日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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キャラがかっつり増えていきます、この話。


第2話 パニック

 

 

―――祓魔庁。それは、かつて存在した陰陽寮を政府が政府機関の一部としてつくりかえたものであり、仕事としては警察と被っている部分も多い庁である。

祓魔庁の職員になるには“第2級”以上の免許を持っていることが条件となる。

扱う事件は、陰陽術を使用したものだけにとどまらず、外国国籍の者が魔法を使用して事件を起こしたとしても祓魔庁の管轄となる。

祓魔庁には二つの部署がある。一つは陰陽局。日本国内で霊災の修祓に当たっているメインはこちらである。もう一つは祓魔局。こちらは霊獣そのものを殺すことで霊災の発生を防いでいる。

ちなみに、今回のように『転移霊災』なるものが起こると、祓魔局は能無しである。

 

 

「多嶋さん!!」

「どうだ、わかったか?」

祓魔庁陰陽局所属、十二神将が一人―――『断空』多嶋蓮司は鞘に収まった刀を腰に下げて、陰陽局内をうろつきまわっていた。

部下たちに、今回の転移霊災の被害状況を調べさせているのだが、なにぶん被害の範囲が広い。半径が5キロにも及んでいるため、おそらく霊獣によるものではない。

5キロ半径内にいた8人の男女が忽然と姿を消してしまった。

それが、もう1周間も前の話だ。

「はい、8人のうち2人が、キマイラ層、冬エリアにいるようです」

「なっ!」

蓮司は目を見開いた。

キマイラ層―――それは、霊界の中でも非常に転移しづらい階層である。電子機器が多少使えることと、人間界とはメールで連絡が取れることが特徴的な階層だが、危険が多い。

「…」

蓮司は手元の資料をもう一度見直す。

「その2人の特定はできたのか?」

「いえ」

「…引き続き情報を集めてくれ」

「はい」

あまりに情報の集まりが悪すぎる。蓮司は頭を抱えた。

実は、確実に巻き込まれていることが分かっている者が3人いるのである。そのうちの1人は蓮司が非常に世話になった人物たちの娘であり、残りの2人は、霊界に飛ぶだけでどうなるかわからない、目を離したくない人物たちなのである。

 

「…千夏様…またお暴れになっていないといいが…」

そう小さくぼやいたとき、ガチャンと勢いよくドアが開いた。

蓮司は噂をすれば何とやら、と、ドアを開けた人物のもとへ向かった。

「…いた、蓮司さん!!」

「千夏様」

それは、少年だった。黒髪の毛先は赤く、瞳は深緑。右側に髪飾りを付けている。顔と首に少し痛々しい傷跡がある。

「祭壇を貸してください!」

蓮司は頷いて、ポケットから鍵を取り出した。

「千夏様、俺たちも情報が少なすぎます。 少し、彼らの状況を教えていただけませんか」

「…はい」

千夏は頷いて、紙とペンをどこからか取り出して、書き留めた。

「詳しい状態は俺にもわかりませんが、早めに彼らのもとに行ってあげてください―――あいつだけは、まだ、だめですけれど」

千夏の表情が陰った。蓮司は紙を受け取ると、礼をした。

「大丈夫―――必ず冬士君や勇子様、大輔君を連れ戻しますから」

 

直後、蓮司には出撃命令が降り、蓮司はすぐさま飛び出していった。

 

 

 

 

 

目を覚ました勇子と大輔は、見知った場所にいた。

とはいっても、家の中にいたわけではない。シロツメクサがたくさん咲いた、見知った家の庭に倒れていたのだ。

勇子と大輔、冬士、そして千夏の4人は同居していた。しかも、勇子の叔母の家に、だ。正しくは、神成宗家の屋敷のうちの一つだった屋敷の管理に、叔母が当てられており、そこに、4年前に起きた“都心大霊災”と呼ばれる霊災の被害者であり、後遺症が残ってしまった大輔と冬士の治療の為に田舎にあったあの屋敷を使っていた。

