日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第8話 赤と青

 

龍冴が帰ってきて、Aクラスにいた青木たちが保健室に呼ばれたのは、翔の意識が戻ったことと、それでも翔が動けないからであった。

保健室にがやがやと大人数が入ってしまうと、ドアが閉められて、保険医は追い出された。

「いいんですか?」

「ああ。 機密事項に関わるもんでな。 真千ちゃん、準備できたぜ」

龍冴が言うと、スッとドアが開き、倉橋真千が入ってくる。

「学園長…」

「あら、そんなに不安そうな顔をしなくても大丈夫ですよ」

真千は不安げな春樹に言った。カーテンが閉められていたベッドに皆が近づき、龍冴はカーテンを開けた。

「…」

「翔!」

青木が声を上げた。翔は視線だけを青木に向けた。

「こら、青木、近づいちゃいかん」

「何でですか!」

「お前の属性は赤石にはきついんだ」

龍冴に言われ、前に乗り出そうとしていた身を引いた青木は、勇子を見た。

「…ちょっと待って。 冬士、翔の中私見えないんだけど」

「水気だな。 俺じゃなく春樹を使えよ。 ここで一番相性がいいのは春樹だろ」

冬士は勇子を見て言ったが、勇子と千夏が目を合わせて向き直った。

「翔の属性も考えてみるとね…むしろ大輔は危険かも。 春樹は翔を知らなさすぎるかも」

「青木って言ったっけ、お前翔から何か聞いてるか?」

冬士は翔を見た。翔は首を左右に振った。

「千夏、翔のやつ言ってねえぞ」

「え」

千夏は少し考え込んだが、冬士を見て頷いた。

「…青木、お前生成り嫌ってるな?」

「え…」

青木はきょとんとした。翔を見て、まさか、と小さく言った。

「翔、お前生成り…?」

翔は頷いた。青木は目を見開いた。

「な、何で言ってくれなかったんだ!?」

「…」

翔は冬士を見た。冬士は翔の横に腰かけて、その手を握った。

「“だってお前、生成り嫌いだって言ってたじゃねえかよ”」

冬士が翔の言葉をそのまま伝える。青木は苦虫を噛み潰したような表情で翔を見る。

「本気だと思ってたのか…?」

「“人間なんて誰が何考えてるかわかったもんじゃねえ。 悪いがお前の言葉も表面だけ見させてもらった”」

「…でもお前、俺と居るの嫌そうじゃなかった…!」

「“俺は親友だったお前に嫌われるのが嫌だっただけだ。 まさかお前まで佐竹に行くとは思ってなかった。 お前が来なかったら分校に行く気だった”」

「―――」

そこで冬士が翔に問いかけた。

「赤虎。 佐竹って分校と交流あるのか? ―――いや、犬護がな、俺が青木を拒否った時に青ざめてたんだよ。 そう考えると知り合いで馬鹿にされてたって考えるのが、痛い目見た生成りの思考だと思わねえか? ―――ああ、そうだ」

冬士は青木を見た。

「“晃、黙ってて悪かったな” ―――ここからはお前らの会話だ。 赤虎、漢見せろ」

冬士は翔の上半身を支えて起こし、肩をポンとたたいて離れた。翔が咳き込んだ。龍冴が小さく構えた。

「…翔」

「…悪かったなァ、晃。 …さっき冬士に言ってもらった通りだ…俺は、お前に、嫌われたく、なかっ…た」

ゲホゲホと咳き込んで口元から血が溢れた。

「翔!?」

「…っか、ケホッ…、この程度じゃ、死なねえよ。 …晃、この話が終わったらお前、もう俺に近づくな」

「なんでそんなこと!」

「俺が鬼の生成りだからだッ!!」

ベッドのタオルケットに血が飛散した。翔はタオルケットをぐっと握りしめた。

「…知ってるだろ、鬼がどんだけヤバいモンか。 そんなのが俺の中にいるんだぞ。 そこのヘッドバンドのチートステータスは俺にはねえんだよ! 今だって封印でガッチガチだったんだ!! それをあんな簡単に破られたッ!! また俺は封印掛け直さなきゃならない! また出てこれるかどうかもわかんねえ! …もう、嫌だ…」

ついこの間までこんなこと考えなかったのに。

小さな呟き。

冬士と大輔が顔をしかめていたのは、実体験があるからだろうか。

「…翔、それは俺がお前を嫌う理由になんねえ」

青木の言葉に翔は顔を上げた。

「…嫌うか嫌わねえかじゃねえ、お前の言葉は、」

「信じられないなら信じなくていい。 …悪いな翔、俺、録音してもらってたやつ聴かせてもらったんだよ、影山の演説」

「!!」

冬士は小さく笑った。

「どんだけつらい思いするのかは知らねえ。 でも、お前が生成りになったのは2年前だろ? あの辺からお前人混みを避けるようになった。 …もっと早く気付いてやれたらよかったのか? 違うよな。 お前は気付いてほしくなかったんだ」

青木の声のトーンが低くなる。翔は目を細めた。

「…気付かれたら嫌われると思うに決まってんだろ」

「…そうかもな。 でもさっきも言った。 翔が生成りになったことは俺が翔を嫌う理由にはならない。 でも今のお前のことは嫌いだ」

「…」

翔は青木の目に涙が浮かんでいるのを見た。

「…何で隠してたんだよ。 親友だって言ってくれたじゃねえか。 そんな大事なこと! 何で隠したんだよ!! 俺とお前ってその程度の仲だったのかよっ!! お前は俺にマジで大事なことは全部話してくれると思ってた…!!」

 

「…冬士?」

龍冴の声に冬士は顔を上げた。冬士の目にも涙が浮かんでいた。

「…まだまだ若僧たちは捨てたもんでもないだろ?」

龍冴は自分の後ろのナニカに向かって言った。

『…そうだな…』

ナニカはそう言って再び気配を消した。

 

「…」

「もう俺の手は翔には届かねえのか!? お前が手を伸ばせばまだ間に合うんじゃないのか!? なあ、翔!!」

まだ諦めないのかよ。

翔の目から涙がこぼれた。

「晃ァ…俺は…まだ…お前の横、居ていいのか?」

「当たり前じゃんかぁぁぁ…!!」

青木が翔の微かに震えている背に手をまわして抱きつく。特に意識なんてしていないだろう。しかし、これがどれほど彼らを安心させることか。

龍冴は構えを解いた。

 




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