「冬士、なんだよあの隠形!! お前堂々と目の前から殴ってきやがって!!」
吉岡がキャンキャンと叫ぶ。
「悪かった。 あそこまで華麗に決まるとは思ってなかった」
冬士はニヤニヤしながら答えているから、反省の色はない。
昼休みになって冬士たちは帰って来たのだが、4時限目まで彼らはずっと鬼を追うという追いかけっこをしていた。
「おお…俺でも見えんぞ」
龍冴が感心するほどの隠形をやってのけた冬士は、皆の目の前でふっと姿を消してしまい、皆が守りに入ろうとしたところを、近くにいた吉岡をぶん殴ってしまったのだった。
「…!?」
「あ、わりぃ」
冬士は特に反省の色もなく軽く謝った。
「…めっちゃムカつくぞ、今の!」
「だってこうしねえと頭砕けちまうぜ?」
鬼の角と牙が見えている状態の冬士は基本的に鬼のパワーを持っていると考えて接するように、というのが、千夏から皆への忠告だった。
勇子は苦笑いをして符を取り出した。
「冬士、大輔にもやらせてあげてね?」
「勇子の方が楽しむ気満々じゃね?」
「千夏はどうせ春樹と戦えないんだから私がやるわよ。 春樹土属性だから邪魔だし~」
皆ははっとした。戦場において苦手属性から倒していくことのメリットは大きい。春樹が慌てて叫んだ。
「僕のことはいい! チームが乱れたら負けだと思うことだ! 冬士を警戒して! 大輔はリーチが広いから気を付けろ!」
「ほらほら、司令塔をほっとくとチームは散り散りにっ!」
勇子が容赦なく木符を投げた。
「土を裂き、根を張れ! 急急如律令!」
「! 断てよ刃、流れよ水、伸びよ木、焼けよ火、支えよ土、五霊気相生、我が身を守りたまえ! 急急如律令!!」
春樹はバックステップを踏みながら唱えた。勇子がにやりと笑った。
「!」
「術はいいけど注意力は散漫したわね」
振り返った春樹のすぐ後ろに、大輔がいた。
「怪我させたら、ごめん。 医療費は全部神成に請求してくれ」
「現実の話をするなよ!」
春樹は腕をクロスした。そこを狙って大輔は腕を振りぬいた。
春樹の体は簡単に吹っ飛び、演習場の壁に打ち付けられ―――なかった。
「!?」
春樹の体をふわふわした真っ白なものが覆ったのだ。
「…冷たい…冬士!?」
「おいおい、敵に庇われてちゃ意味ねえぜ? 悪いが、春樹にはここで離脱してもらう」
「え」
「寝てろ。 起きるころには霊気も怪我も治ってる」
冬士はそう言って、手をパンと合わせた。春樹に霜が降りる。春樹はふっと倒れる。その体が浮き上がり、氷が周りを浮遊し始め、合わさって、氷の牢が出来上がった。
「1人終わり。 さて…大輔! てめえ、神成家の家計誰が切り盛りしてると思ってやがる!!」
「お前だ、冬士」
「分かってるじゃねえか…なんで自分の小遣い減らすようなことするんだ?」
「…勇子の小遣いが減ればいいと思った」
「そんな私的な理由かよ!!」
「勇子、前来てる!」
このチャンスをだれが逃すか、と突っ込んできた男子たちは、横からのタックルで吹っ飛んだ。
「!?」
「…あ、ああ、皆、怪我はない!?」
犬護であった。
「ほらほらお前ら、冬士たちギャグかましてたけどそんなんじゃ駄目だろ。 ほら、あと3時間半はあるぞ!」
そんな龍冴の怒声が飛んできた。
「散々だったからな…」
「冬士たち強すぎだろ」
「…生成りってあんなもんだろ。 半分霊獣だし」
冬士が吉岡や萬谷にそう言っていた時、烏丸の声がした。
「なんだこの菓子の量は!?」
「あー、すみません。 多すぎた自覚は、あります」
叱られていたのは玲であった。
「…何でこんなに? 自分が食べる分だけじゃなさそうだが」
「…はい。 本当は、友達と食べる予定です」
「…友達、か…」
烏丸は他の女子たちを見る。そちらもやたら袋菓子が多いのだが。
「…パーティでも始める気だったのか? ダイエットするというなら菓子は食うな、野菜を食って動け」
ポテトチップス類がやたら多ければさすがにそういう反応になってしまうだろう。玲はチラリと冬士を見た。
「…あー…」
冬士は分かったらしく、席を立って烏丸に近づいて行った。
「どうした、影山?」
「烏丸先生、人間の一日の理想摂取カロリー数はいくらかご存じで?」
「高校生以上は2000キロカロリーから2500だったと思うが」
「陰陽術に使う霊気の補給をどう行うかは?」
「体力と同じだ。 食って寝れば回復する」
冬士はにっと笑った。
「じゃあ、霊獣封印術を掛けられている場合、封印術の維持に使われるのは誰の霊気か?」
「術を掛けられている人間だな。 …ということは、生成りは皆よりもエネルギー消費量が多いってことか?」
「正解です。 犬護に皆がお菓子持ってきたんでしょうね」
烏丸はうむむと唸る。
「…影山、教えてくれてありがたいんだが…」
「教師にする態度じゃないってことですか? 気にしたら負けですよ」
冬士はそう言って犬護を見た。犬護はふるっと体をゆすった。
「冬士君、サイト創るの手伝うから!」
「なんでこの話したくないって反応するんだよ」
「ワサビ入りとかよく食べさせられたから! ハバネロ嫌い!」
「理由が辛辣だな…」
冬士はくつくつと笑った。千夏と勇子が弁当箱を開く。
「冬士、これいつ作った!?」
「今朝お前が起きる30分前に詰めただけだ」
「愛が詰まってるわね~」
「勇子、お前が言うとシャレになんない。 ほら、腐海に呑まれそうだから払ってくれよマジで」
「いいじゃんか~」
勇子と千夏のそんな会話。春樹は少しばかり残念そうな顔をする。
「…土御門、どうした?」
烏丸が尋ねると春樹は苦笑いした。
「いえ。 今日もまた1人か、って思っただけです」
「? あいつらとは食わないのか?」
烏丸が千夏と勇子のところへ寄って行った冬士と大輔と犬護を指す。
「…僕の分のお弁当は冬士は作ってませんよ。 僕のお弁当箱渡してるわけでもないですし。 それに、冬士と大輔、千夏は勇子の家で暮らしてますから、家族なんです、彼らは」
春樹は伏せ目がちに言った。
「…食堂は弁当持って行けるんじゃないのか?」
「…あの集会があったとはいっても、上の学年の先輩の親衛隊のこともありますし、食堂には近づきたくないんじゃないでしょうか」
春樹ははっとしたように顔を上げた。
「ご、ごめんなさい、烏丸先生。 愚痴っちゃいました」
「…いや、そういうことをため込む方がよくないだろう。 愚痴りたくなったら呼べ、聞いてやる」
「…ありがとうございます」
春樹はそう言って礼をして出て行った。
さて、と烏丸は玲に向き直った。
「…どうせ矢竹たちだけのためじゃないんだろう、その菓子の山」
「あ、はい! 私達も食べるんで!」
嬉々として答えた玲。その姿に小さく息を吐いて、烏丸は隅っこに置いてあった椅子を持ってきて、そこで弁当を広げたのだった。
Aクラスは本当は27人です。でも、最初のほうに出ていた山村圭吾君は保健室登校になっているので現在クラスには26人しかいません…。
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