どらン猫が使い魔   作:一匹犬

2 / 5
1話「召喚」

「…………」

 

ワシの目の前を焦点の合ってない目をしながら歩く虎柄の男……やのうて猫。ワシの友人のアントニオジュニア……通称ジュニアや。

今まで会うた猫の中ではわりかし賢い部類のやつやろな。猿以上に上手に道具を使えるし、ひらがなが書かれた紙なんかがあれば人間と会話もどきも出来る。

あとは……二足歩行もできるか。言うても四足歩行してる猫なんかは飼い猫くらいしか思いつかんが。

……まぁとにかく才能はあるんやが頭に血ィ昇りやすいから十分には生かせんのが残念なとこやな。

そんなジュニアはいつもなら血気盛んなんやけど春になると色々考えすぎてノイローゼになってまう。こいつの場合悪化すると思考どころか動きすら固まってしまうから大変や。今回は幸い軽めで済んだけど。

ノイローゼを癒す方法は以前見つけた温泉治療なんかが有効や。今んところ、毎回数日浸かっとけばそのうち治っとる。

治療の旅の行程は毎回違うが基本は徒歩やな。まぁ有馬温泉みたいな遠出の場合は電車の屋根に登っての無賃乗車をせなあかんけど。ま、ルートも百合根はん(お好み焼き屋の親父)の見て覚えた。とにかく湯治の旅は電車を使うても毎回だいたい1〜数ヶ月かかるが今回は一ヶ月程度でウチに帰れそうやな。

 

「…………」

 

そんなジュニアのために今後の予定を考えとったワシの前を死んだ目でてくてく歩いとるジュニア。……!? なんやあれは!? ……立ち鏡か? あっ!

 

「おいジュニア! 止まらんかい!」

 

ジュニアが立ち鏡にめり込……いや、液体に触るみたいにあっさり浸かっとる。あれは……なんか嫌な気配がしよる!

 

「待たんかい!」

 

慌ててジュニアの片腕を掴むがビクともせん。やばいなこれは。

 

「…………」

 

ジュニアは全く抵抗せず完全に鏡に飲み込まれてしもうた。

……どうする……いや、アントニオに誓ったんや。あいつの成長を見守るんやとな。ワシも……あ! 鏡が消えよった!

 

「なんちゅうこっちゃ。どないせえと……」

 

途方に暮れようとした次の瞬間、目の前にさっきの鏡が。

 

「…………ま、やる事は一つだけやな」

 

チエちゃん、ちょっと留守にするけど堪忍してくれよ。

こうしてワシも鏡に飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーい!」

 

だだっ広い草原で桃色の髪の少女が指揮棒らしき棒を何回も振り下ろす。その度に少女の前方辺りが爆発する。

 

「ハァ……ハァ……」

 

腕が疲れたのか両腕をだらんと伸ばし、荒れ果てた草原を睨みつける少女。

 

「ミス・ヴァリエール……もうそろそろ……」

 

少女の少し後ろで佇んでいた、頭がはげ上がった中年の男が少女に話し掛ける。

 

「ミ、ミスタ・コルベール、も、もう少しだけ!」

 

ヴァリエールと呼ばれた少女が悲壮な表情で訴える。

 

「…………」

 

「……?」

 

「きゅいきゅい」

 

少女と中年の後方ではマフラー?をした虎柄の猫を抱き、微妙な表情で少女を見つめている褐色の肌の美女。その隣には青髪の小柄な少女。その背後に青い肌の翼を持った四足獣……ドラゴンが控えていた。他にも数十人の少年少女が少女に野次を飛ばしていた。

 

「まさかこの私が普通の猫ちゃんを召喚しちゃうなんてね……ツェルプストー家の名折れだわ……まぁ可愛いげはあるんだけど」

 

猫は眠っているらしく頬辺りをつんつんしながら呟く褐色肌の美女。

 

「……契約した際、身体能力活性のルーンが浮かんだ。当たりかもしれない」

 

「うーん……猫ちゃんが強くなってもね……ま、戦いは私がやればいいか」

 

「ぐがー! ぐがー!」

 

二人が自分の事を話しているのも意に介さず大きい歯をガチガチ鳴らしながら未だ爆睡している虎柄の猫。

 

「なーんか普通の猫ちゃんと違う様な……」

 

全長は普通の成猫に比べても変わりないが、横幅が標準より二倍ほど太いのだが肥満体には見えない。更に後ろ脚が前脚より発達している。全体的骨格は熊などの肉食獣に似ている気がする。

 

「ルイ……ヴァリエール」

 

抱えてる猫から目線を上げ、前方で奮起しているヴァリエールに向ける褐色美女。その表情は心配そうだ。

 

「疲労が激しすぎる。あと一回が限界」

 

青髪の少女が冷徹に告げる。

 

「んもう! 厳しいわねタバサったら!」

 

手を頭に乗せ天を仰ぐ美女。

 

