日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第4話 バーベキューと序列

「あらあら、賑やかねえ」

真千が顔を出した。広い場所が取れないということで、四葉の家に集合していた。

「もう、四葉のためにこんなにしてくれて、皆ありがとうね」

四葉の両親はにこにこと笑っていた。

その場所には、吉岡たちの知らない人物がいた。髪は日本人にしてはやたらとブロンドヘアなのである。

「…あの人は?」

「あ、彼は私が屍鬼になった時に一緒にいたの。 焼原君」

四葉はそう言って焼原を招いた。

「焼原君、この子たち後輩ね」

「知ってるっつーの。 …屋外でほんとに大丈夫かよ」

「大丈夫だよ、あと1週間は野ざらしでも耐えられるはずだから」

へらっと笑った四葉に、焼原が少し苦い顔をした。

肉をバーベキューキットで焼き始めた。朱里とアレンが誰かとケータイで話している。

冬士が皆に皿を配り始め、勇子たちが野菜も次々と並べて行く。龍冴が簡易式を使って肉を焼き始めた。

「早く焼けないかな」

「食い意地はってんな、お前」

「うん、そりゃあね。 おいしいもの食べられるのもあと2週間くらいだし」

焼原の表情が暗くなった。

「…覚悟できてんのかよ。 今ならまだ悪魔を召喚したり、最悪反魂だって」

「それでももう人間には戻れないんだよ。 一度鬼になっちゃったら二度と人間には戻れないんだって、教科書にも資料集にも、図書館の本にも書いてあった」

四葉はそう言って笑った。

「責任だなんだって言って結局ずっと傍にいてくれたじゃん。 思い残しはないよ」

冬士が焼けた肉と野菜を皿に取っていく。

「その湿気た話は後っすよ。 今は食べましょう?」

冬士のその言葉に、四葉はうなずいた。四葉は勇子のところへ行き、肉をとってもらっている。

「…こんなときぐらいその話は黙ってろっつったはずだぜ、焼原先輩」

「…気にすんなってのかよ」

「皆がいる前ですんなって話だ。 大体そんなに気にしてるならもっと違うことをしやがれ。 どうせこっちに残るんだろ。 残るくらいなら気にすんな」

冬士は焼原の皿に野菜と肉を乗せた。

「食う気が失せるからあんま考えないほうがいいっすよ」

冬士はそう言って立ち去った。

相変わらず切り替えの早い男だと焼原は思った。

自分のことに重ねて視ているのかもしれないし、それ以上にいろいろと思案しているだけかもしれない。焼原のあずかり知らぬことをこの後輩が抱えているのだということは、この1学期中の校内の散々な動きを見ていれば自然と分かってくるものである。

いったいどこの世界にいろんな組織から狙われたり霊獣に拉致されたり校内中の生徒、教師に鬼気をぶつけて放浪する生成りがいるだろうか。冬士以外に考えられない。

「…」

“残るくらいなら気にするな”

その台詞が何度も焼原の中で反芻される。

冬士がもともと感情を抑え込みやすいというのは冬士が霊災にあってから中学校に登校できるようになるまでの期間が半年程度であった事実を四葉から聞いているため、容易に推測できた。

生成りというのは通常己の感情をコントロールできなくなり、憎悪や嫉妬、憤怒などの感情が理性を犯し、良心を塗りつぶし、霊獣に成り果てていくものである。その最初に失せてしまうはずの理性がまだまともに保っているということは、冬士の精神の強靭さを示すと同時に、冬士が鬼に堕ち果てた時の被害の甚大さをも示している。

「―――そんなにタフな奴ばっかじゃねえんだよ、くそっ…」

焼原は皿を見つめた。肉と野菜はまだ熱かった。

とりあえず、食おう。

そう思って、焼原は割り箸を割った。

 

 

 

 

 

