日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第10話 出会いは続く

 

荒御霊の出現の知らせを受けて、康哉本人が動いたのは、意識が戻ったらしい咲哉からの知らせがあったからである。

『蘆屋道満だ』

この一言が康哉を動かした。蘆屋道満に遊ばれて何人の同僚やその子供が霊獣になるのを見てきたことか。勇子も千夏も大輔も冬士もそんなことにしてやる気はなかった。

おおよそ式神の蠱毒が道満を捉えて咲哉に知らせたために鬼気で気絶していたはずの咲哉はたたき起こされたというところか。

康哉はすべての職務を己の懐刀である迅の父親、千駄ヶ谷雷道に任せて飛び出してきた。

鬼気の強烈な反応があったもののすぐに隠形したかのように消え去ってしまい、追うことはできなかった。出現場所は倉橋陰陽学園敷地内。すなわち生成りであろうと判断すると、一瞬とはいえ出現したレベルと属性の偏り方から見て、自然と選択肢は冬士に絞られた。だから誰かを襲うということはないにしても、不安定になっているということの証明であるから、ともするならば、祓魔局に出てこられるとまずかった。

祓魔局はエクソシストが中心となっている。エクソシストからすれば、生成りは人間ではないのだ。生成りは悪魔憑きとは別物であると判断される。悪魔に堕ちた魂扱いを受けることもしばしばである。人間としてただでさえ扱われていない可能性が高い生成りを相手取ってエクソシストが生還する確率はかなり低い。生成り側も殺されて新たな鬼が生まれる、それでは土御門に合わせる顔がない。

康哉も家の看板を背負う身である。色々と考えることがあった。

現場に向かい始めた直後、白虎が出現した。白虎が向かったらしい方角へ方向を切り替えて向かったが、今度は荒御霊の気に気押された。おそらくこれが咲哉の言っていたものだろうと見当をつけて対応しようとすると、金気を纏った風をあてられた。荒御霊に返すつもりで火符を使用したところ、相侮され、しまったと思った時には白虎の霊気に火が燃え移っていた…というのが現状だったりする。

 

 

 

 

 

「アホですね」

「勇子君、もう少し気を使ってほしいんだが」

さすがは神成、と康哉は苦笑いした。

蘆屋道満は消え去ったが、傷つき倒れた少年少女と十二神将が3人という奇妙な光景である。そしてその中に赤毛の少女を見つけて康哉は目を細めた。

「?」

「…ふむ。 あいつはやはり倉橋に入れるか…」

小さく独り言をつぶやいた。

「局長、荒御霊の余波が来ましたよ」

昌次郎が言った。

「よし、蓮道、多嶋、お前たちはこのまま余波の霊災の修祓を。 他は全員陰陽局まで来てくれ、エクソシストが出てくる可能性が高い」

そう告げれば勇子がうなずいて皆に向って言った。

「しばらく仕切らせてもらうよ! 千夏は土御門先生呼んで、春樹は土行符を作ってちょうだい。 冬士と大輔は2人を運んで、犬護は余波の霊災を避ける指示を出して。 鋼山さんは私と一緒に最後尾の警戒担当」

「「「了解(です)」」」

迅を使わないのは最悪の場合を考えてのことである。亜門たちがいるにもかかわらず使わないのはエクソシスト側の人間であることを理解しているからである。

「相変わらずキレる」

「面倒事は避けて通りたいタチですからね」

勇子はそう言って、犬護の先導で陰陽局に向かった。

 

 

 

 

 

陰陽局に着くと、そこには背の高い青年がいた。

「…?」

「この子たちはさっきのやつの被害者集団だ。 これから話聞くところだが…あいつは?」

「10分くらい前に『中部地方見てくる』とか言って消えてたが」

「突然だな…」

康哉と青年の会話を聞いて、アンドロマリウスとストラスが顔を見合わせた。

「…ダンタリオンだな」

「…ダンタリオンですね」

「何がどうした」

振り返った康哉に、ストラスがまだだるそうにルイの腕から体を起こした。

「彩月さんと良仁さんの解呪を行ったのですが、術式にダンタリオンが絡んでいたのです。 マルファスと衝突している、これを機に契約者を捨てるのもありだなどと言っていましたからね、おおかたマルファスに契約者を殺させて自由の身になったところで中部地方の生き残りに手を出そうとしたといったところではないでしょうか」

