日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第4話 冬士と辰巳

 

修祓訓練。

エクソシスト流である。陰陽師たちにとっても楽勝、とはいかない。

 

「冬士、お前は不参加だ」

「!?」

烏丸の言葉に冬士は驚いて振り返った。

「何でですか」

「…お前はタイプ鬼を使う訓練だと、タイプ鬼を引き寄せて本物の鬼にしてしまう可能性がある」

「…そんなのは大輔だって同じだ。 下手な嘘つくのはやめてください」

冬士は烏丸を睨む。烏丸が口を開こうとすると、辰巳が前に出た。

「辰巳…」

「冬士の望む情報を与えればいい。 こいつは引き際はよくわきまえている」

辰巳は冬士と視線を合わせた。

「冬士、今のお前の霊気の乱れは酷過ぎる。 そのまま霊気を使うと堕ちる。 俺たちの目の前で堕ちられては困る、俺たちはここの生徒を全員守るような力はない。 今回来ている十二神将は多嶋蓮司祓魔官のみ。 お前に引きずられて堕ちる人数を考えると全員死ぬ可能性の方が高い」

「辰巳、脅す必要は」

「俺は陰陽師としての教育を受けたわけでもなければ陰陽師を名乗ったこともない、我流の大馬鹿だ。 俺は教育者じゃない。 お前のようにこいつを守る立場に回ることは考えていない。 ―――俺はただ、こいつと戦いたくないだけだ」

辰巳の言葉に冬士はうなずいた。

「そうだな。 それぐらい言ってもらった方がわかりやすくていい。 …辰巳、―――」

冬士は言葉に詰まった。次の言葉が出てこない。

「…無理に言う必要はない。 烏丸、俺はしばらくこいつを見ておく。 頼む」

「…ああ、分かった」

烏丸はうなずき返し、生徒たちの方へと向かった。

辰巳は冬士を連れて木陰へと移動する。

冬士の顔色はあまり優れてはおらず、座りこむとすぐに大きく息を吐いた。

正直言って、かなり苦しい状況だった。辰巳がああやって冬士を強制的に引き離してくれなければおそらくBクラスやCクラスの生徒からのバッシングもあっていただろう。金気の量が著しく低下している現在、冬士としてはなるべく霊気を使用すること―――つまりは修祓訓練や式神の使役訓練などは避けておきたかった。

烏丸のあのタイミングから考えて、おそらく烏丸たちに手を打つように言ったのはここに来ていない闇や真千あたりだろう。

闇が最近クラスにも顔を出していなかったことがた正直気になるところではある。しかし、闇は普通の人間ではない。人間だった大いなるものと呼べば妥当になるだろうか。闇は閻魔天である。彼が何を考えて行動しているのかは分からない。冬士たちからはおおよそ想像もつかぬことである。

「…冬士、そのブレスレットは?」

「…ストラスがくれました」

「…」

辰巳は振り返った。そこに少年が1人いた。少年はうなずいた。

「ストラスの魔力だ。 人間らしき霊気も混じっているが、こちらは彼と仲がいいんだろう。 だが、この程度ではこの3日間は耐えきれないだろう」

「…そのたびに作る気かもしれんな」

「ストラスは強欲系ではない。 金を持っているとは思えないが」

冬士はそういや金の話してたな、とぼんやりと考える。どこに行ったって金は大事だな、と遠く思う。

「…霊気を使わなけりゃ、多少は暴れたって大丈夫だろ」

「…そうだな。 多少は動かねば評価もしてはもらえないだろうしな。 …お前が参加できそうなのは…」

辰巳が資料を取り出した。冬士はそれを覗き込んだ。

1日目のプログラムは今冬士が見学している修祓訓練で終了だ。2日目のプログラムは式神の使役訓練で始まり、昼からは自由時間。夜はもう一度修祓訓練。3日目はすぐに帰る。どれにも参加できそうにない。

「…ないな。 これはどうしたものか…」

「…式神の使役訓練はかろうじて、って感じだな」

あまり使いたくない。冬士は小さく息を吐いた。

―――先生が実家に帰ってたから先生に診せずにきたが、まずかったな。

体調がかんばしくないときに式神を使うなんてもってのほかである。特に冬士のように生成りだったりして一種類の霊気に統制できない霊気の波長だと、式神はすぐにラグを起こして消えてしまう。

「…くそっ」

「…焦っても仕方あるまい」

辰巳の顔に黒いあざが浮かび上がった。いや、刺青というべきだろうか。冬士は目を見張った。

「…龍の生成りってのはそういうことだったんだな」

「…上がって来たのか?」

「自覚はねえんだな」

「動いているなんて知りもしなかったしな」

顔に黒い龍の腕が伸びてきている。

「…冬士、お前本当に鬼か?」

「?」

「鬼を龍すべてが気に入るわけじゃないんだろう?」

辰巳の問いの意味に冬士は気付いた。

「…あんまりその話は周りにはしないでくれ」

「…分かった」

辰巳はうなずき、少年を膝の上に乗せた。

「こいつはブエル。 まあ、悪魔だ」

「ソロモン72柱の一角だな」

「よく知っているじゃないか」

ブエルが口を開いた。冬士は目を細めた。

なぜかは知らない。ただ、少し落ち着く。封印を強化された直後の安定感がある。

「…医療系か?」

「御名答。 どちらかというと精神系の方が得意だよ。 信用しろとは言わない、だが君の主治医の術をつなぐことはできる」

ブエルはそう言って冬士の肩に触れた。じんわりと暖かくなる。

「…これは結構手が込んでいる―――ふむ、ずいぶんと気にかけてもらっているようだ。 大切にされてきた証拠だな」

冬士は小さく息を吐いた。手が小さく震える。相手が子供だから何とかなっているだけのような気がする。いまだに相手側から触れられるのは慣れない。

「…震えているな。 大丈夫だ。 すぐに終わる」

辰巳が冬士の手を掴んだ。冬士の手はしっかりと辰巳の手を掴み返した。

「…すぐに終わる。 お前がよく知っている奴もいる。 千夏も呼ぶか?」

「―――いや、あいつに心配かけるほどぐらついちゃいねえよ」

にやりと自信ありげに微笑んだ冬士を見て、辰巳はうなずいた。

 

 

 

その間、烏丸は言うことをちゃんと聞いてくれない勇子に散々怒鳴り散らしていたのだが、勇子は全く気にかけず勝手に護法の鷹を呼びだして修祓訓練をクリアしていくのだった。

 




話がなかなか進まないことが悩みですね。ゆっくりお付き合いください。

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