冬士が帰ってきたとき、傍には少女を連れていた。皆で問い詰めたところ、妹だといった。
「紫苑ちゃんが…?」
「うそ…紫苑ちゃんは死んだんじゃ…?」
「先輩たちの認識に誤りはないですよ。 タイプ鳥、合成獣、鬼の複合です。 影山家の人間ならだれでも私を召喚できる状態になっています。 4年ぶりですね、みなさん! 改めて、よろしくお願いします!」
そんなはきはきとした、しかし落ち着いた、自己紹介が終わった。普段は紫色の小鳥の姿をとって冬士のそばにいるといって、小鳥の姿に変わった。
―犬護サイド―
「…」
「…犬護、顔色悪いぞ。 何かあったのか?」
冬士君に声を掛けられて、僕は小さくうなずいた。
「…俺の余波か? お前も山神だからな…」
「…ううん、違うんだ。 中学の時の友達がちょっと、メール送ってきてくれて」
「…よかった、とは言えねえかもしれねえな…」
「?」
冬士君の目が遠くを見つめるようになった。何かあったのかな。いや、何かを知っているのかな?
「…そう言えば、冬士君、僕が編入してきたときにも僕のこと知ってるような振りがあったよね」
「…まあ、知ってるからな」
「…どこで会ってるの? 僕には全く記憶がないんだけれど」
冬士君に尋ねてみると、冬士君はちょっと苦い顔をした。
「覚えてねえなら、思い出さねえほうがいいぜ、あれは」
「…そんなに酷いことがあったの?」
「ああ。 あれはきつい」
冬士君はそう言って小さく笑ったけれど、なんだか泣きそうになっていた。どうして君がそんな顔をするのかな。そう思ったけれど、烏丸先生の声が僕と冬士君の会話を遮った。
「おいお前ら、早く種目決めしろ」
「は、はい」
「はい」
冬士君がすぐにスマホを取り出して誰かにメールをしていた。
「司会誰がやる?」
勇子ちゃんが言うと、冬士君がすかさず言った。
「朱里でいいんじゃねえか」
「私ですか?」
「そうだね、ここで司会やったら出る種目一つにしてあげるよ」
「あ、じゃあそうさせていただきますね」
鋼山さんがそう言って前に出て行った。
「あー、俺書くよ」
鹿池君、だったっけな、青い髪の編入生君が前に出て行った。
「…じゃあ、まずは男子の1500メートル」
鹿池君がさっと書く。って、冬士君も何か書いてるけれど。
「冬士でよくねえか」
「赤虎てめえが走ればいいだろうが」
「いやここはお前だろ」
「チッ…」
冬士君はしぶしぶといった感じで鋼山さんにうなずいた。
「アレン、1500メートルは影山冬士君です」
「はーい」
「800メートルリレーは4人ですね」
「はい! それは俺らが走ります!」
吉岡君たちが手を上げた。
他に100メートル走、200メートル走、クラス対抗リレーの男子メンバーが決まった。
僕は200メートル走になった。2人だったんだけれど、もう1人は千夏君だ。
「女子1000メートルを走りたい方」
「…」
静まり返る。どこの女子も同じらしい。
「…じゃあ私がここで出ましょうか…」
「いや、そこは勇子だろ」
あ、また冬士君がちゃちゃ入れた。
「なんで私?」
「お前持久走いけるだろ」
「えー、だるい」
「1500の俺はどうなる」
「…キッシュ食べたい」
「作ってやる」
「よし走る」
「神成お前の脳内は食いモンしかねえのか!? つか土御門もこないだ影山の手料理に釣られてたよな!?」
「「冬士の料理はそれだけの価値がある」」
「声揃えて言うな、無性に殴りたくなる」
冬士君冷めてるなあ。というか千夏君釣られてたんだ。はじめて知った。
女子のほうで鋼山さんについてはクラス対抗リレーに出場することになった。
「…あの、クラス全員って、これもですよね?」
ダンスのところを指して鋼山さんがそう言ったけれど、勇子ちゃんが言った。
「あー、いいよ。 今考えてる配置だとウチのがとばっちり食いそうでさあ」
「とばっちり?」
「うん、こっちの話」
勇子ちゃんはそう言ったけれど、僕らにはわかる。
そう。
鹿池君だ。
鹿池君がやたらと冬士君を睨むのだ。他の皆には全く睨みつけたりしていないのに、なぜか冬士君ばかり睨んでいる。
とりあえず全部決まったので先生に紙を提出して、鋼山さんは席に戻ろうとした。でも、途中でふと冬士君の席に寄る。それがいけない気がするのは僕だけじゃないはず。冬士君の席は僕の席の一つ前だ。
「冬士、配置って、ダンスの配置ですよね。 私が抜けたら人数合わなくないですか?」
「…ん、まあな。 でも何とかする。 あんまり日にあたると日焼けするぜ?」
「…そこは問題じゃないと思いますが…」
鋼山さんが気付いた。かすかに鹿池君のほうを見た。
鹿池君めっちゃ冬士君睨んでる。
ああ、これはどうすればいいのか。
生成り丸ごと睨まれている感じがする。きっと鹿池君は生成りが嫌いなんだ。
恐い。
恐いよ。
「…千夏、犬護を頼む」
「…おう」
「紫苑、お前も千夏と居ろ。 ついてくるなよ」
冬士君が席を立った。そして静かに鹿池君のほうに向かった。鹿池君の視線が冬士君を追う。僕にかかる圧力みたいなのはなくなったのだけれど、冬士君と鹿池君が睨み合っている。
でも、冬士君が小さく口元だけ笑ったら、鹿池君もふっと笑った。
「…」
皆の間に流れていた緊張感がほどけた。
「…犬護、大丈夫かよ?」
「…」
千夏君に尋ねられて、うん、と小さくうなずいた。でも、ふっと意識が遠くなった。
あれ、なんで。
「…千夏、くん…気を、つけ…て…」
なんとかそう言って、僕は目を閉じた。
「犬護!?」
「犬護さん!」
千夏と紫苑が声を上げた。冬士ははっと犬護の方を向き、チッと舌打ちした。
「医務室に運べ!」
「…」
アレンもさすがに驚いたのか動きが止まっていた。朱里は手を伸ばしたかったが、千夏が振り返って首を横に振って笑った。
「大丈夫、犬護はああいう視線に弱いらしいから」
それは、殺気だったのか。
そう尋ねたかったものの、朱里は別にやらねばならないことを見つけたためうなずいて身を引いた。