物心ついたときから両親に見てもらえてないという自覚があった。
紫苑のほうが可愛がられているのもよくわかっていた。
でもそれが当たり前だったから、特に両親に何か言ったことはない。
小学生になって、よく喧嘩をするようになった。
小4で小6と1対4ぐらいで勝った。
ちょっと喧嘩が強いだけだったころの俺は、いわゆるただの非行少年だった。小学生で非行少年ってどんな生活していたんだろうと今でも思う。
喧嘩ばかりするやつと落ち着いていて話をよく聞ける子。どっちが可愛がられるかなんて小学生のうちにわかるようになった。それでも俺は非行少年のままだった。紫苑が俺の後ろをよく付いて来てくれていたから、特に変わろうとも思っていなかった。そもそも、愛されたいと思ったとして、どうすればいいのか分かっていたにもかかわらずやらなかったのには理由がある。
俺が笑っても両親は笑わない。紫苑が笑えば両親も笑う。紫苑と俺が笑っても両親は笑わない。だから俺は両親の前で笑うのをやめた。
両親が喜ぶと思ってやったのに、親父が露骨に嫌そうな表情を見せた。だから俺は何をやっても同じだと思った。
母の日にお袋にカーネーション贈ったら捨てられた。
…うん。今思い出してかなり萎えた。あの時はかなりショックだったな。
渋谷は人で溢れている。霊気がごった返しているのが見える。
普通の生活ができている奴ほど憎たらしいものはない。一番の幸せは何のへんてつもない日常だ。色々ありすぎて俺は日常が何だったのか分からなくなっている。
千夏と居る日常だって非日常以外の何でもない。
苗字が違うやつが同じ屋根の下に3年以上暮らしている空間が普通か?
鬼の生成り2人に異常なまでの霊力量を誇ってる家の御曹司と御令嬢だ。
龍冴先生の話からすると、俺の人生はそもそも普通からかけ離れている。
ならもうむしろ諦めてしまおうか。
普通の人生なんて。
陰陽師になればこの力を皆のために活かせるだろう、そう思ったから倉橋に入った。
陰陽師を目指している時点で、一般人として暮らすことなんて諦めていたんだろう。
信号が青になった。
人の波が動き出す。
ふらふらと波に乗って渡っていく。
勇子と出会った渋谷駅の前の公園にたどり着く。
「…」
ここが最後に紫苑を見た場所だ。勇子との関係が始まった場所だ。野本先生に最後に会った場所だ。大輔と俺が生成りになった場所だ。
空を見上げた。
あの日もこんなふうに青い空だったな。
いつもはなんて思わないはずの周りのやつらの会話がやたら耳に入ってくる。
なんだか、きつい。
だるい。
くらくらする。
スマホ、忘れてきた。
千夏はちゃんと俺を見つけてくれるだろうか。
思い出したいことはいつも思い出したくないことの後に来るから、思い出したくないことばっかり思い出して、皆に助けてもらえた大切な思い出は霧のように散っていく。思い出したくないことだから途中でやめてしまおうとするんだ。でも、そのあとにつらい思い出を打ち消せるくらいの思い出があるのがわかってるから、結局最後までつらいほうは見てしまう。もうやめよう、疲れた、って思うのはちょうど励ましてくれる千夏や勇子の声が俺に届く前。つらい思い出ばかり人間が覚えてるのはそればかり思い出すからだ。
自分で自分を責めて一体何になる。
紫苑は帰ってこない。
俺たちが生成りであることに変わりはない。
勇子や千夏に迷惑をかけることも変わらない。
それでも自分を責めちまうのはきっと。
そっちのほうが楽だから。
誰かにあたるのが嫌になって。
自分にその刃を向けたから。
こうなった。
その刃を錆びつかせてくれる人がいたらよかったのにな。
俺の刃は多分、折ってくれる人こそいても、鞘を被せてくれる人はいなかった。
砕け散った刃がこっちに飛んでくるんだ。それでも構わない。その刃を掃ってくれる人がいた。
―――まるでギヤマンだな。
いつの言葉だったか。御影に言われた言葉だった気がする。
その時、サイレンが鳴った。体がビリビリした。
「―――!」
やばい、この気はヤバすぎる。
―――おいこれやばいぞ。
御影が言った。んなこたあわかってるんだよ。
感じるのは強い金気。
「…聖獣か?」
―――聖獣? その程度なわけねえだろ。 四神クラスにきまってる。
御影の言葉に、俺はとっさに隠形をした。鬼から守るためのやつに来られて鬼が勝てるわけねえだろ!まだ死にたくねえ!
そう思うのに、体は動かなかった。
『霊災発生。 レベル9、フェイズ4、四神型、白虎』
あたりが金気に満たされる。金気だからまだ何とかなるか?
いや、無理だな。背に東を向けねえと。白虎は西方を守る神獣だ。白虎の背には東が来る。白虎は東側を向けない。
そんなこと考えているうちに、目の前に白虎が下りてくる。
死ぬ。
やばい。
助けて。
って、誰が助けてくれるって言うんだ?
ここに千夏はいないし。
…ってか、俺、さっき千夏の手を凍らせた気がする。
「…捨てられちまったかも…」
だれか。
助けて。
そこで俺の意識がぐらついた。
やばい。
これ、あいつが出てくる兆候だ。
体が動かない。
『―――』
白虎が何か、言った。
『賭けをしないか、少年』
そろそろ話が動く、はずです(苦笑)。