【東方】キノの旅-The Illusional WorId-【キノの旅】   作:SP

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◆前回のあらすじ
エルメスは決意した。必ず、かの邪知暴虐な整備士たちを除かねばならぬと決意した。
エルメスには手足があらぬ。エルメスは、ただのモトラドである。
エンジンを鳴らし、持ち主と旅して暮らしてきた。
けれども自分のことに対しては、人一倍に敏感であった。

※CAUTION!
今回は特に駄文の気が強いです。後に修正する予定ですが、そのことを念頭に踏まえた上でお読みください。


第7話 我、怪しき化生なれども

 パン! パパン!!

 

 乾いた銃声が響き渡る。

 

 辺り一面は夕闇に包まれ、僅かな日の光さえも天へと手を広げる木々たちが遮り、地上を闇に包んでいた。森の中は暗く陰湿な雰囲気を漂わせている。

 

 森の少し開けた(といっても差し込む光量も僅かばかりマシなだけという程度だが)場所に、銃を構えた人間がいた。人間は地面にコートや帽子を投げ捨てて、ただ無機質な瞳で森の中を見渡していた。

 

 握った銃の先から漂う硝煙の香りと白煙が、人間が銃を撃ったのだと教えてくれた。

 

 葉や枝が擦れ合い、風が吹き付ける音だけが人間を包み込む。

 

 不意にがさりと音を立てて、不自然に茂みが揺れた。

 

 バン!!

 

 人間は躊躇なく音源へ目掛けて銃を撃った。

 

「ギャウン!!」

 

 悲鳴が挙がり、隠れていた者が姿を現す。

 

 茂みのほうを見つめていると、赤ら顔の猿が心臓の位置から酒臭い血を並々と流して這い出てきた。臭いに顔を顰めた人間が再び猿へ向けて撃つと、猿は静かに息絶えた。

 

 

 猿が息絶えると同時、森の中が俄かに騒がしくなった。動物たちが騒ぐ声がそこかしこで聴こえ、何かが人間へと目掛けて襲い掛かって来る。皆、獣でも人でもない形をした異形の存在、詰まる所〝妖怪〟と呼ばれるモノたちだ。

  

 妖怪は次々と現れる。真正面から現れることもあれば、地面から湧き出るように現れることもある。そのすべてを銃を構えた人間が撃ち倒していった。

 

 銃を構えて撃つ。

 

 茂みや陰に潜んでいた小型の妖怪たちが風穴を開けて絶命する。

 

 銃を構えて撃つ。

 

 巨躯の熊が襲い掛かるが、四肢に弾丸を喰らい、動けぬところを眉間を撃たれて仕留められた。

 

 銃を構えて撃つ。

 

 空に浮かんだ提灯の妖怪が撃墜され、下にいた妖怪を巻き込んで炎上する。

 

 夕日が沈みきるまでその光景は続いた。

 

 気が付くと見渡す限りが妖怪の死体で埋まっていた。立っているのは人間だけだ。

 

 大きく溜息を吐いた人間が、銃を腰に下げたホルスターに仕舞い込むと同時に

 

 ピイィィィィィーーーーーー!!

 

 訓練終了を知らせる甲高いブザー音が鳴った。

 

 

 

 

 

「すげぇなアンタ!! ここにいる誰よりも高い得点だぜ!!」

「旧世代の武器でこれほど奮闘するとは……」

「へっ、俺だってあれくらいできらぁ」

「寝言は寝て言え。お前のスコア、近所の子供が出すスコアより低かったろ」

 

 賞賛、驚愕、嫉妬、好奇、様々な視線を浴びながら、先ほどまで森の中に立っていた人間が射撃場のロビーで人垣に囲まれながら立っていた。

 

 見様によっては少年のようにも少女のようにも見える人間は、脱ぎ捨てていたコートと帽子、それと空になった薬莢を抱えてただただ所在なく立っていた。

 

 人間を囲んでいた内の一人の青年が言う。

 

「それにしても驚いたな。余所の土地からこの街までやって来たっていうだけでも驚きなのに、射撃の腕は超一流。しかも火薬式の銃であれだけの点数を取るって」

 

 青年の言葉に追従し、傍にいた髭を蓄えた中年の男性と血気盛んそうな若者が言った。

 

「君の持っている旧世代の銃。つまるところ、火薬式の銃はこの街では廃れていてね。今では燃料式の光線銃が出回っているんだ。反動が大きいし、弾詰まりや発砲音、精度が悪い火薬式は燃料式に圧倒的に劣る。だからこそ、君が火薬式で正確無比な射撃をしていて驚いたんだ」

「それより、この街以外にも銃を造れる技術を持った場所がある事の方が驚きだぜ。確かこの辺りは文明レベルがかなり低い村しか無かったはずなんだけどな」

 

 話題は人間の射撃の腕の話から各地の文明レベルの話へと転換されていく。人間は、彼らが話す会話の内容を興味深そうに聞き入っていた。

 

