【東方】キノの旅-The Illusional WorId-【キノの旅】   作:SP

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遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年もゆっくり頑張ります。いや、受験があるからそうも言ってられないか…

◆前回のあらすじ◆
ようやく暖かい部屋と食事にありつけそうな村に辿り着いたキノとエルメス。
しかし、二人は妖怪と呼ばれる化け物に勘違いされてしまう。
どうしたものかと思案していると、件の妖怪なるものが村へと襲い掛かってくる。
キノはエルメスをその場に残して妖怪へと立ち向かう。
「キノがどこへいくのか知らないけど、僕らはずっと相棒だぜ!!」


第3話 銀の弾丸

「ウオオォォォオォォォォォンン!!!」

 

 妖狼の口から放たれる咆哮が、キノの耳朶を震わせる。

 

 あまりの大音量に顔を顰めながらも、キノは後方へと下がって妖狼との距離を取る。

 

 まずは相手の出方を窺うことに徹する。

 

 これがキノの出した結論だ。

 

 相手はただの狼ではない。その体躯は虎や獅子をも上回っている。

 

 当然、巨躯を支えるために筋肉も発達し、外目から見ても隆々としているのも見て取れた。

 

 今の手持ちの武器では筋肉の壁によって攻撃が通らない可能性がある。特にナイフは。

 

 手榴弾も幾つかコートの中に忍ばせてあるのだが、あの巨躯の狼は見た目に反して……というか見た目通りに俊敏であろう。素直に爆発に当たってくれるとは思わない。

 

 閃光手榴弾なら目を潰しても手当たり次第無差別に暴れられてしまうだろう。そうなるとキノ自身も危ないし、何より村への被害もさらに大きくなる。

 

 要は現状では手が出せないのである。

 

 だから、相手の行動や隙を把握し、急所に致命打を与えることだけに専念する。

 

 これまでこんな化け物じみた生き物と戦った経験は無いが何とかなるだろう。

 

 いや、何とかするしかない。

 

 何せ頼れるのは自分の身一つなのだから。

 

 

 

 

 咆哮を終えると同時、キノに向き直った妖狼は四肢に漲らせていた力を爆発させ、疾風のような凄まじい速度でキノを喰らわんと飛び掛かる。

 

 妖狼の咢(あぎと)が広がり、獲物を喰らわんとキノに向かって噛み付く。

 

 しかし、予め妖狼から大きく距離を取っていたキノは容易くその突進を横に跳躍して避け、さらには駆け抜ける妖狼の横っ腹に鋭い蹴りをお見舞いする。

 

 ドッ!!という鈍い音が響いた。

 

 蹴りの反動を利用して大きく後退したキノは、冷静に妖狼の挙動を見つめる。

 

「グルルウゥ……ッ!!」

 

 蹴りを入れられた痛みよりも獲物が自分の口に納まらなかったことが癇に障るのか、不快気な呻きが妖狼の口から漏れる。

 

 キノはその一挙一動を観察していた。

 

「グルオオォォォオォオォォ!!」

 

 再び妖狼がキノへと向かって突進する。先ほどよりも速度は上だ。

 

 が、所詮は獣。その動きは単調だ。ただ真っ直ぐ前方へと突っ込むだけである。

 

 キノはまたも突進を躱して、今度はナイフを妖狼の樹木のような脚へと突き立てる。

 

 傷付いたのは妖狼の毛。それが数本はらりと舞い落ちる。

 

 恐らく獣が備えている特有の地油に加えて、泥や雨で毛が固まったことによって刃が通らなかったのだろう。まるで天然の鎧だ。

 

 毛の数本とはいえ、自分の身体が傷つけられたことに妖狼は逆上する。

 

 「ウオオオォォオオォォォォォォオンッッ!!!」

 

 途端、並みの人間では青褪めるほどであろう威圧感が放たれ、空気を震わせた。

 

 妖狼の気配が変わったことを察知したキノは、即座に自分の直感に従って妖狼にナイフを投擲し、さらに距離を開ける。

 

 妖狼は煩わしげに自分へと飛来したナイフを前足で弾くと、再び姿勢を低く構え、キノへと向かって突進する。

 

「ッ……!!」

 

 それこそ、瞬きする間も無いほどの速度で。

 

 妖狼の乱雑に並んだ牙がキノを噛み砕かんと迫る。

 

 先ほどのようにただ横へと跳んだだけでは間に合わない。

 

 体を限界まで捻り、無理やり攻撃圏内から辛うじて外れる。

 

 無理な回避行動が祟って体が悲鳴を挙げたが、歯を食いしばって耐える。

 

 本当に紙一重の回避だった。

 

