日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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新章、夏休み終了。


第10章 冬士と因縁
第1話 修行成果?


新学期になって、冬士の封印はちょっと緩んだ。とはいっても、夏休みの騒動の結果からは基本変わっていない。

千夏と勇子と大輔は、今までとは比べものにならないほど強くなった。理由ならある。

勇子の従兄のカズヒサが大輔を鍛えたためである。それに比例して、勇子が自分にかかっていた封印を一つ解いた。千夏も出し惜しみしている暇はないと言って、一つ封印を解除した。

これが“ヤバいこと”を引き起こすことになるとは、だれも思ってはいなかった。

たった1人の少年を除いて。

 

 

 

「みんなー、おっはよー!!」

朝っぱらから、しかも新学期早々、ハイテンションなアレンを見て、皆は苦笑いした。

「アレン元気だね…」

「うん! 今日俺と朱里にとってメチャクチャ頼もしいお方が倉橋に来たから!」

そうなの、と玲が朱里に問うと、朱里は嬉しそうにうなずいた。

「そういや、冬士と大輔に3級免許受験許可下りたってマジ?」

「ああ。 先輩、やったらしい」

「どんな先輩なんだろうね?」

「…まあ、今日会えるぜ?」

冬士がそう言ったものだから、皆は首をかしげた。アレンと朱里は、その事実を本人から聞かされたため冬士の言っている意味がよくわかる。

「まさか関係があったなんてねえ」

アレンが言うと、冬士はふっと小さく笑った。

勇子は小冊子をラッピングしていた。

「久しぶりに見た気がするぜ、それ」

「うん、最近やってなかったよ。 真榊との交渉もやってたしね」

ラッピングの手を止めることはなく、勇子はそう言った。

「真榊との交渉?」

「うん、ほら、中部の人たちの転校先とか、住居とか、全部後始末丸投げするわけにもいかなかったからね、多少は保証してやったわけよ」

次のラッピングを始める勇子。その顔に赤いペイントが入っていることに吉岡が気付いた。

「そのペイントは?」

「ああ…これ、封印1個解いてきたのよ。 私と千夏足しても冬士には全然及ばないんだけれどね」

皆は千夏の方を見る。千夏の顔にも赤いペイントが入っている。

「…それ、なんの封印?」

吉岡は遠慮がちに尋ねてきた。

「…んー、教えてあげない」

勇子は笑った。

「吉岡たちも、冬士としっかり話し合って記憶の整理しなくちゃだめだよ? 野本、術解いたとかのたまったらしいけど、結局夏休み中はほとんどかえって来なかったんでしょ?」

「…まあ、な」

吉岡はうなずく。冬士に無茶はしてほしくないし、かといって記憶がむちゃくちゃなままも嫌である。

だから、とりあえず学校にいる間、ゆっくり全員で記憶の整理をするということになったのである、が。

「ちゃんとした記憶の持ち主がいねえんだよな」

冬士の言葉に、はあ、と吉岡は息を吐いた。

そう。

野本が術をかけて行ったのは、吉岡や冬士と同じ小学校にいた人物たち。紫苑を使うのは冬士が否定した。死人の記憶を使うのはよくない、と。

やはり冬士の中では紫苑は死人なのだった。

―――そこの境がはっきりしてる限り、お兄ちゃんは大丈夫ですね!

そんな風に言って屈託なく笑った紫苑の笑顔は記憶に新しい。

「1人だけ知ってるが、学校が違うんだよな」

「は?」

「あー、亜門?」

勇子が言うと、冬士はうなずいた。

「は!? 亜門は知ってるのかよ!? あいつ県違くね!?」

「アイツ俺が拉致られんの見てついてったとかのたまったけどな」

「超人か、あれは」

吉岡でなくとも呆れる。千夏は春樹と顔を見合わせ、勇子は大輔と迅と顔を見合わせた。朱里とアレンも顔を見合わせたのだった。

 

 

 

 

 

