日ノ本四重奏   作:黄昏翠玉

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第3話 楽観的

 

ここはCクラス。

「鬼道ー」

ぱっと2人の少年が振り向く。

「何ですかー?」

焦げ茶色の短い髪の少年が笑って応えた。

「ちょっといいか」

廊下に少年が出てくると、少年を読んだ生徒が苦笑いする。少年の後に、黒い眺めの髪を結んだ少年がついてきたためである。

「…千夏、ごめんね?」

「謝んなくていいって。 こっちの所為だし」

千夏はそう言ってメモを取り出した。

「ここに書いてあるものを集めてほしいんだ」

「土御門の頼みとあらば」

少年はそう言って紙を受け取った。

「…彼、覚えてくれた?」

遠慮がちに尋ねると、千夏は首を横に振った。

「王道も覇道も覚えてないみたいだ」

千夏の言葉に焦げ茶色の髪の少年は肩を落とした。

もう知り合って2年ほどになるが、いまだにちゃんと名前を覚えてもらえていないという事実に打ちのめされているところである。

「仕方ねえだろ。 あの色ヤンはあの鬼が中にいるんだぜ? あいつが爺たちを許さねえと俺たちを許すことはまずねえだろ」

この黒髪の方が覇道、こげ茶の髪の方が王道という。

2人の苗字である鬼道は、土御門系の家ではあるが、土御門の分家というわけではなく、だからと言って蘆屋系の流れでもない。名家の流れとしては独立している。

鬼道家は鬼の天敵であるため、鬼である御影春山が毛嫌いするのもうなずける話ではあるのだが。

ちなみに千夏は、彪弥と一本ダタラに連絡を取って御影春山について少し尋ねていた。

 

 

 

―――夏休み中。

「御影春山?」

「ああ、教えてほしいんだ。 あいつのことよく知らないから」

一本ダタラはうなずいて、かいつまんで話してくれた。

御影春山は強大な山神だった。しかし人間の住む土地がないということで、御影春山の山を切り崩すことになった。御影春山はやめろと言った。しかし聞き入れられず、御影春山を祭っていた小さな神社もそこで廃業に追い込まれた。

霊脈を管理していた御影春山をエクソシストたちが祓ってしまおうとした。それだけはさせまいとして土御門が命じたのが、鬼道家による穢れ流しだった。

術者はたった一回の穢れ流しで死んでしまったし、それが鬼道家の当主だったこともあって、鬼道家はお家分裂寸前まで行ったという。

御影春山は怒ってしまった。

付近に田畑はあまりなかったものの、御影春山が時折揺さぶる霊脈によって川は氾濫するし地震は起きるしで大変だったという。

「この山も崩れたんだ」

「マジで?」

「彼は俺よりもずっと強い。 俺もレベル10のタグがついている、が、あいつは俺の親の代から存在している。 俺は人間に認識されるようになった後の存在にすぎん」

存在年数というのはその霊獣の格を決めるものでもある。一本ダタラはタイプ鬼。レベルは現在10段階ではあるが、本当はもっと厳しい分け方でいいというのである。千夏は閻魔を思い浮かべたのだった。

冬士のすべてが30年前に始まったと言っても過言ではない状況だ。

千夏は全く教えてくれない御影春山に悪態をつきつつも、冬士の助けになりたい一心でこうして御影春山についても調べているのだった。

「御影春山は自分を封じた鬼道家の当主を連れて行ってしまった。 鬼道家の当主はタイプ鬼を道具のように扱う男ではなかったのだがな」

あいつがいなくなってから、俺たちは邪険にされるようになった。

一本ダタラは悲しげに語った。

俺の子の家をこさえたのもあいつなんだ。

なつかしむようにその単眼が細められる。

鬼道家。

別名、外道。その由縁は、タイプ鬼へのその強行姿勢。言うことを聞かないタイプ鬼は捩じ伏せて従わせる、人殺しをなんとも思わぬ、まさしく外道。

蘆屋系の家ではないため、現在は人殺しは禁じられているが、一昔前は神成家、千陣谷家と並んで他人を呪うことに定評のあった家である。直接殺しに行く方が多かった家ではあるが。

「…逆なんじゃないかな。 その人の意見すら捩じ伏せられそうになってたんじゃないのか」

千夏の問いに一本ダタラは目を丸くした。

「…察しがいいな。 ああ、御影春山はあいつを救いたかったんだろう。 そのために殺しては、元も子もないではないか」

山神様の考えはよくわからん、と一本ダタラは言った。

 

 

 

―――そんなことを思い出して。

「…王道、覇道、ちょっと冬士にあってみないか?」

千夏が言葉をかけると、王道も覇道もぎょっとしたように目を見開く。

「…またお前ら誰って言われたら僕…もう心が折れちゃう…」

半泣きになった王道に、覇道が手を肩に置く。

「あってみるか。 何で俺たちを忘れっぱなしなのかって問いただして今度こそ答えを引きずりだしてやる」

「そんなの決まって…」

「王道、俺たちはあいつの口から直接は聞いてねえんだ。 引きずり出してもその答えだったら諦めるさ」

ぎらつく覇道の目に王道は身震いしたのだった。

 

 

 

 

 

クラスに戻って来た千夏は、目を丸くした。

アレンが何かを組んでいたからである。

「何やってるんだ、アレン?」

「いやーね、避難指示を一般人に対してするってことになった時、班行動の方がいいだろうって言われてさあ。 その班を組み中です」

「手伝うぜ」

「ありがと千夏。 組めって言われても俺抜けちゃうんだよね」

「免許持ちだからな」

千夏はそう言いつつ表を見る。皆の名前が適当に並べられているが、大体実力的には同じくらいだろうか。

「…よく見てるな」

「そう?」

「ああ。 今んところ実力は平均だ。 でも、この状態じゃ避難指示はできても皆死ぬぜ」

千夏の言葉にアレンはやっぱりか、と言った。

「分かってたのかよ」

「なんとなく、ね。 冬士に耐えられるやつって考えると5人だと絶対朱里入っちゃうし」

「あー、朱里を冬士に近付けたくないってか。 賢明」

千夏が言った時、朱里が近づいてきた。

「何だと千夏。 そりゃあ俺は実力的にまだまだだが、自分の身を守れるように最低限はできるようにしてきたつもりだぞ」

「いや、でも実戦ほとんどないだろ? 冬士は今鬼気も使えないし、マジでやばくなると冬士は一般人よりも知り合いを優先するからな? 被害増やしてちゃ意味ないし」

千夏はあくまでも陰陽師としての対応を求められるのだと返した。朱里はう、と詰まった。

「でも」

「うん、朱里の気持ちはすごく有り難いんだ。 でもそれじゃ、朱里が傷ついたら冬士に“堕ち”の可能性が出てくる」

「!」

朱里はぐっと唇をかんだ。

「千夏、その話はナシで。 お願い」

アレンの目が笑っていないため千夏もすぐに理由に思い当たったらしく、うなずいた。

「アレン、とにかく俺は冬士と同じ班がいい」

「もう、怪我しても知らないよ!」

どうせ庇うくせに、とは言わずにいてやることにした。

 

―――まだ、楽観的に考えていたから。

 




伏線しか張ってない気が←
そして伏線回収できてない!ホントにごめんなさい。
四葉ちゃんの時みたいに数章にわたる可能性があります←

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