食堂に編入生たちは集まっていた。
その中に、赤い髪の美少年と、青い髪の美少年がいた。
青い髪の少年は取り巻きを連れている。赤い髪の少年は静かに1人で食事をしたいらしく、青い髪の少年と視線を合わせようとしない。
「なあ、翔」
「…」
「翔ってば」
「…」
「翔!」
「…んだようるせえな…」
「だって翔反応しねーじゃねーか!」
「晃は俺に構いすぎだろ。 俺としてはお前にこんなに声を掛けられたら反応しても無視してもお前の取り巻きどもの制裁に遭うこと間違いなしなんだが」
2人の名はそれぞれ、赤い髪の方が赤石翔、青い髪の方が青木晃である。
「大丈夫だろ、翔喧嘩強いし」
「…もう2年も前の話だろ」
翔は息を吐いた。青木の隣にいる編入生がゴミでも見るような目で翔を睨んでいる。
「まあ、医者からあんまり動くなって言われてるんだろうけどさ、大丈夫だろ?」
「…まあ、な」
佐竹からの編入生である彼らは、佐竹よりもランクが上である倉橋へとやって来たのだ。青木が編入できると知って取り巻きが頑張ってついて来たのだ。翔としては面倒なことこの上ない。本当は、翔は編入する気なんてこれっぽっちもなかったのだが、偶然青木に成績を知られてしまったのだ。ヤンキー仲間とメールをしていた履歴を見られてばれた。
なにより、青木には重要なことを明かしていないのだ。
ここまで一緒になったならばどこかでタカをくくらねばならないというのは分かっているのだが、その勇気がどうもわいてこない。
「…翔?」
「…俺、5限目からA行くから」
翔はそう言ってさっさとサンドイッチを食べ終わる。席を立って食堂を出ようとした時だった。
「…」
ふと、1人の少女が目に留まった。
正しくは、3人組だったのだが、その中の1人。黒い流れるような髪の女子生徒だった。
その生徒は、他の生徒と同じように編入生を見ているのだが、美形の生徒ばかりを見ているわけではない。
佐竹からの編入生は7人。全員の情報を集めようとしているようで、おそらく翔も今気づくまではじっと見られ続けていたことだろう。その表情は真剣そのものだった。おそらく情報収集に集中しすぎて、甘くなった隠形を翔が見破ってしまっただけなのだろう。
「…」
翔は女子生徒に近付いた。
青木が翔を見た。
「なあ、あんた」
「はい?」
女子生徒は顔を上げて翔を見た。翔は目を覗き込んだ。
(…違う)
こいつは、同類じゃない。
「…ちょっと話を聞きたい。 Aクラスだろ?」
「あ、うん。 美世、優華、あとお願い」
「分かった」
「うん」
女子生徒は席を立って翔について廊下に出た。
「どうかしたの? Aクラスについて分かることなら答えるよ?」
女子生徒はそう言って翔を見上げる。
翔は小さく息を吸った。
「…俺は赤石翔。 あんたは、Aクラスなんだよな?」
「そうだよ。 私は一橋玲。 Aクラス所属です!」
玲はにこっと笑った。それと同時に、何か察してもくれたらしい。
「…Aクラスに行こうか。 赤石君が会いたい人、たぶん教室にいるから」
「…頼む」
玲は翔を連れてAクラスへ向かった。
「ただいま!」
玲が少年を連れて教室に帰ってきた。冬士は大輔をちらっと見た。大輔が頷く。
「入って」
玲に促されて教室に入った少年は、辺りを見回して、冬士を見た瞬間に、ニイッと笑った。
冬士も口端を上げた。
「…冬士、元ヤン魂燃やすなって」
千夏が言うが、時すでに遅し。
「―――」
「―――」
2人はほぼ一瞬で距離をゼロに縮め、少年が拳を振りぬいた。冬士はそれを掌で受け流した。
冬士の拳を少年の顔面すれすれで止まった。
「…久しぶりだな、紫鬼」
「元気そうで何よりだ、赤虎」
冬士の方が若干背が高い。冬士は拳を降ろして少年と握手を交わす。
「影山君知り合い?」
「ああ、俺がこっちに住んでた時のヤンキー仲間だ」
冬士は皆に向き直った。
「こいつは赤石翔だ」
「自己紹介ぐらい自分でするわボケ!」
「肝心なのは言えねえくせにか?」
「!?」
翔は目を丸くした。
「…まさか」
「ああ、お前が聞いただろう演説をしたのは多分俺だぜ」
翔はハ、と小さく笑った。
「…そうか」
「…ほら、言えよ。 相当ヤバくても皆耐性ついてるからな?」
冬士に促されて翔は笑った。
「…俺は赤石翔―――鬼の生成りだ」
「…!」
むしろ凍りついたのは冬士の方だった。
「…なんでお前に驚かれなきゃいかんのだ」
「…絶対お前俺の鬼の二次被害だ…」
「…お前も鬼かよ」
「4年前の本体」
「そりゃたいそうなこって」
翔が拳を出すと、冬士も拳を付き合わせた。
玲が近づいてきて言った。
「赤石君は冬士の演説聞いてきたの?」
「ああ。 演説内容をかいつまんで簡略化してある奴読んだだけだけどな」
「あー、翔だ」
「あ! 勇子じゃねえか」
翔は勇子の方を見て声を上げた。
「神成さんも知り合い?」
「うん。 私と冬士は大輔の行く予定だった中学に行ったんだよ。 翔とは小学生のころのクラスメイト」
「へー」
玲は目を丸くした。
「翔、冬士の演説撮影してたの見る?」
「見たい」
