日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第3話 不服申し立てる

吉岡は職員室にいた。後ろには朱里がいる。

「闇先生」

「うん?」

「なんですかあの結果」

吉岡は闇の目を見て言った。闇はいつもの通りのにやりとした笑みで吉岡を見る。

「せんべいいるか?」

「あ、はい、いただきます」

せんべいをもらって吉岡は続けた。

「冬士の成績あんなに低くないですよね。 ていうか4桁でしたよね」

「んー? そうじゃったかの~?」

闇は笑って返す。

烏丸がジト目でBクラスの担任を見つめる。

朱里がそれに気付いた。

(…これは…先生たちが仕組んだのか?)

吉岡がさらに続ける。

「冬士のペーパーテストはクラスで一番です。 そんな冬士よりも俺たちが順位上とかありえないですよ。 テストぐらい公平に点数つけられないんですか。 閉鎖的で汚職が多いのは百も承知の上で言ってるんですけれど」

闇が真千を見る。真千がBクラスの担任を見る。

「…あんなのテストじゃない」

吉岡がそこまで言ったとき、朱里が吉岡の服を掴んだ。

「?」

「―――失礼しましたっ!」

「あ、ちょ、鋼山、放せよ!!」

そのまま吉岡はずるずると朱里に引きずられて職員室を出て行った。

「…あなたたちねえ、恥ずかしくないんですか? 悪魔憑きを学園内に入れているという事実を黙認するだなんて」

Bクラスの担任はそう言い放った。

「恥ずかしくないですよ、だって生成りは悪魔憑きではありませんもの」

真千がそう言った。

「あなたを学園長権限でこの学校から追い出せたらいいんですけれどねえ」

「私は祓魔局から派遣された身です。 いくらあなたでもそんな横暴は許されない」

そう、Bクラスの担任はエクソシストである。祓魔局から派遣されて陰陽師側の人間を監視する役割を持っているために真千の力でも追い出せないのが現状だった。

「アレと悪魔憑きの何が違うというんですか。 改めて教えていただきたいですね」

「毎回言っているでしょう? 生成りは霊獣に体を乗っ取られそうになっている状態が死ぬまで続くんです。 悪魔憑きは悪魔を引きよせるのは人間自身ではありませんか。 被害者と当事者を同じものにしないでください」

真千が言い返す。辰巳が口を開いた。

「生成りってのは、取り憑かれているというよりは、本人がその霊獣に成り果てることを望んだり、自覚していたりする。 悪魔憑きみたいな被害妄想の産物じゃない」

「被害妄想だと? 狙われる人もいるんだぞ? 何をもって被害妄想などと言うんだ、陰陽師崩れが」

「生憎と俺は陰陽術を習ったことがないもんでな、陰陽師なんて名乗ってもいなければ祓魔師とも名乗っちゃいない。 悪魔憑きはあくまでも悪魔の使役を望んだ人間を介してなされるごくごく一般的な霊脈の世界への介入にすぎない。 それともお前ら教会のエクソシストはアジア圏の霊脈をも枯らして輪廻の輪を止める気か? そうしてヨーロッパ諸国が現在の食糧危機に陥っていることも理解できないのか?」

辰巳の言葉にBクラスの担任は立ち上がった。

「悪魔憑きが戯言を!」

「そう言って面倒なことがあると悪魔憑きだなんだとほざくからエクソシストは陰陽師に勝てないんだ、これだけ宗教色の薄い国でほとんどエクソシストは日本エクソシスト協会に所属しているだろう! 教会側の人間はうざがられてるってのがわからないのか!」

辰巳も立ち上がった。

烏丸が止めに入る。

「落ち着け、龍ヶ岳」

「…こんなやつが冬士の点数を己の価値観一つで1000点もマイナスするのか。 ウジが湧いてる、降霊術で誰かハンムラビ王でも召霊したらどうなんだ」

「そこまで言うか…」

烏丸は半ば呆れながら辰巳を座らせた。

「…あなたが熱心な宗教家で五本山まで行ったのは知っています。 でも、ここには宗教を持ち込まないでください。 その宗教的な考え方がまだ人間でいたいと言って助けを求める人々を奈落に突き落としているんですよ」

真千が言うと、Bクラスの担任は口をつぐんだ。

「Bクラスの子たちに生成りを悪魔憑きとして教えるのだけはやめてくださいね。 Bクラスには生成りとして生まれた親族を持っている子が少なからずいますから。 その子たちを人殺しに育てるのはあなたです」

 

 

 

