日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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初登場キャラの語りです。


第11話 影山の事情

 

―影山家本邸―

俺の名前は石砥康太郎。影山分家の人間です。

今日はなぜか影山一派全員集合させられた。学校休んだ。何のために、とぶつぶつ言っていたのはいとこたちだった。

母さん曰く、「いとこが会いに来る」らしい。

俺は現当主の次男の妻方の家だから、別に集合させる必要ないと思ったんだけれど、どうやら長男方のいとこらしい。

どんな奴なんだろう。そう母さんに聞いたら、紫がかった髪だったよと言われた。

後は、すごく美人だった、と。目は切れ長で形が整っていて美丈夫とか呼べるたぐいらしい。要はイケメンってことですね。

そう聞いていたら、なんだか2年くらい連絡の取れていない親友のことを思い出した。

あいつの名前、俺は知らない。

喧嘩をしていたところを、庇ってくれた紫がかった茶髪のアイツ。アイツもすげー美人だったな。冬だったのもあってか、ずっと灰緑色のコートを着ていた。後は会うたび色の変わるヘッドバンドと、ずっと胸に光っていた金色のペンダントが印象に残っている。ペンダントは黒い石がはまったようなデザインだった。妹が遺してくれたものだと言っていたっけか。やばいと思ってそれ以降話に出していない。その時俺がケータイ持ってなかったこともあってメアドとか電話番号とかの交換はしなかった。そもそも名前も知らないんだから当たり前っちゃそうだけれど。

確か、シキとあだ名されていた。たぶん紫鬼だ。髪が紫っぽかったから。強い奴のことを、すごいやつのことを、“鬼”と呼ぶ例は多い。某リズムゲームの最高レベルは“鬼つよ”だったはずだ。

 

「…凛太郎、康太郎、お前らはどう思う?」

「…え?」

俺は間抜けな声を出してしまった。何のことだ?

「話聞いてなかったのかよ、康太郎」

「ごめん…」

年上のいとこに呆れたように言われて少し肩を落とすと凛太郎が笑った。

「な、嗤うなよ…」

「…嗤ってない、笑ったんだよ」

凛太郎はにこりと人当たりの良さそうな笑みを浮かべた。年上のいとこはそんな俺たちを見て、俺のためにもう一度言ってくれた。

「康太郎、今日初めて会ういとこってやつのことだよ。 どんな奴だと思う?」

「あー…。 すげー美人だって聞いた」

「へえ。 でも、俺らが知らねえってことは、そいつは後天性の可能性が高いな」

後天性。見鬼でなかった可能性だ。

アイツは見鬼だった。ただ、霊災の後遺症だとは言っていた気がする。

霊災発生のなのか、霊獣出現によるものなのかは聞きそびれたが。

…なんで俺紫鬼のことばっか気にしてるんだろう。

すると凛太郎が俺の袖を引っ張ってきた。

「?」

「…お前は多分そいつのことを知っているぞ」

「…え? マジで?」

凛太郎はうなずいた。俺はそいつとは知り合いで、だけれど気付いてないってことなのか。

ふすまが開いた。当主様が入ってきて、言った。

「他の皆にはお披露目してきた。 後はお前らだけだが…なんだ、凛太郎は知り合いか?」

「いいえ、知っているかもしれない、程度です。 学校のエクソシスト科の生徒に聞いた霊気の特徴と似ていますね」

「…それ、火橋亜門じゃねえだろうな」

「あれ、お知り合いですか?」

凛太郎が何か含みのある笑みで言った。わかってて言ってるな、凛太郎のやつ。

当主様ははあと息を吐いた。

「冬士、入ってきていいぞ」

へえ、冬士って名前なのか。

当主様の後ろから入ってきたそいつは確かに紫がかった髪だった。俺たちに一度礼をして、顔を上げた。

「―――」

俺は固まった。

「お初にお目にかかります。 影山冬士です」

そいつはいったん見回して、俺に目をとめた。

ニヤッと笑った。

「よお、康太郎。 2年ぶりだな」

「―――シキ…」

シキだった。紫鬼か。

その姿はただのVネックシャツとジーパンと黒いヘッドバンドと、金色のペンダントを身につけただけ。

なのに、目が離せない。前より、髪の紫色が強くなってねえか。茶髪、わかりづらくなってるぞ。

「…おい、冬士と言ったか。 失礼だとは思わねえのかよ。 康太郎は…」

年上のいとこが立ちあがった。俺はそっちを向くことができない。

「凛太郎の懐刀になる、次期当主補佐だぞ。 突然やってきてその態度は許せん」

やめとけよ。紫鬼、いや、冬士はめっちゃ強い。俺なんて歯が立たないほどに。

凛太郎よりも多分強いぞ。

こいつが影山なら、次期当主はこいつで決定だ。補佐は凛太郎になるだろう。

「あーあー、待て待て、こいつは生成りなんだ。 そういう態度とれっつったのは俺だ、許せ」

当主様がそう言って冬士の前に出た。

「…え、お前生成り?」

「…ああ、まあな」

「…何で言ってくれなかったんだよ」

「…教えると思ってるのか?」

「…親友と思ってたのは俺だけなのかッ…!!」

「「「普通言わねーだろ」」」

年上のいとこよ!冬士と凛太郎とハモるなよ!!

