「さて、本題に入るぜ」
青木と翔が落ち着いたところで龍冴が話を切り出した。冬士はさっきまで流していた涙が嘘のようだ。
「実はな、今回狙われたのはおそらく“鬼の生成り”だ」
「!?」
全員が目を見開いてお互いの顔を見合わせた。
「…でもそれなら、それ以前に鬼に会ってる可能性が高いんじゃ」
勇子が言うと、龍冴は首を左右に振った。
「今回は非常にまずいことに、俺たち影山でも止めるのが難しいタイプの鬼が関わってる」
翔と青木は首を傾げた。
「…?」
「つーか、影山って旧家っすか?」
「ああ。 影山は旧家だ。 ま、“影”に込められた意味でも考察しといてくれ」
龍冴はそう言って犬護を見た。
「矢竹、お前はどうもなかったんだよな?」
「はい…あんまりいい気分じゃなかったですけど」
「冬士は?」
「俺もですね。 たとえは悪いが勇子と鬼眼を突き合わせたような感覚でした」
冬士が答える。青木が「鬼眼?」と尋ねると、翔が答えた。
「鬼眼は、邪眼の最上級のやつだな。 鬼の生成りしか持ってない」
「鬼眼を狙われて殺された生成りの話今度してやろうか」
「冬士、やめとけ」
千夏に言われて冬士は肩をすくめた。
「…てか、冬士鬼眼持ちかよ」
「鬼眼の発現条件は“レベル9以上”“フェイズ5”の“鬼”であることだからな」
邪眼とは、魔眼とも呼ばれる呪詛をかける力を持つ瞳のことである。ただし、邪眼は青、魔眼は赤、鬼眼は紅であることが特徴である。
「…で、何で勇子が関わるんだ?」
「…この事ばらしたらお前ら帰る家なくなると思え」
冬士の言葉に翔と青木は息を呑んだ。
「犬護、春樹、お前らもだ」
「僕も!?」
「土御門次期当主としちゃあ、これは知っててもらいたいんだが、まあ、周りに知れたらどうなるかはお前が一番よくわかってる」
冬士はそう言って勇子を見た。勇子は頷いた。
「―――実は私、一度泰山府君祭受けてるのよ」
「―――は?」
春樹が見る見るうちに青ざめた。
「何だって!? それじゃあ勇子、君は…!」
「安心しなさい、死んではいないから。 死んではいないはずだから」
勇子はそう言って春樹をなだめる。
「…泰山府君祭って?」
「簡単に言うなら、対象の人間の寿命をいじる禁忌の術。 今でこそ禁忌とされているけれど、安倍晴明が使ったらしいわ」
勇子は龍冴を見た。
「たぶんそのせいでアイツが出て来ちまったんだな」
「…全然話見えないんですけど」
青木が率直に感想を言うと、翔がまさか、とつぶやく。
「なんだよ、翔?」
「…泰山府君が命に関わるものと捉えるとする。 命に直結する鬼っつったら山神ともう一つしかいねえ」
「…!! 獄卒か!」
青木は分かった、と小さく言った。龍冴たちを見れば、頷き返される。
「…でも、何で獄卒が? それこそ皆レベル10クラスのやつばっかりなのに」
「…お前ら、50年前に真榊(まさかき)で起きた鬼の襲撃事件は知ってるか?」
龍冴は全員を見渡した。
「…神成と冬士は知らなくても仕方ないんだが」
「…」
皆回答は持っていなかったようで、顔を見合わせる。龍冴は小さく息を吐いて続けた。
「“双鬼真榊の祓”って名前がついてる。 2体の鬼が連続して大暴れした霊災テロだ」
「…名前だけ知ってます。 被害に遭った人がかなりいたって」
「鬼気だけで100人近い真榊の生徒が死んじまったよ。 その場で生成りになったやつも沢山いたぜ」
龍冴はそのころを思い出しながらか、少し遠い目をした。
「…それで、その時の鬼が獄卒だったってことですか?」