新しく来た生徒と教師人の紹介があったのはそのすぐ後のことだった。

「火橋亜門でっす。 よろしく」

「十輝昭や」

「四月朔日ルイ! です!」

「安倍七」

「結城誠だ。 よろしく~」

この時点で千夏は突っ込んだ。

「なんでお前らがこっち来たんだ!?」

「気にすんな、こっちの方がいろいろ楽になるのさ!」

亜門はそうのたまって次の教師陣の方を見た。

「神成カズヒサでーす。 九玖って書くんやで。 勇子の従兄なんだわ」

「無駄口叩く余裕があるみたいね、カズヒサ兄ちゃん」

「あーやめて、鬼火は洒落にならへん」

九玖は苦笑いした。

「…鋼山折哉だ」

鋼山、という変わった苗字を聞いて、皆朱里の方を見た。朱里はポーカーフェイスを崩すことなく、そこにいた。

ちなみにもう1人生徒がいるのだが、完全に忘れられている。

「ん」

折哉がその生徒に順番を回したため、その生徒は無事に自己紹介ができたのだが。

「っと、俺は藤堂悠夜」

「「「藤堂…藤堂財閥ッ!?」」」

数名の生徒が同時に叫んだ。悠夜は耳をふさいだ。

「うるせえよ! あーくそ、酔う…」

悠夜はうずくまってしまった。悠夜は眼鏡をしているのだが、どうやらこの眼鏡は霊気をシャットアウトするもののようである。

藤堂財閥。

それは、戦後土御門家をはじめとする陰陽師家の財政的な立て直しに一役買った家である。陰陽師の家ではない。財閥解体後にもかかわらず陰陽師の家にずいぶんと浸透してしまって、現状で財閥のためこう呼ばれる。

土御門家系統だとほとんどが藤堂家の頼みを断れないというくらいなものだ。

そんなところの御曹司がくれば、まあ当たり前のように春樹のような子は固まってしまうのだ。

「と…藤堂財閥…」

春樹は微かに震えている。が、千夏は震えていないし勇子も大輔も無反応、冬士も無反応、迅は微かに顔をしかめた程度の反応で、アレンと朱里、折哉も特に反応はなし。つまり。

「…春樹君、そんなに気にしなくても…」

「ぼ…僕はどうすれば…失礼の無いようにしなきゃ本当に実家に迷惑がかかってしまう…」

「口に出てるぞ、春樹」

千夏が苦笑いしつつ言った。

「…何、土御門本家がいるのか?」

「ああ。 まあ気にしないでいてくれよ」

「おう、問題外だな。 俺は親父の後継ぐ気ねえし! 俺が来たせいで監視受けたりしたら言ってくれ、そいつクビにしとくから」

発言はかなり俺様だがこれが本当ならばかなり春樹にとっては心強い味方となる。

「…よ、よろしく…」

「おう…」

まだくらくらするのか、悠夜は苦笑いで応えた。

春樹は言った。

「術の実験台になってください」

「俺?」

「はい、多少ですけれど、霊気をシャットアウトできる術式なんですが」

「失敗したらどうなる?」

「見鬼が一時的に封じられます」

「むしろ失敗してくれ」

「ええ!?」

春樹は驚いたように声を上げ、千夏たちが笑った。

悠夜を術対象者として陣を組んで、春樹は術式を組みあげていった。皆はただ見ているだけだが、はっきりと感じることがある。

春樹の霊気の量が格段に上がっている。

「…千夏、春樹ちゃん何してたの?」

「…ずっと滝のとこに籠ってたぜ」

「…今も昔も霊力の底上げ方法は変わらないな」

アレンが言うと、朱里が苦笑いする。

「そんなもんだろ」

「朱里も修業したりとか?」

「否定はしない」

朱里が答えると、冬士が振り返った。

「マジで?」

「…ん、マジ」

「…どーすんだマジで俺…」

「お前が今気に病んでも始まらないぞ、冬士。 早く前みたいに動けるようになれよ」

「おう」

朱里の言葉に冬士は苦笑する。難しいということぐらいはわかっている。しかし言わずには居れないのだ。

あの合宿に参加しなければよかったと言ってしまえばそうだが、それは結果論でしかない。冬士は訓練に参加して自分を揺るがすようなことはしなかったのだから、冬士側に非はない。

未来のことを皆がちゃんと知っているわけではないのだから。

と、言いたいところだが。

冬士が亜門を見る。亜門は冬士の言いたいことが分かったらしい。

「なんで俺の方見んの!? 確定未来は教えねえって言ってんじゃん!」

「使えねえな」

「何それ酷い! 最低限の結界は張ったじゃんかぁ! まだ根に持ってんのかよ!」

「鬼の恨みは強烈なんですー」

冬士は後ろの、犬護の横に座った亜門から視線を外した。犬護は苦笑いで亜門を見る。亜門は何を思ったのか、犬護の頭をくしゃくしゃに撫でくりまわしたのだった。

 

ちなみに、春樹の術は成功した。悠夜はだいぶ楽になったと言って、春樹にお礼だとのたまって5万円ほどを出していた。

 




通常の治療費は1万円ほどの予定。
生成りはこれがバカにならないんですよ。そういう設定です。
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