【東方】キノの旅-The Illusional WorId-【キノの旅】   作:SP

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◆前回のあらすじ◆
妖狼との戦いを終え、巨大な都市へとたどり着くキノとエルメス。
詰所の中で燃料をせがむエルメスを宥めつつ、待ち人である女性の案内で街を歩く二人。
女性、八意永琳と名乗る彼女は、暇を潰せたとホクホク顔であった。
「おれはどんな医学でも誰よりも早く習得できる天才だ!!」


第5話 Do you know the place in "EL Dorado"?

 月夜の街の内部は碁盤のように均等に整備され、その街中を時折清掃用のロボットが動き回って埃を掃除していた。エルメスはモトラドには嬉しい限りと喜んでた。

 

 月夜の街とは永琳が歩きがてらに教えてくれた街の名前だった。街を造った人物の名から取ったその街の名前は、街の人々にはあまり知られていないらしい。

 

 その永琳は今キノたちを先導して街の中心部へと向かって歩いている。行先は彼女の研究所だ。

 

 外部からの病原菌を持っていたりしたら困るから、という何処かで聞いたような理由で身体検査を受けることになったのである。キノはとても嫌そうな顔をしたが、永琳が向けた威圧感を放つ笑顔によって見事撃沈。観光の為にも断る気は無かったが、何ともいたたまれない気分だ。

 

 歩きながら観光ガイドさながらの解説を披露する永琳の言葉を耳に入れながら、キノとエルメスは観光を堪能する。

 

 興味の対象を次々と変えながら歩いていくと、永琳が街の中心部にある建物で歩みを止めた。

 

「さ、着いたわよ。ここが街の中枢である役所兼研究所。研究所って言っても、私が勝手に薬を作ってたらいつの間にかそう呼ばれるようになっただけなんだけどね」

 

 永琳は困ったような笑みを浮かべながら、建物の中へと入っていく。キノたちも続いて建物へと入った。

 

 ロビーには役所の人間と思わしき大量の書類を運ぶ男や、警備の為に部屋の隅々まで目を配る兵士、何か紙に書きこんでいる男女が目に入った。

 

 彼らは役所の中に入ってきた永琳に気付き、慌てたように礼をすると、その後ろに続くキノとエルメスに疑問符を浮かべた。だが、それも一瞬だけで、後はそれぞれの作業に戻っていった。

 

「何であの人たちはこっちを見て一瞬だけ驚いてたの?」

 

 と、エルメス。

 

「この街は閉鎖的なのよ。だから外から来た人が珍しいの。外の世界のものを知っているのはほとんど兵士たちだけなんじゃないかしら」

 

「街の外に出たいと思う人はいないんですか?」

 

 キノが問いかける。

 

「それは貴女も分かってるんじゃないかしら。外に出れば妖怪に襲われるし、それ以外にも食料や野営、身の安全は自分で成さねばならない。わざわざそんな危険な真似をしてまで外に出ようと思う人間なんていないし、何よりこの街にいれば欲しいものは全て揃う。わざわざ蛇がいるとわかっているのに藪を突こうなんて思わないでしょ?」

 

 話しながら歩いていくと廊下を歩く人の数が徐々に少なくなっていく。永琳は「私の部屋があるからって皆遠慮して近寄らないのよ」と補足した。

 

 永琳は重たそうな金属質のドアを前に立ち止まり、懐からカードキーを取り出すと差込口にカードを差し込む。ピーッという澄んだ音が聴こえた後、扉が音もなく開いた。永琳とキノたちは部屋の中に入る。

 

 部屋の中を興味深げに見るキノを椅子に座らせると、永琳も椅子に座ってにやりと効果音が付きそうな表情で笑った。

 

「じゃあ、早速健康診断を始めるわね」

 

 徐(おもむろ)に注射器を取り出す永琳を、キノは無表情で見つめていた。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 人は何かを得る為にはそれ相応の代価を支払わなければならない。

 

