日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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新キャラ君語りです。かなり淡々と流血表現と死ネタが書かれています。


第5話 中部自治組織”鬼狩り”

 

1年ほど前のことだ。

俺は中学生だった。俺は剣道部に所属していて、剣道部の主将として中体連を戦っていた。そう、それは俺たちが中体連を終えてすぐに起きた。

 

 

 

「主将! このサイレンなんすか!?」

お別れ会と称して焼肉屋で皆でどんちゃんやっている時に、小さな音でサイレンが鳴っているのが聞こえた。それを聴いていたのは生成りだった。

ああ、俺たちはその生成りが生成りになる前を知っていた。だからそのまま剣道部に所属させていたし、でももう大会には出れないってことで、マネージャーやってもらってた。そいつは耳がよくて、俺たちが聞き取れなかった放送内容をしっかり聴いてくれた。

「…え―――」

「なんだ、どうした?」

「…大規模霊災が発生したって」

「…どこで? こんだけ小さいなら関東か関西か?」

「…それが…」

そいつは首を横に振った。

「中部地方全域に真榊の結界を張った。 百鬼夜行が発生したって…」

声が震えていた。俺ははっとして窓を閉めた。

「おいお前らも窓を閉めろ!」

俺はこの時竹刀しかもっていなかった。そりゃそうだ、皆でどんちゃん騒ぎしている時に祓魔道具の真剣なんて持ってくるはずがなく、ライセンスこそ持ってはいたが、俺は刀がないと何もできないちょっと特別な力を持っているだけの一般中学男子だったわけだから。

「は、はい!」

皆が窓を閉めた。俺らは焼き肉をしていたわけなんだが、店の中とはいえ別のところを開けられるのはごめんだ。

「京一、出入り口に結界の札貼れ!」

「はい!」

後輩の京一は俺とは違って刀がなくても力を行使できる、いわゆる祓魔師の家系だ。

「貼りました!」

「よし。 ちょっと待ってろ、皆は耳すましとけ、他の放送が何か入ったら即俺に言え」

「はい!」

皆の返事を聞いた後で俺は親友たちに電話を掛けた。

1人はこれまたちょっと特別な家系のやつらだから心配こそしなかったが、まずかけて安否確認。

「歩!」

『俊也! 無事か!?』

「ああ、俺たちは無事だ。 お前今どこだよ」

『学校だ。 今逃げ回ってるところ』

「マジか、悪かった」

『問題ない。 京一に伝えといてくれ、弘は無傷だ』

「おう」

電話を切って京一に声を掛けた。

「京一、弘は無傷だとよ」

「…よかった…。 俊也さん、早くほかの先輩たちにも掛けてください、百鬼夜行は電波を追って人間の多い所に向ってきますよ」

俺はうなずいて次のやつらに電話を掛けた。

柔道部の主将である力太、弓道部の主将である明。この2人は一緒にいた。

「無事か!?」

『何とか、な。 でも、部員以外のやつらを庇える状況じゃない!』

『校庭にいた野球部とサッカー部が全滅したんだ!! 早く望に掛けろ、馬鹿!』

説教まで食らって俺は次に望に掛けた。

「望サン、無事か?」

『はい。 私は家にいるので大丈夫です。 皆は?』

「皆無事だけど、一旦学校に集合しようと思う。 弘を中心にして結界を張って一時しのぎだ」

『分かりました。 気を付けてください、刀は家でしょう?』

「ああ…」

『先に伝えておきます。 貴方の家は半壊しています。 妹さんとお母様の命は諦めてください』

「…覚悟は、しとく」

『ご健闘を』

一番つらいわ…でもこんなこと言われてもショックぐらいで終わるようになったってのが、俺たちがおかしくなってるってことの表れなのかもしれない。予知能力も大変だよなあ。

「俊也さん! 小さめだけど2匹来てます!」

「!!」

窓の外を見ると、確かにこっちに2匹向かって来ていた。

最悪だ。俺は皆を守れるほど広範囲の術は持ってねえってのに。

「…札が破られた瞬間に俺が突撃掛ける。 全員結界が破られたら脱出だ」

靴箱が内側にある部屋でよかった。全員靴を手元に持ってきて、荷物を持った。あんまり重い荷物のやつはいなかったけれど、俺たちはあんまり足は速くない。竹刀があるからな。