 その証拠にコートの右袖が一部裂けて、袖裏に潜めていたナイフホルダーがちらりと顔を覘かせた。

 

 最早獲物を喰うというよりも、目障りな蠅を殺すことに方針を切り替えたようで、今まで以上に熾烈(しれつ)極まる攻撃がキノへと襲い掛かる。

 

 牙で噛み砕き、爪で切り裂き、その巨躯を駆使して突撃する。

 

 挙動は普通の狼と一緒だが、スピードと威力は段違いだ。

 

 前足を振えば風を切る轟音が鳴り響き、鋭い爪は木や建物をまるで紙のように容易く引き千切る。

 

 キノは辛くもその魔手から逃れているが、妖狼の攻撃は収まることを知らない。

 

 それどころか、徐々にだがキノの動きが鈍り始める。

 

 スタミナが切れ始めてきたのだ。

 

 相手は狼。野生動物である獣と人とでは身体能力が違いすぎる。

 

 加えて相手は狼は狼でも〝妖怪の〟狼だ。ただの狼だったら襲い掛かってくる前に頭を撃ち抜いて仕留めればいい話だが、その手は通用しない。

 

 生きる為に培った戦闘能力を余すことなく発揮し、キノのを喰らわんと全身全霊を以てキノを屠りに来る。 

 戦闘が始まって幾分。

 

 先ほどまで晴れていた空は、雲によって陰りを帯び始めていた。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 侮ったつもりはないけど、これは予想以上だ…ッ!

 

 妖狼の攻撃を躱し続けながら光明を見出そうと機会を探るが、その前に私の方が死にそうだ。

 

 冷や汗たらたらで攻撃を躱し、往なしてくが、それでも幾らかは体にダメージが残る。

 

 コートも所々破れてしまったし、体の方も無茶な着地やら避け方をしているものだから節々が悲鳴を挙げる。さらにいえば狼が攻撃した時の余波───飛び散る小石やら凄まじい風圧やらが容赦なく追撃を浴びせてくる。

 

 対して妖狼の方はといえば目立った傷は無く、その挙動も戦い始めてから一切変わることなく通常運転だ。

 

 寧ろ、中々胃袋の中に納まろうとしない獲物(私)にご立腹なのか殺気満々の熱い視線で私を目に捉えて離さない。

 

 荒野にいるロンリーウルフの人でさえそんな熱烈な視線は送らないだろう。

 

 狼にはパワー、スピード、タフネス、三拍子が揃ってる。それも、どれもが馬鹿みたいにずば抜けている。

 

 私は攻撃手段に欠いて弱点を探そうと必死なのに。理不尽だ。

 

 そんなことを言ってもしょうがないので口には出さない。

 

 私を切り裂こうと振われた爪を薄皮一枚切らせてギリギリで避ける。

 

 まずい。大分狼からの攻撃が当たるようになってきた。

 

 脚に溜まった乳酸が疲れを訴えている。うるさいな。今休んだら永遠に休まなきゃいけなくなるんだよ。

 

 しかし、何時までもこの調子で戦い続ければジリ賓だ。

 

 このまま狼においしくいただかれる訳にはいかない。

 

 でも、打つ手がないんだよなぁ……。

 

 考えてる間は時が止まっている訳ではない。またもや狼が巨躯を活かした突進で突っ込んでくる。

 

 この攻撃はもう見切っている。先ほどはいきなりスピードアップしたから驚いたが、それも馴れてしまえばやはり単純な攻撃なので躱せるようになってくる。まぁ『余裕を以て』という訳にはいかないが。その証拠にさっきから裂傷が増えてきてる。

 

 狼が憎々しげに私を見据え、飛び掛かる。

 

 ただ避けただけでは追撃で尻尾でぶん殴られるので狼の視界から外れ、できるだけ最小限のダメージで留まるように屈んで体制を低く保つ。

 

 狼は誰も居ない場所へと着地し、前足で踏ん張って地面を削りながらそのスピードを押し殺す。

 

 観察に徹していたお蔭で、狼の行動パターンも分かってきた。

 

 突進や爪を振うなどの攻撃は初動こそ速いものの、その動作から次の動作に移るまでが長い。

 

 今まで一撃で獲物を仕留めてきたからこそ、次の手を見越して動くなんてことは経験したことが無いのだろう。

 

 そこに攻撃の隙はある。

 

 問題はあの毛皮の鎧と筋肉の壁に弾丸が通るかどうかだが……考えていても仕方がない。

 

 心に影を落とす想いを打ち払い、狼へと向けて〝カノン〟を向ける。これならあの剛毛や筋肉の壁を撃ち抜ける筈だ。

 

