日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第7話 鬼にて

 

霊獣化というのは、半霊獣化の先にあるものである。

半霊獣かというのは、霊獣化の途中の状態のことで、最も不安定な状態になっている。半霊獣化すると、人間としても霊獣としても不安定な存在になり、人間界において自分の確固たる霊気を自分に留めておくことができない存在になってしまう。

よって、半霊獣化を霊獣化という安定した状態―――つまり、自分の霊気を自分自身のもとに留めることができるようになった状態にしなければ、その人間は人間でも霊獣でもない、“何か”に成り果てる。“何か”には自我がない。通常は霊獣として分類されるが、名前もない、もとになった人間もわからない―――そんな悲しい存在になる。ただ陰陽師や祓魔官に殺されるのを待つことしかできなくなる。

それに一番近いのは生成りである。

いや、まだ生成りは“堕ち”れば自分に憑りついた霊獣としての人生を歩むことになる分タチがいいというのが実態だ―――。

 

 

「―――じ、…うじ…!」

遠く声が聞こえる。

「―――冬士っ!!」

「!」

冬士ははっと目を開けた。目の前には、勇子の半泣きの顔があった。

「…ゆう、こ…」

「…メール見て心配したんだよ…!」

冬士はああ、と思う。

『龍の卵押し付けられた。 すり寄ってきてるし、結界崩壊寸前なんですけど』

あれは心配するな、と思った。

「あれはお前らに張った結界のことで…」

「そうじゃないよっ…! 見つけたら冬士倒れてるしトエは戦ってるし冬士は霜降ってるし…!」

「霜?」

冬士はふと自分の体を見た。学ランに白く薄い霜が降っていた。

「…秋なのに冬眠でもしたのかと」

「トエの尻尾凍ってたし…」

冬士は慌ててトエを見た。トエは少し痛そうに尻尾らしきものをさすっていた。

「…大丈夫か?」

「…折れなければなんとか」

「勇子、しばらくトエ頼む」

「頼まれました」

勇子は頷いて、冬士の体を起こす。冬士は霜を掃って、ふと腹に重みを感じて腹を見た。

「…!?」

「クルゥ?」

そこには、もう卵から孵ったらしい小さな龍がいた。

「…季節移動は…うああぁぁぁ…! 今の霜のせいかッ…!」

冬士は頭を抱えた。霊獣の幼体ならみんなやることは大体決まっている。食事のことなど考えたくもない。

そこに蓮司が走ってきた。後ろに船島と咲哉を連れていた。

「冬士君、大丈夫かい!?」

「…はい、何とか」

「…」

船島は眉をひそめた。

「冬士、お前、龍に卵押し付けられたんだよな?」

「ああ…」

冬士は腹から退こうとしない龍を撫でて頷いた。

「…霊獣化が一気に進んだみたいだね、冬士君」

蓮司が言うと、冬士は手を握り、開きを繰り返した。

「…冬士、お前、本当に冬士か?」

船島の言葉に、勇子ははっとしたように冬士を見る。

「冬士、御影は?」

「…平常運転だ」

「…ってことは、大輔…」

「ああ…封印が解かれたな。 めんどくせえことしやがって…」

冬士は立ち上がった。小龍は冬士の肩によじ登った。

「冬士君、その子、名付けを終わらせておいた方がいいかもしれない」

「…」

蓮司の言葉に、冬士は小龍をあらためて見つめた。

鱗は白銀で、一枚一枚は見えない。目はうっすらと水色がかっており、瞳孔が蛍光ブルーに輝いている。爪も白銀、たてがみは萌葱色。

「…テンペスト(嵐)」

冬士が言うと、小龍は名だと受け取ったのか、キュウと小さく鳴いた。

蓮司は頷いて、ふとある方向を見た。

「?」

「…皆、鬼気に備えるんだ」

蓮司の言葉と同時に、冬士の髪が微かに青っぽく光り始めた。リンと鷹がそっと近づいてきて、船島の後ろに隠れる。そんなことをしても意味なんてないだろうに、と勇子は小さく言ったが、咲哉の袖を少し引っ張った。

 

ドンッ

 

そんな効果音だった。

通り過ぎたな、と感じた時、咲哉が膝から崩れる。冬士が支え、勇子は咲哉の額に手を当てる。

船島、リン、鷹はかろうじて立っている状態だった。

蓮司はすっと大きく一つ深呼吸をして、振り返った。

「今ので大輔君がどこにいるのか、大体わかった。 すぐ向かわないと、手遅れになる」

勇子と冬士は頷いた。咲哉は何とか立ち上がった。

「ちびるかと思った…」

「それだけ口きけたら十分よ。 符はある?」

「大丈夫だ」

「行こう。 冬士、ボクを抱えていける?」

「お安い御用だな」

冬士はそう言って勇子を姫抱きした。蓮司は咲哉の手を引いた。

「ついて来てくれ。 動けるか?」

「…鷹は飛べないな。 俺が抱えていく。 リンと先に行ってくれ」

「早く追いついてくれ、船島。 大輔君には、簡易封印式と封印符を使わなきゃならない」

「!! そんなに強力な鬼だったのか!?」

船島が驚いたように声を上げると、蓮司と冬士は頷いた。

「封印だって、第3級以上じゃなきゃ知らない物を使ってる」

「…湯島は第3級を持ってる。 あいつには解呪法が分かっちまったんだろうな…オイタが過ぎるぜ」

冬士と勇子の目は、笑ってはいなかった。

 

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