【東方】キノの旅-The Illusional WorId-【キノの旅】   作:SP

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◆前回のあらすじ◆
夢見の国の情報を聞きつけ、山奥深くへとエルメスを走らせる。
何でも、夢見の国では『(情報源曰く)面白い夢』が見られるらしい。
ホテルの二階に部屋を取ったキノは寝息を立てて夢の世界へと旅立つ。
しかし、エルメスは部屋が二階であったためにホテルの中に入れなかった。
「これでモトラドも悲しみを背負うことが出来たわ……!!」


第1話 目覚め

 転生、という言葉を聞いたことがあるだろうか。

 

 その内容は死んだ者が死ぬ前の記憶や姿、意識を持ったまま新たな生を受けることだ。

 

 正確に言えばそれは〝復活〟なのだが、言葉の意味が変質してきている近年では転生も復活も似たようなものだ。

 

 有名なのは仏教の六道輪廻だろうか。

 

 生から生へと生まれ変わり続けるサイクルから逃れることを解脱といい、そうすることで悟りを開き、心の安らぎの地である涅槃へと至るとされている。

 

 仏教では転生とは苦であり、苦から逃れるために欲を捨て、悟りを目指すのだ。

 

 しかし、ネット小説での転生は死んだ者自らが転生を望み、何かしらの特殊能力を得たり、文明レベルの低い土地で生前の知識を生かして偉業を成し遂げるものが多い。

 

 小説の中の彼らの中には不老不死を望み、女を侍らせ(というと曲解を招きそうだが他に言いようがない)永遠に世を治めるというものもある。

 

 これは、自らを輪廻の輪の中に閉じ込めたのと同義だ。

 

 所詮はフィクションと言い切ればそれまでだが、かの仏陀が知ればどう思うのだろうか。

 

 

 

 ……まぁ、仏教徒でない者には関係ない話だ。

 

 別に死んだ聖人が現世の堕落ぶりを見て嘆き悲しもうが知ったことではない。

 

 今を生きる。ただそれだけだ。

 

 

 

 前置きが長くなってしまった。

 

 これから話すのは一人の旅人のお話だ。

 

 ───いや、もう一人。正確には一台いる。

 

 旅人の少女とその乗り物の冒険譚。

 

 それを、これからお聞かせしよう。

 

 無論、こんな前置きをしたからにはちょっと変わっている二人なのだが……

 

 おや、そろそろ二人が起きる。

 

 じゃあ、物語を始めよう───

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 雨が降る音で目が覚めた。視界がぼやけるのはまだ寝起きだからであろうか。

 

 寝ぼけた目を擦り、半分眠ったままの意識を無理やり覚ます。

 

 視界が徐々にクリアになると、目の前には硬質な色を帯びた岩壁が聳(そび)えていた。

 

 ふと空を見上げると、そこには空は無く、幾つかの鍾乳石が下へと伸びており、その先からは雨水だろうか。水滴がポツポツと滴り落ち、岩畳に当たって小さな水溜りをつくっていた。

 

 雨に当たらなくて良かった。もしこれが外で寝袋で寝ていたのなら、水浸しになりながら雨宿りできる場所を探しながら、文句を言うエルメスを走らせていただろう。

 

 そこまで考えて、思考が停止した。

 

 ───昨日、私は何処で寝ていた?

 

 昨日はフカフカなベッドの上で床に就いたはずだ。決してこのような風が入り込む洞窟で寝た覚えはないし、そもそも此処は一体何処だ?

 

 寝ている自分を誰かが此処まで運んだ?いや、それはない。部屋には鍵を掛けた筈だし、誘拐だったとしてもパースエイダーやナイフをそのままにしたまま放っておくはずがない。

 

 ベルトにはナイフが数本収まっているし、パースエイダーもホルスターの中に納まっていた。バッグの中も同様に、何かが抜き取られているという事もない。

 

 では一体何故自分は此処にいるんだ?

