冬士が動きを止めた。大輔、俊也、京一、歩も止まり、追いついた勇子と千夏、彪弥も止まった。
「…なんすか、これ…」
彪弥がつぶやくように言うと、千夏が答えた。
「霊瘴だ。 こいつら…妖怪だよな」
「…ああ、レベルは3から4ってとこだな」
冬士がそう言うが、千夏がギッ、と冬士を睨み、冬士はそれに気付いて肩をすくめた。
「千夏、俺は戦いやしねえよ」
「なら俺の後ろに来いよ。 んでもって冷静に状況分析よろしく」
「おう」
冬士は千夏のところまで一発で飛びのいて止まる。
冬士たちの目の前にはたくさんの妖怪が百鬼夜行を成していた。
勇子がそっと近づいて、指を出す。それに触れたらしい。
「ちょっと千夏、これやばいよ」
「?」
「こいつらフェイズ5かもしれない。 今1匹触れた」
勇子が言うと、俊也と京一が刀を抜き身にする。
「気が早いぞ、2人とも」
「でもよぉ。 こいつらもぶった切ればなんとかなるんだろ?」
「俊也さんは紫っぽい毒々しいのだけ狙って下さいよ」
「なんでだよ」
「寺は霊脈の上にあることが少なくありませんから。 ここのやつらだって霊脈の一端になってる可能性が高いんです」
京一はそう言って、目の前に迫って来た妖怪を蹴り飛ばした。
「ここはそこそこ強い妖怪がいるんじゃないっすか? 彪弥、ここにろくろ首とか抜け首とかいないか?」
「抜け首が、ずっと住んでるって」
「…陰陽師相手には出てくるわけないな。 とりあえず、とっとと彪弥のお友達探しましょう!」
京一が先行して走って行く。彪弥はついて行きつつ、足もとが光っていることに気付く。ちゃんと確認することはできないが、細かく砕け散っているようである。
「…突破するしかないな」
大輔が言い、勇子が呪符を取り出す。青っぽい霊瘴に向かって呪符を投じた。
「我が前を塞ぐものを切り伏せよ。 金剋木、急急如律令」
呪符から刃が飛び出し、霊瘴を切り裂いて消えた。
「…!」
「さー行こう行こう」
勇子は立ち止った彪弥に言った。
進んでいくと、道が二股に分かれていた。
「右だ」
冬士が言った。その目は道ではなく、茂みを見ていた。
「…俺が来たときは三又だったんですけど…」
「抜け首が何かしたんじゃない? 提灯とか」
「…はい。 提灯借りました」
彪弥がうなずくと、冬士が続けた。
「衾にでも捕まってんじゃねえだろうな? あれは人を殺すぞ?」
「衾くらいなら俺らでもやれるぜ」
俊也が答える。冬士はうなずいた。
「最悪ぶった切るかな。 まあ、効かない可能性は高いが」
「一服してる暇はないからねえ」
勇子は小さく笑って言った。
衾というと、ノブスマを連想するのが彪弥の常である。困らせられてばかりだ。最初こそ驚いたが、彪弥には何か食わせろと言って寄ってくるだけだった。まさか人を殺す類のものだったとは。
「妖怪って案外人の思い込みに影響されるからねえ。 殺される、とか、恐い、とか思うとその通りに行動して人を殺すってことよ。 人の恐怖心が生み出すさらなる凶悪な化け物、それが霊獣全般」
勇子はそう言って辺りを見渡す。霊気を視て、小さく唸った。
「どした?」
「冬士は今視えてないんだよね?」
「ああ」
「墓地の鬼火の原因を見つけたかもしれない」
「どういうことだ?」
大輔が問うと、勇子は茂みを指差した。
「血がついてる」
「…これは…衾か」
大輔は小さく舌打ちした。
「冬士、鬼がいる」
「…無邪鬼か。 鼻が利かねえわけだ」
千夏が一枚、呪符を取り出す。
「行け」
呪符は蝶々のような形になり、ひらひらと飛び始める。その翅は青白く光っていた。
「追うぞ」
どれくらい走っただろうか。
やはり何かいるのだ。彪弥はもう後ろを振り返る勇気はなかった。
むしろさっき振り返れたのはきっと銀竜のおかげだったのだと思う。銀竜は式神できっと彪弥に及びそうになっていた害を取り除いてくれたのだ。犬が通った時もすぐによけようと指示をくれた。やはり伊達に一級陰陽師の子供をやっているのではないのだ。
そう思いつつ彪弥は自分の後ろをついてくる勇子のことが気になった。
いろいろと知っているらしいことはわかるのだが、それにしても余裕すぎるし、何よりも、ここにいることが不自然でないにも関わらず、不自然に思えて仕方がない。
―――まるで、一度死にかけたような。
そう考えて、慌てて思考を振り払った。
そんなことを考えるのは失礼というものだろう。
「いた」
歩の言葉に皆で立ち止まる。
「…!」
彪弥は息をのんだ。光は足元にあるものにしては上から光があたっている気がするが、それも今はありがたい。
皆の体には血がべったりとついていた。
しかし皆の霊気と違う属性を纏っているのが視えたため、別のものの血だとわかる。
「…これ、衾の?」
「いや、これは衾のじゃないな」
皆の脈をみた歩が言った。
「え?」
「ああ、これはおそらく無邪鬼にやられたんだろうな。 全滅だ、食い散らかされてるわけでもない」
「遊び相手を守ろうとしたってところか。 面倒なこった」
冬士は悪態をつく。
勇子がスマホを取り出した。
「博雅、そっちから何か視える?」
すると、スピーカーにしているわけでもないスマホから大音量が流れた。
『式神の死体は見つけたぞ。 首がない。 無邪鬼に持って行かれたようだ』
「―――!」
彪弥は振り向いた。式神は破壊されればすぐに壊れるものだと思っていた。おそらく、銀竜だ。
「無邪鬼って、やばいやつなのか!?」
「いや、こういう人気のない所にいるやつは外に出れなくなって、たまに来る子供と遊ぶのだけを楽しみにしてんのさ。 だから子供に手を出そうとするやつは何だろうと容赦しねえ。 殺す、その1択だ」
冬士はそう言って、彪弥の友人たちから離れた。
「俺と大輔は先に戻る。 道はぶち抜いてやる。 早く帰ってこいよ」
「おう」
千夏が答える。
「どういう…?」
「あの2人は生成り、っていう、霊災被害者で、後遺症持ちっつーか」
「ああ…生成りですか。 何かそんな感じのやつ知ってるんでいいですよ、大丈夫です」
妖と人間の混血って生成り区分になるのだろうか。そんなことを考えながら、彪弥は友人を一人背負った。
俊也が背負った少年は、急に手首がぽろっととれた。
「―――ッ!?」
声にならない悲鳴を俊也が上げたのは言うまでもない。
そして気付いた時には、少年の手首から先は消えていた。
俊也は外人が日本のお化けを恐がる理由に思い当たった。
「…確かに、グールよりよっぽど怖いな…」
小さくつぶやき、皆について行った。
作者はどっち(西洋の化け物と日本のお化け)も苦手です←