蓮道昌次郎という人間について、陰陽局は頭を抱えている。というのも、まず昌次郎の性格が大問題である。新しい芽をすぐに摘み取ってしまうタイプである。彼の搾取にそれでも耐えて立ち上がってくるほどタフな精神のものはいないだろうと陰陽局に勤める者なら誰でも考えてしまうものである。それほどまでに、昌次郎の加虐的な性格はひどかった。彼が神成家に引き取られるまで監禁状態に置かれていたことを知らない者からすれば、彼は社会不適合者以外の何者でもない。
しかし実力は本物。現在皆の前に姿を現す称号持ちとしては唯一の全免許取得者である。この全免許というのは、アレンたちも持っているものの最上級のもので『第1級陰陽免許』、公務祓魔官(つまり公務員版祓魔官、祓魔官には陰陽師もエクソシストも他の呪術師も含む)が取らねばならない免許の最上級の『祓魔第Ⅰ種』、十二神将になるために最低限必要な『陰陽第Ⅰ種』の3つのことである。
帰りのバスの中で蓮司を皆で質問攻めにした。
「蓮道祓魔官は十二神将になる前独立十将でしたよね?」
「ああ。 昌次郎は12歳で独立十将になったんだ」
「陰陽Ⅰ種ってどれくらい難しいんですか?」
「うーん、皆じゃまだまだ取るのは難しいと思うよ。 それこそ昌次郎に本気の防御障壁張らせるくらいの実力は必要だ」
優しく答えてはいるが現実的である。勇子はうわ、と言った。
「蓮道祓魔官そんなにすごいの?」
「あれは母さんに頭が上がらないからウチで養えてただけらしいからね。 神成家じゃアイツ止めらんないよ」
勇子の言葉に、朱里は横に座っているアレンに尋ねた。
「…アレン、第Ⅰ種ってそんなにすごいの?」
「陰陽免許は世界共通で日本が基準。 他の同じ基準の免許は国連の設定だし、万国共通だよ。 でも陰陽Ⅰ種、Ⅱ種、Ⅲ種は日本にしかないし、4年前ので基準が改められてからは十二神将しかⅠ種の基準を超えられなかったって話だよ」
御影を基準にしたというのなら相当なものだろうな。
冬士はぼんやりとそんなことを考えていた。
「あと10分くらいだ、寝てるやつを起こせ」
烏丸が言って、皆で隣の寝ている生徒を起こした。その時である。
「!?」
蓮司が窓の外を見た。
「どうしたんですか?」
勇子が声を掛けた。蓮司がバスの運転手に言った。
「祓魔局へ向かって下さい。 早く」
バスの運転手はうなずいて祓魔局へと向かい始めた。冬士は隣で寝ていた千夏をつつく。千夏はまだ寝ぼけていたが、何か感じ取ったらしくすぐに意識を覚醒させた。
「…近いな…」
「百鬼夜行か?」
「たぶん。 でもそんなに強くはない。 あ、でも近くにタイプ鬼も感じる」
「…そんだけわかりゃ上等だろ」
冬士は窓の外を見た。千夏も窓の外を覗き込んだ。
「…おいおい…洒落になんねえぜ…」
冬士が青ざめた。千夏も大輔の方を見た。
「…皆、祓魔局に着いたらバスの中で待機。 身固めを徹底して」
「はい」
勇子がすぐに返事を返して皆に向かって言った。
「皆、百鬼夜行が出現したみたいだから、これから学園より近いし結界が強力な陰陽局に向かうよ」
吉岡たちもそれで状況を理解して、うなずいて見せた。
それから5分ほどで陰陽局に着いた。
「…!」
俊也と京一はばっと振り返った。振り返った先の空に、黒い影がいくつも見えた。
「…百鬼夜行だ…」
京一が言った。京一は2振りの刀と、自分の愛刀1振りを持っている。俊也は刃の赤い刀と愛刀を1振り持っていた。
「…祓魔局はまだなのか?」
「もうちょいですよ、もう建物は見えてます」
京一はそう言って走り出した。俊也はそれについて行く。
霊災放送が入った。
『百鬼夜行の出現を確認。 レベル10、フェイズ4、タイプワーム』
虫かよ、と京一がつぶやいた。祓魔局の敷地内に入ると、結界が立ちあがった。
「!」
「俺らが入るまで待っててくれたみたいっすね」
京一はそう言って、ふと近くに止まっているバスを見た。俊也が尋ねる。
「あれは?」
「倉橋陰陽学園の私有バスっすよ。 どこかに出かけてた帰りじゃないっすか?」
京一は建物の方へと歩き出した。俊也も付いて行く。
中からたくさんの職員たちが出てきた。
「? 君たちは?」
1人に声をかけられ、2人は礼をした。
「中部から抜けてきたんすけど。 祓魔、参加しましょうか?」
「!? …いや、大丈夫だ、ありがとう。 魔人だね?」
「うッス」
「ここで休んでいたまえ。 霊脈が近いからだいぶ体調も整うはずだ」
そう言って祓魔官たちが結界を出ていき、京一と俊也は取り残される。
「君たち!」
「?」
