日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第9話 四葉のクラスと後輩たち

 

勇子と朱里はかき氷のシロップを買いに行く千夏と冬士と大輔と迅を見送って、教室に戻った。

「さてと。 冬士たちが戻ってくるまでに次のお仕事終わらせますか」

勇子の言葉に朱里は首をかしげた。

「次の仕事? 何かあったっけ?」

「ん、ちょっとね。 冬士たちなら20分くらいで戻ってくるはずだから、早くしないとね」

勇子はアレンを見た。

「アレン、話はどう?」

「ちゃんと通しといたよ。 そろそろ運び出し始めるんじゃないかな?」

アレンはそう言って席を立った。

「? アレン、どういうことだよ?」

「大平先輩が屍鬼だっていうことを知ってるのは、クラスメイトに4人ぐらい、あとは所属していた吹奏楽部のメンバーだけらしいんだ。 で、事情を知らない生徒には転校ってことで話を通してあるらしいんだよね。 だから、皆でサプライズをやるぜ、と」

「…吹奏楽部ってことは、楽器を運ぶってことか…」

「そういうこと。 じゃ、俺たち手伝ってくるから!」

アレンはそう言って同じく席を立った犬護とともに教室を出て行った。

「…アレン、いつの間に犬護と仲良くなったんだ…?」

朱里が首を傾げると、勇子が言った。

「なんだかんだいって人当たりいいからね。 それに犬護もだいぶ慣れてきたみたいだし、アレが鋼山さんにどんな一面見せてるのかは知らないけれど、よくできた皆に平等に接してるタイプだよ、アレンは」

「…アレがよくできてる、か…」

信じられないとかそんなセリフは呑み込んで、朱里は窓から寮の方を見た。特になにがあるわけでもないが、大きな建物だなあとは思った。

「…そういえば、鋼山さんは一人部屋だったよね」

「ああ」

「いいなぁ…私もね、一人部屋がよかったんだけどさぁ、春樹がいたから二人部屋に入れられたんだよね」

勇子は息を吐いた。春樹が近づいてくる。

「気にせず一人部屋をとればよかっただろう? 僕がそんなに頼りないかい、勇子?」

「かーなーりー頼りないです。 鬼強チートの冬士じゃあるまいし、まだ護法式まともに扱えない春樹じゃ無理!」

「?」

朱里は首をかしげた。はて、春樹に護法がいただろうか。見たことがない。

「…見たことないぞ。 強いのか?」

「…まあ、強いというか…」

「強すぎて、式神になってくれたのはいいけれど、言うことを全然聞いてくれないんだ…」

肩を落とす春樹。勇子が笑った。

「まあ、龍だしね?」

「! …龍、か。 長いほうだよな?」

「うん、長いほう。 まあ、土御門の龍も八百万の神々の一柱だし、ばれたところで何が起きるとも思わないけどねー」

その時、勇子のスマホが鳴る。

「お。 運び終わったみたい」

続けて春樹にもメールが来る。

「…え?」

「どしたの?」

勇子が春樹のケータイを覗き込んだ。そして固まった。

「…勇子、春樹、どうしたんだ?」

固まってしまった2人に朱里が尋ねる。

「…明後日のキャンプ。 十二神将が来るって」

「しかも2人」

「…陰陽局って万年人手不足ではなかったでショウカ?」

「鋼山さんの反応は正しいと思う」

勇子は頭を掻いた。

「…まだ何かあるのか?」

「…来るのが、多嶋さんと蓮司らしいんだよね。 龍冴先生に動けとは言えないし、他の十二神将が真榊に向かったのは知ってるんだけどさぁ…」

勇子ががっくりと肩を落とす。

「し、仕方ないよ、勇子。 蓮道のあの威圧感のある表情を視界に入れなければいいだけだ」

「アレが春樹の護衛とか…よっぽどのことがないとアレは勝手に動くからなぁ…」

勇子の思考回路がぐちゃぐちゃになっているのははたから見てもわかる。朱里はまあいいか、と教室を出た。

 

 

 

 

 

―冬士サイド―

買い物を終えて、俺たちはいったん四葉先輩の家にお邪魔した。冷蔵庫をお借りすることになる。アイスを冷凍していた俺の力を使えだと?ふざけるなあれは専用の術を組んだ符を持っていないと使えない。現在そんな便利アイテムは手元にない。あとあれはあれでかなり疲れる。

つまるところ疲れる、そしてめんどくせえ。だからしない。

 

「さて、あとは皆を待つだけかな」

四葉先輩がそう言った。俺は千夏と顔を見合わせた。

「四葉先輩、ちょっといいですか」

俺が手を差し伸べると、四葉先輩は何の疑いもなく俺の手を握った。

…痛え。

女の体ってこんなに力出るもんなんだな。無意識なんだろうが50キロぐらいの握力はあるだろう。こんな細い腕にそんな力があるのか。

俺に御影がいなかったらとっくに手の骨が折れているところだ。おそらく粉砕。

千夏がスマホで勇子に連絡する。つーか、空メールだ。

「?」

四葉先輩が首をかしげた。

足元が光った。

千夏に抱きつかれた。大輔が俺の肩に手を掛けた。

眩しいから目を閉じた。

勇子側の準備は終わっているらしい。

目を開けると、目の前では勇子がピースしていた。

「!?」

四葉先輩が目をこすった。視力が回復しそうだな。

俺が勇子の向こうにいるやつに頷くと、そいつはうなずき返して、小さく息を吸って。

 

