日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第7章 魔人編
第1話 合同合宿説明


中間考査からあっという間に2週間ほどが過ぎた。

冬士たちは無事に授業風景を他のクラスと変わらず過ごしているのだが、一つ変わったことがあった。

Bクラスである。

Bクラスの担任がやたら真面目になったのである。

朱里とアレンがガッツポーズをしたのだが、その理由は冬士や勇子も含めて皆知らなかったため首を傾げて終わっていた。

「配布資料がある。 これ読め」

ロングホームルームで配布された資料に目を通すと、でかでかと書いてある“合同合宿”の文字。

「…」

とりあえず目を通していく。

冬士は共同開催校のところで目をとめた。

佐竹である。

亜門のいる学校である。

そしてエクソシスト科の生徒との合同合宿と書いてある。

亜門のいる学科である。

「…」

資料を読み終わった千夏が顔を上げて冬士を見た。冬士は千夏に小さくにっと笑って見せた。

「冬士、楽しみなんじゃねえの?」

「まあな」

教卓側を向くと、烏丸が立っていた。ほとんどの生徒が顔を上げたところで烏丸が口を開いた。

「資料を読んでわかったと思うが、夏休み中、林間学校を佐竹のエクソシスト科と合同で実施する」

佐竹にはちょっと借りがあるからな、と烏丸が言って冬士を見た。冬士はうなずいて苦笑いして見せた。

「で、今日はこの時に組む5人班を組んでもらう。 好きな奴と組んでいいが、佐竹側と合同で10人班になることを覚えておくように。 さあ、組め」

烏丸がそれだけ言って手を叩いた。冬士たちはあっという間に4人で集まってしまう。勇子、大輔、千夏、冬士の4人は固まるのがわかりきっている。

「あと1人どうする?」

「周りの様子見てからだな」

冬士が言って、あたりを見回した。

犬護は翔たちと組んでおり、すでに5人になっている。翔、犬護、燎、玲、吉岡である。

生成りが余らないのが大前提だから、冬士はすぐに勇子たちと集まれたのだが。

もともと26名だったAクラスは現在、犬護、翔、アレン、迅が加わったことによって30人になっている。6班で余りは出ない。

1人でポツンと取り残された生徒がいた。

「…えっと…」

「…何で鋼山が1人なんだよ。 アレンはどうしたアレンは」

勇子が言うと、朱里が言った。

「いや、アレンが一緒に組もうよって言ってくれたのは嬉しかったんだけどさ、後天的な見鬼と一緒にいればもう少しいろいろ調整できるかなって思って」

朱里は冬士を見た。冬士はうなずいた。

「それもそうだな。 先天的な見鬼はもともと見えてるから、俺たちの困惑は一切理解してくれねえしな」

「そうなんだよ…この間生成り集会場で上から髪の束落ちてきて驚いた。 でも体を抜けてそのまま下に落ちて行ったんだ」

「霊気の集合体がフェイズ1になって本体から切り離された形なんだろうな。 集会場か。 そういやあの怨霊はどうなったんだろうな。 後で見に行ってみるか」

冬士の言葉に朱里がうなずいた。アレンが恨めしそうに冬士を見ているのに冬士は気が付いた。

わざとらしく目を細めて笑う。

きい、っとハンカチの端っこを噛むアレンを見て皆で笑った。

一部の女子の間でこの2人まで騒がれ始めている事については、勇子は何も言うまいと思うのだった。

 

 

 

 

 

「どうです?」

職員室にて、真千に尋ねられて烏丸が振り返った。

「…どうもこうもありませんよ…班決めは終わりましたが、バランスが偏ってます。 本当に好きなように組ませてよかったんですか?」

「ええ」

真千は満足そうに笑っている。

「この調子で行けば、そのうち冬士さんは称号持ちになりますね」

「どの称号を持たせなさるおつもりですか?」

「皇帝でもいいですけれど、ここはやっぱり鬼ですね。 生徒会無視、全生徒への命令権、さらに皇帝無視の特権つきですから」

「…強すぎやしませんか」

「あら、冬士さんは大丈夫ですよ。 悪ノリはするかもしれないけれど、命令されるのがどれほどつらいかを彼はよく知っています。 悪用はしないと思いますよ」

真千はそう言って、ふと、辰巳にも声を掛けた。

「辰巳さん、烏丸さんと一緒について来て下さいな。 話しておかなくてはいけないことがあるんです」

辰巳が立ちあがった。烏丸もともに立って真千について行く。

 