「勇子お前あの全校集会でなに撮ってんだよ」
「冬士の勇姿だぞ! きりっとしててかっこよかった…」
「冬士! まんざらでもなさそうな顔すんなよ! わざとらしい!」
千夏の突込みに冬士はニヤリと笑った。
「ところで千夏、朱里のお試しの符代なんだが」
「…まさか」
「当たり前だろバーカ。 お前の今月の小遣いから引く!」
「冬士酷い!! 鬼! 般若!」
「どうとでもいえと言いたいところだが俺は男だ!! 般若じゃねえ!!」
じゃれ始めた冬士と千夏を無視して勇子はカメラを取り出し、録画した動画を翔に見せた。
「…冬士、俺はお前に惚れ直した」
「やめろ、ここでそのセリフは禁句だ。 いい意味でも悪い意味にしかならない」
冬士と翔、千夏、勇子、大輔、犬護は生成り集会場にいた。朱里も途中参加である。
「なんだ、腐海でも広がってるのか」
「冬士の台詞のせいで被害は俺ばっかじゃねえか!」
「お前の俺に対する態度が問題だろ。 そもそも勇子がいる時点でまともな目で見られる可能性が低いのは覚悟しろっつった筈だ」
冬士に千夏がしがみついている時点ですでに説得力は皆無だ。
「まあまあ。 皆の趣味がそっちに倒錯してるだけだからね?」
「「一番倒錯してるやつが言うな」」
千夏と冬士の同時の突込みに勇子は悪びれもなくにこにことしている。
生成り集会場に集まるメンバーは14人の生成りと、勇子、千夏、朱里の17人である。そこそこ広い部屋であるためそんなに狭くはない。そこに既に置かれているカメラや髪留め道具などが目を引く。
「…これらは?」
「それ、勇子が生成りの写真集作るとかほざいた結果だ」
「1冊1500円!」
「何ページだよ」
「あー。 前回のは20ページぐらい」
「…わざわざ…いや、冬士がいるから買うな」
「待て、赤虎の中で俺はなんなんだ」
「お前は自分の容姿がどれだけイケてるか自覚しろ!」
「何故叱られなきゃならんのだ」
朱里が後方で爆笑中である。
「でも案外犬護もいい線行ってるんだよ? 可愛いって」
「ぼ、僕?」
「うん」
集会場にいるときは帽子をとっている犬護の頭には山犬の耳が立っている。
「小動物を彷彿とさせるというか」
「山犬というよりはチワワ」
「そう、それ!」
朱里の言葉に勇子はそれだ!と人差し指を立てた。
「…うー」
「…犬護。 勇子はダイキをチビちゃんと呼ぶ女だ」
「御影のことは酒豪だの酒好き爺だの言うからな」
「事実じゃん。 ダイキは4歳だし御影はすぐ冬士の身体で焼酎に手出すしね?」
未成年の飲酒は禁止。と勇子が笑顔で冬士に言った。その顔が黒く見えたのは冬士だけではあるまい。
「…冬士、お前まさかまだ酒飲んで…」
「悪かったな、酒飲みで。 いろいろ忘れたいことあんだよ…薬に手を出さなかっただけましだと思ってくれ…」
「…お前の荒れ方酷かったもんなぁ」
はははと笑う翔。だがふっと冬士の表情が陰った。
「千夏」
「ああ」
千夏が冬士の額に手をかざす。
「冬士、俺はここだ。 大丈夫、みんなここにいるから」
「…」
冬士が立ち上がる。そのまま出て行く。
「悪ぃ、しばらく屋上にいるわ」
千夏は冬士を追って集会場を出て行った。
「…俺なんか悪いこと言っちゃったか?」
「…トリガーになったのは否めないけど、理由はほかのところね」
勇子は窓の方を向いた。そこに、女の髪の束が落ちていた。
「…また…」
小さく言った犬護に、勇子は言った。
「この教室じゃないけど、上の方かな、怨霊がいるみたいだね。 冬士中てられたな」
「いつもは中てられたりしないのか?」
「冬士はそんな弱くないわ。 でも、犬護たちが来る前に、あの演説のもとになった大事があってね。 冬士が4年前の体験をみんなに話してる。 フラッシュバックしたんじゃないかな。 …私でも吐き気するし」
勇子はそう言って女の髪の束を掴んだ。
「…震えてるわね。 あんた生成りだったんでしょ! 生成り中ててどうするのよ!」
天井に向かって叫んだ。すると声が返ってくる。
『幸せそうだったから』
「妬み? ちゃちな理由ね。 どうせ自殺でもしたんでしょ! 冬士を巻き込むんじゃない! 自分の可能性先に詰んだくせに! 戦うことを諦めたくせに!」
「勇子、よせ」
大輔が勇子から髪の束を奪った。
「…大輔」
「お前も中てられるぞ。 …それに大体、こいつを責めたって結局解決するのは冬士だ。 あいつが強いと信じてるなら信じて待つだけだろう」
大輔は髪にふっと息を吹きかけた。髪が燃える。だが、物質があるわけではないから、燃える匂いはしない。
「…だが、万が一冬士が堕ちれば…俺は貴様を食らって堕ちてやる。 許さん」
大輔はそう言って部屋を出て行った。勇子は苦笑いをした。
「…ごめんなさい、皆さん。 たぶん彼女にも悪気はないですから…一昔前の生成りの怨霊だと思います。 話しかけてきたら仲良くしてあげてください。 悪霊じゃないから、まだただの霊に戻れるはずです」
勇子はそう言って大輔を追って出て行った。
翔は窓から外を見た。青空が広がっているばかりだった。