日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第10話 かき氷

かき氷パーティに参加した顔ぶれは焼き肉に参加していたメンバーたちだ。その中に、先ほど吹奏楽部とともに演奏していた少年少女がいた。

名は、香坂光輝(こうさかこうき)香坂紗由希(こうさかさゆき)。光輝の方はオーボエを吹いていた。

四葉との出会いはこの春であり、2人して倉橋の校舎内で迷子になったところを四葉に案内をしてもらって仲良くなった。後輩たちの中では、吹奏楽部に入ったわけではなかったが、四葉と仲が良かったメンバーである。

「紗由希、味何がいい」

「イチゴかなぁ。 練乳があるともっといいなぁ…」

紗由希の手元には枕が転がっている。人様の家にまで持ってくるなよと言いたいのは兄よりもむしろ周りのクラスメイト達だったりする。

この2人、今まで散々冬士や勇子が起こした騒動に対して特に動じることなくのほほんと過ごしていた数少ない人物たちである。

2人はAクラスの中では珍しい名家出身である。新家今井家の分家である香坂家の双子の兄妹だ。冬士のカミングアウトに対して気にした様子はほとんど見せなかった。そのかわり、音楽療法を冬士と大輔に対して試したという経緯も持っている。2人の得意分野は音楽。そして、音楽というものは上手に弾くのではなく、気持ちを込めて弾くのが第一とするのが彼らの信条である。保育園児のころに2人で読んだ古文の文章からの引用だと冬士に語った。効果覿面で大輔と冬士は次の授業に出てこなかった(眠ってしまった)。そこから冬士がよく光輝に絡むという形で仲良くなった。

「冬士、練乳とかあるか」

「あるぜ。 紗由希はイチゴだったよな?」

「聞こえてたのか」

「耳がよくてな」

冬士がかき氷を盛り付けて光輝に渡した。

「光輝、お前は?」

「じゃ、ハワイアンブルーで」

「スタンダードだな」

冬士はハワイアンブルーでかき氷を盛り付けて光輝に渡す。

「サンキュ」

「おう」

冬士のもとを離れて紗由希のもとへ向かった光輝。紗由希は楽譜を見ていた。

「紗由希」

「あ、お帰り~」

紗由希は楽譜から視線を上げた。光輝からかき氷を受け取った。

「いただきます!」

氷が溶ける前に皆さっさと食べ始めている。冬士は最後に食べる気らしい。光輝もかき氷を食べ始めた。

 

 

 

 

 

四葉は冬士の横に腰を下ろした。

「?」

冬士はハワイアンブルーを食べている。四葉はメロンである。

「冬士君、色々企画してくれてほんとにありがとうね」

「…気にしないでください。 俺もイベント事は大好きなんで」

「…」

四葉は小さく微笑んだ。冬士は四葉の目を見つめた。

「…どうしたんですか?」

「…いやぁ、ね? ちょっと不安になってきちゃってさ」

微笑みは苦笑に変わっていた。

「…やっぱ1人だと不安になりますか」

「…うん。 こんなネガティブ思考がよくないのはわかってるんだけどさ」

「…分かります。 …でも、前向くしかないっすよ」

冬士は何と言葉を掛ければいいのかよくわからない。四葉の抱える問題と冬士の抱える問題は、周りの対応こそ同じとはいえ、本質は全く違う。

まだ生きているからつらい冬士と、もう死んでいるからつらい四葉。この両者の間に横たわる溝はけして浅くはないし、簡単に越えられるものでもなければ、簡単にひとくくりにしていい問題でもない。

まだ生きている冬士には時間がある。でももう四葉には時間がない。

「…ねえ冬士君、古典では先立たれることを後れるって言うよね」

「そうですね」

突然古文の話を始めた四葉に、冬士はうなずいた。

「…冬士君はさ、死ぬ人は皆を置いて行くって思う?」

「…」

冬士は止まった。

微妙な話だ。

死因によるだろう。自殺であれば置いて行くのは確かだが、本当に置いて行くのは死人の方だろうか?違う。

冬士の持論でしかないが、自殺するのは弱いやつだ。皆に言う勇気のないやつだ。皆を頼る勇気のないやつだ。でもその気持ちを嫌というほど知っている。生成りであることから散々嫌がらせも受けた。大の大人の反応がそれでは冬士のように大人が恐くなったって仕方がないというものだ。

弱いまま死んだならば、それは強くなっていく皆に置いて行かれることになる。

さて、四葉の置いて行くとはどちらを指す言葉か?

「…考え方によりますね。 俺の考え方だと、死因によります」

「…そっか。 私はね、分からなくなっちゃった」

かき氷を食べる手は止まったままだ。

「…俺は、四葉先輩は置いて行く方だと思います。 俺たちは貴女に先立たれる」

冬士は率直に述べた。

四葉はけして弱くなかった。霊獣相手に恐がらない人間なんていないと冬士は思っている。冬士だけではなかろう。勇子や大輔、千夏に聞いたって同じ回答がそこにあるのは確かだ。霊獣というのは、ただの幻想だなどというものたちもいはするが、実際に起こっているのだから彼らにとっては現実だ。霊獣は冬士たちにとっては火災の炎と同じだ。

命を刈り取っていく、すべてを焼き尽くす炎と同じだ。

火を恐がらない動物はいない。そうでなければ命を守れない。

よって、導き出される答えは、“皆霊獣を恐がる”である。

それだけのことだ。

四葉が弱くなかったというのは、精神的な面も大きい。

聞きづてでしかないが、四葉は焼原に庇われた。見鬼ですらなかった者が旧家の人間に庇われるのはよくあることだ。しかし霊獣に殺される友人たちをまざまざと見せつけられたはずの彼女は、それでも焼原を庇って死んだ。しかも、その霊獣はグールだった。グールはタイプ鬼に分類される。だから、追い払うのは非常に難しい。元の四葉の霊気の構成を視ていないため推測の域を出ないが、もともと陰の気が多かったと推測される。グールに限らず、霊獣たちは陽の気を取り込んで体を維持する。人間に取り憑いて陽の気を享受するものは多い。グールはその典型で、生き物の体が持っている陽の気を食らいつくしたら離れる。陰の気だけになったその体に霊気をこめてから分離し、しばらくすると2体目のグールが出来上がる。ちなみにもとその体に入っていた魂は霊気の塊でしかなく、別のモノに食われなければ肉体から陽の気が無くなった時点でグールになり人間としての意識を失って彷徨うようになり、こちらも出来上がった場合合計で3体のグールに増殖するわけである。グールが出た瞬間に中部地方に結界が張られた理由でもある。

「四葉先輩は、グールになっても人間としての意識を持ち続けて生きてきた。 それだけですげえことだと思います」

冬士はそう言って視線を勇子たちに向けた。

勇子たちはおかわりをしまくっている。明日腹こわすな、あれは。そう思った冬士だった。

 

 

 

その日は最後に光輝と紗由希のピアノとヴァイオリンに合わせて、皆で合唱をして終わった。

楽しかったよ、と四葉は笑った。

四葉が学園を去るまであと4日という日のことだった。

 




余談。冬士のそばにあると氷はとけません(真顔)。


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