 例えば食事。食材を買うためにお金を支払い、美味しい料理を作る為に時間を支払う。

 

 私の場合、指の切り傷と火傷を代償に料理を作っていたら、いつの間にか炭が出来上がっていた。勿論食べれるわけがないので土の上に捨てた。栄養分にはなったと思う。

 

 兎も角、何かを得る為には何かを犠牲にしなければならないという事だ。

 

 エルメスが走るときに燃料を使うことも。

 

 永琳が治療の為に薬品を使うことも。

 

 健康診断の為に私が注射されることも。

 

 皆、何かを犠牲にした結果なのである。

 

 その為に注射をするのは嫌だけれども。

 

 

 

 注射の跡が残った左腕を涙目になりながら摩る私を、永琳は優雅に笑っていた。罪は無いとわかっているが少しだけイラっと来た。

 

 エルメスはエルメスで「キノは変なところで打たれ弱いというか……」と呟いていた。後でタイヤに針でも刺してやろうか。

 

 私自身も不思議ではあるが、注射だけは本当に慣れない。慣れたくもない。

 

 骨折でも我慢できるくせにあの針が体に刺さる事だけは拒否反応が出る。まったくもって謎だ。

 

 分厚いゴムタイヤにどうやって穴を開けてやろうかと画策する私に永琳は

 

「解析に時間が掛かるから、暫く観光にでも行って来なさい」と言って、永琳が持っていたカードキーと似たようなカードを渡された。

 

「それは身分証明書みたいなもの。街の人に見せれば大隊融通は利くはずよ」

 

「? 例えばどのような?」

 

「うーん……。射撃場を含む軍関係の施設。後は薬局とかで値段を大幅に負けてくれたり、かしら。多分街にある店の大半に効果があるわよ」

 

「キノ。今行こうすぐ行こう早く行こう」

 

 エルメスが急に元気になった。多分隅々まで行き届いた整備に、燃料の大幅供給ができるとでも考えているのだろう。

 

 かく言う私も現金なもので、弾薬を安く手に入ると考えれば注射の痛みも薄れた。

 

「それじゃあ、ありがたく受け取ります」

 

「夜になる頃には帰って来て頂戴。結果が出てるはずだから」

 

 永琳の見送りの言葉を後に、エルメスを押しながら部屋を出る。

 

 ロビーまで戻ると、永琳が同行していないと気づき、不審人物に職務質問すべきかどうか迷っている感じの兵士と役所の人間を通り越して建物を出た。

 

 後で何か言われたらどうしようかと思ったが、永琳に全部任せればいいやと思い直し、考えるのを止めた。

 

「まずは整備師がいるところに行こう。そうするとあなたのモトラドに幸運が訪れます」

 

「ボクは占いは信じてないんだ。それより食事にしよう。食べる時に食べておこう」

 

「モトラドの食事は給油口から注がれるガソリンだよ」

 

「そうだね」

 

「ちょっとキノ!無視しないでよ! あ、待って、そっちは整備店とは逆だよ! キノ、聞いてる!?」

 

「聞こえてるよ」

 

「聞こえてるだけでしょ!」

 

 まったくもってその通りであったが、聞く気はないのでこれも無視する。

 

 エルメスは暫く喚いていたが、私が整備士のところへ行く気がないと分かるとやがて大人しくなった。可哀そうだが仕方がない。

 

 モトラドを運転するためには人が、人が動くためには食事が必要なのだ。ならば私がモトラドを運転するために食事を求めるのも道理だろう。

 

 しかしただ走っているだけでは飲食店は見つからない。これは街の人に聞くべきか。幸いなことに私たちのことを珍妙な目で見つめる通行人たちがちらほらと見て取れる。

 

 ギアをダウンさせてスピードを緩め、近くを歩いていた女性に声を掛ける。女性は驚愕で表情を満たしつつも立ち止まってくれた。

 

 近くに安くて美味しい料理を出すレストランがあるわ、弟が小学生で今迎えに行く途なの、随分と古い形式のバイクに乗っているわね、武器や防具を持っているならちゃんと装備しないと駄目よ、と女性は懇切丁寧に教えてくれた。

