【東方】キノの旅-The Illusional WorId-【キノの旅】   作:SP

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◆前回のあらすじ
射撃訓練に精を出しつつ、街の観光を満喫するキノとエルメス。
片や美味しい食事で満足し、片やエンストを起こしそうなぐらいご不満を抱えていた。
検査結果を聞きに来たキノに永琳はキノの身体の変化を告げ、闇に潜む者たちは静かに爪を研ぐ。
時は黄昏へと向けて秒針を進める。


第8話 嵐

 キノとエルメスが月夜の街に来てから三日目。

 

 永琳からの勧めで宿を取った高級ホテルの一室で、キノは窓からベッドへと差し込む眩い光を受けながら朝が来たことを知った。

 

 (キノから見て)モダンな雰囲気を纏う室内は内装を崩さないように丁寧にコーディネートされ、とてもじゃないがキノがいつも泊まっているような安宿の気配はない。

 

 これは永琳がキノに人型妖怪のサンプルとして調査させてもらう代わりに、街での行動に出来る限りの融通を効かせると申し出た結果だ。

 

 件のパスポートだけでも十分な効能であったのだが、快適な寝床と美味しい食事をいただけると考えればキノがこの提案を断る理由は無かった。

 

 調査内容も『解剖や危険な薬物を使った検査はしない』という穏やかなものだ。少し残念そうにしていた件の天才の横顔は見なかったことにしたい。

 

 兎角、こうして高級ホテルにチェックインし、健やかな眠りを得てキノは朝を迎えたのである。

 

 部屋に備え付けられた時計を見ると、時刻は普段より少し早く起きたぐらいの時間であった。

 

 寝ぼけた頭で起きた後に再び寝入る心地良さと、このまま起きていつも通りの日課を済ませて街を周遊しに行くことを天秤に掛け、どちらが重要かを比べる。

 

 数分後、部屋には眠りに付いたキノの姿があった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 実に至福の時を過ごした。二度寝はやはり素晴らしい。

 

 一度起きてから再び眠りに落ちる心地良さときたらどんな麻薬よりも勝る気がする。そんな危ない薬を使ったことは無いし使う気もないけれど。

 

 若干の名残惜しさを感じながらもベッドの上から身を起こし、エルメスを叩き起こす前に日課を始める。

 

 ホルスターから銃を抜き出し、撃つまでの動作を繰り返し反復する。勿論弾は撃たない。壁に穴でも開けたら弁償代が大変なことになりそうだ。撃ってたまるか。

 

 暫く地味な反復練習を続けた後、未だにいびきを掻いたままのエルメスを叩き起こしに行く。

 

 ……毎回思うのだがエルメスはどうやっていびきや発音をしているのだろうか?クラクションからだろうか。それとも師匠の苦手なお化けか何かが取りついているのかもしれない……やめよう、考えるだけ不毛だ。

 

「起きてエルメス。朝だよ」

「うーん……攫われた妹を助けにサウスタウンまでいかなきゃ……」

「街の南は昨日見に行ったばっかりだよ」

 

 寝ぼけたエルメスに声を掛けるがこれが中々起きてくれない。結局、最後にはシートを叩いて起こす羽目になるのだが、この日も例に漏れることなくそうだった。

 

「んあ? 朝?」

「おはようエルメス」

「あー……おはようキノ」

「ご飯を食べたら永琳さんの所に行くよ」

「また? 待ってる間暇なんだよねー」

「愚痴は言わない」

「はーい」

 

 下の階まで下りてホテルのレストランで軽めの朝食を取る。高級ホテルの食事だけあって美味しかった。

 

 その後、ホテルを出て外に出る。永琳から貰ったパスポートを提示した所為かホテル従業員さんたちが総出で見送ってきたので少し驚いた。彼女の力はどれ程強いのだろうか。

 

 街を照らす太陽の日差しを受けながら役所へと向かってエルメスを走らせる。

 

 この二日間で街の粗方の観光名所の周遊を終えたので特に道に迷うことは無い。学校に見学しに行ったり、銃火器店に見に行ったりと有意義な二日間であった。欲を言えばもう少し街を見ていたかったりもするのだが、三日間の滞在ルールを定めたのは自分だ。破る気にはならない。

 

 永琳の検査を終え次第、買い物をしてから街を出よう。

 

 そんなことを考えながら暫く右折左折を繰り返していると役所の前に着いた。

 

 エルメスのエンジンを止めて車体を押し、役所の中に入ると受付に立っていた女性が私たちに気付き小さく会釈した。私たちが永琳のお気に入りだと判断したらしい彼らは私たちの顔を律儀に覚えてくれてらしい。

 

 軽く会釈を返して、永琳のいる研究室へと向かう。

 

 長く人気の無い廊下を歩き金属質なドアの前に立つと、澄んだビープ音が鳴り扉が開く。

 

 部屋の中に入るとコーヒーを片手に書類を眺める永琳の姿があった。

 