「…」

 

四葉先輩が顔を上げた。俺の手を放して振り返る。

静かな曲ではあるが、アーティストの曲だ。四葉先輩が好きだと言っていたアーティストの曲。

ここは集会場だ。

大体36平方くらいの広さの部屋だからな、オーボエが結構でかい音に聞こえる。これトランペットとかトロンボーンとかどうなるんだろうか。生成りの耳が潰れねえことを祈る。

四葉先輩はその曲に聞き入っていた。

俺たちは四葉先輩のお別れ会をキャンプの前に学校でやっておこうという勇子の案に乗った。そしてそれに応えたのはクラスメイトの皆様と事情を知っている一部の生徒。生成りにはどう頑張ったって隠せないから生成りは皆ここにいる。皆事情を知っている。

ふと視線を上げると、そこに黒い髪をたらした女が見えた。

ちょいと前に世話になった怨霊だな。悪霊じゃねえのが救いか。

1曲目が終わって、2曲目に入る。

この怨霊、最近全然姿見てなかったな。勇子にlineを送ってみる。

『あの怨霊最近全然見てなかったんだが』

『うん、四葉先輩と仲良くなって2階にずっといたみたいだよ』

縦移動するのか。幽霊だもんな。そうだよな。

『じゃあもう怨霊とは言えねえのか?』

『そうだね。 もう彼女の瘴気は四葉先輩がすっかり祓っちゃったんだよね』

俺は四葉先輩を見た。ずっと曲に聞き入っているその真剣な表情を見て、残念だと思った。

こんなに好きなことに対して熱中できるような人ばかりが死んでいく。今紫苑に言うとかなり叩かれそうだが、俺は趣味と言えば誰かを弄って遊ぶことぐらいしか思いつかねえ。ロクな人生歩まないフラグが既に立っていると勇子の両親によく言われたものだ。

四葉先輩はきっとあの怨霊が苦しんでいたように見えていたのではなかろうか。偽善で結構、偽善ですべてが始まるのだと先生―――千夏の父親が言っていた、生成りは最初に当たる陰陽医の態度によってはかなり塞ぎ込んでしまうのだとか。だから偽善をずっと続けていくんだそうだ。苦しみを和らげるために声をかける、その言葉に込めた気持ちを人間と違って怨霊も悪霊も敏感に感じ取るから、下手に同情すればとり憑かれるし、ちゃんと祓いをこなしてやれば浄化されて無事に輪廻の輪に乗るために霊界へ旅立つ。

『力はかなりありそうだが』

『ずっとここにいただけじゃなくて、骨が校舎の下にあるみたいなんだよねえ。 こればっかりは次校舎を建て替える時に掘り出してあげないといつまでたってもこのままよ』

なるほど。本体がこのすぐ下か。ということはおそらく髪の束が落ちていくところが骨のある位置とみて間違いないな。

2曲目が終わって3曲目に入った。

四葉先輩が泣きはじめた。

あなたのことを忘れない、どんなに離れたって。

そんな意味の歌詞のついた曲。卒業式のような曲だ。本当の意味を知っている人の選曲だろうな、これ。二度と会えないんだからな。

『勇子、俺はもう一仕事済ませてくるぜ』

『了解。 早く来いよ?』

勇子と視線を交わしてスマホをポケットに突っ込んで、隠形して俺は集会場を出た。

 

 

 

―四葉サイド―

「すっごくよかった!」

私はもう泣いております。こんなの企画してたなんて知らなかったぞ、勇子ちゃんたち!

そう行って皆にお礼を言ったら、クラスメイト達は転校なんて急だね、と言ってきた。そう、私は転校するということになっている。

「メールするからね!」

そう言ってくれる皆には悪いのだけれど、私はキャンプにケータイを持っていく気はない。どうせ通じても通話できるかどうか分からないし。その時にはもう死んでるかもしれないし。もう体は死んでますけど。

でもそんなこと皆に言えるはずもない。私結構line魔だったからなあ。私が既読すらせずにほっておいたら皆気付いちゃうよね。でも仕方ない。そこは勇子ちゃんたちにすでに言ってある。勇子ちゃんにじゃなく、勇子ちゃんの遠縁の親戚である蘆屋幸助という子に任せると。蘆屋道満の直系らしい。蘆屋系の家ならたぶん対応には慣れてるはず、ということでお任せしているのです。

勇子ちゃんを見たら、勇子ちゃんはにっと笑ってくれた。あれ、冬士君がいないなあ。まあ、いいか。彼のことだからまた何か裏で動いているんだろう。

キャンプでまた何か予定とか変わるのかな?その時には連絡くれるはずだし、待っとこう。

いまは、皆とのかき氷パーティを楽しもう。

 




曲は大体ファンキーモンキーベイビーズの「ありがとう」あたりを起点にイメージしてました。
いい曲ですよね…。
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