 焼準の先には狼の巨大な脚。狼の体を支え、走る為に必須な力を与える場所。

 

 だからこそ、そこを狙う───

 

 もう何度目であろうか。狼が天をも揺さぶらんと力の限り咆哮する。

 

 既にやるべきことは決めた。ならばそれを実行に移すのみ。

 

 私は狼へと向かって駆けた。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

「ウオオオォォォォォォォォンン!!」

 

 

 

 妖狼の絶叫が空気を震わせ、衝撃となってキノへと襲い掛かる。

 

 腕を顔の前で交差させ、叩きつける風と音の嵐を無理やり突き抜けて尚もキノは駆ける。

 

 未だに収まらぬ強い闘志を宿した妖狼は、これまでとまったく違う行動を取る獲物の動きに微塵の興味も示さず、ただ獲物を狩る為に本能の赴くまま獲物へと喰いかかった。

 

 これがただの獲物だったら妖狼から逃げきれぬまま喰いちぎられてしまうだろう。

 

 妖狼の生き抜いた日々は、そうした獲物が自分の糧となるばかりだった。

 

 だが、目の前の獲物はこれまでと違っていた。

 

 同じような姿形をしたモノを喰いちぎり、胃袋に納めたことはある。貧弱な体なのに極上の味わいを持った人間たちの村は、妖狼にとって恰好の餌場だった。

 

 日々妖狼に怯える生活を送っていた人間たちが武器を手に取り、自分に襲い掛かって来た時も、妖狼は易々と彼らを退け、喰らってやった。

 

 弱い。それが妖狼が感じた人間の全てだ。

 

 その筈だった。

 

 しかし目の前の獲物はどうだ。

 

 同じ人間でも目の前の獲物と村にいる獲物とでは全てが違っていた。

 

 全身全霊を込めた攻撃を避け続け、まるで子供をあやす様に自分を往なし続ける人間。

 

 屈辱だった。

 

 気に入らない。

 

 これまで狩られるだけの立場だった人間が自分と同じ土俵に立つことも。胃の中に納まろうとしない目の前の人間も。そして───

 

 

 ───そんな劣等な人間に遊ばれている自分も。

 

 

 怒りを力に変え、全力を持って正面から突撃するキノを切り裂こうとする妖狼。

 

 しかし、妖狼の爪がキノを引き裂くことは無かった。

 

 妖狼の攻撃を引き付けてから薄皮一枚を切らせるほどのギリギリで躱し、隙だらけの脚へと銃を突き付ける。

 

 バゴォォォォォンッ!!

 

 瞬間、妖狼の咆哮にも劣らぬ轟音が村を超えて、山々まで鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

「───ッオォォオォオオッ!!??」

 

 カノンが放つ44口径弾が妖狼の肉を抉り、穴を穿つ。

 

 剛毛と筋肉で覆われた妖狼の脚から血が噴き出し、赤黒い血が足を伝って大地に染み込んでいく。

 

 44口径弾はキノが思っていたよりも予想以上の効果を発揮し、妖狼にダメージを与えていた。証拠に妖狼は今も尚痛みに悶え、苦悶の声を漏らしている。

 

 この隙を逃す手はない。

 

 続けざまカノンを発砲し、負傷していない後ろ脚二本にも弾丸を浴びせる。

 

 ブシュッ!!ブシュッ!

 

 再び絶叫。

 

 耳を覆いたくなる衝動に駆られつつも、その手は銃から離すことは無い。さらに脚へと銃弾を撃ち込み、機動力を剥いでいく。

 

 もはや立場は入れ替わった。

 

 狩るはずだったモノが狩られるモノに。

 

 狩られるはずだった者が狩る者に。

 

 圧倒的なまでの火力による蹂躙に、妖狼は成す術もなくその命を削られていく。

 

 口元からは血が滴り、大地を駆けた脚は全て再起不能なまでに痛めつけられ、動く事すらままならない。

 

 必死に立ち上がろうとする脚は麻痺したように言う事を聞かず、力なく地面に伏せるのみ。

 

 もがく妖狼の目に、彼の脚を封じた人間が現れる。

 

 そして人間、キノは妖狼の頭へと銃口を突き付けた。

 

 妖狼の荒い呼吸音だけが周囲を満たす。

 

 そして、キノは銃の引き金を引いた。




次話投稿は水曜日までにはする予定です。
※追記
戦闘描写が……進まない……喋らない奴と戦うと尚更……orz
モンハンの小説を読んで必死に動物との戦闘シーンを学習中です。
いつも通り日曜投稿になりそうです。ホントすいませんっ;

◆1.10 あらすじの追加と本文中に小ネタを追加。
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