日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第9話 忘れないで

 

「…実はさ、俺たちも言っとくことがあるんだわ」

吉岡が言った。

放課後になり、皆それぞれの放課後の活動へ移る手前。Aクラスのメンツは皆教室に残っていた。

「…なんかあるのか?」

大輔は冬士と顔を見合わせる。勇子は何か思うところがあったのか、小さく笑っていた。

「4年前、俺たちはほとんどが闇先生に助けられてるんだ」

「…闇先生に?」

冬士は特段驚いたふうもなく尋ね返す。

「ああ。 さすがにあんとき渋谷にいた俺たちは近くじゃなかったとはいえ鬼気で動けなくなっててさ。 …闇先生の障壁で守ってもらったよ」

「…俺の居場所がなくなる。 勇子、俺は外に出ていてはいけないのか」

「だまって話聞け阿呆」

勇子は笑顔で冬士を一喝した。

「…えーと?」

「闇先生に聞いた方が早いと思うよ。 闇先生、おせんべい食べてないで出てきてくださいよ」

勇子は振り返ることなく言った。

「はっはっは。 やっぱお前の探知能力は群を抜いとるなあ」

闇が醤油せんべいを食べながらやって来た。

「久しぶりじゃの、春鬼」

「14年ぶりだな。 冬士の姿で悪いな」

「いやいや。 一時は人間大っ嫌いでワシにすら牙を剥いたお主が、おとなしくその餓鬼に入っとるのが少し気になったのだがな。 そうかそうか、冬士はそれか」

勝手に話をして、すっと息を吐いた闇は皆に向き直った。

「勝手に話してて悪いの。 冬士を生成りにしたこの鬼とはワシ知り合いでの~」

「…えっと、さっきの冬士たちの話からしたら、その鬼が4年前のやつですよね」

「ああ。 そりゃ人間に勝手に支配してた山を壊されるわ封印されるわで怒り状態マックスだったからの。 人間に恨みを抱いとってもおかしくない。 春鬼、本音は?」

「山は壊された、無理矢理御神体は削られた、天狗たちとは散り散りにさせられた、息子は封じられた、俺自身霊界に強制送還された、挙句の果てには人間に召霊されたんだからな。 目についた人間みんな殺してやろうと思ってたぜ。 冬士も例外なく、な」

吉岡は周りと顔を見合わせた。

「…山神ってこと?」

「ああ、春鬼は山神じゃ。 本名は御影春山。 まあ、案外すんなりと霊界に行ってしまって、辺りの市がとんでもない被害をこうむったかなり強力な土地神じゃな」

闇はそう言って冬士を見た。

「まあ、ワシ生成りと一緒に仲良しこよししろとは教えとらんからな、嫌われることもあるかもしれんが、耐えろ。 そしたら最後はワシのとこで働かせてやる」

「永久就職か、悪くねえな」

今度受け答えをしたのは冬士のようである。吉岡は冬士に言った。

「冬士、冬士ってちゃんと…御影春山様とは折り合い付けてるんだよな?」

「…ちゃんとっていうか、俺が気絶したら出てくるのは御影春山だな。 めんどいのはあと2体の方だが、御影が押さえるから問題ないはずだ」

御影、とずいぶんとフレンドリーに呼んでいるが、それを御影が許しているのか、と吉岡は不安になる。

「…封印はしてあるって勇子ちゃん言ってたよね?」

クラスメイトの少女、名は一橋玲。

「そうだね。 まあ、皆を怖がらせる気はないけど、冬士がキレる前に大輔がキレて封印が吹っ飛ぶ可能性は十分あるから怒らせないことだね」

「怖がるに決まってるだろ、怖がらせてどうすんだよ」

千夏が勇子に突っ込みを入れる。

「本当のことじゃん。 本来山神は封印もお祓いもしちゃダメな存在なんだから。 そのツケが自分らに回ってくるのはもう、名家出身の方には先祖のための禊だと思って受けてもらうしかないね」

