日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第4話 肝試し

 

友達と合流した彪弥は驚いていた。

墓にたくさんの人魂が浮いていたからである。

お盆が近いとはいえ、まだ迎え火を焚く火ではない。つまり、これは。

「鬼火…」

妖怪がいるとわかっているところに進んではいるほど彪弥は精神タフにできていない。

だが。

「お、俺最初に行く!」

見鬼ですらない者たちがそんなところに入るのはいただけない。彪弥は森にいるであろう霊獣たちの様子を視てこようと決めた。

見鬼でなければ避けることすらできはしないのだから。

というかそもそも、鬼火を出す霊獣は何だったか。ちゃんと狂元たちに聞いておくんだったと今更ながらに後悔する。

「お前が最初にいったらおもしろくねーじゃん!」

「そうだぜ。 2人組で行こうと思ってんだよ」

「それはいいけど、俺は最初に行くよ? あ、それと、できれば銀竜に来て欲しいって言うか!」

彪弥は声を上げることができない友の名を呼んだ。

「えー」

「ほ、ほら、銀竜となら俺やたらビビったりしなくて済むし!」

声を上げられないのだから彪弥が銀竜の悲鳴に驚くことはないということなのである。悲鳴を上げれば妖怪の類はよってたかって驚かせようとしてくる。生首が降ってきてろくろ首が出たりしたらもう彪弥は腰が抜けることだろう。

「いいよな、銀竜?」

「…」

銀竜がうなずく。鬼火に照らされて、銀竜がうなずくのがはっきり見えた。

 

 

 

彪弥は銀竜とともに森に入って行った。懐中電灯で前方を照らしながらゆっくりと進む。コースとしては、森の一本道を道なりに進み、途中で二手に分かれるところがあるため、そこの道を左に曲がってそのまま道なりに進み、また二手に分かれるところを左に進んで、墓地の反対側に出るためそこから元の位置に戻ってくる、というものである。

「…銀竜、どうした?」

銀竜が立ち止まったため、彪弥は立ち止まった。すると、ゆらり、と青年が姿を現した。

「!?」

どこから来たのか、と彪弥は身構えた。

「…視えるのか」

「!」

しまった、と思った。こいつ、妖怪だ。

彪弥は相手の姿をじっくりと見つめた。よく見ると、首が浮いているようで。

「…抜け首…」

「安心しろ、俺はずっとここに住んでる。 とって食いやしねえよ」

抜け首はそう言って、提灯を取り出した。懐中電灯が消えていた。

「あ、あれ?」

「人工的な光は使えないぜ。 持って行きな」

抜け首が手渡してくれた提灯を銀竜が受け取る。

「…お、反射能力者か。 面倒なの連れてんな」

「?」

「まあいい。 ここをずっと行け。 今日は三又の道になってるから、真ん中の道を行け。 じゃあな、ゴール地点で待ってるぜ」

抜け首は一方的にそれだけ言って姿を消した。

「…行く、か」

銀竜はうなずいた。そういえば、と思って、銀竜に言った。

「聞こえてはないんだったよな?」

銀竜がうなずく。反射能力者というのは、身体能力者の系統の一つで、音を反射してしまう状態になっているため、耳が聞こえないという状態になる。そのため声の出し方がわからない。よって話すことができないという状態になる。銀竜は口の動きで会話を何とか成立させてくれる。