よって、今いるのは東京に現在ある神成宗家の屋敷ということになる。

「…なぜここなのかしら」

「…冬士に引っ張られた、とか?」

冬士はもともと東京に住んでいた。しかし。

「冬士も来てるのかな?」

勇子はスマートフォンを取り出して、電話帳を確認する。

「…霊界でも繋がるものなのか?」

「やっぱ霊界か。 キマイラ層なら、ね。 可能性高いよ、普通は霊界って、地形完全に独自のものだって話だし」

勇子はそう言いつつ電話をかける。相手は、冬士だ。

数回呼び出し音が鳴り、電話に彼は応えた。

『勇子?』

「冬士よかった、繋がった」

勇子は大輔に親指を立てて見せた。大輔はほっとしたように笑った。

「…寒いのかな?」

『…ああ』

なんだか震えているように勇子には聞こえたのである。冬士は肯定した。

『雪降ってる』

「そこどこ?」

『…まさか…渋谷だ』

「…遠い。 私ら宗家の屋敷」

『マジか』

冬士は小さくつぶやいて、ふと勇子に言った。

『ここは、霊界で合ってるのか? キマイラ層だよな?』

「そうだよ。 電波が繋がるのはキマイラ層だけだから」

勇子はあたりを見回して、そこに霊獣を見つけてしまった。大輔もそれを見て、慌ててあたりを見回す。勇子はそっと呪符ホルダーを大輔に渡した。大輔は頷いて呪符ホルダーから符を取り出した。

「冬士、よく聞け。 そっちは冬エリアってとこだよ。 タイプキラーが跋扈してるはずだから、マジで気を付けて」

『…タイプキラーとか、男を殺す気満々だな』

「冬士、さすがにそのネタは今私でも笑えないから!」

冬士の声も勇子の声もひきつっている。大輔がやたら目の前の霊獣にビビっているのもそのせいだ。

 

タイプキラー。触手型の霊獣のことを指す。種類が非常に豊富なことで知られているのだが、このキラーという単語、実はレディキラーと同意で用いられている。

これといって強いわけではないのだが、霊獣としてはレベル4以上の中位霊獣に分類される。理由はとにかく、弱点が霊障であるという特異体質によるものだ。倒すのが大変なのだ。祓魔が難しいのだ。

 

「いくら冬士でもあれの相手は無理だから!」

『…今目の前を一匹通り過ぎて行ったが』

「隠形しろおおおッ!! そして日光が当たり続けるところに行けええッ!!」

『そんな場所あるのか!?』

声を小さく抑えながら、冬士はそう言って苦笑いしたようだった。勇子は移動の邪魔になるだろう、といって電話を切った。

勇子が大輔を見ると、大輔は家に入ろう、と小さく言った。勇子は頷いて呪符ホルダーを付け直し、符を取り出して警戒しながら家の中に入った。

中は埃がたまっているものの、誰かが生活、というか、活動しているらしい跡が見えた。

「…誰かいるのかな」

「…霊界に人間が存在するのか?」

「キマイラ層って詳しいことあんまりわかってないからなあ。 いるんじゃない?」

勇子は進んでいき、台所が存在する場所に出た。土間がある。土間に降りて、炊事場に近付き、そっとあたりを見回す。何がいるわけではなさそうである。

「…大輔、そこにいる?」

「ああ」

大輔は頷いた。無論、背を向けている勇子からはわからない。

勇子は包丁が入っているであろう場所の戸を開けた。

「…きれいに手入れされてる」

誰かいるよ、やっぱり。そう言った時、大輔と勇子はばっと振り返って符を構えた。

「―――おー、なかなか察知能力は高そうね~」

そこにいたのは、腕から白と小さな黒い斑のある羽をはやした女だった。

「…タイプ鳥人(フェザーノイド)ね」

「ふうん、今人間からはそう呼ぶのね」

鳥人はふっと笑った。

「表のエルオデスを見て武器が欲しかったってところかしら?」

「…エルオデスって、あの―――触手ですか」

「そうよ」

勇子は頷いた。

「はい。 あれに狙われるのが確実に一人いるので」

「そうね。 一瞬見失ったけれど、2人とも隠形はまだまだって感じだし」

鳥人はそう言って、2人を見た。

「いいわ。 しばらく置いてあげる。 まあ、さっきの会話聞いてる限り、人間界ではあなたたちのお家みたいだし」

「ありがとうございます!」

勇子はぺこりと頭を下げた。フッと鳥人は笑った。

「えっと、お名前は?」

「そんなものないよー。 式神になったこともないしね」

「…」

勇子があからさまに落ち込んだ。鳥人は勇子の傍に歩み寄って、勇子の頭に手を置いた。

「?」

「貴女面白いわね。 じゃあ、貴女が私の名前付けてよ」

「…でもそれじゃあ、私が貴女の主人になっちゃいます」

「いいわよ~。 貴女の式神になってあげるわ」

勇子は少し笑って、うなずいて、言った。

「じゃあ、鷹(よう)。 あなたは、鷹よ」

 

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