【東方】キノの旅-The Illusional WorId-【キノの旅】 作:SP
夢見の国へと辿り着き一夜を過ごしたキノとエルメス。
目が覚めるとそこはホテルの一室ではなく、見知らぬ大自然の中であった。
あまりにもリアルな夢の中で、キノはいつも通りエルメスに乗って夢の世界を旅することにした。
山道故に路面の状態は最悪。ホヴィー(※注。ホヴァー・ヴィークルのこと。浮遊戦車)ならともかく、モトラドには酷な道だ。
「夢も、希望も、あるんだよ。けど救いは無いね」
空を見上げれば、千切れ千切れに雲がのんびりと浮かんでいた。からりと晴れた空には雨雲も見えず、雨に濡れる心配もなさそうだ。
キノとエルメスが道を走り続けて約1時間。未だ人の気配がする場所には辿り着いていない。
辺りには山林が並び、開拓されていない自然のままの風景が続く。この風景に何か変化があればいいのだが、未だ同じ風景が延々と続くままだ。
エルメスはやっとまともな地面を走れると言って喜んでいたが、この退屈な光景を眺め続けるのを楽しいと思えるのだろうか。いや、もしかしたら走ること自体が楽しいと言えるのかもしれない。モトラドではないのでわからないが。
さて、そんな調子で走り続けてどれほど時間が経っただろうか。ようやく目の前の光景に変化が現れた。
「キノ。人が住んでそうな所、発見したよ」
「ボクも見えてきた。見た感じあまり発展している気配はしないけど」
「やだなぁ。ガソリンが売ってたらいいんだけどな」
「期待はしないほうが良さそうだ」
「まったく」
「まだ日は高いけど、少し急ごうか」
「りょうかーい」
キノがギアを上げるとエルメスはボボボボボッ!と喧しいエンジン音を響かせながら、目の前の人工物を目指して加速していった。
◆ ◆ ◆
緑も深き山々の裾にその村はあった。
名前は特に無い。理由はその必要が無いからだ。
村の周りは山脈が囲むように聳えており、人の行き来を阻害する。それに輪を掛けて妖怪の襲撃が絶えない為、村には誰も寄り付かない。
仮に、何処かと交易があったのならば名前が無いことの不便さを悟るだろうが、外の世界を知ることが無い村人たちにとっては、村と言えば自分の住む場所だけを指すので不便とは思ってはいない。
だから、その村は村人たちから〝村〟とだけ呼ばれていた。
◆ ◆ ◆
村で生活する人たちにとって、朝は早いものです。
太陽が山の間から顔を出す前に起き上がり、畑を耕すことに精を出します。大人も子供も、例外はありません。
その日、村で一番早起きな男は村で一番早く起き、まだ薄暗いままの外に誰よりも真っ先に出て、掘り抜きの井戸からとても冷えた水を汲んで、誰よりも早く顔を洗いました。
桶に組んだ水がきらりと光ります。早起きな男が東のほうを見ると、山から太陽が顔を少しずつ覗かせていました。
ちゅちゅん。ちゅちゅん。
雀が鳴き始めます。それを切っ掛けに、別の雀や鳥が起き始めました。
朝の清々しい空気と、鳥たちが奏でる鳴き声のハーモニーを楽しんでいると、村の中にある家からがらがら、という引き戸を引く音と共に、他の村人たちが出てきました。
早起きな男は村人たちが顔を洗っているのを眺めていると、顔を洗い終えた一人の男が視線に気付いて早起きな男へと近づきます。彼の顔は未だに水で濡れていました。
「またお前が一番最初か。今度こそ俺が真っ先に起きるって思ってたのに」
彼は若干肩を落として残念そうに言いました。
「だったらもう少し早く起きろ。村のみんなと同じぐらいに出て来たじゃないか」
早起きな男がそう言うと、彼は痛いところを疲れたようで、頭をぽりぽりと掻きながら「目が覚めたのは早かったんだけど、体が動かなかったんだよ」と言いました。
ちなみに、彼は早起きな男と仲が良いです。失礼、これはどうでもいいですね。
言い訳がましい彼を少しからかっていると、村のみんなが畑に向かっていることに気付いた二人は慌ててみんなを追いかけした。
暫くすると、畑が見えてきました。まだ芽が出たばかりのものや、時折雑草が混じって生えている畑です。
村人たちは雑草を取り除き、農作物にもっと成長しろと願って水をやります。光で双葉の上に乗っかった水滴が反射して綺麗です。
村人たちは同じような事を繰り返し、全ての畑に水をやり終えると、新しい畑を作る為に土を耕し始めました。
汗をかきながらも、手を休めることはありません。早起きな男と、仲の良い男は揃って仲良く鍬を振り下ろし続けます。
途中、お昼ご飯を食べるために休憩を取りましたが、食べ終わるとすぐに働き詰めです。
そうやって、太陽が真上を通り過ぎてどれくらいでしょうか。気温は肌寒く感じる程度に下がり、日の光が弱くなりました。
村人たちは鍬から手を離し、食事の準備をするために村へと戻っていきました。二人はその場に残っていました。
「あー、疲れた疲れた」
仲の良い男が言いました。早起きな男も「俺もそうだよ」と頷きます。
二人はまだ耕されていない地面の上に寝そべると、のんびりと空を眺めていました。
やや青の濃さが目立ってきたキャンパスの上を、白い雲が流れていきます。
ぐぅ。
