日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第12話 キャンプ

 

キャンプ会場についた四葉たちを待っていたのは、そこそこ涼しい森と川である。

四葉はキャンプに出てくる直前に、桃枝に別れを告げた。

 

「え、なんで…?」

「…騙しててごめんね、桃枝君。 私、屍鬼(グール)なんだ。 じゃ、元気でね!」

 

告白されて一方的にフラれた桃枝は驚いて声も上げられなかった。告白しておいてフるとはどんな神経をしているのかと思われただろう。それでも構わないと四葉は思った。

桃枝がグールのことが嫌いだというのはもう疑いようがない。そもそも本人が映画のジャンルから外してほしいとい願うほどに拒絶している。その原因に家族の死が絡んでいると知らされて、相手が自分と同類であると知ってしまった以上、四葉にはもう傍にいようと思うことはできなかった。

四葉は泣きながら両親に事実を告げ、頑張って家を出てきたのである。なぜ中部地方にいるわけでもないにもかかわらず、死体が残らない形で死なねばならないのかと両親は泣いた。弟は泣かなかったが、持って行けと言って大事にしていた水晶のペンダントを四葉に渡した。

 

キャンプで過ごすのは2泊3日。3日目の夜には皆で四葉を送ろうとしている。

冬士は静かに息を吐いた。

「…何で俺はテメエにつけられてんのかねえ?」

「気付くの遅すぎるぜ、冬士? 今のまんまならあっという間に俺のモンにできそうだな」

「ハ、テメエの式神なんざ人権が保障されても願い下げだぜ」

冬士は徹底的に昌次郎に噛みつくことにしたらしい。昌次郎もニヤニヤ笑ってそれを受けている。昌次郎の興味は大輔よりも冬士に偏ったらしい。

「テメエといるとロクなことがなさそうだ」

「よくわかってんじゃねえか。 …ま、神成にいりゃそうなるだろうな」

ケケケと笑って、昌次郎は空を見上げた。1日目の夜、2日目の夜と、冬士が何かを待っていることに昌次郎は気付いた。

「…おい冬士、お前、何を待ってんだ?」

「…? ハ、テメエにゃばれたか」

「分かりやすいんだよ、乙種呪術丸わかりだボケ」

昌次郎に言われて冬士は小さく舌打ちした。

「隠形ザコ、対象者もわかりやすい。 焼原と桃枝のガキになんかしてるな?」

「…ケッ」

冬士のプライドはけして低くはない。昌次郎は分かっていて冬士をいじるらしかった。

「…まぁ、本人たちにゃばれてねえようだがな。 桃枝は気付いてもおかしくねえのにな。 お前の話術は巧みらしい」

「…お前が褒めに来ると気持ち悪い」

「酷いぜほんとに」

昌次郎は伸びをした。空で星が瞬いていた。

「ん」

「お」

空を一筋、大きな星が流れた。

 

 

 

 

 

「四葉先輩」

「お、大輔君。 君が声を掛けてくるとは珍しいなあ」

大輔が声を掛けて、四葉は振り返った。

「?」

「…笑って、られるんだな、先輩は強いな」

「そうかなー? そんな自覚はこれっぽっちも」

ないですよ、と言おうとした四葉は近くに来ていた冬士に気付いた。

「どうしたの?」

「…いや、何となく。 もうすぐですね」

冬士の言わんとしていることはわかる。3日目の夜9時ごろ、四葉は出ていくことにしている。そのことを知っているのはここにいるメンバーのみである。

「…皆にちょっと話をしてみるってのはどうだ?」

「チッ…テメエ、こっちくんなっつったはずだぜ」

冬士は声を掛けてきた男の方を見た。オレンジ色の髪と真っ赤に光る双眸。

「…ほう。 こいつはもともと陰の気が強かったタイプか?」

ニヤニヤと昌次郎は笑っている。四葉は首をかしげた。

「私のことそう言ったのは2人目ですよ。 1人目は焼原君でしたけれど」

「…ビビらねえのか」

「人間じゃないですか。 死体と睨めっこするほど怖いこと知りませんよ」

四葉は小さく苦笑した。昌次郎は小さく考えこんで、時計を見た。

「まだ時間あるなら最後にここにいる全員を“プロ”にするための礎にでもなってみねえか、グール?」

「…いいですね」

四葉は笑った。

 

 

 

焚き火を囲んで全員で話をする。司会は四葉と昌次郎である。

「皆に考えてほしいことがあるんです」

四葉が言う。勇子と冬士は近くで四葉を見守っていた。

「せっかくのキャンプで最終日だからなァ、お前らザコに一つ宿題を出してやる。 十二神将直々の宿題だ」

昌次郎はニヤリと笑った。冬士は目を細めた。

「皆、私はグールだよ。 グールは人間を媒介して増えていくのは知ってるかな?」

「…とりあえず、習いました」

吉岡が答えた。勇子はぐっと伸びをした。冬士は息を吐いた。

「グールってのはタイプ鬼に分類される。 強力な霊獣だろ?」

「まあな。 そこでだ。 グールは人間を食らっていき、食われた人間は通常そのままグールになっていくんだが、この大平四葉っつー生徒は実に珍しいタイプでな。 陰の気がもともと強いとグールとして意識を持っていかれる前に体からグールが離れる場合がある。 こいつはそのパターンだろうな、グールが離れて自分の体に戻れたんだろう」