「あら、二人ともおはよう。よく眠れたかしら」

「ええ、ぐっすりと寝ました」

「夢をみるぐらいに」

「それは良かったわ」

 

 そう言って彼女は微笑む。

 

 手にした書類を机の上に重ねると、永琳は私たちへと姿勢を向け直す。「貴女たちも何か飲むかしら?」という声に私は拒否し、エルメスの「ガソリン」という声だけが快諾された。

 

 永琳がコーヒーを啜りながら言う。

 

「貴女のおかげでだいぶ人型妖怪の研究が進んで助かるわ」

「それはどうも」

 

 謝礼に短く答える。

 

 正直に言うと、検査を受けるだけで特に何かをしている訳でもないから礼を言われても反応に困る。だが貰えるものは貰っておく主義なので、ご飯などだったら遠慮なく頂く。我ながら現金だ。

 

「最近の妖怪の襲撃は小規模だし、現れたとしても殲滅できるからいいのだけれども、人型妖怪だけは此方も手を焼いているから対策を見つけなきゃならないのよ」

「人型妖怪っていうのは強いの?」

 

 これはエルメス。

 

「強い、というか厄介ね。単独でも強力だし、他の妖怪を統率して襲い掛かってくる。だから面倒なの」

 

 これは検査を受ける前、永琳の口から最初に言われたことだ。

 

 月夜の街は度々妖怪たちに襲撃されている。理由は多くの人が集まっているからだろう。人が恐怖するのを糧にする妖怪たちにとって、この街を恐怖に叩き落とすことが出来れば最良の餌場になるのだから。

 

 妖怪たちが徒党を組むのは珍しくない。知能は低くても集団で襲い掛かれば撃退しづらいことは彼らだって知っている。おこぼれに預かろうと弱小妖怪がたむろすることも多々ある。

 

 しかしその程度では月夜の街は落とせない。高度な技術で造られた武器を持った兵士や防壁が彼らの侵入を阻み撃退するからだ。

 

 だが、稀に現れる人型妖怪。これだけは未だに討伐例がなかった。

 

 人型妖怪は文字通り人の姿を模した妖怪だ。しかし身体能力、妖力、知能はどれをとっても並みの妖怪の比ではない。

 

 かつての街の記録によれば、一体の人型妖怪相手に兵士側で七人の負傷者が出たらしい。

 

 単独でこれほどまでに強いのに、そのうえ人型妖怪は妖怪たちを率いて街を襲うこともある。

 

 これまで無謀な突撃しかしてこなかった妖怪たちが波状攻撃を仕掛けたりしたこともあったとか。

 

 極め付きに人型妖怪は特殊な〝能力〟を持っている。

 

 これは人も妖怪も隔たりなく持っている天賦の才の一種なのだが、人型妖怪は何故か能力を持つ傾向が強い。

 

 能力というのは簡単に言えば特技、あるいは得意分野と言い換えてもいいだろう。

 

 例えば永琳。彼女は自分の能力を〝あらゆる薬を作る〟としている。これは彼女が医薬品の調薬に関して秀でた能力を持っているからなのだそうだ。それをいったら知恵のほうが良いのではとも思ったりするが。

 

 兎角、能力を宿した人型妖怪は厄介だ。火を操るモノもいれば、傷を癒すモノもいる。

 

 そんな妖怪たちが簡単に撃退できるはずもなく、街のほうでは手を焼いているのだ。

 

 以上、永琳から聞いた話の説明終了。

 

「ボクは基礎が人間だったのですが、参考になるんですか?」

「失礼かもしれないけど、無いよりマシってとこかしら。貴女は妖怪に成り掛けているだけだから、厳密に言えば妖怪という訳でもないし」

 

 苦笑を浮かべて答える永琳。でも、と彼女は付け加える。

 

「助かっていることは事実だし、人間が妖怪になるっていう現象も興味深いからね」

 

 楽しそうにいってくれる。でも発言がマッドサイエンティストだ。

 

 しかし忘れてはならない。滞在三日間のルールを。

 

 私は永琳に今日この街を立つことを念押しすると、永琳は残念そうに「じゃあまた今度までに取っておくわ」とのたまった。やめてほしい。

 

 ここで暫く彼女との談笑を楽しんでから、街で必要なものを買い込んで出発するとしよう。

 

 妖怪の対処法なども教えてくれた永琳に内心感謝しつつ、次はどんな国へ行くか想像を膨らませる。

 

 次の国も面白いところだといいな。

 

 ちなみにエルメスは差し出されたガソリンをロボットに給油させてもらっていた。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

───兵士の日記───

 

 

 

 私たちは護り続ける。

 

 人を喰らい、恐怖を糧とする妖怪から人々を護るために私たちは防壁の上に立つ。

 

 例え何時如何なることがあろうとも。

 

 雨の日も雪の日も、嵐の日も太陽が闇に呑まれようとも。

 

