風に長めの髪が揺れている少女がいた。
少女の髪は暗い赤。瞳はグリーンがかっている。もれなく強い霊気の影響を受けている表れである。
本来の色素ともいうべき髪や目の色が、霊気の影響を受けて、本人に特徴的な色相を呈するのは珍しくない。彼女の場合は、赤―――つまりは、火属性が強いということになるだろう。
少女は生徒昇降口に立っていた。中学校の制服を着ているが、学年章は3。つまり、3年生ということになる。
3月下旬、もう彼女らは卒業したのである。しかしここにいる、というのは、そう。高校受験の結果を見て、中学に集合したのだ。
「大輔、冬士、遅いよ」
「悪いな、勇子」
「…すまん」
少女の名は神成勇子。陰陽“新家”神成宗家の一人娘である。
大輔はグレーの髪で、右目を隠すように前髪を伸ばしている。黄色のカチューシャを付けており、瞳は赤っぽい。
冬士は紫がかった茶髪で、ヘッドバンドを付けている。瞳の色はダークグリーンだが、右目と左目で若干色が違う。
「まあいいじゃねえか、無事に3人とも受かったんだ」
冬士はそう言って、ふっと空を見上げた。
「…青いな」
「そうね。 さて、帰ろっか」
勇子は伸びをして言った。大輔と冬士は頷いて、静かに敷地を出る。
まだ日は高い。3人はゆっくりと帰路についていた。
「…ねえ冬士、大輔、聞いてよ」
「ん?」
「今日さぁ、湯島さんが、私に突っかかって来たの」
勇子ははあと息を吐く。冬士はふむ、と少し考えて、ニヤリと笑った。
「いつも時間をずらして帰ってたが…まあいいんじゃねえのか?」
「よくない! 高校同じなんだよ!? 先生が違えばいいけどさぁ!」
勇子はぷくっとほほを膨らませた。大輔がくすっと笑った。
「女の子の思い違いもここまで来ると嫌になるわ」
「お前も似たようなもんだろ」
冬士が言えば、勇子はふっと笑った。
「まあ、誤解だしね。 大体湯島さんみたいなのに勝てるわけないしー」
「…誤解…」
大輔は若干残念そうな表情をした。とはいっても、無表情すぎてよくわからないのだが。
「今日の晩御飯どうする?」
「食いたいもんはあるか?」
「…」
勇子は考え込んだ。
「…あんまりお腹空いてないしなぁ…」
冬士が荷物を降ろして、大輔に預ける。冬士は荷物から財布とバッグを取り出した。
「トウモロコシが食べたい」
「大輔、お前は食材じゃなくて料理名を答える努力をしてくれ」
冬士は呆れたように言った。勇子は笑った。
「海藻サラダ食べたいなぁ」
冬士は頷いた。勇子はふと思い出したように言った。
「今日千夏はいないから、5人分でいいよ」
「…そうだな。 あとはベーコンエッグでも作るか…」
「え」
「?」
勇子は微かに肩を震わせた。冬士は勇子を見る。
「ごめん冬士、お腹空いてた?」
「そっちは米食えば何とかなる。 気にすんな」
じゃあ、と言って冬士は大通りへと歩き出した。何気ない田舎の学生の春休みの光景。勇子は大輔とともに冬士の荷物を持って歩き出した。
「…あーあ…何時まで経っても慣れないなぁ…」
勇子が小さくつぶやいた。大輔は勇子の肩を軽くたたいた。
「…気にすることじゃない」
「…でも、さ。 2人の食事量に合わせなくちゃいけないのに」
「燃費が悪いともいう」
「ぶはっ」
勇子は吹き出した。
「年代物の機械かお前は」
「…笑った」
大輔は少し嬉しそうに表情を緩めた。
「…もー。 冬士も大輔も、思ってることはっきり言ってくれなくちゃわかんないよ」
「…十分言ってる」
どことなく大輔が勇子に甘えているように見えなくもないのだが、なにぶん本人たちは自覚がない。
「…早めに帰ろっか!」
勇子はそう言って少し足早に移動を始める。
大輔は黙ってそのあとをついて行った。
田舎の街並みというのは平和を享受していることがありありとうかがえて、勇子は好きなものだ。都心に出ても楽しいが、こうやって平和に暮らしている方が好きだ。
しかしそれもこの春で終わる。
勇子、大輔、冬士はこの4月から、倉橋陰陽学園への入学が決まった。
“旧家”倉橋の経営する陰陽師養成学校の高等部。ここには、勇子の友達も何人か行くことが決まっている。
「叔母さんにお別れ言わなくちゃなぁ…」
帰宅した勇子はそう言いつつ荷物を降ろして着替えようと自室へ向かった。大輔も荷物を置いた時だった。
「!」
「!!」
2人ははっと顔を上げた。
サイレンが鳴る。勇子と大輔はその数を数え終わる前に、気を失った。
『霊災警報―――転移霊災の発生が確認されました―――』
ガシャン
カゴが落ちる。籠を持っていたはずの少年が消えたからだ。
サイレンが外で鳴り響いている。
物語が、動き出す。
何かかっこよくしようと頑張った結果がこれです。
誤字脱字ご容赦ください…。