昌次郎が言うと、焼原がパッと立ち上がった。

「おいちょっと待てこら十二神将。 てめえ四葉に何吹きこんだ」

「クソガキは黙ってな。 焼原の血がグールを引き寄せやすいってことぐらいは知ってんだろがボケ。 どうせお前が大平たちといた時にグールに襲われたんだろ? 残念だったな、お前が加害者だ」

「昌次郎、相手をなじるのはあとにしてよね」

勇子から昌次郎に石が飛んで行った。昌次郎は後ろから飛んできた石を拳で砕いた。

「まあとにかく、グールってのはもともと人間なわけだけれど、まあ、死体のことだよね。 皆は私のことを人間として接するように努めてくれた。 まあ、もうここに来てる時点で私は助からないのわかってるわけだけれど、私は皆と過ごして楽しかったです」

四葉は笑った。

「さあて。 テメエらはこれから大いに悩むぜ」

昌次郎はニッと口端を釣り上げた。冬士が小さく舌打ちした。

「冬士、テメエは鬼の生成りとして意見よこしな。 率直に聞くぜ。 お前はグールを殺すことをどう思う?」

「…グールを殺すこと…か。 人殺しと変わんねえんじゃねえか? 俺はグールとやりあったことねえよ」

「もしも殺りあったらどうする?」

「…さて…銃が欲しくなるところだな。 俺は生憎と暴走時の記憶はないタチでね」

「ハ、土御門の神童をボコボコにして息切らして気が付いたら辺りは血の海だったか?」

「黙れクソガキ。 それ以上その手で直接冬士に触れるな」

冬士の目が青く光った。

「御影、落ちつけ」

「餓鬼どもが手ェ伸ばして来てんだよ、落ちつけるかボケ」

「…お前そうとう冬士と混じってんな? …っと、本題に戻るぞ。 もうあんま時間もねえしな」

昌次郎は周りの生徒に向かって言った。

「親しいやつがグールになったらどうするか考えろ、それが宿題だ。 グールが万が一この特殊例みたいになったとしたら? そいつを人間として扱うのかとか、そいつと別れるときどうするのかとか、そいつが暴走してモノホンのグールにでもなったらどうするかとかな」

あんまり酷じゃないのか、と蓮司が言った。昌次郎は真剣な表情を作って見せた。

「蓮司さんはすっげー強いからいいっすけど、こいつらは小手先の呪術もまともに使えやしません。 グールや餓鬼系の最底辺のタイプ鬼に対する人間としての情念とかそんなもんを振り払う訓練は大事っす」

「彼らはまだ1年生だ」

「陰陽業界、強いては祓魔業界に関わろうと思ったならこれくらいの覚悟ねえとやっていけませんよ。 現代陰陽術、かなり西洋の流れが入っちまったけれど、本質は変わってない。 俺たちの術は霊瘴を散らすことこそできても、霊獣は殺せない」

「霊獣を殺すのは目的にないからな」

昌次郎と蓮司が睨み合う。勇子が息を吐いた。

「その話は陰陽局に帰ってからしてくださいよ~」

昌次郎が時計を見た。

「…9時だぜ」

「はーい」

四葉が立ちあがった。

「じゃあ、皆、バイバイ! ほんとにありがとう、楽しかったよ!」

四葉がそう言うと、焼原が四葉に走り寄った。

「?」

「俺も一緒に行く。 いいだろ、四葉?」

「…ちょ、焼原君、私中部に行くんだよ? 1人じゃ危ないでしょ!」

「お前のことだからどうせグール潰しながら行く気なんだろ? 最後までいてやる! 責任取るっつったろ!」

焼原の言葉に四葉は目を見開いて、息を吐いた。

「…もう、馬鹿だねえ。 死んだら許さないよ!」

「死人に言われたくねーな」

四葉と焼原が笑った。焼原が冬士を見る。冬士は立ちあがって会釈をした。

「…冬士、桃枝先輩にも何かしてたんじゃないの?」

勇子が小さく尋ねる。冬士はいや、と小さく返しただけだった。

 

四葉と焼原が姿を消した時、朱里が視界の端に点滅する光を見つけた。

「?」

「朱里、どしたの?」

アレンが尋ねる。朱里は蓮司に近づいた。

「これ…は?」

「ん?」

蓮司は朱里がさした腕につけられた点滅するブレスレットを見る。

「ああああ!! まずいッ!!」

蓮司の大声で皆が振り向いた。

「…マジか! おいザコども、ありったけの符を集めて護身結界を張れ! 死ぬぞ!!」

昌次郎が叫んだ。

 




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