「京一、お前は皆を連れて学校に向かえ」

「何言ってるんすか俊也さん」

「俺刀全部家に置いて来てるんだ。 他の妖刀使いに使わせるのも全部だ」

俺たちは妖刀を集めている。正しくは、俺が妖刀に気に入られやすかったのを利用して、祓魔というか要は霊獣殺しをやりまくっているだけなんだが、今手元にある妖刀は23振り。俺の愛刀たちを含めても26振りだから戦えるやつは最大でも26人、プラス京一、歩、弘、力太、明、望の32人。学校で何人生き残っているか分からねえけど、あの様子だと部員全部合わせて100近くなるんじゃねえかな。剣道部は15人、柔道部も10人ぐらいいるし、弓道部も10人ぐらいいる。あとは今日陰陽会所属のやつらがいるならそいつらが10人、そいつらは結界をすぐにはるはずだから1クラス守っただけとしても40人。あ、80ぐらいか。でもサッカー部と野球が全滅ってことは…。

「俊也さん、1人は危険っす」

「ウチは百鬼夜行にぶち当たってるらしい。 まだやつらがいるかもしれねえんだ」

「でも俺たちは戦えるぞ、俊也」

「馬鹿言うんじゃねえ、家が壊れるってことは、フェイズ4か5だ。 物理攻撃が効く相手に竹刀かよ?」

相手の種類がわかるまではうかつに皆に戦闘をさせるわけにはいかない。

「京一、学校は多分かなりヤバい状況だ。 グラウンドはサッカー部と野球部が全滅したらしい」

「…陰陽会が動くはずだ。 おかしいっす」

「…ああ…かなりヤバいな」

俺と京一の会話の内容を理解できたやつはいないだろう。

「どういうことだよ?」

「…フェイズ4とか5とか言わずに、たぶん一番やばいやつだってことさ」

その時、絶叫が聞こえてきた。俺たちがいるのは2階だ。1階からの絶叫。つまり。

「上がってくるぜ…作戦変更、全員窓破って外に出ろ。 絶対に止まるな、走り続けろ。 1人になるな、足を止めたら死ぬぞ」

俺がまくし立てた時、ふすまがガンガン音をたてて揺れた。全員は走る。京一が一閃、横に薙いだ。

窓の格子がぶっ壊れて、皆がガラスをぶち破って飛び降りた。悪いな店の責任者さんよお。生きてたら金払うぜ。

俺と京一も外に飛び出した。

着地すると、俺はそのまま家に向かった。チャリで来てて良かった。

京一はすぐに学校へ皆を先導して連れていったようだった。なんだかんだいって渋るやつだが、こういうときは一番頼りになる後輩だ。ちなみにあの14人の中に俺の同級生は5人、1つ下が7人、2つ下が2人だ。それでも俺があいつに任せると言えば3年生5人もあいつの言うことを聞いてくれる。これで皆の命は安全だろう。京一は俺よりもずっと強いからな。

そこで俺は追手に手を伸ばされた。

まあ、顔は知りもしないおっさんだったんだが…目から血を流していらっしゃった。

「…まじゾンビだな…!」

俺は立ちこぎに切り替えて全力でそれを振り払った。ああ、こいつらは屍鬼(グール)だ。

厄介なことにグールは増殖する。一つの肉体に入ってその体の持ち主がグールになると次の体にその新しくグールになったやつが入って、って感じで追い出された魂がほかの体を求めて行くっていう感じに増えて行く。しかも成り立てのやつってのは普通に人間を殺すのと変わらない。何度悪夢にうなされたことか。

なるべく切りたくない、しかも竹刀とか一番嫌なパターンだ。

つーか、陰陽会マジで何やってるんだ。早く出てこいよ。それ以前の問題かもしれねえな、祓魔庁は何やってるんだよ。ここ中部だけど支店の祓魔局支部あるじゃん!

「…」

大事なことに気付いた。

真榊が結界張ったって言ってなかったっけか?

「…」

陰陽師の援助来ないじゃん。エクソシストに生身の肉体を持っている屍鬼を祓えるとは思いません。

やばいこれはかなりヤバい。京一だけじゃ無理だ、早く戻らないと京一は1人でも生き残りがいたらそこで止まっちまう可能性がある。あいつ死なねえから余計にそうなる可能性大だ。

そう思いつつ全力でチャリをこぎ続け、家の前にまで来てびっくりした。

霊獣が一匹うずくまって、お袋と妹の前で泣いてた。そいつの体は真っ黒で、霊獣だって一発でわかった。でも、様子はおかしい。そいつの横には妖刀たちを俺が入れている袋があった。

「…お前…?」

声を掛けると、そいつは振り返った。すぐに分かった。

「臨也(みや)!?」

『兄さん…』

頭の整理をしたくなる状況だったけれど、そんなことしていたら皆が危ない。

「臨也だな?」

『…うん。 屍鬼になり損ねたみたいだ』

「…親父は?」

『ごめん、瓦礫の下。 もういないよ』

「…仕方ねえ。 学校に行くぞ、それこっちによこしてくれ」

そう言って俺は頭の中身の整理もおぼつかねえまんま学校に向かった。

 

