日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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戦闘描写が拙すぎました。それでも見てやる!という心のお広い方、どうぞよろしくお願いします。


第11話 煉紅と大輔

 

いつの間にこうなってしまったのだろうか。

どうして主は自分の目の前に立っているのだろうか。

自分は何かしたのだろうか?

中途半端な鬼はその本人が戦いによって苦しめられて、意識を失うことのほうが多いというのに。

なぜ主は完全な鬼である自分ではなく、中途半端な鬼を使うのだろうか?

その中途半端な鬼に恨みでもあるのだろうか?

問いかけても彼女はこう言うだけ。

「ボクはイサコじゃない。 ユウコだ」

そっくりな霊気の流れがそこにあるのに。どうして否定の言葉しか言わないのだろうか?

それとも本当に自分が間違っているのだろうか?

あり得ない。あったと仮定しても、それはきっと彼女と同じ血脈上にある者のはずだ。ならば自分は今度こそ守るのだ。

守らねばならないのだ。

彼女を助ける力を。

あの鬼を殺す力を。

彼女を助ける力を。

あの鬼から彼女を救う力を。

 

 

 

 

 

障壁が砕け散った。勇子と大輔は同時に後ろに跳んだ。直後、2人のいた場所に鬼女の拳が叩きつけられ、アスファルトがいとも簡単に砕けた。

「うわ…やっぱり女でも鬼は鬼ね」

「そんなものだろう。 餓鬼のあの骨と皮だけの拳でも軽自動車がスクラップだからな」

大輔は胸に手をあてる。

「まだかかる?」

「もう少し時間がほしい」

「了解」

勇子はホルダーから呪符を取り出す。

鬼女は体を起こす。その瞳は紅く光っている。

「鬼め」

大輔は小さく舌打ちした。勇子は鬼女に呪符を投じた。

「水剋火、さらに、水生木、続けて、木剋土! 急急如律令!!」

呪符が水を生じ、その水に立て続けに投げられた符によって木が生じる。

鬼女の霊気は火気と土気。勇子はセオリー通りの呪符の選択をした。鬼女に呪符が直撃する。

「よしっ!」

勇子の声に、小さく言葉が返ってきた。

「…これで終わり?」

「…何バカ言ってんの? この程度で獄卒やれてたら鬼は雑魚だっつーの」

勇子はパッと走り出した。大輔は勇子を追って走り出した。

鬼女が大輔に向かって鬼気を放った。

「さっさと堕ちればいいのに!」

「お断りだ」

「復讐に身を任せれば楽なのに!! 鬼にも成りきれず、人でもない! お前は中途半端だ!!」

鬼女の言葉に大輔が表情を歪めた。立ち止まり、振り返って鬼女を見る。

「誰が好きで鬼の生成りになんぞなるか! 俺は俺だ、中途半端ならばそれが俺だ! ああそうだ、俺は中途半端だ、それで何が悪い!? それで弱くて何が悪い!?」

「弱さは罪だ。 彼女を守るためには力がいる。 お前の考えは甘い!! 圧倒的な力が必要なんだ!! そうじゃなきゃ彼女を守れない!!」

鬼女は叫んで大輔に突っ込んでくる。大輔は吼えた。

「貴様の主と俺の主を並べるな、獄卒風情がっ!!」

「―――」

鬼女は大輔を睨みつける。動きは止まった。

 

 

 

―――勇子を守るためにオレを使うのか?

それの何が悪い?

―――オレは勇子が嫌いだ。

お前の気持ちなんざ聞いてねえ。

―――人間は自分勝手だな。

エゴイストで何が悪い。俺は俺を受け入れてくれた勇子のことが好きなだけだ。

―――仕方ねーな。これでお前の成長速度は落ちるぞ。

構わん。

―――“アイツ”も出してやれよ?

