日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第2話 新陰陽法

 

呪術法に加えていろいろと思考したい法律について整理をし始めたのがこの春。

施行がこの9月上旬。

早すぎる。

が、それに対して別に文句を言うつもりは全くない折哉だった。

そもそもこれの原因は折哉にもある。

陰陽免許取得の基準を勝手に解釈して変えていた今代の試験管をしばいて別の人間に換えさせた。換えたくても陰陽局の独断ではできないために康哉が苦心していたのを折哉が見かねて、『独立十将第3席候補』という立場から蹴落としてやっただけのことである。

別に折哉のやることには支障などありはしないのだが、気にくわなかったのと、もう一つ。何のために基準が敷かれているのかを理解していないのかという素朴な疑問によるものだった。

生成りは3級を取るのがとても難しくなっていた。しかしこれは、何も生成りのみではなかったのだ。

半妖と呼ばれる、霊獣との混血児たちもまた、生成りの基準に準じていた。

彼らが1級クラスの力が無ければならないといわれる理由は、自分の中の霊獣を自分で抑え込むだけの力があるということの象徴的なものである。3級を持った生成りは1級が1人で相手できるかどうかといったところ。生成りをなめてかかって生成りにされた人間数知れずだ。

その基準を引き上げていたのだから、馬鹿かという話になってしまうのだ。

冬士が取れない3級免許があってたまるものか、と折哉は思った。

朱里から話を聞く限り、かなりの陰陽師としての素質を持っている。それに加えて、アレンの話に出てきた複合鬼であるという言葉には驚かされた。普通は複合鬼になる前に肉体が滅ぶ。しかし冬士はおそらく混気体質。そうなってくると、今までの朱里の巻き込まれ方にもうなずけた。

冬士はもともとどこかの組織にマークされていたのだろう。朱里が語ったダークバーレルだの解鬼会だのという組織名に、なるべく関わりたくないという思いが勝った。朱里をこれ以上巻き込む存在を遠ざけたいとは思った、しかしそれはおそらく冬士側にとってかなりのマイナス点になる。冬士が万が一死んだ時、朱里がそれを割り切れるとは思えなかった。

「…」

小さく息を吐き、折哉は資料に目を通す。

影山家がつい先日記者会見という形で日の下に姿を現した。これでいよいよ十二神将『龍使い』影山龍冴は土御門系の人間、影山家当主として見られるようになったということになる。また、影山が表に出てくるのと同時に、影山法というものが制定された。

これは、生成りの人権の一切を認める代わりに、影山家の保護下に入らねばならないという内容である。簡単に言うならば、影山家のみが生成りを支配できると言っているようなものである。しかし、こうするしかないのだ。

こうするしか、生成りを守れない。

まだ、生成りの数が少なすぎるのだ。

昔よりはだいぶ増えてしまったけれど。

それでもまだ足りないのだ、外国人旅行者よりも少ない。

1億3千万人いる内に50人ほどの生成りがいるとして、それを守るために法律を作る馬鹿がいるのか?

倉橋に40人ほどが集まっている今、その制定はしやすくなっている。皮肉な話だが、何度も冬士が襲撃を受け、生徒たちを巻き込んでいることを一般人が知ったのだ、あの白虎の一件で。だから制定が急がれたというのもある。そりゃそうだろう、一般人の見鬼の子供や陰陽会に所属する子供まで巻き込まれているのだ。対応する力が十分に育っていない者が巻き込まれればただの自然災害でしかない、霊災。

それへの対応に問題があるだろうと国民側からのバッシングがあればそれなりに対応は急がれる。

「…生成りを生めば捨てるくせによくやる…」

ふと零れた本音にハッとなって口を押さえた。

「…」

折哉がそんな本音をこぼしたのが珍しかったためか、康哉が目を丸くしていた。

「…お前が本音を出すとはな」

「…俺も人間ですよ」

康哉はああ、とうなずく。

「…あの子たちを迷わず“堕と”したお前を知っているからな…」

「…」

折哉は微かに表情を歪めた。

あれをやって精神的にまともなままいられるものは少ない。

目の前で人間だったものが完全な霊獣と化していくのだ。その間に見せられる彼らの苦痛とその表情と、泣き叫んで助けてと喚き続ける姿は陰陽師たち側の心を抉って行く。

「他の生成りを巻き込む可能性があった。 他の生成りたちを巻き込むほどの力のないうちに堕とす方が都合がよかった」

「そう言うなって。 本当は結構きつかったんだろ、あの子に重なって」

折哉はあからさまに不機嫌を示して舌打ちした。

「おお怖い」

「その話はしないで下さいと、あれだけ言ったはずですが」

「…すまんすまん」

康哉は苦笑する。

「…しかし、お前があいつを追い出してくれて本当に助かった。 うん、こんなこと言ってちゃいけないな」

「分かってるならもういい加減俺に独立十将の話持ってくるやめてくれませんか」

「そうはいかないな。 お前は実質独立十将第3席の実力を持っているんだから」

康哉は悪びれもなく言った。この男が局長にいる間はこの応酬は続くようである。

折哉はそんなのもまあいいかなと思っていた。

平穏な証だ。

霊災が起きれば彼らは一気に散って行くのだ。

公務祓魔官としての免許を持っていない折哉に話しかけることはない。

話す暇なんてありはしないのだ。

分かっているから、折哉は勝手に動いて皆のフォローに走る。そうすること以外に、免許を持っていない実力者は使い道がない。

朱里とアレンのことがなければ公務祓魔官になるのもありではあった。しかしやらなかったのは、とりあえず本家の跡継ぎ候補が自分だったことと、朱里の力のせいであった。

「生成りってのは扱いが難しいからな、倉橋に神成家の生成りが行くらしい」

康哉からもたらされたその情報に、折哉は驚いた。しかしそれ以上は何もない。

「生成りへの対応がしやすくなるだけですね」

「だろうな」

ハハ、と笑って、康哉は部屋を出て行った。

新陰陽法、影山法、施行は9月1から。もう、施行されたのだった。

 

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