「このクラスにはあんまり名家いないの知ってるだろ」

「私とお前と春樹のこと言ってんだよ、馬鹿」

大輔が勇子の袖を少し引いた。

「?」

「皆はダイキと話をしている。 問題はないと思う。 ここは居心地がいいらしい」

「…ダイキがそう言うなら大丈夫か。 封印の型は戦闘用だっていうの、説明は千夏よろしく」

「勇子お前逃げんじゃねえ」

「チーズケーキを焼いてやる」

「「やれ、千夏」」

「2人して俺を売るんじゃねえよ!!」

「今日は俺が手作りでお前のリクエストに応えてやるよ」

「乗った」

千夏は吉岡たちに向き直る。

「…千夏、なんかお前…いいように使われてね?」

「…うん、俺の悪い癖だと思ってる。 直す気もないけどな!」

「威張んなよ、冬士が交渉に出されたら終わりじゃんか!!」

「そんなことになる前に俺が冬士殺す」

「千夏に任せたボクが馬鹿でした!!」

勇子が慌てて千夏にチョップをかます。

「いてえ」

「学校でいきなりクラスメイトを殺す発言はどうなのさ」

「…だってそれ、普通に考えたら冬士鬼に堕ちてるじゃん。 霊獣としてじゃなく冬士として俺が殺すよ」

「真面目な顔して言うな、本気なのは知ってるけどシャレにならない。 冬士もこういう時はラブコールするな!」

「チッ」

冬士はそのまま窓の外を見つめる。

あの日もこんな晴天だったな、なんて思っていることだろう。

「…千夏、真面目にやってね」

「結局そう来るか。 チーズケーキ俺も食べるからな」

「分かってるよ」

 

 

千夏が説明したのは、封印様式の一つである、戦闘型生成り封印術。

簡単に言うならば、霊獣とうまく折り合いをつけることができているタイプの生成りに施すもので、接近戦に非常に有利な手駒にできるというものだ。

ランクの低い陰陽師では無理だが、千夏や勇子のレベルになってくると、普通の人間すらも式神にすることができる。ようは悪霊だの妖怪だのというものを“神”の代わりに式神にするのと原理は同じで、封印を施してもらい、その重石になったものが主というわけである。

難点があるとすれば、人間として式神にするため妖怪に対するものほど強力な縛りがない、ということぐらいだろうか。

 

 

「…冬士、いつの間にそんな道に…」

「同情するなといってたけどマジで無理だなこれ。 明かした情報が多すぎる」

冬士はそう言って苦笑いした。

 

 

 

 

 

忘れてないからつらい夢

 

兄のあの夢忘れるな

 

苦しめたのはお前たち

 

望まぬ望みを突き付けられて

 

身体失くした少女が泣く。

 

 

差し伸べられた手を掴むことはためらい続けてきた。それもこれで終わりなのだ。

彼がようやく自分の中に抱え込んでいたものの一つをまわりに吐き出すことが許されたのだから。

 

青年は何度目かわからぬ、少女へ手を伸ばす動作をした。少女はそれに応えて手を取り、立ち上がる。

青年は1人の少女を連れていた。その頭には、鬼の角。

「お前に姿を与えよう」

鬼の少女が言った。

少女は頷いた。

青年が紙を手に取って少女の霊気の一部をそれに移す。少女は苦笑いを浮かべた。

「なに、恥ずかしがることはない。 彼ならばすぐに貴女だと気付く」

「…はい」

紙をすっと青年が上空に放る。紙はふっと溶けるように消えて、少女の姿もともに無くなった。

青年は懐から紫苑の花を取り出して、そこに置いた。

「きっとこれくらいならば、許されるよ」

 




わからない方も多かったと思うので一言、です。
紫苑の花言葉は『君を忘れない』です。
本当は恋人へのもののような気がしますが、忘れたくない人へ贈るってのもありだと作者は思っている花です。
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