「…龍冴先生、こいつ一度教育し直さねーと絶対祓魔庁ではやっていけないと思います」

「俺も今そう思った」

当主様までそんなことを言うのか!心配されている身だから何も言えんけど!!

「…そこまで言うかよ…」

「お前のは所詮理想だな。 生成りが闇の中で生きていくのはよく知ってるはずだろ?」

「…知ってるからこそ、変えたいんじゃねえか…!」

「…」

冬士が黙った。凛太郎が言った。

「似たような事例でもあったのか?」

「…ああ、学校でちょいとな。 あいつらは傑作だったけど」

高校男児の青春、と冬士は言った。凛太郎と年上のいとこはあーね、と笑った。おい年上のいとこよ、さっきまで冬士に向けていた痛い視線はどこへ行った。

その時、ふと庭のほうで強烈な霊気を感じた。それは皆同じだったらしい。冬士は即手を伸ばして手を開いていた。何かの術だろうか。生成りだから神通力の類でも使えるのか?

当主様がそっと障子を開けた。

 

そこには、白い狩衣を着た男が立っていた。男というか、青年という感じだった。

「…あんたは一体…?」

当主様がそう言ったけれど、男は答えなかった。男の周りには氷の欠片が大量に浮かんでいた。

「…確実に育っているようでなによりだ、冬士」

男は俺たちを一切無視して冬士に言った。冬士は困惑しているようだけれど、手は伸ばしたままだ。

…にしても、なんで霊災発生の放送とかが入らないのか気になる。

「…ああ…あの龍は…あんたの龍か」

冬士はそう言って目を細めた。

「この氷を下ろしてくれないか。 今日は君に詫びを入れたくて来たのだよ」

「詫びだと? 龍には特になにをされたわけでもねえがな?」

「そうではない。 蘆屋道満だ」

「「!!」」

当主様が目を見開いた。冬士は眉根をひそめた。

「あの気味の悪いジジイと知り合いか」

「ああ―――俺の名は安倍清明。 無言で氷の数を多くするのはやめてくれ」

冬士、うん。俺もお前だったらそうしたと思う。

安倍清明を名乗る男を囲む氷の数は3倍ぐらいに増えていた。

「純粋に謝罪のために来ただけだ、何もしない」

安倍清明はそう言ったけれど、冬士は氷を下ろそうとしない。当主様が言った。

「冬士、やめとけ。 さすがに本物と考えるとお前の力じゃまだ敵わんぞ」

「…」

「冬士?」

「…体、舐め回されてる感じがします…たぶん、龍」

「…おや、すまないね。 こら飛燕、おやめ」

安倍清明は言った。冬士が氷を下ろした。

「冬士、すまない。 飛燕は君を“雄”として見ているようだ」

それが何を示すのかなんて簡単に予想が着く。でも、龍がそう見るわけがない。龍は鬼を相手にすることなんてほぼない。ああでも、冬士は鬼の系統は何だろう?山神ならあり得るなあ。って、そもそも鬼なのか?山神だったら水は使わねえだろ、凍ってたぞオイ。

「…飛燕がいるってことは本物だな。 …それで、清明殿、どう言ったご用件で?」

謝罪とさっきから言ってはいるが、式神を連れてきているようだから危害は加えないと言っているだけのような気もする。

「ふふ、冬士にささやかなプレゼントだ」

「…冬士に?」

当主様は目を細めた。

「ああ。 冬士、君はこれを必ず受け取り、手放すことはできないだろう」

「…何で言いきれる?」

「君の悪夢を否定してくれる存在だ。 …さて、これ以上は言霊が強まってしまうな。 では、罷らせてもらうとしよう」

退出、って。安倍清明はそこにうっすらと紫色の羽根の小鳥を置いた。

「…?」

この気、感じたことがある。というか、よく知っているものだ。誰だ。

親戚の中にいたぞ。誰の気だ、思い出せ。

冬士は目を見開いていた。

安倍清明が、立ち去り際、言った。

「冬士、ようこそ、土御門一派へ」

冬士は影山家が土御門一派だとは知っていても、どんな家かは知らないはずだ。一度も会ったことがなかった時点でそうだろう。きっと冬士は影山のパスを知らなかったはずだ。影山家は土御門からも国からも独立する必要があるぶん、その隠蔽体質には祓魔業界からも定評があったりする。影山の名を出しても知らない家のほうが多い。

