個人的にこっちのほうが書きやすいので。
朱里ちゃんの口調をちょっと変更しました。
時は遡って、燎がやって来た日のこと。
朱里は従兄弟たちと電話をしていた。
「アレン? どうしたの?」
『どうしたのじゃないよ!! なんで朱里が倉橋にいるのッ!?』
「え…それは、折哉さんに言われて…」
『もう!! あの人はあああ!!』
電話口で叫んだアレンに朱里は一喝した。
「電話口で叫ぶな、耳が痛い!!」
『ご、ごめんなさい』
朱里は小さく息を吐いて、アレンに問う。
「それで? 用事は何?」
『俺、倉橋に行くことになったから』
「…は?」
『だから、同い年の俺が朱里のサポートとして倉橋に入るよってこと!』
「…なんでまた。 どうせアレンはもう免許持ってるんでしょ?」
『そうだけどね、みんな朱里のこと心配してるの! 折哉さんの地獄の特訓も全部朱里のためだと思ってやってるからね! マジで地獄だったと思うけど!』
「…」
朱里は思い出して身震いする。
「今でもあの意味よくわかんないんだけどね…」
『倉橋にいたら知ろうと思えば調べられるから、気が向いたら調べてみるといいかもしれない』
アレンはそう言って、すっと息を吸い込んだ。
「?」
『朱里、俺たちが見てないところで何かに巻き込まれたんじゃないかって心配になってさ。 ずいぶんと勇気のある生成りがいたみたいじゃんか。 そいつわけありだって神成家から聞いた』
そう言えば冬士たちは勇子の家で暮らしているという話を聞いたな、と朱里は思った。
「…確かにね、巻き込まれはしたよ。 でも、守ってもらった」
『…ちょっと朱里、まさか本格的に陰陽術をやる気? 後天的な見鬼には向かないよ?』
アレンはちょっとした朱里の変化に気が付ける。朱里の声が微かに震えていることに気付くなんて造作もなかっただろう。
「…それでも、俺は守られっぱなしは嫌だ。 …あいつだって同じ気持ちだったんだと思う」
朱里の瞼には冬士の姿が浮かんだ。生成りというのは皆の反応を見ている限り普通は表には出てこない。集会での冬士と大輔の話を聞いた限りでは、施設から出ることすら叶わないものがほとんどだ。
それが、表に出ることができた。きっと千夏を支えにして立ち上がったのだろう。大輔はもしかすると勇子を支えにして立ち上がったのかもしれない。助けてもらえた。生成りの絶望なんて朱里にはわからない。それでも、冬士たちのあの熱のこもった目を見ていれば察することぐらいはできた。きっと2人は、千夏と勇子の力になりたかったのだ。だから、相手に自分の一部を支配させる、そんな危険な契約を交わしたのではあるまいか?
『…朱里が選んだ道なら俺は否定しない。 でも、これだけは約束して』
アレンは真剣みを含んだ声音で言った。
『俺がそっちに行くまで、危険に首は突っ込まないで。 わかった?』
「…うん。 わかったよ。 心配してくれてありがと、アレン」
朱里はそう言って電話を切って、次の従兄弟にかけた。
「もしもし、折哉さん?」
『朱里か。 …入学手続き、本当にすまなかった』
「なんで入れたのか疑問だけどね! …アレンを倉橋にって言ったの、折哉さんだね?」
『ああ』
折哉の声は淡々としていた。まあ、いつものことなのだが。
『…だが、お前ならもう大丈夫だろう。 自分の中の自分を信じろ。 こうありたい、でも、こうなければいけない、でもない。 今の実力の自分自身を信じろ。 現実を受け入れられるのがお前の強みだ』
「…ありがとうございます、折哉さん」
礼を口にした時、始業のベルが鳴った。
「…ごめん、もう1時限目始まるからいくね」
『ああ』
朱里は電話を切って教室へと戻った。
教室に戻った朱里を待っていたのは闇からの編入生の親戚らしいことからの質問であった。
「鹿池アレンが編入生じゃな。 推薦者の名が鋼山折哉となっとるんだが」
「はい。 2人とも私の従兄弟です」
「…そういえばお主は一般からの生徒じゃったな。 なるほど、そうか…お主も後天的な見鬼か」
「…はい。 それで、何かあったんですか?」
朱里が尋ねると、闇は言った。
「ああ…実は、免許をすでに持っている…しかも、それが準1級クラスともなるとちょっと、な」
「ああ…」
朱里はアレンを思い浮かべた。アレンは準1級陰陽師としての免許を取得済みである。ついこの間朱里も知ったばかりなのだが。
「特異例として、ということですよね?」
「名前を知られとる可能性があるんじゃよ…面倒じゃ」
「そこですか」
そこはしっかり対応しろよ!と突っ込みたい朱里だったが、そこはやめておいた。闇に突っ込んでもスルーされるのがオチだろうと思ったからである。
「まあ、親族ともなれば多少の言い訳はできる。 本当の意味なぞは詮索されても答えたくなければ答えんでいい。 そこは主の意思に任せる」
「…はい、ありがとうございます」
朱里はそうか、と思った。
アレンのように、第3級以上の独立して祓魔官を名乗ることができるクラスの免許を持っている者の場合、学校にわざわざ来る必要がないため、いろいろと詮索されがちなのである。
おそらく自分のことが関係する理由なのだろうと朱里は考えて、闇の言葉に感謝した。
席に戻る途中で冬士に声を掛けられて、朱里は冬士の方を見た。
「…何ですか?」
「いや、ちょいと千夏があんたのこと心配しててな。 あんた、後天性の見鬼だろう」
冬士の問いに隠すことでもないかと朱里は頷いた。
