自分に絶対の自信があった。
第3級の免許を取ることができた自分に、自信があった。
慢心もあったと思う。
誰が傷つくかなんて、最初から考えてなんかなかったんだ―――。
「一日で秋に飛ぶってなんか不思議な感じがするね」
勇子の言葉に、冬士も咲哉もうなずいた。船島、リン、鷹は慣れているのか、そうかな?と聞き返してきた。
「どう、冬士?」
「…たぶん、ここだな。 船島、リン、鷹、頼むぜ」
それぞれが頷いて、蓮司を振り返った。
「蓮司殿。 そっちはどうなんだ?」
「ああ。 無事2人の保護は完了した」
蓮司はケータイを確認しつつ言った。
彼はともに捜索隊として送られてきたメンバーに被害者のうち2人を任せて勇子たちを探しに来ていたのである。そのため、昨日は夏エリアを1人で探し回っていた。
「今回のトリガーが誰なのか…勇子様たちに心当たりはありませんか?」
「トリガー…? 今回のは霊獣による転移霊災じゃなかったんですか?」
勇子の問いに蓮司は頷いた。
「5キロ範囲を転移させるなんて、それこそ悪魔ぐらいなものですよ。 東洋にそんな広範囲を転移させて8人しか巻き込まない霊獣なんていません」
「…じゃあ俺ら以外のメンバーは?」
「保護した2人は本条御園君と、三好正則君だ。 あとは、湯島令子さん」
「湯島だな」
「湯島さんだわ」
「絶対湯島だ」
「…な、なぜそこまで断言…」
冬士は呆れたように息を吐き、勇子は舌打ちした。咲哉もため息をついた。
「…何かあったんですか、勇子様?」
「…湯島さん、どうも私と大輔が同居してるのを知ったらしくて」
勇子は呆れた、と小さくつぶやいた。冬士が言った。
「同棲と勘違いした、と言った方がいいかもしれません。 …ほら、4年前のことは情報規制がされてるじゃないですか」
「…ああ…そうか、大輔君のご家族のことも伏せられてたってことか…」
蓮司は考え込んだ。
ふっと目を覚ました大輔はあたりを見回した。
ここはどこだ。
見覚えはない。だがこの霊気を自分は知っている。
知り合いのはずだ。
ああ、それ以上に、体の奥が疼く。何だ、何をされたというんだ。
大輔は呼吸を整えて、改めてあたりを見回した。
大輔はベッドに寝ていた。寝ている、というよりは、縛り付けられている、の方が正しいようなのだが。
この状態を大輔は知っている。
ああ、またこんな。やっと抜けられたのに。嫌なこと思い出させやがって。
心の中で悪態を吐いて、大輔は近くに人の気を探した。
すぐ近くで、人の気を感じた。
ドアが開き、少女が姿を現した。少女はロングの茶髪をストレートに下ろしている。目は青っぽい。木属性の影響だろうか。
「…湯島」
「…いきなりこんなことしてごめんね、大輔君。 でも大丈夫」
湯島令子。彼女は笑った。
「すぐ祓ってあげるから」
大輔の背を悪寒が走り抜けた。彼女は悪気はないだろう。しかし、この状況はまずいことこの上ない。
「ふざけないでくれ。 封印の意味を知らないわけじゃないだろう!?」
大輔は声を上げた。鬼気が混じらぬように、細心の注意を払いながら、怒鳴る。令子は小さく笑ったまま。
「大丈夫だよ。 もう私、第3級陰陽師なんだよ。 陰陽医にだってなれる」
「!」
大輔は唇をかんだ。
大輔は第1級陰陽師の陰陽医療しか受けたことがない。千夏の父親の治療しか、受けていないのだ。それが下のランクの医療を受けさせられる時の恐怖は半端じゃない。
「嫌だ…やめてくれ、もうあんな思いはしたくない!」
「大丈夫。 封印じゃない。 きっちり祓うから」
「お前の手に負えるものじゃない…! 生成りだってわかったなら普通に逃げろ! 死にたいのか!」
大輔が止めようとするが、その時、大輔はヒッと小さく息を止めた。
「…」
令子の目に、光はなかった。
「…」
冬士は小さく息を吐いた。現在冬士は巨体を誇る長い霊獣にすり寄られている。
俗に“龍”と呼ぶ霊獣である。そして、そんな冬士の腕にグリと押し付けられる卵。
「…これを孵せっていうのか?」
「グ~」
低く龍は唸って、目を細めた。そう言うことらしい。
皮袋は下に降ろす羽目になった。トエには夏で無茶をさせてしまったためなるべく傍にいたいのだが、まさかこんなすぐに卵を押し付けられる羽目になるなんて。
冬士はゆっくりと自分の体から離れていく龍を見つめる。
龍は美しい黒と青と白の三色の鱗を持っている。たてがみは白、角はうっすらと金色に光っており、爪は白銀。瞳はライトグリーンに光っていた。
龍とは美しいものだ。
「…冬様の色…」
トエが小さくつぶやいた。
「…そう、だったな…」
冬士はそう言って、トエを撫でた。スマートフォンを取り出して、勇子にメールを送る。
すると、ふっと意識が一瞬飛んだ。
「!?」
冬士は何とか卵を抱える。スマホは落とした。トエがソレを受け止めてくれ、倒れかかった冬士の体を支えた。
「冬様…?」
「…トエ…悪ぃ、すこ、し…頼む…」
瞼が重い。なんだこれ。
ヤバい気しかしない。
冬士はふっと、ああ、トエの時もこんなことあったな、と、遠く考えながら意識を手放した。