日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第11話 清水の思い

「…犬護、大丈夫か?」

「…うん。 もう大丈夫」

3年生称号持ちの発表の後、犬護はしばらく放心していたが、なんとかクラス発表の番の前には戻ってきた。

「でれそう?」

「うん、大丈夫だよ」

冬士が勇子を呼んだためにクラス内に知れ渡ってしまっていた犬護の急変だが、犬護は大丈夫だと言った。

「じゃ、ガンバろっか」

勇子が言うと、犬護はうなずいた。

「…本当に、大丈夫なのかよ?」

清水は恐る恐る尋ねる。犬護はうなずいた。

「もう大丈夫だから、心配しないで。 後で全部ちゃんと話すから」

もう行かなくちゃ。犬護はそう言って、ジャージを脱いだ。

「?」

「大丈夫なのか、犬護、それ脱いで?」

クラスメイト達に尋ねられる。犬護はうん、と小さく返した。

「この傷のこともわかったから」

犬護は下のジャージも脱いで、足の火傷の跡を示した。両脚にケロイドができている。

「…! これなんだ、すげえ焼け方…」

「色々あったんだよ。 …亜門君、包帯あるかな」

「おう」

亜門がバッグから包帯を取り出した。

犬護の中で一つ何か整理が付いたということなのだろう、と考えてか、皆はそれ以上何も言わなかった。

さすがにいきなり見せるのは気が引けるほどの傷だ。犬護は素早く包帯を巻いてケロイドを隠した。

「…矢竹君ってよく怪我してた?」

「うん、擦り傷切り傷低温火傷もしたね」

犬護は立ちあがった。

「お待たせ。 じゃあね、亜門君」

「頑張れよ~」

亜門は清水のところへと戻っていった。犬護たちは並んで入場を待った。

 

 

 

 

 

「…犬護、思い出したのかぁ…」

「思い出してほしかったんじゃねえのかよ?」

亜門は息を吐く清水に呆れたように声を掛けた。

「…いざってなるとちょっとなぁ…」

「ははは。 いいじゃねえか、犬護が望んだことだし。 それにお前は結局この3ヶ月間頑張ったじゃねえか」

亜門は清水の横に座って視線を中央に向けた。

「…おお、女の子が踊ってもいいな、これ」

曲は男性アーティストの曲。3曲連続である。

「…なあ亜門」

「うん?」

「…犬護に、何があったんだよ? 前聞いたときお前教えてくれなかったよな」

「あんまりだぜ、酷だっての」

亜門は苦笑いした。

「でも大体想像ついてんじゃねえのか? セイセイは犬護のことよく知ってるだろ?」

「…まあな。 でも病院で犬護の脚見たわけじゃなかったから…」

「現実は残酷だな」

清水はうなずいた。

わかっている。わかってはいる。理解はできる。

でもそこから、犬護の痛みを理解したくない。

こんなものか。

俺の犬護への気持ちってこんなもんなのかよ。

ギリ、と清水は歯を食いしばった。

ダンスは曲に合わせてどんどん進んでいく。2曲目が始まり犬護たちが入ってくる。全員生成りとしての姿を出している。

「おー、鬼3体は圧巻だな」

亜門はカメラを取り出して写真を撮り始めた。

冬士の右前には朱里がいたりする。朱里の右にはアレンがいる。

「おお、犬護高く跳ぶなあ」

犬護と燎が交互にそれぞれ冬士と翔、翔と大輔の腕を踏み台にして高くジャンプする。そこで2回ほど体をひねって着地する。

「アクロバティック…」

「ははは。 鬼はまだ高く跳ぶけどな」

亜門はいつぞやの冬士の逃走劇を思い出してかカラカラと笑う。

3曲目が始まって全員でのダンスになる。

「…犬護楽しそう」

「中学での時とどっちが楽しそう?」

「…今、かな。 生成りだって隠してないからじゃねえかな」

清水は目を細めた。

「…亜門、あとでデータくれ」

「いいぜ」

亜門は立ち上がった。そのまま正面に回って写真を撮りに行った。

清水は独りで静かに考える。

ケロイド状の火傷の跡。直接炎が触れたのだろう。

どれほどの痛みだったのか。どうしてあの男が犬護を狙ったのか。

「…」

清水はうつむいて、かすかに体を震わせた。

 

 

 

 

 

昼休みになり、犬護は清水のもとへ急いだ。

「清水君!」

「…おかえり、犬護」

「…? どうしたの、泣いた?」

目元が赤いよ。犬護に言われ、清水はうん、と小さくうなずいた。

「犬護、セイセイ、一緒に弁当食うか?」

冬士がそう言うと、犬護はうなずいた。清水も小さくうなずく。

「…セイセイ、大丈夫か?」

「…いろいろ勘ぐってキャパオーバー…」

「あー、犬護に聞けよ。 俺と亜門もさすがにそこまでは知らねえからな」

冬士は肩をすくめて見せた。

犬護はだったら、先にお弁当食べようと言った。

「?」

「食欲なくすよ、この話」

「俺は大丈夫だが」

「冬士君の話じゃなくて清水君の話なの!」

犬護がそう言うと、冬士はニッと笑った。

「…ホレ、セイセイのこと普通に呼んでやれって」

「…ま、まだ一回しか呼んだことない…」

犬護はそう言いつつも清水のほうを見た。

「…」

「…いこっか、星太」

清水が顔を上げた。犬護はふわっと笑っていた。

「…犬護…」

「…もー。 これ好きだね」

犬護のふわふわした軽い髪をいじる清水を見て、女子生徒の一部が騒いでいたのだが、冬士は何も言うまいとすましていた。

「悪ィ千夏、俺こっちで4人で食うわ」

「おう」

話す内容が内容だけになあ。そう言ってみせると犬護はうなずいた。

 

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