 

 

 

大輔の瞳が両目とも鬼眼になる。

「…応えてくれるな?」

赤い文様の描かれた呪符をホルダーから取り出し、大輔は上に投じる。

「来い、ゴールド!!」

あたりに突然ゴロゴロと雷鳴が轟いた。雲ひとつなかったはずの空が、徐々に曇天になっていく。

「大輔、ゴールドを呼んだの!?」

「俺の全力でこの鬼を止める。 …それくらいしないと、俺は死ぬだろう。 まだ死にたくない。 まだ勇子と居たい」

「…そうね」

勇子は大輔の横にまで出てくる。落雷とともに大輔のすぐ後ろに鱗に覆われたモノが現れた。

「…ゴールド、出てきてくれてありがとう」

大輔はそれに手をかざす。それは大輔の手に少し甘えてから、その金色の瞳を鬼女に向けた。

『グオオオオオォォォッ!!』

ゴールド。

それは、大輔が霊界で抱えた荷物の一つ。

彼は、ドラゴン。

「…タイプ竜(ドラゴン)」

鬼女がうめくように言った。鬼と竜、どちらが上かと問われれば確実に、竜だ。

大輔に鬼女が手を向けた。

「お前…もう、鬼ですらない。 お前は何だ!? 中途半端もいい加減にしろ、雑種があああ!!」

鬼女の手から炎がまき散らされた。大輔は符を投じた。

「金生水、水剋火、急急如律令」

符がいったん刃を形作り、水を生じる。まき散らされた火が消え去った。

「―――お前、勇子に誰を重ねている?」

大輔が静かに問いかける。鬼女はびくっと肩を震わせた。

「…覚(さとり)の力でも得たか、小僧」

覚、それは、相手の本心を暴く力を持つ妖怪の一種である。危害を加えてはこないし、危害を加えることもできない。危害を加えようとすると逃げられてしまうから。

「…そういうってことは、もう自分の中に疑問が渦巻いてるんじゃねえのか?」

大輔が一気に鬼女への距離を詰めた。

「第五門解除を確認―――大輔、ダイキ! 暴れてこいっ!!」

勇子が叫んだ。

大輔の体を炎が包む。鬼火というものではあるが、大輔が燃えているようにも見える。

大輔は右手の拳を鬼女に叩き込む。鬼女はそれを腕を交差させて受けた。ミシミシと音がする。

「ッ!」

「今のは普通なら避けるところだな。 お前の中の疑問を振り払うか解決するかしないと、お前は俺に力負けするぞ」

大輔は拳を引いて、次の拳もまた右手だった。

パアンッ!!

素早く大輔が拳を引く。今度はいい音がした。鬼女の表情が苦痛に歪んだ。

「…ッ、邪魔!!」

「おっと」

大輔は余裕だというように悠々と鬼女の拳を左手で払って避け、また右の拳を打ち込む。

「正常な判断で来てねえんじゃねえのか」

「うるさい!!」

鬼女は叫んで身を引いた。

「竜なんか出しやがって!! 心を乱すのが得意だな、餓鬼」

「俺は餓鬼じゃねえがな。 …勇子、こいつだいぶ正気に戻ってきてる!! 今なら不動明王で悪鬼をぶち抜けるッ!!」

大輔が叫んだと同時に、勇子の声が聞こえてくる。

「ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタタラタ・センダマカロシャダ・ケンギャキギャキ・サラバビギナン・ウンタラタ・カンマン!!」

大咒が唱えられた。鬼女の体が炎に包まれる。

「いやあああああ―――!!」

鬼女が叫んだ。

大輔がたたみかける。

「ノウマク・サラバタタギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタタラタ・センダマカロシャダ・ケンギャキギャキ・サラバビギナン・ウンタラタ・カンマン」

炎が強くなる。

「あんたが守りたかった神成イサコはもういねえよ…50年前に死んだ。 あんたの目の前で死んだはずだ。 あんたはそれを見ていたはずだ」

大輔は炎に包まれている鬼女に近づいていく。

「大輔…」

勇子が小さく大輔を呼ぶが、大輔は小さく振り返って笑っただけだった。

「もう気付いてるんだろ。 勇子がイサコさんじゃねえってことくらい」

炎が晴れる。

そこには、着物がボロボロになった女がいる。大輔は制服を脱いで鬼女にかけてやった。

「…殺さないの?」

「俺鬼じゃないし獄卒でもない。 霊獣相手でも殺しは苦しいんだ、勘弁してくれ」

大輔はそう言って、勇子を見た。勇子が走り寄ってくる。

「…ごめんね、勇子さん」

「…いえ、いいんですよ、別に。 死人は出てませんし」

勇子はそう言ったが、その手は強く握りしめて真っ白になっていた。

 

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