まったりとした雰囲気にそぐわない。ガマカエルの鳴き声のような低い音が響きます。
早起きな男が気になって音がした方を見ると、其処には情けない顔をして「腹減った……」とのたまう仲のいい男がいました。
早起きな男が溜息を吐いて立ち上がると
「村に戻るぞ」と言い、仲の良い男を置き去りに村に向かって歩き始めます。
残された仲の良い男は慌てて追いかけると、その場を後にしました。
そして、村に近づいたとき、それは現れました。
二人が談笑しながら歩いていると、何処かから耳慣れぬ音が聞こえてきました。
音はまるで獣の唸り声でした。それは韋駄天のような速さで二人へと迫ります。
咄嗟の出来事に二人は固まってしまいました。こんなにも明るい昼間から唸り声をあげて村に近づくのは妖怪しかいなかったからです。
しかし、何時までも固まっている暇はありません。早く村に戻って知らせなければ、みんなの命が危ないのです。
二人は脱兎の如く全速力で村へと逃げました。
途中、唸り声が二人のすぐ傍まで来て止んだのですが、慌てている二人には妖怪が迫っていることしか頭にありませんでした。
村に辿り着くと、普段ならお昼時でお握りや汁物を食べている筈の大人たちや、遊びに興じている子供たちは、怯えたような、戸惑いを隠せない様子で突っ立っていました。
多分、村にも唸り声は聞こえていたのでしょう。
「妖怪だ!!妖怪が近づいてくるぞ!!」
口々に二人は妖怪がすぐ傍に来ていることを告げました。
村人たちは慌てました。村はここ数年間妖怪に襲われたことが無く、安心しきっていたのです。
話を聞きつけた村長が女子供を先に避難させようと決め、村人たちが村を守る為行動し始めた時、
ボボボボボボボッ!!
妖怪が村に唸り声をを響かせて迫って来ていました。
◆ ◆ ◆
「く、来るな!妖怪め!!」
「女子供は家の中に入れ!」
「それ以上この村に一歩でも踏み込んでみろ!ただじゃおかんぞ!!」
「……どうしてこんなことになったのかな」
「知らなーい」
「だよね」
一体全体どうしてこんな事になってしまったのだろうか。私は思わず嘆息する。
現在、山裾にある小さな集落で村人から熱烈な歓迎の真っ最中である。
目の前には農作業から帰ってきたばかりなのか、服(正確に言うと着物)や頬に泥を付けた中年の男や、勇ましそうな青年がまるで親の仇でも見る様な目で私とエルメスを睨んでくる。
流石に何の謂れも無いのにこうも憎々しげに睨まれては堪らない。そう思った私は村人とコミュニケーションを取ろうと何とか頑張ったのだが……
「あの、失礼ですが何故ボクを睨めつけてくるんですか?」
「五月蝿い!黙れ!油断させようったってそうはいかないぞ!!」
「人の姿をしてもやはり妖怪は妖怪。貴様の話なんぞ聞くものか!!」
この調子である。どうしろと。
もし私が行き倒れだったりしたら、きっとクワやジョウロを渡されるに違いない。
それにしても気になる言葉が聞こえた。確か『妖怪』だったか?
妖怪と言うとアレか?幽霊とか、怪火などの人を脅かしたり攫ったり色々悪さをするという……
そう言えば一度師匠の所に帰った時に妖怪、幽霊に準ずる話を仕入れたので話してあげようかと思い、お茶の時間に話したことがあった。幽霊の〝い〟を言い終える前に師匠が私の額に銃を突き付けてきたのでそれ以来ホラー関係の話はしていない。あれは正直幽霊より怖い。
いや、問題はそこではない。あの後、久しぶりの師匠との訓練が段違いに厳しかったという後日談もあるが問題はそこではない。
どうやら私たちは妖怪だと勘違いされているらしい。
能々考えれば私の恰好は彼らにとっては見慣れぬものであるだろうし、エルメスに至っては完全に異質な存在だろう。
それだけの第一印象から妖怪と決めつけるのは止めてほしいが、未知なるものに恐怖する気持ちも多少は分かるので仕方ないかも知れない。
まぁ、以前訪れた国ではいきなり住民に襲いかかられたりしたことがあったので、それよりはマシだ。それより、何故妖怪などどいう言葉が出てきたのかが気になる。
「おっちゃん達、殺気だってるねー」
「それをボクに向けないでほしんだけどな」
さて、どうするか。
このままこの村を出て行ってもいいのだが、そろそろ日も傾き始める頃合いである。夜道を行くのも馴れてはいるが、出来れば屋根のある暖かい場所で寝たい。
何より、私たちの目的は旅をすることである。
彼らの生活や、土地の気候、考え方、挙げると切りがないが、要するに旅する先で色々と経験するのが目的なのだ。
此処を離れて野宿に戻るよりは宿泊してのんびりと過ごす方が心惹かれる。エルメスはどうだが知らないが。
問題は私たちを警戒する村人たちだ。このままでは泊めてもらう前に息の根を止められそうである。
話を聞いてくれればいいのだが、どうせ話を聞いてくれるような頭が柔らかい人はいないだろう。
ホント、どうするかなぁ……
諦めの境地に片足を突っ込んで私の目の前に立つ男たちと対峙していると、村の方から騒ぎ声が聞こえ、その騒ぎ声は徐々に大きくなり、次第に耳を劈(つんざ)くような絶叫が聞こえた。
一体何だ!?