 

 余りにも唐突な展開に茫然としていたが、それを打ち破るかのように誰かからの声が掛かった。

 

「おはよう、キノ」

 

 何時もの何処か間の抜けた声。長年聞いてきた相棒の声。寝坊癖が治らないくせにしては珍しく、私に声を掛けられることもなく起きている声。

 

「おはよう、エルメス」

 

 声の発生源を見ると、洞窟の壁際、薄闇の中にはエルメスがスタンドを立てていた。

 

「ねぇ、エルメス。ボクは昨日こんなに開放的な場所で寝ていたかな」

 

「宿の中に入ってないからわかんない。でも、モトラドが寝ていた開放的な道路ではないね」

 

 どうやらエルメスも知らないようだ。少し残念だったが特に気にはならない。寧ろ、一度寝たら中々起きないエルメスが知っていたら驚く。

 

 結局謎は謎のままだ。本当に、何で自分たちはこんな辺鄙な場所に寝ていたのだろう。

 

「あ、でも心当たりはあるよ」

 

「心当たり?」

 

「門番のおっちゃんが言ってたじゃん。『この国では面白い夢が見れる』って」

 

「夢?……あぁ、確かに」

 

 そんなことを言っていた気がする。

 

 前もって教えられていた筈なのに動揺していた自分が少し恥ずかしかったが、これは流石に自分の予想を逸脱していたので驚いても仕方がないと思う。

 

 夢と言われても風が吹き抜ける感触、手のひらから伝わる冷たい岩盤の温度、自然豊かな場所特有の濃厚な植物の匂い、そのどれもが夢とは思えないほどの精巧さなのだ。寧ろ現実と言った方が正しい気がする。

 

「だとしたら随分と夢らしくない夢だ」

 

「確かにね」

 

「お腹いっぱいデザートを食べる夢で良かったのになぁ」

 

「太るんじゃないの?」

 

「だから夢の中だけでも体験したかったんだよ」

 

 その言葉にエルメスは「へぇ」と一言。素っ気ない。

 

「で、何時までここにいるの?キノ」

 

「そうだなぁ……雨が止んだら外に出てみようか」

 

 雨は依然として振り続けるままだ。洞窟の入り口からは鉛色の雲が見えた。晴れ間は何処にも見当たらない。外に近づけば当たりの様子も確認できようが、わざわざ濡れることもないなと思い、座ったままぼんやりとしていた。

 

 エルメスは暇なのか聴いたこともない鼻歌を歌っていたが、やがてその鼻歌も途切れて沈黙が辺りを満たす。

 

「暇だなぁ……」

 

 やはり暇らしい。私も同意見である。

 

「暇だね」

 

 短く答えて、腰に下げたホルスターからパースエイダーを取り出す。流石に何もやることが無くてはつまらないので手入れをすることにした。

 

 パースエイダーを丁寧に分解する。パーツの一つ一つを眺めるが、何処も目立った損傷は無い。点検は以外にも早く終わることになりそうだ。

 

「もしこれが夢なら、どんな非常識なことでも可能になるのかな」

 

 パースエイダーの点検が終わり、銃弾に緑色の液体火薬を詰め込んでいるとエルメスが不意にそんなことを言った。

 

「どうだろう。でもこんな現実的な夢を見るぐらいなんだから何処までも現実的な夢かもしれない」

 

「えー。でも空飛ぶモトラドなんて素敵じゃない?」

 

「自転車だったらもっと素敵だと思うよ」

 

「何で自転車?」

 

「さあね」

 

 旅に必要な道具の粗方の点検を終え、何処までも粘土のような携帯食料を口に含む。相変わらずの不味さだ。夢であるならせめてこの味でもなんとかしてほしかった。が、どれほど願っても食べ終わる間味が変わることは無かった。現実は非情だ。

 

 恨みがましく誰ともなしにそんなことを考えていると、急に洞窟の中が明るく照らされた。

 

 気が付くと雨の音も何時の間にか止み、雨雲は未だ微かに残っていたが青く澄んだ空が見えた。ようやく日が顔を出したようだ。

 

「お、やっと晴れたね」

 

 陽気そうなエルメスの声。私は「そうだね」と返してから自分の身に付けるもの以外の荷物をエルメスに載せて、エルメスの車体を押しながら洞窟の外へと出た。

 

 

 

 

 

「うわぁ、壮観だねぇ」

 

「うん。随分高い所だ」

 

 

 

 

 

 どうやらこの洞窟は随分と山の上にあるのか、辺り一面を一望することが出来た。

 

 眼下には緑豊かな森林。遠くには山々がこの場所を囲むようにして連なっている。活火山でもあるのだろうか、一部の山は頂上付近に近づくにつれて地肌が剥き出しになっている。狙撃用のスコープを取り出して山肌を見ると、炭化した倒木や黒曜石らしき石が所々転がっていた。

 

 他の場所にも目を向けると、この山を下って暫く先に言ったところに茶色い線が途中で途切れていた。もしかしなくとも十中八九人の手で作られた道であろう。田圃や畑、ましてや村もないのに道が途切れているのに首を傾げたが、道が見つかっただけでも十分である。

 

