日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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予想以上に長くなっております。予定ではこの話が3章の最後だったのに…戦闘にすらなってない!
戦闘描写は拙くはありますが、よろしくお願いします。


第10話 神成勇子(イサコ)の置き土産

朱里がクラスに戻って演習場へ向かうように伝えると、吉岡が他のクラスにも伝えてくると言ってクラスを出て行った。

犬護は集会場に生成りを大輔と翔以外全員集めたところで龍冴と真千に会った。龍冴が強力な結界を張って去っていき、真千が1人の少女の頭を撫でて小さく何かを呟いて出て行った。

「…えと…もしかしてあなたは…」

「…はい。 倉橋の者です…倉橋千陽(ちよ)といいます」

白い制服の少女は恥ずかしそうに言った。

「…結界術は3年生の先輩方は習ってらっしゃいますか?」

「ええ。 一通り習ったわ」

「…じゃあ、それぞれの属性を集めて結界を張りましょう。 僕はよくわからないのでお願いしてもいいですか」

「ええ」

生成りたちで結界術を組む。

「悪いが冬士は参加できない分、俺が冬士の霊気を引っ張るけど、いいか?」

「うん、千夏君が手伝ってくれるだけで心強いよ」

犬護はそう言って笑った。冬士は少し俯き、顔を上げた。

「…俺がどんなに吼えても気にするな。 鬼気が漏れても襲いかかったりすることはないはずだ。 まあ、俺を気にすることができないくらい強烈な鬼気に見舞われると思うが」

「…獄卒ってそんなに強いの?」

「…強いのは強いな。 煉紅がどれくらいの鬼かは知らねえが、山神が若干零落した状態と同等以上だ」

冬士はそう言って目を閉じた。

「オン・バザラ・ヤキシャ・ウン」

犬護たちは印を結び唱え、守ってくれと願い奉る。

辺りが強力な木気と水気に包まれ、金気がちらほらと感じられる。火気と土気が圧倒的に足りない。冬士が小さくつぶやく。

「オン・ヂクシリシュロダ・ビジャエイ・ソワカ」

ガチン、と音がした。

生成りたちに、眠りが訪れた。

 

 

 

 

 

「…準備が終わったみたいね」

勇子はそう呟いた。大輔の封印の解除にかかっているが、千夏の方が封印の解除は得意だ。なぜならば、この封印を施したのは千夏の父親であり、この封印術式を作り出したのは千夏なのだから。

「…かなり近づいて来てるぞ」

「無茶言わないでよ。 最悪逃げながらってのも考えてて」

勇子はそう言いつつ第一門を解除した。

今大輔と勇子がいるのは駐車場である。さすがに東京の真ん中だ、グラウンド分の土地はない。龍冴と真千が出てきて、4人が並んだ。

「春樹はどこへ行ったんですか?」

「彼女には1年生のリーダーを任せて来ました。 烏丸先生と闇先生がいますから、大丈夫だと思いますが」

真千の答えを聞いて勇子は大輔と視線を合わせた。

「…生成り側はどうなった? ほとんど霊気を感じられねーんだが」

龍冴の問いに大輔が答える。

「どうやったかはわからないが、おおかた金剛夜叉明王に般若菩薩でも重ねて全員眠らせたってところだと思います」

「…それ、中に1人入ってなきゃ起きれなくねえか」

「千夏が中にいますよ」

勇子が言うと龍冴は息を吐いた。

「いくら神成とはいえ土御門相手に平気でそんなことさせるなんて…」

「神成ですから」

勇子はニッと笑って、大輔の封印を解く手を動かし始めた。

「…千夏のやつ、面倒な呪を結んでるなあ…」

「それだけ冬士が大事ってことだろう」

「…そこまで冬士に溺れてたら“神成八咫鴉”が主人に選ぶのも頷けるよ、まったく…」

勇子はそう呟いて、第二門を解除する。

「それ全体の解除にはあとどれくらいかかる?」

「最低でもあと20分は要りますよ。 これ5段階だし戦闘用だから」

「…20分って距離じゃねえぞ。 もうほとんど目と鼻の先だ」

龍冴が言ったその時、放送が入った。

 

『霊災発生。 霊災発生。 タイプ鬼(オーガ)、レベル9、フェイズ4。 獄卒型』

 