目の前に置かれた小鳥は冬士を見つめていた。冬士は、裸足で、縁側を越えて庭に飛び出してしまった。

「―――紫苑ッ?」

その言葉に、俺は耳を疑った。

紫苑、それは、ついこの間3回忌を迎えたばかりのいとこの名だった。

ああ、そうだった。

馬鹿だな、俺。

紫鬼は妹がいたと言っていた。それは2年前の話。

紫鬼は影山家の人間だとわかっていたじゃないか。

だとするならば、最近死んだのは紫苑に限定される。そもそも、当主様の長男の子供だとわかっていたじゃないか。どうして紫苑のことが浮かんでこなかったんだよ。

冬士が名を呼んで、その小鳥に手を伸ばした。小鳥の体が光に包まれた。

光があたりを包んで、俺は目をつぶった。

「―――」

眩しさがなくなり、俺は目を開けた。そこには、紫苑がいた。薄い紫色のワンピースを着ている。

「…お兄ちゃん…」

冬士の伸ばされた腕の中に紫苑が飛び込むのが見えた。

こんなときに、紫苑は死んだはずなのに、という自分がいる。冬士は紫苑を抱きしめて、無言だった。

「…マジかよ…」

年上のいとこがやっと声を出した。凛太郎も驚いていた。

「…そんな、死者が甦った…? あり得ない…」

当主様だけは理由が分かっているらしく、庭に下りて行った。

「冬士、よかったな」

「…ッ」

「…おじいちゃんは疑わないんだね」

「そりゃな。 お前、地獄の役所を通ってきただろう」

「うん。 よくわかるね」

「獄卒に会ったばかりでな…獄卒と同じにおいがする。 影山に合わせられたか?」

「えっと…清明は影山の血と契約してきなさいって言ってた」

紫苑の言葉の意味が理解できない俺がいた。式神契約するってことだよな?

「…なるほど。 こりゃ冬士と合わせて双鬼術を使えるようにする気満々だな」

双鬼術って確か鬼2体いないと使えない高度の式神を使用した戦闘術だった気がするが。

「さて、冬士、そろそろパニックから回復しろ。 紫苑は栗ようかん食べるか?」

「食べる! お兄ちゃん、行こ?」

紫苑の声が久しぶりすぎる。というか、地獄の役所って何だオイ。地獄に役所があるのか。冬士はようやく紫苑から離れたけれど、その目がひどく優しくなっていることに気がついて、驚いた。こいついつも臨戦態勢なのか?

冬士は足を洗ってくると言おうとしたが凛太郎がいきなり水行符を投げつけたり年上のいとこが既にタオルを持って来ていたりとかでそのまま縁側から上がってきた。よく凛太郎の水行符に耐えられたな我が親友兼いとこよ。って、こいつも水属性か。

ともかく俺たちはそのまま親戚皆が集まっているであろう板張りの大広間へ向かった。

紫苑が帰ってきた理由は紫苑から直接説明されたけれど、かいつまんで言うと、こう。

 

死んでしまった紫苑は霊気が霧散した。一部は冬士に入って、御影とともにあったらしい。けれど本体のほうは地獄に行って、そこで裁きを受けた。でも、どうやら安倍清明がそこへ来て、紫苑の魂は必要だからといってキマイラ層に連れて行かれたのだそうだ。それ以来安倍清明と行動を共にし、こうして人間の姿をとることができるまで霊獣として成長したところで兄に会わせてやると言われていたから4年間頑張ったのだそうである。

 

「…ところでさ、冬士の悪夢って何だ?」

冬士が茶をもらいに席をたった時に紫苑に尋ねてみた。すると、紫苑の表情は曇った。やべ、まずいこと聞いたかな?

そう思った。その予感は的中した。俺はああ、夢見てんだなあと思い知らされた。

「―――私がお兄ちゃんを殺す夢。 兄ちゃんは笑って死んで行くよ」

 




康太郎・・・冬士からすれば遠い親戚。影山の今世代を代表する鬼使いである。佐竹陰陽学園にいる。
凛太郎・・・冬士のいとこ。康太郎からすればいとこ。ちょっと飄々としているところがある。佐竹陰陽学園にいる。
年上のいとこ・・・名前なくてすいません。彼は『諱』しか持ってないのでここで名は出ません。
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