学校に着いたら最悪だった。皆ちゃんといるのはわかったけれど、学校は半壊してるし、もう乱闘になっていた。頭の中が結構混乱している状態なのに、ますます混乱するようなことばっかりだ。いや、むしろ全部吹っ切れるくらいの状況だったんだが。

「―――ッ」

グラウンドにはたくさんの屍が歩いていた。一匹と目が合った。

「ギャアアアアア!!」

グールが叫んだ。

「俊也さんッ!」

京一が叫んだ。俺は包みから一振りを取り出して、親指の皮膚を噛み切って刀身に垂らした。

「月牙丸!」

『あいよ』

愛刀が返事をくれた。正門を閉めてグールがこれ以上外に出て行ったり、入ったりしないようにする。その間にこっちに来るグールどもは月牙丸に任せる。

『まったく、妖刀使いの荒い主人だ!』

「うっせ、とにかく今は今生きてるやつの命を守るのが先だ!」

 

 

 

それからはただひたすら戦っていた。

グールどもを蹴散らして、何度も月牙丸に付いた血糊を拭って、学ランが赤黒くなって、シャツも返り血だらけになって。

妖刀を使えるやつらのところまで行って、妖刀を使わせたら、一気に形勢逆転した。

でも中には妖刀に食われた奴もいた。そいつらはもうどうしようもないから、陰陽会のやつらに手伝ってもらって式神にする形をとった。

人間だったやつを式神にするのがすげえ負担になるって言われたけれど、部員たちを見捨てられっこない。俺は4人の式神を持つことになった。

生存者の数はおおよそ60人ぐらい。

最初は100人ぐらいいたけれど、そのあとに来た図体のでかい鬼を見てパニックになったやつらの大半が校舎に入っちまって、校舎の中にいたグールに食われた。

剣道部4人、弓道部2人、空手部1人の死者を出した。

俺たちがそのままそこで生活する気なんて起きるわけはなく、俺が取り仕切る、それについてきたくねえ奴は自分で何とかしろと言って、移動を始めた。こういうときはリーダーっていう称号はすごく重たいもんだな。生徒会長である望サンに任せるのはきつかろうっていう判断で、俺、歩、力太、明、望サンの5人で取り仕切ることにした。

それからはとにかく田畑のある地域に移動した。コンビニとかのもので食いつなぎつつ移動して、力太の実家に居候することになった。そこにももう人はいなかったんだけれど、でかい、図体がでかい赤い顔で高い鼻の―――大天狗というらしい―――霊獣が、グールを退けて、小さな子どもだけは助けきったらしいけれど、そっちも俺たちが行くまでの2週間ぐらいで皆死んじまったんだと。俺たちはそこにいた小さな霊たちと協力しつつそこで暮らし始めた。

 

 

 

 

 

今の俺たちは県庁所在市に戻ってきている。理由は簡単。とある陰陽師が時々物資を持ってやってくるからだ。田舎のほうはどうしても人間が入っていくことが難しい、だから手前に出て来い、と言ってきたんだ。

自分たちで結界張ったくせに、って啖呵切ってやったよ。

そしたらそいつは、謝罪はしなかった、ただ、こう言ったんだ。

「俺たちが帰るときに一部分だけ結界が消える。 その時に一緒にここを出るか? 言っておくが、そうとう霊力が高くなければ結界が消えても通り抜けられないぞ」

その言葉で、何で俺たちを陰陽師が助けないのか分かった。

助けられないんだ。

俺たちが弱えから。

でもそんなのは理由にはならねえだろ。

でもそう言ったって無駄だっていう理由を俺は嫌ってほど知っている。

俺の先輩に石川県だった場所にいる人がいる。この人はテレポートのような力を持っている。だから一瞬で祓魔庁に飛んで、こっちの自治権を認めてもらい、それぞれに小さな自治組織ができて、今の状況を作っている。

俺は静岡の代表だ。最悪だぜ。たった15歳で皆の命守らなきゃならねえなんて。大人はどうした。皆死んじまった。だから俺たちは誰も頼れなかった。

「…いい。 俺らは残る。 見鬼ほどじゃねえ奴らは通れねえんだろ。 あいつらを守る」

「…分かった。 いつまでとは言わんが、保護活動に尽力すると約束しよう」

「絶対だぞ。 そんなに長時間は保たねえかんな」

「そう言うな、言霊は前向きに使え」

 

 

 

そう言ってそいつとは別れたさ。

あれからもう1年だ。

大人なんて信じねえ。

陰陽師なんて嫌いだ。

でも、もっと嫌いなのは。

 

俺の弟と部員たちを殺したエクソシストだと、言っておく。

 

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