 

 女性に御礼を言って、私はアイドリングさせていたエンジンを開き、エルメスを加速させる。

 

「一体どんな料理が食べれるか楽しみだな」

 

「美味しいと言いつつ、実は刺激的な味だったりして」

 

 大交差点に差し掛かり、信号に赤いランプが灯ったのを見てブレーキを踏む。横断歩道を渡る人々の大半が私とエルメスを興味深げに見つめる。幾ら発展している街だからと言って、旅人がここまで珍しいものなんだろうか。

 

「刺激のある美味しさってことじゃない?」

 

「どうかな? この街、かなり未来的な所だから味覚とかも違ってるかもしれないよ。激辛なカレーをデザート感覚で食べるかも」

 

 歩行者信号が点滅し赤に、遅れて前方の信号が青に変わった。エルメスを加速させるとエンジン音が大きく響いた。

 

「何事も経験。食べればわかるよ」

 

「じゃあ、揮発性の高い油みたいなスープが出てきたら」

 

 ホヴァーカーが音も立てずに私とエルメスを追い越したり追い越されたりする。実に静かだ。喋ったりしない分尚更。

 

「その時はエルメスの給油口に流し込む」

 

 女性が言っていたレストランが見えてきた。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 キノがエルメスとじゃれあっている一方で、永琳はキノから採取した血液情報や健康状態を調べ上げ、丹念に情報を纏め上げていた。

 

「これで一段落ね」

 

 机の上で湯気を放つコーヒーを手に取り一口飲む。砂糖もミルクも入っていないコーヒーの苦さが口に広がり染みわたる。残り半分となったコーヒーから口を離すと、静かに机に戻した。

 

 永琳がパソコンに向き直ると、先ほど診断したキノの健康状態が列挙されていた。

 

 画面をスクロールし、上から下まで診断結果を眺める。

 

「健康状態はほぼ全てが優良。皮膚組織の回復も早く、疲労の回復も早い。精神状態は極めて優良。何かの精神疾患を抱えた経験も無し……凄いわね」

 

 纏め上げたデータに思わず笑ってしまった。

 

 街の人々は外の世界の人間たちより健康体だ。農作業などの重労働をしている村民たちと比べれば体力は劣るだろうが、反面、衛生面では彼らより抜群に良い。

 

 だがしかし、街の人間たちでもこんな結果を出したものはいない。例え悪い部分が無かったとしても、優良という評価を取れるものは少ない。

 

 その点、キノの結果は異常だった。

 

「超人ね。旅人っていうのは皆こんな感じなのかしら」

 

 楽しそうな声で永琳は言う。

 

 実際、彼女は今とても楽しい。暇で暇で堪らなかったときに面白い人物が転がり込んできたのだ。楽しくないはずがない。

 

「そういえば、あのお方にも報告しておいた方がいいわね」

 

 永琳はそう呟くと何処からか白紙を取り出し、綺麗な字で一筆したためるとロボットを呼び、ロボットに紙を持たせて送り出した。

 

「さて、次は何をしようかしら」

 

 何をしようかと悩む永琳の目に、『未完結資料』と書かれたファイルが目に留まった。

 

 永琳は棚からそのファイルを開くと、とある項目でページを捲る手を止めた。

 

「人型妖怪、か」

 

 〝人型妖怪について〟と銘打たれたその報告書には、人型妖怪による損害、目撃情報、能力、危険性などがずらりと列挙されていた。

 

 報告書を見つめる永琳の目が不意に鋭くなる。

 

 そこには『知能や身体能力が非常に高く、生命力に満ち溢れている』と言う一文があった。

 

「まさか、ね」

 

 ちらりとキノの診断結果を見つめると、やがて興味無さ気にファイルを元在った場所に詰め込んだ。

 

 永琳の表情は何か窺えないものだった。




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ぎぶみー文章力
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