日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

21 / 109
第10話 踏み出すこと

 

「勇子、これは一体どういうことなんだ」

春樹は薄い本を持って勇子の前に立っていた。

「? どういうって、写真集」

「そんなことは見ればわかる。 そこじゃない。 なんで大輔と冬士と千夏が写ってるわけ? しかも校内で販売って、そんなのありか!!」

「学園長から許可はいただきました~」

勇子はすまして言った。春樹はぐっと言葉を詰まらせたが、すぐに言った。

「冬士たち知らなかったじゃないか!! 立派に肖像権の侵害になってないか!?」

「問題なし。 あと冬士と大輔のは演技だ。 どうせ千夏は冬士に下手に動かないように不動金縛り掛けられてたんだろ」

「…ッ!! だから冬士あんなにニヤニヤしてたのかっ!! もう、彼は一体どこまで僕をからかえば気が済むんだようッ!」

春樹は頭を抱えた。

冬士の悪癖だ。何か面白そうなことがあるとすぐに首を突っ込む。そして相手の地雷を踏むことも少なくない。しかも被害は冬士ではなく大体周りにかかる。一番厄介なタイプである。冬士は危機察知能力がかなり高いためあっという間に相手を撒いてしまう。物理的にも隠形で早くから逃げていることが多い。捕まえるのは至難の業である。

「まあ気にしないことよ、春樹。 冬士のことだから春樹のそういう反応が楽しくて仕方ないのよ。 根っからドSだから」

「ドS? 鬼畜の方があってるんじゃねーの?」

「俺の御主人様は腐海に突き落とされたいらしいな?」

「わ、冬士」

はっとした千夏が慌てて逃げようと席を立ったが、冬士の方が早かった。

「勇子が広めりゃソッコーで学校中に広がるぜ、俺らの仲」

「わー! やめろよ冬士っ!! 俺的にプライドが瓦解する! てかまさか腐男子同盟と話を付けて来ましたとかいうわけねえよな!?」

「…会長の名前は遠富正俊」

「鬼畜とか言ってごめんなさい!!」

千夏が負けたらしい。

「まあ、もう千夏が俺を親友発言した時点で終わってるけどな」

「千夏には聞こえないようにしてやってるんだから言わないの、冬士」

「今はっきり聞こえました!! どういうことだよ勇子!」

「大輔と冬士は相性悪いのよ。 どっちも無口っぽいしね。 だからいじればキャンキャン啼く千夏の方がからめやすい」

「ウソつくな勇子。 どうせ大輔より俺の方が目が大きくて受けっぽいとかいうんだろうが」

「ばれてましたか」

春樹は顔を真っ赤にして何か考えているようだった。

「…春樹…そんなものに染まってくれるな」

大輔が少し悲しげに言った。

「春樹にはまともでいてもらいたいな…」

冬士もそう呟くように言った。

 

 

 

 

 

昼休み終了のチャイムが鳴り、皆が立ち上がって講堂へと向かう。

全校集会というやつである。

話すことは大体予想できている。

そして、これから何をしようとしているのかも。

勇子たちが講堂に並んでしまった後、司会の進行で始まった集会は、学園長のこの一言のためのものであると言ってよかっただろう。

「皆さん。 この日を持って、倉橋陰陽学園生成り分校を閉校します」

学園長―――倉橋真千はそう言い放った。

ざわめく生徒たち。勇子はふと周りを見渡した。

「…大輔、千夏」

「ん?」

「…?」

「冬士はどこ行った」

「…知らねえ」

千夏はそう言って前に向き直った。

真千がマイクを通して言う。

「皆さんは生成りのことを怖いと思っているかもしれませんね。 でもその理由はなんですか? それをちゃんと説明できますか? ―――ほとんどの人は説明できないと思います。 なぜならば、会った事がないからです。 生成りというのはほとんどが封印施設で一生を過ごしますから」

生徒たちは静かに話に聞き入った。

「私は今年で学園長になって16年目です。 私が取り組んできたことの一つに、“学園を生成りと共学にすること”があります。 そしてそんな私の夢に応えてくれた、勇気ある方が、今年度の1年生にいらっしゃいます」

勇子はははん、と小さくつぶやいた。

「…人数言わなかったな。 大輔に話は来てたのか?」

「…いや、来てない。 だが、冬士がステージに出るのは確定だな」

千夏と大輔は勇子と顔を見合わせて、ステージに向き直った。

「冬士さん」

「はい」

カーテンの陰から冬士がすっと姿を現した。礼をして、マイクを手に取った。

「1年Aクラス、影山冬士。 生成りだ。 まずは個人的なことから言わせてほしい。 先日の校内放送で不安になった方も多かったと思う。 あれについては俺が標的だったということをここに謝罪しておく」

