の状況が思い浮かんでいた。

駅の中を見た冬士が少し戸惑った様子を見せた。勇子は冬士の手を思い切り引っ張った。

「お兄ちゃん、行こう!」

紫苑は正面から冬士を押した。しかし冬士は動けないままだった。

「な…んだよ…あれ」

冬士は空を指差した。

勇子と大輔は冬士の指を追って空を見た。そこには、円陣が現れていた。

「…魔方陣…?」

「ダークバーレルが何かしたんだ…」

大輔と勇子のつぶやきに紫苑が苦い顔をした。

「周りの人はどうするのかな…あの魔法陣って…まさか」

冬士を逃がす、それすら忘れるほどの衝撃だった、正しくは、おおよそ相手の術にはまったということ。注意を魔方陣に向けさせるためのものであったのだろう。勇子がそれに気づいたのは、もう手遅れになった後だった。

 

「…!!」

「!」

 

その場にいた全員がソレを浴びたのではなかろうか。

冬士はある一点を見つめていた。勇子がはっとしてそれを見たのは一瞬のこと。

男が1人、冬士に向かって手を伸ばして何か叫ぼうとして、目を閉じて倒れていくところだった。

勇子は再び冬士を思い切り引っ張った。今度は大輔も冬士の空いていた手を引っ張って、動けずにいた冬士を引きずってでもその場から微かに動いた。駅から離れようとした。魔方陣から離れようとしたのだ。

直後。

勇子は爆発的に膨らんだ霊気に吹き飛ばされた。

「きゃあ!」

小さな悲鳴を上げて勇子はアスファルトに顔から突っ込んだ。駅の中を行ったり来たりしていたはずの人々の動きはもうない。あの経った一瞬で、すべての人々は気絶してしまったのだ。

そして、ベシャ、と水の音がした。それを皮切りに、冬士が叫んだ。

「放せ!」

「冬士、早く逃げないとヤバいって!!」

「うるさい!」

暴れる冬士を大輔は何とか引きずってでもそこを離れようとする。早く離れなければ何が来るのかなんて勇子にはわかりきっていたし、大輔は分からずともとんでもないものがそこにいるというのは分かっていた。

「放せッ!!」

冬士からすればその状況など分かっていたのかもしれない。ここで冬士は、一番しない方がよかったやもしれないことをした。

振り返ったのだ。

妹の安否確認のために。

そして、絶望した。

「…しお…ん…?」

大輔もまた、振り返った。吐き気がこみ上げてきたのは大輔だけではなかったのではないか?

 

「うああああああああああ―――ッ!!」

 

冬士の絶叫が、東京渋谷のビル街に反響した。

勇子は体を起こして素早く霊獣に対して向き直った。そして、絶対的な相手の力を感じ取った。

「…無茶だ…」

その顔からは血の気の一切が引いてしまっていた。

絶望というのはまさしくこんな表情を言うだろう、というような表情で。

彼らの目の前にいたのは、鬼。

まさしく、鬼だったのだ。

遠くでサイレンが鳴りだした。

『タイプ鬼(オーガ)、レベル10、フェイズ5』

遠くで放送が鳴っているのだ。そしてそれは勇子たちに絶望しか運んでこない。

鬼が手を伸ばす。その霊気は明らかに憤怒に染まっていた。

一番近くにいた冬士に手を伸ばしただけだったであろう鬼の姿が不意に、ブレた。勇子にはそれがはっきりとしたラグを起こしたようには見えなかった。

「…!」

鬼の姿が溶けるように消えていく。赤と青の色に微かに別れた。そして、赤は大輔を覆い、青は冬士を覆った。

「…!?」

「…」

直後、大輔は倒れた。冬士は胸に手を置いた。勇子は慌てて冬士の肩を掴んだ。

「冬士!」

「…勇子…」

冬士が振り返った。

その頭には、角があった。

「…嘘…そんな…」

冬士は自嘲的な笑みを浮かべて、紫苑に向かって歩いて行く。決して遠くはない。ほんの5、6歩先にある、血だまりに沈んだ少女。

先ほどの鬼が触れたのであろう。肉が抉れ、血飛沫が飛び、見るも無残な姿となっていた。しかしそんな妹の姿に、冬士は動揺の色を、二度と見せなかった。

 

その後、公務祓魔官たちが到着し、勇子と大輔の両親がどこにいたのかが分かった。

勇子の両親は結界を張りに行っていた。

大輔の両親は、現場で一般の気絶した人々を守ろうとした結果―――鬼の霊圧に耐えきれず死亡したことが確認された。死因は、圧死だった。

 

 

 

 

 

「―――とまあ、4年前の概要はこんなもんだ」

「あまりのひどさに勇子たちの傷を抉らないようにってことで、情報規制もしかれたしな」

「公務祓魔官が思い出したくねえだけだろ」

辛辣なセリフを並べ立てる大輔に勇子は苦笑いした。

「後は土御門家が情報規制をして、分家で冬士と大輔の面倒を見て、神成家が2人の養育をするってことになった。 そして4年経って今に至るってわけ」

勇子がまとめあげると、吉岡は同情の台詞を思い切りかみ殺して飲み込んだ。

「…同情するなって、難しいぞ、これ」

「だから先に言ったのよ。 もう4年前のことだからね。 …まあ、許可が下りたってことは、紫苑の墓に皆でお花供えに行けるんじゃない?」

クラスメイトの大半は頷いた。冬士は小さく笑った。

「紫苑も喜ぶ。 …吉岡、聞いてくれて助かった」

「…おう」

吉岡は頷くことしかできなかった。

 

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