日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第6話 二将の仕事

 

「冬士、ちょいと話がある」

「…はい」

龍冴に呼ばれて冬士が教室を出て行った。千夏は参考書を必死で読んでいる。春樹が一緒に参考書の解説をしている。勇子は何かをラッピングしており、大輔は犬護と翔と燎とともにポテトチップスに手を伸ばしていた。

「冬士君どうしたのかな」

玲が言うと勇子が答えた。

「たぶん式神じゃないかな。 冬士さすがにいろいろありすぎてるからね、霊気もあんまり安定してる状態じゃないし」

「そう言えば、冬士君って混気体質なんだよね?」

犬護が口を開くと、千夏がそうだよ、と言った。

「冬士は金気、水気、木気が強いんだ」

「千夏、冬士の話になるとすぐそっち向くんだからっ!」

「だあ、痛いじゃねーか春樹!」

ラブラブっぷりは別のところで見せてくれとつぶやく男子たちと、どちらも男子の制服を着ているために男子同士のように見えることから騒ぎ出す女子たちがいる。

「混気体質って、そんなに不安定なの?」

「普通は結界張るよな?」

吉岡が言うと、大輔が言った。

「冬士は結界がない」

「…は!? 冬士結界ねえの!?」

「うん、通常の結界は冬士にはないよ。 そのかわり、童子結界が張られてる」

勇子が答える。吉岡はノートのページをめくった。

「…童子結界は鬼が張る結界、か。 混気に張ったなら受け取るだけか?」

「正解。 冬士の童子結界は冬士の霊気が外の霊気と交換されないように止めて、外からの霊気を受け入れるだけのもの。 あれのせいで冬士の霊気の重さが半端じゃなくなったのよね」

「冬士の鬼気がやたら重いのはそのせいか」

「そうよ」

迅が納得したように小さくうなずいていた。勇子はラッピングを終えてそれをバックにしまいこんだ。

「今のなんだ、勇子」

「冬士と大輔と犬護の写真集!」

「ぼ、僕も!?」

「犬護人気が出てますよ!」

翔が憐れむような視線を送ると、犬護は呆れたように肩をすくめた。

「そう言えばさ、迅、最近また陰陽局が何か始めたんだろ?」

吉岡が問うと、迅はうなずいた。

「ああ、真榊の先代当主がぶっ倒れたらしい」

「!?」

クラスのほとんどが振り返った。

「真榊が倒れた!?」

「どういうこと、それ!?」

「…先代はもういい加減年だってことさ」

迅が言うと、ああ、と勇子が言った。

「中部地方の結界張るの疲れたんでしょ。 もう85だったはずだし」

「まあな。 って、勇子姉のとこに情報いってねえの?」

「来てないよ。 てか、情報なら先に千夏たちに行くんじゃない?」

千夏のほうを向くと、千夏の代わりに春樹が返した。

「僕らのところには来ていない。 たぶん真榊が土御門に叩かれるのを恐れて隠蔽しようとしたんだろう。 勇子と千夏に叩かれたら今の真榊では身を守れないから」

「真榊、いい加減中部の結界解けばいいのにね。 もう1年だし」

勇子がぐっと伸びをした。大輔が口を開いた。

「…百鬼夜行が来るのは、仕方ない」

「中部に出たのは屍鬼(グール)だったわけだしね。 …それに、今のままだとそろそろ全滅するころじゃない? グールは子供ばっかり残して行くから」

「…そっちも情報規制敷かれてて俺たち知らねえんだよな…」

吉岡が言うと、千夏がスマホをいじり始めた。

「千夏!」

「親父に許可取る」

「問題を解けえええええ!!」

怒鳴られているにもかかわらずもうそっちのけでそのままスマホをいじる千夏に、春樹は頬を膨らませていた。そんな春樹に冬士が声をかける。

「春樹、いるか?」

「いらない!」

「そうか、チーズタルトは春樹にはいらねえか」

「食べる!」

春樹は振り返った。冬士がクーラーボックスからタルトを取り出して見せる。春樹は冬士の方へ向かった。

「千夏は春樹が指定したところ終わってからな」

「げえっ!」

「お前が解き終わるまで待っててやるよ」

「―――20分以内に終わらせる」

とたんにスマホいじりが終わる千夏。勇子が声をかみ殺して笑っているのが皆の視界に入った。

 