別に謝ることではないのだが、冬士は先に謝った。

「そして、わかったことを報告させてほしい。 今回俺とともに襲撃を受けたやつがいる。 相手の組織はおそらくダークバーレル。 生成りを殺すことを厭わないやつらだ。 それを考えると、あんたらにも多大な迷惑をかけることになると思う。 でもな、そんなのはどうせあんたらが陰陽師やら祓魔師やらになりゃあどうせ扱うことなんだよ。 生成りを嫌ったままあんたらが大人になっちまえば、俺たち生成りは居場所がなくなる。 封印施設に入ったことがあるやつはいるか? 理由は何でもいい。 取りつかれたやつの見舞いに行ったとか、そんな理由でも構わない」

冬士が言葉を切ると、数名が手を上げた。

「…やっぱそのくらいだよな。 でも、あんたらは知ってるはずだ。 あの暗さを。 何も置くことが許されないあの監禁部屋のことを。 …俺はあそこに半年入ってたぜ? あんなとこに長時間閉じ込められてりゃあグレたくもなる。 ―――ところで、協力を頼めるか?」

冬士は目を閉じた。どこを見るのかをわからないようにするためである。

「…」

勇子がちらりと大輔を見た。大輔はふっと笑って立ち上がった。

「俺は構わないぞ、冬士」

大輔が声を上げると、冬士はすっと大輔を見つめた。

「ありがとな、大輔」

「なに、俺だってあの場所で人間の本質を見た気がしたさ。 ―――俺は施設に1年入っていた。 俺は冬士より心持ちはだいぶ楽だったがな」

大輔は息を吐いた。冬士が続ける。

「生成りすべてがそうとは言わないが、俺や大輔に関しては霊災の被害者って形で生成りになってるんだ。 人間が人間である限り、感情がある限り、人間は生成りになることができる。 生成りが嫌いなら、生成りになったやつの魂と霊獣をきっちり分けられるようになって見せろよ。 ただ怖いからって差別と偏見と軽蔑の視線を向けられたんじゃあ、俺たちはいつまでたっても“堕ち”る可能性を否定できない。 本当は祓魔師なんてみんな生成りなんか生まれるよりもさっさと霊獣に堕ちてほしいんだろ? さっさと死んでほしいんだろ? だったらとっととそう言え。 言えないならせめて受け入れてほしいね。 …存在することから、目を背けてほしくない」

冬士の声のトーンが一気に落ち込んだ。

「…生成りになったやつの中に、俺のダチになったやつがいる。 そいつらの話をしたい―――そいつは霊災に巻き込まれて生成りになったらしい。 新家の出身だった。 そしたらそいつの両親は…そいつを捨てたよ。 親だぞ。 肉親だぞ。 血縁だってあるんだ。 そんなの関係ないんだよ。 怖けりゃ誰だってそれを捨てるんだよ。 生成りは親に捨てられ、社会に捨てられ、見放されて、闇の中で生きていくしかない―――んな常識お断りだね。 俺は生成りとしての立場も、生成りになる前の一般人の思考も理解してるつもりだ。 だからこそ宣言させてもらう。 ―――俺は称号持ちを目指すぜ。 気に食わねえなら俺の前に立ち塞がってみろ。 俺が怖くて仕方ないんだったら不意打ちでも構わないぜ? 強くなれよ。 調伏する力を持てよ。 その力が強くなりすぎた時―――お前らは生成りを越えた、化け物になる」

冬士は蔑むような笑みを浮かべた。

「―――まあ、そんなのはどうでもいい。 ここで勝手にわがままを言ってみようと思う。 俺は欲しいものがある。 なんだかわかるか? 当たり前のものらしいんだが」

冬士は表情を切り替えて言った。

しんと静まり返る講堂。冬士は言った。

「―――普通に笑っていたい。 笑ってられる場所が欲しい。 それだけだ」

冬士は礼をしてステージを降りて行った。

 

 

 

 

 

集会を終えた生徒たちは、みな考え込んでいた。

仕方がないのではなかろうか。

あれだけ生成りに目の前で啖呵をきられたのだ。みな思うところがあったらしい。

校舎にざわめきが戻るのは、もう少し後の話。

 

そして1人の少女がこわごわと冬士に尋ねた。

「そのお友達は、どうなったの?」

と。

冬士は目を丸くして、そして切なげに笑って言った。

「もういない」

と。

生成りに居場所はあるのだろうか。

いや、無いだろう。

その結論に全校生徒が辿りつけたなら―――それこそ、真千の目指す学園の完成だというのに。その理想はあまりにも、遠い。

冬士が行ってしまったのを確認して、少女はケータイを取り出した。そこには、“倉橋”の字。

もう動き始めたのだ。くよくよしている暇はない。

歩き出したら止まれない。冬士は走り出した。生徒たちはともに走り出せるだろうか?

 

誰かが笑った。

誰が泣いた。

歩き出したのは冬士だけじゃない。

少女が学園に向かってくる。

踏み出した少年少女に贈る言葉。

『そばにいるよ』

大切なものは、すぐ、そこに。

手に入れたいものも、すぐそこに。

 




また伏線張ったら収集つかなくなりました。
とにかくこれで第2章は終了とさせていただきます。
感想お待ちしてます!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。