「…」

「…俺はとんでもない会話を聞いていた気がする」

職員室のドアは現在解放されている。朱里と吉岡は真千たちの会話をすべて聞いていた。朱里は先ほど吉岡にちょっと説教をしたところだった。

「…こんな横暴が許されてるんですか…?」

ぐっと拳を握りしめた時、アレンと冬士がやってきた。

「朱里~!」

「…アレン…」

「? どうしたの、元気ないよ?」

「…ちょっと気分を悪くしただけだよ。 大丈夫、イラっとしただけだ」

朱里がそう言うと、アレンと冬士が顔を見合わせて、アレンは朱里に向き直った。

「朱里」

「?」

「さっき折哉さんから連絡あった」

「!」

朱里の目が一瞬輝いた。アレンはそれで朱里の不機嫌の内容を大体察した。

「2学期までには来るって」

「…2学期か…もっと早く来てくれたらいいのに…!」

「同感だよ」

アレンもやれやれと肩をすくめた。冬士がほんの少し笑った。

「「「!!!」」」

そんな笑い方できるの、とアレンは言いたかったが、朱里がそれを見てパッと顔を輝かせたため何も言わなかった。それと同時に。

(…やっぱり冬士には嫉妬してる気がする…)

 

 

 

 

 

テストの結果が下げられて張り直されたのは翌日のことだった。

「先生絶対準備してたね」

「職員室でそんな振りがあったんだよ」

アレンと朱里は教室で話していた。春樹が驚いて何度も結果を見直しているのが見える。

冬士は3位に上がった。本当は1位だったのだろうと千夏がこぼしたため、おそらくそっちが事実であろうが。

「よかった、冬士が生成りって理由だけであんな順位にされたまんまだったらBクラスの担任に蠱毒でも金蚕蠱でもぶつけてやろうと思ってたのよ」

「勇子、金蚕蠱は禁呪だぞ」

「知ったことか。 ここで神成の特権を使わなくていつ使う」

勇子はそう言いつつ瓶に入れられた蚕を取り出した。

「マジでやる気だったのか」

「うん。 でもこの子は拾いもの」

「金蚕蠱拾うとか普通じゃねえぞ」

「お母さんの指輪に懐いてた」

「…お前のお母さん蠱毒使ってたっけ?」

「使ってない」

そう言って勇子たちが笑った時、1人の少年が教室に入ってきた。

「?」

そちらを皆が見た。朱里とアレンも顔を向けた。

「…俺、千駄ヶ谷迅。 今日からこっちのクラスに移ることにした。 よろしく」

冬士が苦笑いして言った。

「咲哉はどうしたんだ?」

「最初のテスト結果、うちのエクソシスト担任のせいだったんだろ。 あんなクラスいられるか。 願い下げだ。 あれの味方するなら咲哉でも殺してやる」

「物騒だな!!」

咲哉が駆け込んできて叫んだ。

「よう、咲哉」

「久しぶり、冬士! じゃなくてだな。 俺は委員会の仕事で来たんだよ」

咲哉はそう言って紙を黒板に磁石で張り付けた。

「?」

「迅の移動に伴ってクラスの得点が変動するからな。 持ち点確認しといてくれよ、来週カード配布されるからな! 掲示板にクラスの得点もずっと表示されて記録されていくから!」

咲哉はそう言って出て行った。

「…得点?」

「あれだろ、校内でやるやつ」

「個人得点は部屋割に影響があるよな…」

クラス内が騒がしくなってきた。朱里が冬士のところへくる。

「得点っていつ付けられてるんだ?」

「基本的に小テストや実技評価だな。 あとは、成績に反映されない実力考査とかだ」

「…うん、今んとこは大丈夫…」

朱里はそう言って指を折って何か数えている。

「個人得点は多いやつから寮の部屋を自由に選べる。 今は朱里が1人部屋を使ってるが、得点が朱里より多い女子がその部屋を使いたいと言ったら朱里はその部屋を退かなきゃならねえ。 あとは、称号もかかってくる。 生徒会役員たちの平均点より得点が高ければ生徒会を無視する権利も付いてくる」

「…どこにそんなこと書いてあったんだ?」

「調べた。 これ使え」

冬士はファイリングしたプリントを朱里に渡した。

「冬士ってホントに準備がいいね~」

アレンが言った。

「ん。 こういうの好きなんだよ」

冬士はそう言っていつものにやりとした笑みを浮かべて見せた。

 




祓魔術・・・現代においての霊獣を祓う術。系統としては、エクソシストのような『霊獣殺し』型と魔法使いの『霊瘴祓い』がある。陰陽師は魔法使いの『霊瘴祓い』型に属しており、本来の目的は通常の濃度以上に霊気が集まって濃縮され、毒気を放ち障るようになったものを散り散りにして、周りの霊気と濃度を大体同じくらいにすることによって、悪影響をなくすことである。
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