 何時までもその場で遠くを眺めるわけにはいかないので、スコープを荷物の中に戻してエルメスのスタンドを立ててから走れる道を探すことにした。

 

 洞窟の傍を離れるとすぐ横は森になっていて、獣道ではあったがエルメスを走らせることが出来そうな程度の広さと整備……というのは可笑しいが、ともかく整った道があった。上手くいけば山の麓まで辿り着けるかもしれない。

 

 エルメスの元へと戻り、これからの方針、向かう場所を説明するとエルメスは

 

「また獣道?キノは楽かもしれないけどモトラドは辛いんだよ?」

 

 と、不満たらたらな声で抗議してきた。

 

 夢見の国へ行く前も山道だったのでその気持ちは……モトラドではないが少し分かる。

 

 私も長年の相棒に苦行を負わせるのは酷だと思ったので

 

「じゃあエルメスを此処に残して麓まで下りるよ」

 

 と、言った。エルメスは

 

「この程度の悪路は何時も通ってるから大丈夫だよ。さぁ、行こうかキノ」

 

 まるで人が変わったように急に元気になって、私に早く乗るように急かしてきた。元気になったようで良かった。

 

 私はエルメスのエンジンを掛けて爆音を鳴らしながら森へと入る。

 

 道は所々雨の影響でぬかるんでいたり、小石が散らばっていたりとまさしく悪路の様子を呈していたが、エルメスは調子っぱずれな鼻歌を歌いながら悪路をものともせず走り抜けた。よく出来たモトラドである。

 

 途中聞こえてきた怨嗟の声は多分気の所為であろう。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 出発から約二、三時間ほど経ったであろうか。ようやく森を抜けた。

 

 見上げた山はそこまで標高が高いという訳ではなかった。が、整備なんぞされたこともない獣道を通るのは手間だった。

 

 傾斜が急な道や石だらけの道を通るわけにもいかなかったのでかなり時間が掛かってしまった。

 

 エルメスは森を抜けて一息入れた瞬間「つ……疲れた」と一言言い残すと、それきりぱったりと喋らなくなってしまった。

 

 寝息を立て、役に立たなくなったエルメスを押しながら、例の途切れた道までの方角を思い出しながら草を搔き分けて進む。が、中々思うように進めない。

 

 背丈を優に超す葦(あし)が群生していて、前がよく見えない上に茎が想像していたより硬く、エルメスを押しながら進むのが面倒だ。

 

 仕方なしにナイフをコートから取り出し、茎の根元辺りに切り込む。すると、意外なほど簡単に切ることが出来た。

 

 この方が手っ取り早く先へ進めると思った私は、目の前の葦をばっさり刈り取っていく事にした。

 

 

 

 

 ナイフを片手に植物と奮闘すること約一時間。

 

 ようやく葦原を抜けて、異常なほどの背丈の草が生えていない場所に出た。途切れた道も草原の中にしっかりと存在を主張していて、方向が間違っていなかったことに安心した。

 

 エルメスは終始眠りっぱなしだったので、文字通り叩き起こす。

 

「んぁ?どうしたのキノ?モトラドに優しい走りやすい道を作ってた人たちは何処?」

 

「それは随分前の話だ」

 

 一体何時の話をしているんだろう。そこまであの道は過酷だったのか。あの人たちは世界滅亡の為に頑張っている筈なので、こんな辺鄙な所の道までは手が回っていないだろう。

 

 寝ぼけたままのエルメスが正気に戻るのを待ってから、再び途切れた道へと向けてエルメスを走らせた。

 

 あの道の向こうに街があればいいのだが……

 

 そんな思いを抱きながらアクセルを握りしめて、走り去る風景を尻目に道を辿る。

 

「エルメス。まだ頑張れそうかい」

 

「少なくとも、荒れた道よりは」

 

「じゃあ問題ないね」

 

「でも酷使するのは反対」

 

 私はエルメスの抗議に笑った。「使われない方がいいかい?」そう言うと予想通り

 

「モトラドがあった方が旅に便利だよ!」

 

 という張りのある大声で返事が返ってきた。その必死な反応にまた私は笑う。

 

 空から西へと傾いた太陽が大地を見下ろす。

 

 そこには何時もと変わらない、旅人とモトラドの姿があった。




という訳で2話です。一応中身の検閲はしたつもり。
「○○の展開が意味不明」とか「ここがおかしい」という部分があったら指摘してくれると嬉しいです。
今週と来週はテストで執筆がきついかもしれません(言い訳)
出来るだけ早めの投稿を心がけます;
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