 人々の前に立ち、妖怪たちを屠り続ける。

 

 それが、街を護る存在である私たちの役目であり責務だ。

 

 

 

 ……少し誇張しすぎたかもしれない。どうにも私には大仰に振る舞ってしまう悪癖がある。

 

 街を護る兵士たちは皆能力は高しといえども、常日頃から気を張り続ける鋼の心を持っている訳ではない。そんなものを持っているのは機械しかいないだろう。事実、兵士の中にそこまで強固な鋼鉄の精神を持ったものはいない。

 

 だがしかし、私たちが真剣に街の防衛に努めているのは事実だ。

 

 冒頭に既述したように風雨に曝されても私たちは日夜城壁の上に立ち、何時来るかもわからぬ妖怪の襲撃に備えて警戒するのだ。

 

 つらくないといえば嘘になる。実際、この仕事はとてもつらい。

 

 だがしかし、このつらさも妖怪から人々を護る為なのだと思うと少し安らぐ。

 

 街の中にも防衛設備があるとはいえ、基本的に街の住人達は妖怪という外敵に対して無力だ。

 

 だからこそ絶対に彼らを護らねばならない。だから、私たちは真剣に警備に取り組むのだ。

 

 適度に力を抜きつつ。

 

 ……こう書くと真面目ではないと思われそうだ。

 

 正確には力の配分を考えつつ真剣に取り組む、だ。

 

 全力で取り組んでは体力が持たない。だから、我々は力配分を考えて警備に付くようになった。

 

 具体的には二人組での警備に付いたときに、一人が休んでいる間に一人が神経を凝らして警備する、などだ。これなら負担が少なくて済む。……隊長に見つかって地獄を見た者もいたが。

 

 一人で警備の任に就いた私の場合、今記述している日記がまさに息抜きの一端ともいえる。

 

 メモ帳サイズの小さな機械なのだが、所有者の思考を読み取り、自動的に日記を書くという優れものだ。

 

 賢者様が作ったものは相も変わらず素晴らしいものばかりである。

 

 さて、このままでは日記というか、私のよく分からない文章を綴っただけになってしまう。

 

 今日の日記を付け始めるとしよう。

 

 

 

 朝、いつものように目覚まし時計の音で全員が叩き起こされる。

 

 各々の身支度を整えてから朝食。ベーコンエッグが美味しかった。

 

 夜警を担当していた者たちと入れ替わりで警備の任に就く。今回は二人組編成ではなく、一人一人が防壁に立つ警備態勢だ。

 

 街の南の防壁の警備を任される。此方は草原より森の方が目立つ。妖怪が現れるにはちょうどいい地形だろう。少し警戒心を強める。

 

 四半刻ほど時間が経過。雲行きが怪しい。振るかもしれない。

 

 さらに経過。晴れ間が消えた。曇天の空模様だ。

 

 雲が分厚く重なり、黒く見える。この雲に何故か不穏を感じる。

 

 

 

 ここまで書きこんで、私は日記の記入を止めた。

 

 風は強まり、太陽からの光を遮る黒雲が不安を増長させる。

 

 嫌な予感がする。これまで警備を務めてきてこれ以上ないほどの嫌な予感が。

 

 脳が警鐘を打ち鳴らす。危険が迫っていることを告げている。

 

 不意に誰かが駆ける音が聞こえ、ハッと其方を見ると最近部隊に配置されたばかりの若い兵士が青ざめた顔で私の下へと走ってきた。

 

 彼も私と同じく嫌な予感を感じたらしく、一人でいることに不安を覚えたらしい。

 

 私は彼に隊長へとこのことを報告するように告げると、目の前にある森を見据えた。

 

 私や彼が感じた不安は妖怪の襲撃があることの前触れだろう。妖怪の襲撃があったとき何度か感じたことがあった。

 

 しかし、これほど大きい不安を感じたのは初めてだ。

 

 冷や汗が頬を伝う。肌に張り付く服の感触が気持ち悪い。

 

 不意に強く一陣の風が吹き荒んだ。思わず腕で目を覆い隠し、その手を払ったとき。

 

 

 

 奴らは現れた。

 

 人影が森の奥から現れたこと思うと、それを筆頭に影が次々に現れてあっという間に影の群れが広がっていく。影の形は大小様々、獣の形をしているモノもあれば、形を成さない液体の様なモノもある。

 

 そして、影たちの先頭に立つモノ。それは遠目から見れば人間のように見えた。しかし、私はそれが人間ではないと知っていた。知っていたからこそ恐怖した。

 

 恐怖で足が竦み、動きたくても動けない。歯を打ち鳴らして震える私の下に隊長からの全体通信が入った。

 

『総員戦闘態勢! 妖怪の大軍勢が四方から接近中! 繰り返す! 妖怪の大軍勢が四方から接近中!』

 

 恐怖で麻痺した真っ白な頭の中に、隊長の焦燥に駆られた声が響いた。 




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