 暫く人間が彼らと話し込んでいると、射撃場の係員が一台のモトラド(注・二輪車。空を飛ばないものだけを指す)を押しながらやってきた。

 

「どうだった? 〝仮想射撃訓練〟っていうのは」

 

 モトラドから年若い少年の声が発せられる。

 

 中に小人が隠れ住んでいるとか、無線機が付いているとかではなく、声はモトラド自身から発せられていた。

 

 人間は特に気にした様子もなく答えた。

 

「興味深い体験だった。少なくとも、鉄板相手に撃ち続けるよりは経験になる」

「立体装置を売ってもらおうよ。そうすれば体がヘコむ心配をしなくて済むから」

「モトラド一台分の値段で釣り合うかな」

「さっきの却下。モトラドは頑丈だから多少の傷じゃビクともしない」

 

 炭酸の抜け切ったサイダーのような会話をする一人と一台。

 

 男たちはその様子を楽しそうに眺めた後、それぞれの訓練の為に散っていった。

 

 人間は受付でスコアが記入されたカードを受け取り射撃場を後にする。

 

 自動ドアの先を歩くと空は曇天の模様。ポツポツと小雨が降り始めていた。

 

 自分たちがこれから確実に濡れる事であろうと想いに達した人間とモトラドはそっくり溜息を吐き、雨で路面が滑りやすくなった道を走っていった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

「雨が酷くなる前に戻れて良かった」

「結局濡れちゃったけどね」

 

 月夜の街の中心部。今朝永琳と共に訪れた市役所の中に私たちは戻って来ていた。

 

 射撃場を出た時点では小雨だった空が、今ではスコールの様な土砂降りの雨を地面に叩き付けている。黒雲が空に立ち込め、時折稲光が不自然に街を照らしていた。

 

 風が轟々と吹き荒ぶ音が呻き声に聞こえて何処となく不気味だ。

 

 役場の職員の方々が持ってきてくれたタオルで落とせるだけの水気を落とすと、永琳のいる研究室へと向かう。

 

 相変わらず永琳の研究室がある区画だけは人がいなかった。

 

 何事もなく永琳の部屋の前までくると永琳がカメラで私の姿を捉えたのか、扉が音もなくスッと横にスライドしていった。

 

 ドアの先には永琳が椅子に座ったまま、私とエルメスを漆黒の瞳で見つめていた。

 

「お帰りなさい。どうだった? 月夜の街は」

「良い街ですね。料理が特に」

「酷い街だった。整備が特に」

「ふふっ、どうやら楽しめたみたいね」

 

 永琳は私とエルメスを見て可笑しそうにひとしきり笑った。

 

 ふと永琳が先ほどまで向かい合っていた机の上へと目を向けると、其処には私の名前が銘打たれた健康診断書が載っていた。……………すごい仕事の速さだ。

 

「診断結果、出来上がったんですか?」

 

 そう問いかけると、永琳は少し熟考した後に

 

「ええ、出来ているわ。見ても構わないわよ」

 

 と、答えた。

 

 その言葉に頷いてから、机の上に置かれた診断書の束を手に取る。

 

 一番上に乗っかっている頁から数枚捲るまでは、明らかに知識外の医学用語やら生物学用語やらがずらっと並べ立てられていたので、素直に健康状態を簡易的に纏め上げたページを探して読んだ。

 

 簡潔に言えば〝優良〟で評価が締めくくられていた。

 

 自分自身の結果なのだが一番驚いたのは体力や精神面、他全ての判定部分で優以下の評価が無かったことだ。

 

 終始危険に曝される旅の中では、どんな時でも気を抜いてはならない。食事中だろうが睡眠中だろうが常に気を張る必要がある。

 

 そんなことを続けていれば力尽きて倒れてしまうのは目に見えているので、適度に加減をしたりするのだが、それでもやはり疲れることは疲れる。そして、徐々に蓄積された疲れは簡単には取れない。

 

 にもかかわらず、身体全てがオールグリーン。精神的負担も特になしとは一体どういう事なのだろうか。

 

 別に寄生虫に寄生された覚えは無いんだが。

 

「貴女凄いわね。旅をする人は全員が貴女みたいな超健康優良者じゃないといけないのかしら」

「多分それは違うと思います」

「暴食するような人の生活態度は健康じゃないと思う……イテッ」

 

 余計な言葉を加えるエルメスのシートを叩く。食べれるときにたくさん食べておくことのどこが悪い。

 

 暴力反対を訴えるエルメスの抗議をさらっと右から左へ聞き流していると、永琳からの視線が私に固定されていることに気が付いた。何だろう。

 

「どうかしましたか?」

「え?」

「先ほどから、ボクのことをずっと睨むように見ていましたが」

「怨念ってやつだね」

「……〝因縁〟かしら?」

「そうそれ!」

 

 エルメスのボケに力が抜けそうになった永琳は、気を取り戻すかのように首を振った後、真剣な眼差しで話足を見据える。

 