「…それが、どうかしましたか?」
「自分で符を買わなきゃいけないってことを知らない可能性があるって言われてな」
「…」
朱里は目を丸くした。
「…支給されるものじゃないんですか?」
「…お前祓魔一式の店行かないタイプか」
「不用でしたから」
「…よし、売店行くぞ」
「売店に売ってるんですか?」
「そりゃ、ここは倉橋だからな。 陰陽学園の売店なら置いてる」
冬士はそう言って、烏丸に言った。
「烏丸先生。 すいません、鋼山に伝えておきたいことがあるので授業抜けます」
「…わかった。 早めに戻ってこい」
「はい。 行くぞ」
朱里は冬士に手を引かれて教室を出ることになった。クラスメイトの一部が後ろの方でキャーキャー騒いでいたのは聞かなかったことにする。
「影山君が、鋼山君を! しかも2人でサボり!」
「あれはきっと…!」
やはり気になったため教室を出てから冬士に声をかける。
「…さっきの、たぶん激しく誤解を受けたと思いますが」
「ああいうのには反応しないのが一番いいぞ」
げんなりしているように見えたのは見間違いではなかろう。
売店に着くと、冬士は店員に声をかけた。
「符を全種類見せてください」
「はい」
店員は符を出してきた。
「…値段違うんですね」
「符を作ってる会社(いえ)によるぜ? 使いやすい符はもう自分で探すしかねえから、自分で買うしかねえって言ったんだよ」
「ああ、なるほどです」
冬士の言葉に朱里は頷いて、符を手に取った。
「試験の時も支給されましたけれど」
「あれは自分が一番得意な属性が出るようになってんだ。 もともと人間ってのは5つすべての属性を持ってる。 試験の時に属性の指定はなかっただろ?」
「…そういえばそうでしたね」
「あの程度の術式だと、家ごとの違いってのが出ないんだ。 基本使う術式の基本はどの陰陽師の家も同じ。 土御門一派が現代陰陽術の基本すべてを均したようなもんだからな。 蘆屋道満の流れを組んだところもあるが、基本使う真言は同じだ。 勇子見てたって千夏見てたってそんなに差はなかっただろ?」
朱里は頷く。使う真言はほとんど変わらなかったし、特段変わった部分もなかった。クラスの皆と何が違うのかといえば、一撃一撃の術の威力が高いことぐらいであったからだ。
朱里はお試しとして手に取った符を投じた。
「急急如律令」
その一言で組み込まれている術が発動する。符が火を纏った。
「あ、これ支給されてたのと違う…」
「それ、賀茂家のだな」
次の符を手に取って投じる。再び符が火を纏う。
「これ…さっきより威力が低い…」
「それ飛海家」
冬士がこれは?と言って差し出した符を手に取って朱里は投げた。
「…ガクンって感じでした」
「…今のは神成のだ。 お前蘆屋道満の系統はだめみたいだな。 …ん? 待てよ。 鋼山…?」
冬士は考え込んだ。朱里は次々と符を試していくことにした。
「…そうか。 鋼山、お前実家神社だろう。 確か、“天才”鹿池アレンが男巫女になったってので2年前に話題になったところだ」
「ぷっ!!」
朱里は思わず噴き出した。
「どうした?」
「…い、いえ。 あれが天才…天才…くくっ…」
笑いが止まらない。あの忠犬みたいな男を冬士が綺麗な、しかも真顔で天才などと称したのだ。笑わないわけがない。朱里にとってアレンは―――。
「アレンってどんな奴なんだ?」
「忠犬ですね!」
「…いったいどんな奴だよ…」
冬士が目を丸くした。
「…あれはアホです。 忠犬です。 いい奴です」
「前の2つ、ほかのやつには言うなよ。 アレン絶対いじられるぞ」
冬士はどこから聞きつけたのか、アレンが編入してくることを知っていたようである。まあ、勇子辺りからだろうと朱里は目星を付けた。
「…で、どれが一番よかった?」
「これですね…足がついてる感じがします」
「そうか。 ならこの系統…マジかよ」
「どうしました?」
冬士の動きが止まったため朱里は冬士を見た。
「…影山だ」
「…うん、冬士これからよろしくお願いします」
「…おう」
「鋼山さんと冬士がいつの間にか仲良くなってた」
勇子は朱里をつついた。
「符が影山のが一番しっくりきたんだと。 まあ、後天性の見鬼には影山のは効果覿面だろうしな」
千夏が笑った。
朱里も加えて勇子、大輔、千夏、冬士、犬護は弁当を食べていた。
「まあ、なんかあったら言ってくれ。 手、貸すから」
千夏はまぶしいくらいの笑顔を朱里に向けた。誰かの笑顔と重なる。
冬士もやわらかく微笑んだ。その笑顔もまた、誰かの笑顔を彷彿とさせるものなのだ。居心地がいいなあ、と思ってしまう。
そしてまた、その笑顔に裏側がないのが、千夏を一層眩しくしているようにも感じられた。
勇子と大輔が「土御門にハブられた」と言いながら笑っていた。犬護は苦笑い。
「どうせなら春樹とも仲良くなってやってくれないか?」
「?」
千夏の言葉に朱里は首を傾げた。別にかまいはしない。
「いいですよ? でも、どうしたんですか?」
「…あいつ、あんなかっこだし、土御門の天才って言われてて、友達少ないっつーか」
「ようはボッチだ」
「おい冬士! そんなはっきり言わなくても!」
千夏と冬士のやり取りに朱里は笑った。
倉橋に入学してはや1カ月。朱里にようやく友達らしい友達ができた。
アレンにも紹介してやろうと思いながら、朱里は冬士たちとの会話を楽しんだ。
読みづらくなっちゃったよ!と思われた方、申し訳ありません。