「…いや、正しくはその時の鬼に殺された陰陽師が持ってた護法童子―――ようは、鬼の式神だが、これが獄卒だったんだ。 相手の鬼がいわゆる悪鬼だったんだが、その陰陽師は獄卒への霊力供給を断ち切る前に鬼に食われちまった。 …冬士、この場合獄卒はどうなる?」
「供給される霊力がいわゆる強烈な“悪鬼”の気になりますから、悪鬼になると思います」
冬士が答えると、龍冴は満足げに頷いた。
「…ただし、この鬼はそのままその陰陽師を食らって逃亡した。 理由は突如現れた白虎による反撃からだが、獄卒の方はまだこのときは悪鬼堕ちしていなかった」
「…正常な判断ができる状態と判断されて野放しにでもされたんですか?」
「簡単に言えばそうだ。 契約者が死んだ時点で契約は破棄されてしまうからな。 だが、悪鬼堕ちが進んだ―――その結果、正常な判断ができなくなったんだろう」
大輔がようやく口を開いた。
「…その陰陽師、まさかとは思いますが…神成家の人間ですか?」
「…そうだ」
龍冴はそう言って千夏と春樹を見た。
「?」
「…その陰陽師の名前は“シンジョウイサコ”。 勇子の名前はこの人からとられたものだ。 鬼に負けない心を持つように。 勇ましくあれ、と。 …おそらく勇子は泰山府君祭を受けた際に地獄の匂いが染みついている。 獄卒と契約した奴とよく似た匂いがするとうちの鬼たちはよく言っていた」
「…ってことは、相手の目的は私ですか」
「ああ」
「じゃあなんで鬼の生成りが狙われたんですか? っていうか、何で大輔じゃなく翔が―――」
勇子がふと止まった。冬士と目が合った。
「…ああ…冬士の為に2人の封印を強化して、中の鬼が出てこなくなってたのが原因だろうな。 その代わり、赤石は死んでない。 獄卒は相手の命を奪うことにためらいなんざ持たねえが、赤石が対象者じゃないってわかって、多少理性が働いたんだろうな。 その獄卒ももとはといえば人間と契った仲だ」
龍冴はそう言って息を吐いた。真千が続ける。
「獄卒の名は“煉紅”。 火と土をもつ鬼です。 …本当なら職員と称号持ち全員に出てもらおうと思うのですが…今回ばかりは死者が出るかもしれません」
「…死者が出る…」
翔は青ざめた。
「…お前もか、翔」
「…冬士もか?」
「…目の前でつぶされたよ、こいつに」
冬士は胸のあたりを指す。少し冬士が苦い表情をしたが、目の色がはっきりと青くなったため冬士の表情ではなかったのだろう。
「…学園長。 私と大輔で出ます」
「…そうしてもらえると助かるわ、勇子さん。 大輔さんも、無茶はしないでくださいね?」
「…はい」
大輔は頷いた。
「…となれば、さっそく大輔の封印を解こう! 冬士、副作用は覚悟しろ」
「ハッ、上等だ。 せっかく仲良くなったやつら全員が死ぬ可能性が低い方をとらせてもらう。 その代わり―――」
冬士はしっかりと勇子と千夏の目を見て、大輔と視線を合わせた。
「―――俺の手を離してくれんじゃねえぞ?」
「…わかってる」
「大丈夫だ」
「何が何でも離すことはないわよ」
勇子はその場にいた朱里と犬護の方を向いた。
「…犬護、生成り先輩たちに集会場にいるように言って。 鋼山さんはクラスに戻って演習場に行くようにみんなに言って」
「わ、わかった…」
「分かりました」
犬護と朱里が保健室を出て行く。翔と青木は保健室待機となり、冬士と千夏、大輔と勇子がそれぞれ出て行った。
「…勇子…泰山府君祭なんて…」
「後で問いただせば口割るだろ、あいつなら」
翔と青木は顔を見合わせた。龍冴と真千が強力な結界を保健室に施して出て行った。