「…むこうは真榊が手を出させてくれないからな…静岡と石川の代表と連絡がつきゃいいんだがなぁ…」

「電話繋がらないっけ?」

「繋がるけどな、あいつら戦闘中じゃなくても90パーセント電話でないから。 屍鬼(グール)に電波たどられるからって言ってまともに電話に出てくれたことないからな」

康哉ははあと息を吐いて、ロビーに並んだ椅子に全員を座らせて事情を聞いた。

冬士のプライベートな話題であることは百も承知の上だったようだが、それでも根掘り葉掘り聞いた。無論冬士は黙秘権を行使していた。語る必要性も感じていなければ、特に康哉を頼っていい大人とみているわけでもないということだった。

「冬士も堅物」

「生成りなんてそんなもんだろ」

「冬士ほど人間不信もそういないと思うけどね」

「今日の勇子の晩飯はロシアンルーレットの水餃子にでもするか?」

「ごめんなさいそれだけはやめてください!!」

勇子がガタガタ震え始める。何やらトラウマがあるようだ。

「…ロシアンルーレットって。 水餃子に何入れたらそうなるの…」

「聞きてえか?」

「…うん」

犬護がおずおずと尋ねた。

「…」

「…」

犬護に小さく耳打ちで教える冬士はニヤニヤしているから、ろくでもないことを言っている自覚はあるようである。

「…それ、当たったら千夏君と大輔君死ぬんじゃ…」

「千夏がとったら俺が食う。 大輔は辛党だ、問題ない」

いったい何を入れてるんだと聞きたくなるところである。千夏を庇うほどのものを入れるのか。

ふと、迅が青年とアイコンタクトだけでかなり会話を交わしていることに龍冴が気がついた。

「おーいお二人さん、目だけでどんな会話してんだよ」

「…この人、今度倉橋に来るんすよね?」

「そうだけど。 そこまで具体的な会話したのかよ」

「えっと、辰巳にーさん、でいいっすよね」

「ああ。 千駄ヶ谷でいいか?」

「迅の方がいいっす」

「じゃあ迅だな」

あっという間に迅と仲良くなったらしいこの青年、名は龍ヶ岳辰巳という。

事情聴取を終えた康哉が辰巳を招く。

「皆、とくに倉橋の生徒、聞いといてくれ。 こいつは龍ヶ岳辰巳。 今度から倉橋に研修に行く祓魔官だ」

勇子たちは顔を見合わせた。

「研修に来るって、今さらですか?」

「辰巳、あと自力で頑張れ」

「はい」

辰巳は皆に礼をした。

「今度から研修に行く龍ヶ岳辰巳だ。 好きなように呼んでくれて構わない。 俺はド田舎の出身でな、周りにあった祓魔機関は陰陽会だけだ。 真言も呪符の使い方もよくわからん。 あと、身体能力者(フィジカルスキラー)だ。 系統は具現化」

「…俺身体能力者とか初めて会うんですけど」

「私も」

「俺もだ…」

千夏と勇子もうなずく。

「具現化ってことはそこそこ希少性は高いほうですよね…。 どんなもの具現化するんですか?」

犬護が突っ込んで質問すると、パッと右手を前に出した辰巳の手に、光が収束する。辰巳の目が金色に光った。

「土属性…?」

「…そっちも驚きだけど、これ、アニメの見過ぎですよ、龍ヶ岳さん」

辰巳の手には銃があった。だがそのデザインはどこぞのSFアニメに出てくるタイプの実弾のないタイプである。

「量産できるぞ」

「真面目な顔してそんなギャグみたいなことして量産しないで下さいよ!」

その銃を大量に持ち出す辰巳を見て皆で笑った。

その間にエクソシストが来たのだが、アンドロマリウスに追い払われていたことを皆は知らない。

 




龍ヶ岳辰巳・・・ここだけの話ですが、モデルはpsychopassのこうがみさんだったりします。この銃もドミネーターイメージでお願いします。w
髪は少し長めです。青っぽいですが。
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