「ほら、お出ましだ」

勇子はすっと顔をそちらへと向けた。

「…ダイキより物分かりが悪そうだわ」

「オレと比べんじゃねえよ」

大輔の瞳が赤く光っている。ダイキ本人だ。大輔は立ち上がった。

「勇子、多少強引でも構わない。 ぶっ壊せ」

「鬼堕ちしたら許さないわよ」

「じゃあ引き戻してくれるのか?」

「嫌よめんどくさい。 即刻影山に突き出してやるわ」

「手厳しい」

大輔は苦笑いして、手を合わせた。

「やるぞ!」

龍冴が叫んで、手を打ち合わせる。

「オン・バザラ・ヤキシャ・ウン!!」

辺りに光が広がり、大輔と勇子がつつまれる。そこに青白い光の障壁が立った。

「影山先生、学園長、退避を!」

「死ぬなよ!」

勇子は頷いた。

と、勇子と大輔の目の前に、1人の女が突っ込んできた。

「見つけた、見つけた」

女の頭には角がある。牙が生えており、耳は尖っている。鬼だった。

「イサコ、見つけた」

その爪が障壁にいとも簡単に食い込んだ。

「…やっぱ天の眷属相手じゃ無理か…」

勇子は小さくつぶやいて、大きく息を吸い込んだ。

「ノウマク・サンマンダ・ボダナン・エンマヤ・ソワカ!」

青白かった障壁が赤く染まり、鬼女の爪が押し返された。

「…どうして…? どうして逃げようとするの、イサコ?」

鬼女が勇子に語りかける。何かにすがるような声。

「…何を勘違いしてるのかは知らない。 でも私は、イサコじゃない。 ユウコよ」

きっぱりと言った勇子。そして、大輔の封印の第三門が解除される。

「急げ、勇子」

「分かってますって」

いつもの調子で返しはするが、余裕はこれっぽっちもない。

「こんなときばっかり御影春山の鬼気に中てられたことに感謝しちゃうから、滑稽ね」

「同感だ」

大輔の声もせっぱつまっている。鬼女の爪が再び障壁に食い込む。

「どうして…どうして! どうして! なんでそんな中途半端な鬼を使うの!! イサコには私がいるのにッ!!」

「うるさい!! ボクはお前なんか知らない!! 大輔はボクの家族だ!! まだ鬼じゃねえええッ!!」

勇子が激昂して叫んだ。その瞬間、バキリと音がした。

「…大輔?」

「…第四門の崩壊を確認。 第五門は自力で解除する」

大輔はそう言って、カチューシャを外し、降ろしていた右目側の髪を上げた。

そこには札が貼られていた。それを引きはがすと、下に白目が黒い――鬼眼が現れた。

「…鬼女煉紅。 貴様の怒りの矛先が俺だというなら、俺と戦え。 俺が勝ったら勇子の言うことを聞け」

「…いいよ。 その代わり…私が勝ったらお前は死ね」

「いいだろう」

「ちょ、大輔!?」

勇子が慌てたように声を上げた。

「なんだ勇子、さっきまで引き戻すのめんどいとかほざいてた威勢はどこ行った」

「それは鬼として大輔が残れるからであって! 獄卒にやられたら鬼堕ちどころかホントに死んじゃうんだぞ!?」

「そんなの俺と冬士が一番よく知ってる」

大輔は鬼女に向き直った。

「シンジョウイサコの置き土産。 俺はテメーに勝つ。 負けねえ、死なねえ。 もう鬼に何かを奪われるのは御免だ」

「中途半端なくせに。 お前は弱い―――弱者はイサコの横に立つ資格はない」

鬼女がすっと構えた。

大輔はハッ、と笑う。

「弱い? 勇子を死人呼ばわりするテメーに言われたくねえな…俺は勇子と一緒に戦ってテメーに勝ってやる」

勇子が構える。

「…イサコも戦うの…? どうしてイサコは所詮人間の鬼であるこいつを選ぶの?」

「もう一度言う。 ボクはユウコだ。 神成勇子だ。 イサコじゃない。 だから君の目を覚ますために君をぶちのめす」

障壁にヒビが入る。ヒビは大きくなっていく。

「ボクと大輔が勝ったら君はボクの言うことを聞け。 君が勝ったら―――大輔を好きにしてくれて構わない」

「うん。 言い損ねてたけど―――私が勝ったら私を式神にしてね?」

「あんたが悪鬼じゃなくなったら考えてあげるわよ!! 悪鬼の式神なんてまっぴらごめんね!」

 

パリィンッ

 

障壁は、破られた―――。

 




煉紅・・・獄卒の女。本来はシンジョウイサコの式神だったが、悪鬼堕ちして正常な思考ができない状態に陥っている。イサコと勇子の霊気が酷似している状態にある現在、勇子をイサコと判断して接触を試みてきた。火気と土気をまとっている。髪は赤、目は金色。
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