瞬時に何時でも銃を撃てるようにホルスターに手を伸ばす。
「村の方からだぞ!」
「くそ、新手の妖怪か!!何時の間に来てたんだ!!」
男たちは叫び声を聞いた瞬間、私と対峙しているとき以上に体中に力を漲らせ、即座に全員が村へと駆けだす。
もしや、先ほど彼らが言っていた妖怪が襲ってきたのか?
「どうするのキノ?助ける?」
エルメスが何時もの調子で尋ねてくる。
私は少し考え込みながら結論を出す。
「そうだね……助けようか」
「おや、意外。厄介事に巻き込まれる前に逃げたほうが良いんじゃない?」
「それも考えたんだけどね。この村に宿泊することが目的だし。それに」
「それに?」
「恩は売っておいた方が良い事あるかもしれない」
エルメスを目立たないような木陰の傍に停めて、村の中へと目掛けて走る。
後ろからエルメスが「頑張ってー」という暢気な応援が届いた。
村の中は阿鼻叫喚の地獄絵図……とまではいかなくとも、悲鳴や怒号が行き交う悲惨な光景が浮かんでいた。
一部の家が所々破壊されており、廃屋のような有様になっている。地面や木片に付着した血が生々しい。
人間の腕や脚のようなモノが転がっていて大変気持ち悪い。
旅人と言う流離人である以上、死というモノを目にするのは慣れているが、気持ち悪いものは気持ち悪い。
息一つ乱すことなく悲鳴の下へと駆けると、私に突っかかってきた男たちが何かを取り囲んでいるのを見つけた。
あれか!
何人かの男が私が駆ける足音に気付いたのか、驚愕した後その表情を憎々しげな顔に変えた。まだ妖怪だと思われているのか。
「大丈夫ですか」
「何のつもりだ。お前も俺たちを喰うつもりなんだろう!」
男たちの中で一番若いであろう外見の青年がそんなことを言う。いや、喰わんて。
「そんなことはしませんよ。助けは必要ですか?」
「助け?」
「妖怪に襲われてるんでしょう?助けがあった方がいいんじゃないですか?それに、妖怪だと勘違いされたままなのも嫌ですし」
「……本当に妖怪じゃないのか?」
「ただの旅人ですよ。それよりいいんですか?あの妖怪、来ますよ」
グルルルゥ……!!!
言い終えると同時に妖怪が唸るような声が聞こえ、男たちが恐怖からか呻くような声と共に妖怪から数歩後ずさる。
後ずさりすることによって生まれた隙間に体を捻じ込んで前に出る。
なるほど、これが件の妖怪か。
血に塗れながらも銀色に輝く毛並。しなやかな四脚の足。そして、人の柔肌など簡単に喰いちぎりそうな(まぁ実際そうなのだろうが)牙。外見は狼に近い。
が、デカい。恐らく体長は2、3メートルほどぐらいはあるのではないだろうか?
この獣を狩るのには慣れているが流石にこのサイズは厳しい。
多分、〝森の人(※注・ハンドガンタイプのパースエイダー。22口径LR弾を使用する)〟では絶対に弾が通らないだろうし、〝カノン(※注・ハンドガンタイプのパースエイダー。先込め式の44口径)〟でも多少肉に喰いこむぐらいで致命傷にはならないだろう。
とすると〝フルート(※注・狙撃用のパースエイダー。ボルト・アクション式)〟で頭を撃ち抜けば手っ取り早いのだが、生憎エルメスに積んだ荷物の中だ。
今すぐにでも取りに戻りに行きたいのだが、狼妖怪は目の前に現れた獲物たちを逃す気はないらしく、口から涎を取りながら今にも飛び掛かりそうなほど興奮している。
どうやら、身に付けている手持ちの武器でなんとかするしかないようだ。
まぁ、精々死なないように頑張ろう。
地理のテストは見なかったことにしよう。うん、それがいい。
という訳でギリギリ日曜以内に更新。危ないところだった……
タイトルは……うん、本文読んだならその意味が分かるハズです。
来週(正確には23日)までには一つあげれそうです。年末は家の手伝いで多分あげれない気がする……。
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