「えー、勇子も番付カード持ってたのか!?」

「まあね」

勇子と朱里と春樹が一緒に肉を食べている。すぐそばには冬士と千夏、大輔とアレンもいる。

「アレンが黒だったんだけれど」

「えー、すごいじゃん! 吉田神道系で黒かぁ。 鹿池の準1級はだてじゃないね」

勇子はそう言って笑った。朱里はふともう1人の従兄を思い出した。

「…吉田神道系はこれあんまり持ってないの?」

「うん、通常は神道のやり方じゃあ祓魔できる対象が少なすぎるからね。 祓い方は違うけれど、いわゆる日本版エクソシストみたいなもので、害を為すモノを祓うんだよ。 それに、出張しないから動けない人への祈祷はしてくれないし」

「…それで陰陽師がはびこるわけか…」

「蘆屋道満みたいな外法使いもはびこるんですよ」

「ふ、なんだそれ」

朱里と勇子が笑う。春樹も小さく笑っている。アレンはそんな朱里たちを見て、小さく笑っていた。

アレンの皿に大輔が肉をとった。

「お、ありがとー」

「ん」

ふと千夏がアレンに言った。

「なあアレン、お前ライセンス順位いくつなんだよ?」

「えー、教える価値あるかなー」

「黒なんだろ? 2桁じゃん」

「でも上にいる34人を考えると、ねえ」

アレンはそう言ってへらっと笑うが、冬士がさっと千夏のポケットからカードを取り出した。

「あ、すごい、土御門は銀か」

「冬士、やめろっつってんだろ! そんなんだから万引きしたって疑われるんだよ!」

「法に触れることは何もしてませーん」

冬士が伸ばしの音を使うとなんだかおかしい気がするのはアレンだけだろうか。

「冬士と大輔はライセンスなし? ライセンスは生成りも取れるだろ?」

「まあ半妖が取れるからな。 でも俺たちにはちょいと難しい試験内容が入っててな」

「何で」

「3年前からトップが教会のエクソシストに替わってんだ。 …ちょっと年の離れた先輩がそいつを引きずり下ろすことにしたらしいんだけどな」

「…何その人、すごいな」

「苗字は俺も知らねえんだがな」

肉に噛みつきながら冬士とアレンが話している内容を勇子は耳をすまして聴いていた。

「勇子?」

「…うん、冬士がちょっと面白そうな話しててさ」

勇子と朱里と春樹が冬士たちに近づいた。

「? どうかしたのか?」

「ううん、冬士が何やら面白そうな話をしているなあと」

「ああ、祓魔庁の番付試験官のことか?」

「うん。 あの人実は千夏のお父さんに実力行使で負けて官僚クラスになったっていう経歴の持ち主なんだよね」

「頭だけはいいんだよな」

「こら、冬士、そんなこと言ってたら大変なことになるって」

春樹が注意すると冬士は肩をすくめた。

「問題ねえだろ。 ここは私有地だし、龍冴先生もいる。 闇先生と烏丸先生もいるわけだからな」

「だからといってエクソシストを批判していいわけじゃない。 冬士が捕まってしまうよ」

「ハ、そんときゃ振り払って逃げるさ。  エクソシストに捕まりゃどちみち…人間じゃなくなるしな」

あ、こいつ今言葉を選んだな。

そう思ったアレンだった。

「ライセンス早く取れるようになるといいな、冬士」

「お? 珍しいじゃねえか、お前に背中を押されるとはな」

冬士はアレンにニヤッと笑ってみせる。アレンはそれに笑って返す。

「そうかな?」

「あっという間にアレンを追い越してやろうじゃねえか」

「お、負けないよ!」

「今序列どんくらいだ?」

「うん、13位。 …あ」

アレンははっとしたようだった。朱里は目を丸くしていた。

「言わされたああああ!!」

「特に重要だって思ってなかっただろ。 ずいぶんあっさり吐きやがって」

「何で俺冬士になじられてるの!? 言ってあげたじゃん!? 俺訊かれてたよね!?」

アレンがパッと手を離してしまった皿についてはうまいこと冬士が受け止めてくれたりしている。

「あ…ごめん」

「表情よく変わるやつだな」

冬士が目を細めて笑った。

ああ、冬士のおもちゃが増えたなあ。

そんな千夏の小さなつぶやきは朱里にしか聞こえていなかった。

 

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