「…ヤバいと思ったら俺を置いてでも」

「…」

銀竜は首を横に振り、歩き出した。

しばらく歩いて行くと、生首が5,6個落ちてきた。無論彪弥は口を押さえて叫ぶのをぎりぎり耐えた。

「…っは、くっそ、いきなりかよ、つるべ落とし! 怖えっつってんだろ!」

叫ぶと、くすくすと笑う声が聞こえてくる。

毎回こんな反応をするからいつまでたっても妖怪たちが構ってもらいに寄ってくるということに気付いていないのだろうか。

「次行こう」

また歩き出すと、今度はとととと、と走る音が聞こえてきた。

「…」

銀竜が彪弥を引っ張る。樹に登ろうと言っているのだ。

彪弥は銀竜を押し上げて樹に登らせる。彪弥は上から銀竜に引っ張ってもらい、樹に上った。すると、ざざっ、とたくさんの犬が集まって来た。

「…」

息を殺して犬が去るのを待った。犬が去ってしまうと、樹から飛び降りた。

いつも見る犬だったため、もう降りても問題ないと判断したのである。そこにまだ犬が残っていた。

「昼見るよりでかいんだよなぁ…」

銀竜を見ると、銀竜は肩をすくめただけだった。彪弥の前をちょこちょこと走って行く犬が姿を消す。提灯は明かりを消してはいない。

「…」

歩いて行く足が自然と早くなる。

「…長くね」

「…」

銀竜はうなずく。抜け首が出てきたのもそのせいか。そう思って、はっとして振り返ると、銀竜の肩に手が乗っていた。

「…やめろっての!」

銀竜の肩の手を払って走り出した。ひたすら走る。すると、三又の道が見えてきた。

「真ん中!」

彪弥は走る。いつもよりもずいぶんと冷静に対応ができているのは、銀竜のおかげだろうと思った。

また長い道に入った。次の分かれ道までは長い。走るスピードを落として、彪弥と銀竜はゆっくりと進んでいった。

「…銀竜、今日は何かいるのか?」

「…」

銀竜はコクリとうなずいた。何が、とは問えない。名詞を言う力は彼にはない。

やはりさっき墓地にたくさん浮かんでいた鬼火が関係あるのだろうか。

と、彪弥の手右手が握りしめられた。

冷たい。

「っ!!」

驚いて手を見ると、人間の手首から先が彪弥の手を握りしめていた。まったくやめてほしい。声をあげそうになった彪弥の口を銀竜が押さえた。

「…ッ」

「…」

銀竜を見ると、銀竜は首を左右に振った。

そのまま歩いて行くしかない。おそらくこの手首自体は狢か何かが化けたもの。そう考えておこう。それが真実じゃなかったとしても。

「!」

彪弥と銀竜は立ち止まる。

彪弥と銀竜の前に現れたのは、一本道だったからである。

「…抜け首のやつ、三又って…」

彪弥が言うと、手首がぐいと提灯を引っ張って茂みの方へ向かおうとした。銀竜もそんな彪弥の背を押す。彪弥はえ、えと言いながら茂みに押されていった。

茂みに入ると、犬がちょこんと座っていた。

「…」

彪弥のすぐ後ろで水の降るような音がして、振り返ったら銀竜が真っ赤に濡れているように見えた。

「―――ッ!?」

また口をふさがれる。銀竜の方は特に気にしている様子はない。つまり、見鬼だから視えているものということだろう。

彪弥は犬が立ち上がり歩いて行くのについて行った。

少し歩いて行くと、鬼火がたくさん浮いた墓地に出た。

さっきの抜け首がそこにいた。

「…何とか…着いた」

「おっそーい。 陰陽師来ててこっちはハラハラなんだけどよ~」

抜け首はそう言って手を伸ばす。彪弥は提灯を抜け首に返した。

「ありがと…ところで、陰陽師って?」

「あいつら、見えるだろ? 2人は一歩こっち側だがな。 まあ、神成家だと思うからあんま近づかなきゃ何もされねえかな」

抜け首は寺の方へ歩いていく。

「ああ、さっきお前の仲間が森に入ってったぜ。 後ろの子みたいにしたくなかったら助けに行ってやれよ」

「お、俺に何ができるんだよ!」

そう言いつつ振り返ると、そこには、首のない銀竜の体があった。

「―――ッ!?」

何度驚けばいいのだろうか。

そこにはただ首がないならまだしも、血だらけの体があったのだ。足がふらつくのがわかった。すると、少女の声がかかった。

「あんたばっかじゃないの? 兄さんがそんな風になるわけないじゃん」

「…鈴蘭…びっくりしただろ…!」

「あんたビビりすぎ。 まあ、兄さんの使役式だったから見間違えてもおかしくはないんだけどね?」

鈴蘭。銀竜の双子の妹である。

「あー、楽しかった。 じゃ、あとは頑張れ」

鈴蘭はすべてを彪弥に丸投げして帰って行った。少し、抜け首の笑いを押し殺した声が聞こえた気がした。

彪弥は森の入口に向かった。

そしてそこで、大所帯の高校生に出会った。

周りの鬼火が揺らめいた。

ヘッドバンドをつけた青年は優しく声をかけてきた。とりあえず嘘ではない証言をして、森へ向かおうとした時、悲鳴が上がった。

 

 

 

今、彪弥は高校生たちとともに走っている。前を先行するのは5人。ヘッドバンドの青年(冬士)片目を髪で隠した青年(大輔)刀を持った青年たち(俊也と京一)前髪が目元を隠すくらいに伸びた青年()である。

横にいるのは赤っぽい髪の少女(勇子)と、黒い髪の毛先が赤い青年(千夏)

全員とりあえず、陰陽師訓練生というくくりらしい。

友人たちを助けるために、彪弥はとりあえず、走る。

何ができるとは、思っていないのだけれど。

肩でもっちゃんが、きゅ、と鳴いた。

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