日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第7話 大会準備

 

「ありがとうございました」

終礼を終えたクラス内はざわついた。

「今日第2演習場予約取ってるぜ」

冬士がそう告げれば皆はばっと立ち上がり、無言で第2演習場へと向かった。

第2演習場は4つある倉橋の演習場の中で最も広い演習場である。

「よくとれたな、冬士」

「じゃんけんでな」

「…そういやお前勝負事は何でも鬼強だよな…」

千夏は苦笑いした。

Aクラスはダンスだが、生成りが5人になったこともあり、5人にはとびきりのダンスをしてもらおうということになったのである。

「…冬士、俺うまくやる自信がねえわ…」

「翔、弱気は厳禁だぜ?」

翔に冬士が返すと、犬護が顔を出す。

「大丈夫だよ、翔君は中央の指標になってくれればいいんだから」

「…どうせ俺は生成りになって2年ですよ…」

「4年目の俺らとあんま変わらんだろ」

大輔が笑った。

「鬼だからっていう言い訳が通用しねえんだよ! お前らのせいで!」

「カカカカカカカ」

「うわ! やめろ大輔気持ち悪ぃな!!」

「御影が笑うと地鳴りがするので代わりに笑ってみました、と」

大輔が小さく笑んだ。翔は小さく息を吐いた。案外大輔がノリのいい男であるらしいことは今までの生活で何となく理解できたのだが。

「翔、ぶつかるぞ」

「いでッ」

ガツンと廊下の壁にぶつかってしまった翔だった。

「痛ぇ…」

「ちゃんと前見とけよ」

翔はぶつけた鼻をさすった。

「顔面崩壊」

「燎てめえッ!!」

燎の頭に狐の耳が見えた気がした翔は、迷わず燎に拳を叩きこもうと追いかけた。

演習場のドアが開き、翔と燎が走りこむ。先を越されたクラスメイト達は何事かと2人を目で追っていた。勇子と千夏が振り返ると、冬士と大輔はやれやれと肩をすくめ、犬護は苦笑いした。

全員が中に入ると、ドアが閉まった。

「翔、燎、そろそろやめろ」

「まだ殴ってねえッ!!」

「やめよっか!」

もう少しで捕まえられるというところまで来ていた翔は反対し、捕まりそうになっている燎は賛成する。

まあ、どちらも冬士と大輔にそれぞれ投げ飛ばされていたのだが。

 

 

 

 

 

「…すげ…」

全員が踊るパートをしっかり仕上げてきたのを見て、翔は感嘆の声を上げた。

「…マジ不安になってきた…」

「気にするなよ。 一番苦労するのはどうせ燎だからな」

冬士はからからと笑った。

「…さて、そろそろだな」

冬士がヘッドバンドをはずして小さく息を吸って小さくつぶやく。

「第一門開門」

冬士の頭に青い角が現れ、牙と爪が伸びる。カチューシャを外した大輔も帽子をとった犬護と合わせてつぶやいた。

「「第一門開門」」

大輔の頭に赤い角が現れ、牙と爪が伸びた。犬護の頭に狼のぴんと立った耳と、尾が現れた。

「「ファースト・ディスペル」」

燎と翔が声をそろえて言った。

燎の頭に狐の耳とふさふさした尾が現れ、翔は耳がとがり、牙が伸び、爪が伸びてその手に槍が現れた。

「…槍まで出す必要あるのか?」

「必要ねえよ…」

翔は半ばうんざりしつつ、槍をその場に置いた。

翔の中の鬼は夜叉系統であるため、武器を手に持っているのが基本である。つまり槍が出てくるのは封印を一段階開けてしまえば当たり前のことである。

冬士が曲に合わせて歩いて行く。犬護、翔、燎、大輔と続く。

正面側を見て、犬護たちが考えて準備し、練習してきた振り付けを確認しながら踊っていく。

 

朱里はアレンの反対を押し切って結局ダンスにも出場することに決め、冬士の横で踊ることを選んだ。アレンは苦笑いで冬士を見て、冬士はアレンの視線の意味をわかっていながらアレンにニヤリと含みのある笑みを返した。

「朱里やっぱりそいつの横はダメええええ!!」

「うるせーよちょっとは黙って踊れ!!」

皆が朱里に蹴っ飛ばされるアレンを見たのはもう2週間も前の話だ。

学校中の準備が進んでいる。

体育祭は今週末に迫っている。

時間はあまりない。

皆が全力で練習をする。

勝ち負けも大切だが、それ以上のものを得るために。

 

練習が終わり、解散したところでアレンは冬士に声を掛けた。

「…ところでさ、倉橋って3団あるんだろ?」

アレンの問いに冬士がうなずいた。なんだかんだいってやっぱり冬士にアレンが遊ばれているように見える関係だが、仲は悪くはない。

アレンの私情によるあの感情の爆発の理由は、嫉妬というごくごく当たり前の感情だったからだ。生成りが嫌いだとか、生成りを蔑むようなことさえないならそれでいいとクラスメイト達が思っているのなんてアレンにはバレバレだ。

「Aが赤、Bが青、Cが黄だな」

「…ってことは赤か…」

「あ、鉢巻きか」

「まあね~。 …刺繍とか、どうしよう」

何気なくつぶやくと、冬士はニヤッと笑った。

「そりゃあ朱里にでも頼めばいいんじゃねえの?」

「あっはっは。 朱里、やってくれるかなぁ…」

アレンにとっては死活問題だ。

「やってくれるだろ。 幸いこのクラスには女子が結構いるからな」

「…それ、どういう?」

「Cクラスの実力派クラスに女子はあまりいない」

「なるほど」

他の団に鉢巻きを頼むなんて、おおよそプライドが無駄に高い名家の御曹司や御令嬢ならば願い下げだというだろう。

「…って、冬士生成り用の長いのもいるでしょ?」

「まあな。 つっても、無地でも何の問題もない」

冬士はきっぱりとそう言った。アレンは確かに、と言って、朱里を視線で追った。

「じゃあな」

「おう」

冬士が言うと、アレンは小さく返して朱里のほうへ走っていった。

冬士が言うまでアレンは別れの言葉を言わない。おおよそ言葉を掛ける必要もないと感じているのではなかろうかと冬士は思っている。

アレンが朱里に絡みついて朱里にぺちぺちと叩かれているのをクラスメイト達が笑って見ている。

「…ったく…無言で行くのは人間様の特権だろうが…」

呆れたような、無機質な、冬士の低い声に含まれていた悲しみを、聞きとってくれたものはいなかった。

 

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