2人が振り返ると、そこにはよくテレビに出ていた人物がいた。
「! すげ、十二神将『断空』多嶋蓮司祓魔官!? ホンモノ!?」
「いかにも。 すまないが、2人は魔人ということで間違いないかな?」
「はい」
「俺、あまりあのバスから離れられないんだ。 見たところ2人とも斬撃系だし、局舎を守ってもらえるかな? アレが傷つくと結界にラグが起きる」
蓮司が言うと、2人はうなずいた。
「分かりました」
「任せな」
蓮司はうなずいてバスの方へ戻っていく。そこで彼もまた刀を抜いた。
バスの中に30名ほどの生徒がいて、中で身固めをしているのが見えた。京一はそのうちの1人に見覚えがあることに気付いたが、愛刀を抜いて局舎の方へと向かった。
「…冬士君、魔人って知ってる?」
犬護の問いに冬士は首をかしげた。
「いや、詳しくは知らねえな…魔人っていうと、あれだろ。 龍脈やら霊脈やらの影響を受けて見鬼になったり霊獣との戦闘技能を手に入れてるやつら」
「うん。 今そこにいた2人のうち1人、たぶん知り合い」
「…そいつが魔人ってことか。 …まずいじゃねえか。 翔、お前だけ身固め一段階上げるぞ」
「は?」
翔は首をかしげた。
「魔人が霊脈の影響を受けるなら、お前と俺と大輔はマイナスの影響を受ける可能性は高いぜ。 俺たちはまだ封印は強化されたまんまなんでな、問題があるのはお前だけだ」
「…マジかよ…」
翔はハアと息を吐いた。最近こんなんばっかりだ、とつぶやく。
「不運だったな」
「まあいいけどよぉ…。 臨っ、兵っ、闘っ、者っ、皆っ、陣っ、列っ、在っ、前っ」
呪力をこめて九字を切り、大輔が上から八角結界を張った。
「…御影の霊脈が近いのだけが救いだな」
「まったくだ…」
冬士と大輔も改めて身固めを組んで、蓮司の様子をうかがった。
蓮司の斬撃は物理的なものである。また、あらかじめ波長を合わせられた結界ならば傷つけることなくその向こう側にいる相手を叩き切ることができる。
蓮司はその刀で寄ってくるタイプワームを切っていく。
「…何でこんなに寄ってくるんだ…?」
先ほど声をかけた2人の魔人に特に上質な陰の気を感じたわけではなかったが、もしかすると、と思って2人の気を探った。
見つけた。
が、どうだ、これは。
片方はやたらと強い陽の気、もう片方はまさに生成りの気と同じ類の霊気を発している。
余所見をするわけにはいかないが、2人のことが心配になってきた。
そもそもここまで中部地方から抜けてきた時点で2人にかなりの戦闘技術があることは予測できることである。さて、ならばこの生成りじみた霊気と先ほどの刀から察するに、2人が来た場所は。
「…静岡の子たちか…!」
タイプワームの数が多くなってきた。すると、そこにふっと姿を現したのはつい先日も現れた2人組の男たちだった。
「酒吞童子、茨木童子!?」
「霊脈が溢れているらしい。 もうすぐ治まるだろうが、もうしばらくはまだ湧くぞ」
酒吞童子が言った。どうやら冬士が結界に入る前に2体とも控えさせるのではなく車の外をついて来させていたらしい。
「私も出るわ。 主たちをお願い」
煉紅が姿を現し、その場の鬼気が一気に爆発的に広がった。タイプワームの動きが止まる。酒吞童子と茨木童子が軽く手を薙いだだけでタイプワームが消え去った。煉紅がさっと金棒を取り出し、こちらも薙ぐ。それだけでアスファルトが砕けた。
「道を壊さないでくれ!」
「何でこんなもので固めちゃってるのよ!」
文句が返ってきた。霊獣からすればそんなものだろう。あまり影響はないとはいえ、今までは直接肌に感じていたであろう霊脈を少し遠く感じているはずなのだから。
蓮司は小さく苦笑いで煉紅に謝った。もちろん、特に蓮司が悪いということはない。
煉紅、酒吞童子、茨木童子が結界から離れていく。その先で鬼の姿を現すと、蓮司の視界の端で冬士と勇子がタグに何か言っているのが見えた。
「…」
少年が1人、駅のプラットホームから線路に降りた。まったく危険なことこの上ないが、霊災が起きた今、すべての公共交通機関はストップしている。少年はバッグから横笛を取り出した。
少年は無造作に笛を吹きながら歩いて行く。
「君、どこへ!? 避難誘導に従って!」
職員が声をかけても少年はそのまま線路を歩いてゆく。
そして、そのまま歩いて行き、突然姿が見えなくなった。
その時それを見ていたものたちは、口をそろえて、「飛歩を使った」と言ったという。
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