第1話 中間考査
皆がだれている。
当たり前だろう。
だって今日はもう、中間考査の最終日である。
体育大会は1週間前の話である。
「冬士いいい…」
「付き合ってやるから離れろあちいんだよバカ千夏」
冬士に罵倒されつつ教室に残って春樹を待っている間に問題集とにらめっこしている千夏と、何かをひたすら書いている冬士がいた。
「冬士、何書いてるんだ?」
朱里が尋ねると、冬士は顔を上げた。
「新しい術式だ。 千夏のやつ勉強しろっつったのにこっち優先しやがった」
「千夏、あんまりやってるとほんとに留年するんじゃないのか?」
朱里が呆れたように千夏に言うと、千夏がうげ、と言った。
「…留年は流石に嫌だ…」
「卒業までいけるのか、赤点王」
「黙らっしゃいサボりマスター。 俺はお前ほど頭の出来はよくねえの。 最後まで付き合ってもらうからな」
「へいへい」
冬士が書いている新しい術式というのは、千夏が考え付くものである。そして千夏の拙い説明を聞いて冬士が術式の効果やら発動条件やら影響やらといったものをレポートとしてまとめて陰陽局に提出している。
それが当たり前のようにしている彼らに接しているために、朱里はそれがどれほど恐ろしく困難なことなのかがわかっていなかったりする。
「勉強よりもそっちを優先するとは…そうとう自信があるようだな、土御門?」
「か、烏丸先生…やめてください、4桁いったかどうかってところなんです! もう言わないで!」
「平均以上とらなきゃ家の名前的にやばいだろ」
「それを言わないでくれ…! このクラス俺の言い訳が効かないんだよ…!」
「このクラスほとんど名家いないしな」
千夏が頭を抱えた。問題集が机に落ちて閉じられた。そこにちょうど春樹が帰ってくる。
「こら千夏、その問題集読み終わったのか!? 次はこれとこれとこれとこれだ! 君は追試の可能性があるからね、呪詛返しは得意分野だろう? さあオリジナルの術式じゃなく通常の呪詛返しの方法をしっかり覚えろ!」
「鬼!! 春樹が鬼だ!!」
「土御門家ともあろうものがこんなことでへばるんじゃない!!」
「春樹、これ貸してくれ」
「うん、いいよ」
冬士の助け船はなさそうである。テストが終わったというのに勉強漬けにされている千夏を見て、皆が同情したのは言うまでもない。
―職員室―
「丸付けどうです?」
真千が笑顔で問いかける。闇はにやりと笑い返した。
「1人点数ヤバいのがおるぞ?」
「あら…今何教科です?」
「通常9教科で887点。 数学と国語は完璧じゃな」
闇はテスト用紙の名を見せる。真千は覗き込んで、満足そうに笑った。
「この調子ならあの人を吹き飛ばさなくても千夏君たち辺りが動きますね」
「うむ。 おい辰巳、集計できたかの?」
「はい。 土御門の2人は天と地ほどに点差開いてますね」
辰巳が職員室にさも当然というように居座っているが、真千が配慮したためである。辰巳はこれから3年間、なるべく学園で授業を受けることになっている。ゆえに研修生、なのだが、要は、彼の年齢に配慮してあるだけのことである。
「…500点差か。 まあ、実技だけで言うならこっちのアホが上なんじゃが…何せ頭が緩いからの」
「古典と漢文はほぼ満点をとっているのに…英語と数学青点ってどういう」
青点、要は15点以下である。
「まあ、いいんじゃねえの。 にしても、これやばいんだが」
龍冴が言ったので辰巳、闇、烏丸、真千で覗き込む。
「…これは…」
「龍冴よ。 お主の授業は点を落とすための授業ではなかったのか」
「ブレがなかった…アイツ絶対狙ってやってやがった!」
「ああそう言えば、彼は称号持ちを目指すって宣言してましたねえ。 皇帝狙ってますね、これは」
「…これであの順位で発表したら生徒が何言うかわかったもんじゃねえな…」
龍冴は頭を掻いた。真千はにこりと笑った。
「どっちにしても、発表順位はもう変えられませんし、クラスの子たちが動かなかったら所詮はその程度にしか冬士君たちを見ていないということです。 賭けてみましょう?」
真千は柔らかく微笑んだ。
テストは2000点満点だ。
通常教科は現代文、古文、漢文、数学、英語、化学、生物、世界史、日本史の9教科で900点。陰陽術系の座学教科は、西洋思想と東洋思想、風水の2教科で200点。実技教科は修祓実技が300点、符術実技、式神使役実技、選択実技がそれぞれ200点ずつで900点。合計2000点となる。西洋思想と東洋思想については倫理、風水については地学としても見ることができる。
ともかく、ここでよい点数を取れば成績が上がることはもちろん、倉橋のとっているシステムとして、特権階級になる可能性がある。
それが、称号持ちと呼ばれるものたちである。
それぞれ点数が高いほうから、様々なほかの条件はあるにしても、皇帝と女帝、王と女王、四神、陸海空、鬼の5種類がある。ただし、鬼については成績上位の特殊条件をクリアしているものしかなれない、など、制約はある。
「…じゃ、張ってきますね」
「おう」
皆が寮に帰ってしまってから烏丸が結果を張り出しに行った。
どんな反応を皆はするだろうかと真千は楽しみにしながら自室へと戻っていった。