 

 

 

 

―陰陽局―

パソコンの画面を凝視している男がいる。髪はオレンジ色だ。

「どうしたんだ、昌次郎。 お前が陰陽局にいるなんて珍しい」

刀を腰に下げた男がオレンジ色の髪の男に声をかける。

「蓮司さんっすか。 先日はどうも」

多嶋蓮司と蓮道昌次郎である。

先日の白虎のことを言っているのだろう。

「いや、あれは悪かった。 戦闘よりも後輩たちの精神戦の方に気が向いちゃってたよ」

蓮司は苦笑いする。もう結構前のことなのだが、あの後すぐに中部地方に派遣された蓮司からすれば久しぶりの再会である。

「…蓮司さん、ちょっといいっすか」

「ん、どうした?」

「この2週間ぐらい、ずっとあの影山のガキについて調べてるんすけど、俺の持ってるパスどれも効かなくて」

「…あー…」

蓮司はふっと考えこむ。少し考えて、自分のパスを打ち込んだ。

「あ、俺のパスもだめか」

「何でだと思います?」

「…影山が隠したい情報でもあるのか…あ、分かった」

「?」

「たぶん野本と冬士君が関わりがあるからだろう。 俺たちは野本を追ってるし、冬士君の小学校の子たちの証言と亜門君や大輔君の証言に差があるのは知ってるだろ?」

「…ハァ。 エクソシストが関わりさえしなけりゃ、もっと楽だったのにって思ったやつっすね」

昌次郎が伸びをした。

エクソシストと陰陽師の中が悪いのは今に始まったことではない。エクソシスト側から祓魔の技術という点だけが抽出されて洗練されてもなお、陰陽師との溝は埋まっていない。

これは陰陽師をはじめとする日本の祓魔技術がエクソシストたちと違って“霊獣を殺すこと”ではなく“霊瘴を祓う”ことに重きを置いているために生じたものである。今でこそ陰陽師も霊獣を殺すことがあるが、それでも霊獣というのは殺さぬ方がいいものであるという認識を土御門が変えていないため、土御門が統括するほとんどの陰陽師は霊獣を殺すことをよしとしていない。佐竹のようにそれぞれのいいところも悪いところも教えて、どちらも教育を施せるのは、倉橋のように陰陽師の観点からエクソシストの祓魔術のよさを組み取れた才能ある者たちか、佐竹のようにもともとは祓魔術を持っていなかった家の者が始めた学校であるかのどちらかである。

「…そう言えば、先日ダークバーレルの尻尾を掴んだらしい。 それにあたって俺たちに話があると局長が言っていたんだが」

「…じゃ、行きましょうか」

昌次郎は画面を元に戻してシャットダウンする。USBメモリを抜いてポケットに戻し、席を立つ。

 