「貴女、ここに来るまでの間に妖怪の肉でも食べなかった?」

「は?」

「え?」

「妖怪の肉。人を襲い、喰らう異形のモノたち。その肉を食べた?」 

 

 ……妖怪というと、先日山裾にある村を襲っていたあの狼の様なモノたちであろうか? 確かに襲ってきた獣たちを返り討ちにして食べたことなど山ほどあるが、幾らなんでも食べてお腹を壊しそうなものを食べたりはしない。

 

「襲われたことはありますけど、食べたことは無いですね」

「そう……」

 

 呟くと、彼女は顎に指を当ててまたもや考え始め、暫く経ってから首を傾げたままの私たちに言った。

 

「貴女の身体から妖気が感知されたの。人では気が付かないほどの、機械でも超精密な検査機に掛けて分かるぐらいの量だけれどね」

「?」「?」

 

 何を言っているのかがさっぱりわからない私とエルメスに、永琳は目を点にして驚いて、やがて脱力して彼女が何を言っていたのかを噛み砕いて説明してくれた。

 

「つまり、貴女が妖怪に成り掛けているかもしれないってことよ」

 

 なるほど。よく分かった。

 

 永琳曰く、診断結果が良かったのもその影響があるからかもしれないと言っていた。妖怪に成ると体が持っている機能が底上げされるらしい。

 

 妖怪云々はどうでもいいが、身体機能が上達というのは嬉しい。動けないより動けたほうが断然いいに決まっている。

 

「キノが狼になっちゃったら運転する人がいなくなっちゃうんだけど」

「妖怪に成るっていうのは容姿の変貌って事じゃないわよ。彼女は人型妖怪に分類されるわ。でも、もしかしたら何処かに妖怪の様な特徴が現れるかもね」

「第三の目が開いたりとか?」

「ありえない話ではないと思うわ。ただ、此方のほうでは人型妖怪の研究は進んでいないから何とも言えないけれど」

 

 エルメスが何か奇妙な質問をぶつけていたがそこは気にしないでおこう。

 

「そういえば妖気といっていましたが、それは何ですか?」

 

 殺気と似たような何かだろうか。

 

「明確に説明するのは難しいけれども、簡単に言うなら肉体に頼らない精神的、超常的な力のことよ。妖気はその一種。妖怪たちの力の源泉」

 

 どうやら殺気ではないらしい。

 

 ん? 妖気というものが私に宿ったのならば、私もその〝超常的な力〟とやらを扱えるのだろうか。

 

 永琳は私の単純な二元論の考えを見抜き、苦笑して言った。

 

「言ったでしょう? 検出された妖気の量は極僅かだって。今の貴女に妖術なんて使うのは無理よ。それに妖術が扱えるぐらいの力があったら警備の兵士たちに捕まって殺されてるわ」

 

 それは怖い。これは妖気の量が少なかったことに感謝すべきか。いや、元々あってもなくてもいいものなんだけれども。

 

「今は捕まえなくていいの?」

 

 これはエルメス。

 

「人型妖怪は目下研究対象だからね。貴女は成り掛けとはいえ人型妖怪なんだから、記録は付ける為には生きていてもらわないと」

「だってさ、キノ。怖い政府に捕まって解剖されてしまう前に街から逃げる?」

「あら残念。乗り物さんのメンテナンスをしてあげてもよかったのに」

「残ろうか、キノ。どうやら政府は極めて国民に優しかったみたいだ」

「ボクたちは旅人だ、エルメス。国民は国の定住者のことだよ」

 

 永琳がそのやり取りに思わずと言った様子で笑った。

 

 私とエルメスも釣られて笑った。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 二人と一台の部屋の中、面白可笑しく話は途切れることなく続く。

 

 妖怪に成り掛けの旅人と、お喋りなモトラドと、才色兼備な天才の会話は弾む。

 

 旅人とモトラドは旅の話を、天才は旅人が知らない妖怪たちの話を。

 

 言葉は紡がれ、想いは巡る。

 

 

 

 

 しかし、その時間の終わりを告げる鐘が鳴ろうとしていることを、この場にいる者たちはまだ知らない。

 

 闇に潜む者たちが、日の光を呑み込もうとしていることをまだ知らない。

 

 人々は彼らを知っていた。

 

 人々は彼らを恐れていた。

 

 

 

 そのつもりだった。

 

 

 

 人々は知らない。人を喰らい、恐怖を糧に夜を生きる妖怪たちを。

 

 人々は恐れない。虚像ばかりを見て、実像を見ていないのだから。

 

 

 

 夜を蠢くモノたちは嗤う。けたけた、けたけた嗤う。

 

 月夜の街を目指す妖怪たちの大軍勢。彼らはもうすぐそこまで来ている。

 

 後に〝人妖大戦〟と呼称された最古の人と妖怪の大戦争。

 

 今正に戦いの火蓋が切られようとしていた。  




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今回自分で書いてて特に酷いと思ったので、厳しめに書いてくれると喜びます。
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