真千は狭い応接室に入った。

「…それで、お話って?」

辰巳が尋ねると、真千は式神に茶を入れさせながらソファに座った。

「実は、大輔さんのことなんですけれども」

「大輔? 雅夏のほうですか」

「ええ」

烏丸と辰巳も反対側のソファに座る。

「彼が鬼の生成りであることは知っていらっしゃいますね」

「ええ」

「はい」

式神が3人の前に茶を置いた。

「…実は、この間の煉紅との一件で、大輔さんが竜の護法を持っている事がダークバーレルや解鬼界にばれたようなんです」

「…それでは、大輔の竜を狙うものが現れる、と?」

「いえいえ、そうではないんです」

辰巳の問いを真千が否定した。

「…龍鬼、ですか」

烏丸の問いに真千はうなずいた。

「龍鬼?」

「鬼の生成り又は龍の生成りを、龍又は鬼が気に入って憑依することによって生まれる特殊な霊獣だ」

辰巳ははっとなったようで少し考えた。

「…もっと別に条件があるのでは?」

「はい。 この条件だと辰巳さんも可能性が出てきますけれど、辰巳さんはそうではありませんから。 キマイラ層に行った後、というのが大輔さんの場合は問題になってきます」

真千がそう言って小さく息を吐いた。

「…龍鬼って具体的にはどんなものなんです?」

「龍鬼は人間としての人格を保ったまま龍気と鬼気を放ち、己のために鬼として霊獣を食らい、龍として天候を操る。 厄介だということ以前に、霊獣として強力すぎる。 龍ならば鎮めの祈りがあるが、鬼は祓うほかないからな」

辰巳はまた考えこむ。

「…大輔は霊獣化の一段階目がもう終了しているんですね?」

「ええ。 そうでなければこっちに帰って来れてませんから」

「…なら、大輔は自分で身を守れるはずでしょう?」

「違うんだ、龍ヶ岳。 龍鬼は完全に出来上がるまでに人間の人生を捨てなきゃならないんだ」

「?」

烏丸の言葉に辰巳は首をかしげた。

「要するに、天命全うしてはじめて龍鬼になるってことだ。 解鬼界はその前に大輔を殺しに来るだろうし、ダークバーレルは逆に大輔を調教して式神にしたがるかもしれない」

「…それって、まさか…神成の命も危なくなるんじゃないのか」

「ああ、近くにいるであろう冬士に関してはどちらにも狙われてきた過去があるからな、ますます狙われやすいと考えておいて間違いない。 千夏も殺される可能性は高い」

「…合宿が狙われた場合鋼山も危ないか…」

「いえ、その場合は冬士さんの命を優先して下さい。 彼は多分盾になると言いだすはずです」

真千はそう言ってプリントを2人に渡した。

「これを合宿までに読みこんでおいてください。 他言無用です。 あと、辰巳さんに一つ」

「?」

「龍鬼というのはその禍々しさと神々しさから鬼神(おにがみ)とも呼ばれます。 霊獣信者から狙われることもありますし、龍鬼を手に入れたがっている人は多いんです。 …私と龍冴君は学校に残らなければならないんです。 彼らを守ってあげてください」

「…」

辰巳はうなずいた。

真千はふっと笑って、パンと手を叩いた。

「この話はここまでです。 別のお話しましょうか。 こっちも大事ですから」

真千はそう言って今度は茶菓子を出してきた。

「…えっと」

「私の星詠みで、近く百鬼夜行が出現することが分かりました。 その時、2人には陰陽局に向かってもらいたいんです」

「…百鬼夜行、ですか…真榊が抜かれるってことですか?」

「いいえ、中部地方の百鬼夜行とは全く別物です」

真千はそう言ってお茶をすすった。

「よろしくお願いしますね、頼りにしていますよ?」

小さく笑った真千に、2人はうなずくしかなかった。

 

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