蓮司と並んで局長室へと向かう途中、ふと蓮司が尋ねた。

「ところで、昌次郎。 なんで冬士君のことを調べようと思ったんだ?」

「…いや、あいつ見たとき一瞬、金気の鬼が入ってるように見えたんすよ。 でも、すぐに水気に押されて。 かと思ったら木気も絡んでた」

「…」

蓮司が目を細めた。

「…要は、お前は冬士君が欲しくなったってことだな?」

「端的に言えばそうっすね。 でもまだ今じゃないっすね、まだあれは強くなる」

さらりと昌次郎が言った台詞に蓮司はまた少し考えこんだ。

「辛気臭い顔しないでくださいよ。 俺は別にあいつを堕としたいとは言ってないじゃないっすか」

「…いや、そこじゃない。 まだ強くなるって言ったな」

「…ええ」

「それはずっと“鬼を見てきた”から言えることか?」

蓮司の問いに昌次郎はうなずいた。目を細める。

「そうっすよ。 俺の鬼たちもかなり騒ぎましたしね」

「…まずいな」

「何がっすか?」

「…冬士君はあれ以上霊気が増せば千夏様を潰しかねなくなる」

「…あの土御門分家の化け物が潰れる?」

眉根をひそめた昌次郎。蓮司と昌次郎は立ち止った。もう局長室の扉の前だった。

「千夏様は強い陽の気を持っていらっしゃる。 でも、冬士君もかなり陽の気が強いんだ」

「…じゃあ陰の気も同等に増加するって可能性は高いな…」

「…そうなってしまえば千夏様は…今はまだ冬士君の封印にかける霊力量に余裕があるけれど、追いつかなくなっていくだろう」

「…ハ、そりゃおもしれえ。 土御門の化け物が鬼に食われて亡ぶのを見るのも悪かねえっすね」

「縁起でもないことを言うなよ」

蓮司は苦笑いをした。昌次郎は肩をすくめて、局長室のドアを開けて中に入った。

「失礼します。 十二神将『断空』多嶋蓮司です」

「十二神将『鬼降し』蓮道昌次郎っす」

2人を迎えたのは康哉である。

「2人とも、座ってくれ。 緊急なものでな」

康哉がそう言って茶を入れる。緊急と言う割には茶を入れているあたり、本当はそこまで急ぎの用ではないのだろう、と思って昌次郎はソファに腰掛けた。横に蓮司が座る。

「2人にはしばらく十二神将としての仕事を休んでもらう」

「…クビ通告っすか?」

「20代の公務員にそれはないと思う」

蓮司の言葉に昌次郎は肩をすくめた。康哉は苦笑いした。

「陰陽局は猫の手も借りたいって知ってるだろ。 お前らをクビにする余裕はない」

「じゃあなんで…ダークバーレルっすか?」

康哉は目を丸くした。

「蓮司、何か言ったのか?」

「…あ、はい。 昌次郎が冬士君について調べてたんで、その規制が最高機密クラスに上がってたからなんでだろうっていう考察をこいつの前でしてしまいました」

「あー。 十二神将のパスで入れなかったんだろう。 悪いことしたな、それについては話そうと思っていたんだ」

康哉が2人の反対側のソファに腰掛けた。テーブルに茶が置かれる。

「冬士君、また何か巻き込まれましたか?」

「ああ。 女獄卒が来たときに雅夏大輔が龍を出した話をしたと思うんだが」

「そうでしたね」

「蘆屋道満が現れた時、大輔よりも冬士に興味をもったような発言をしていたのは覚えているか」

康哉の表情が険しくなっている。昌次郎と蓮司は顔を見合わせた。

「覚えてますけど…」

「どうかしたんすか」

「…冬士が転位霊災に遭った際に龍と接触していたことが分かった」

「…え? でも、冬士君はほとんど鬼に霊気を染められているのでは?」

蓮司が尋ねると、康哉はうなずいた。

「だが、問題はその先だ。 冬士のことについては問題になるのは、その鬼の気だ」

「…土御門の龍っすね」

昌次郎の言葉に蓮司が目を丸くして、少し考えて、納得したようにああ、とつぶやいた。

「その通りだ。 …もう大体話はつながっただろう?」

「「はい」」

蓮司と昌次郎はうなずいた。

「…俺たちは土御門春樹の護衛、そうですね?」

「ああ…くれぐれも土御門春樹から離れるなよ。 特に昌次郎、お前は勇子君繋がりで春樹と面識がある。 どの式神を使うかは任せるが、春樹の霊気を奪われないように細心の注意を払え。 あの子の霊気は土気だ。 特にあの質だからな、ダークバーレルはおそらく彼女を殺すことを厭わない」

「必ず守ります」

蓮司の言葉に康哉はうなずいて、2人を送り出した。

 




龍と竜について。
この世界観においては、『龍』は東洋の体の長い神龍のことを指す(本来は竜のほうが漢字としては古いです)。龍は中国や日本の龍を思い浮かべてください。
『竜』は西洋系のドラゴンをイメージして下さい。
ただし、どちらも『タイプ龍(竜)』はタイプドラゴンと放送されることになります。


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