「…………」

 

そんな美女達を尻目に桃色の髪の少女は指揮棒を今まで以上に強く握りしめ目をぎゅっとつぶった。

 

「(これが失敗したら私は……こーなったらなんでもいい! お願い!)」

 

気力を振り絞り力無くうなだれていた身体をあげ、指揮棒を構える。

 

「……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール! 五つの力を司るペンタゴン! 我の運命に従いし、使い魔を召喚せよ!」

 

少女……ルイズが唱え終わった瞬間、今日一番の爆発が起きた。

その凄まじい爆風は褐色美女達の所まで来た。

 

「ゴホッゴホッ…………! しょ、召喚は!?」

 

煤だらけになりながらも爆発があった辺りを凝視するルイズ。彼女の視線の先には……

 

「い、いたぁー!! わ、私の使い魔ぁ!!」

 

がむしゃらに召喚された生物の元に駆け寄るルイズ。

 

「こ、これが……私の……使い魔!」

 

その生物を穴が開くくらい凝視するルイズ。その声は震えている。

 

「ね、猫…………」

 

「まさか……ヴァリエールが私と同じのを……」

 

褐色美女が呆れている。心なしか嬉しそうだ。

 

「ぃやったーい! 成功したわー!」

 

普通の猫より威圧感がある、褐色美女が呼び出した猫と体格が似た猫を持ち上げながらくるくる回り出すルイズ。猫は意識がないのか微動だにしないが。

 

「……」

 

落ち着いてから改めて猫をじっくり見るルイズ。

体格はにっくきツェルプストーが呼び出したのとほぼ同じで普通の猫より太……でかかった。

毛色は口周りと全身の前部分が白く、両目辺りや額から後頭部、背中、後ろ脚の裏側が灰色だった。よくいる毛色で全く珍しくはなかった。

ただ眉間に三日月の形の模様……いや、触ってみると三日月の部分はわずかに膨らんでいる事から古傷か。やけにこの三日月だけが強烈なプレッシャーを放っている。

 

「それではミス・ヴァリエール、契約をしなさい」

 

コルベールが微笑みながらルイズを促す。温厚な性格なのだろう生徒が喜ぶ所を見て柔和な表情を浮かべている。

 

「は、はい!」

 

「(おっきい口ね……ホントに猫なのかしら? ……ま、いいか。呼び出せたんだ。細かい事は気にしない!)」

 

猫の大きく開いた口を引っつかみ閉じさせる。

 

「……我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ」

猫の大きくな口の中心辺りに口づけすると猫の左前脚に何かが刻まれる。

 

「さて、ミス・ヴァリエールの使い魔のルーンは……む! こ、これは!」

 

通常のルーン文字とは違う文字が刻まれたのを確認し驚愕するコルベール。彼はすぐさまルーンの文字をメモする。

 

「これにて春の召喚の儀式は終了しました。皆さん教室に戻っていなさい」

 

メモを書き終えたコルベールが生徒達に帰還を促す。

 

「ルイズ〜 お前は歩いて帰れよ〜」

 

あちこちからルイズを小馬鹿にした声が上がるがルイズは全く気にならなかった。

 

「ヴァリエール、あなたもたまには頑張るじゃない」

 

「ツェルプストー 何の用?」

 

まだ広場にいた褐色美女……キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーが歩み寄ってきたが、ルイズはキュルケを睨みつけつっけんどんな言葉を叩きつける。

 

「あら、ご挨拶ね。実技ダメダメのあなたが珍しく成功したから褒めてあげようと思ったのに」

 

「余計なお世話よ!」

 

言い争っている間に青髪の少女タバサもドラゴンにちょこんと座り込みルイズの近くまで飛んできた。

 

「(あのちびっこいの誰だっけ? 時々ツェルプストーとつるんでるけど……)」

 

「! きゅいきゅい!」

 

タバサのドラゴンが灰色の毛の猫を見て警戒の鳴き声をあげる。

 

「!? ……」

 

使い魔の態度を見て驚くタバサ。タバサには分かったがこのドラゴンはただのドラゴンではなく更なる高位の存在だ。その存在が一見ただの猫に注目している。

 

「…………」

 

「あら、なに考えてるのタバサ?」

 

「……ん、なんでもない」

 

「そう……」

 

「なに二人で勝手に話してんのよ! 冷やかしなら帰りなさいよ」

 

「うーん、むにゃむにゃ……」

 

その時、灰色の猫から声がした。

 

「あ、起きるのかしら!?」

 

「ふぁぁぁ〜〜 よく寝たわい」

 

口を大きく開けあくびをする猫。ふてぶてしい事このうえない。

 

「!? しゃ、喋った! ひょっとして高位のメイジの使い魔なんじゃ……」

 

高位のメイジは召喚の儀式を行わずとも自由自在に使い魔を作る事が出来、更に使い魔になった生物は人間の言葉を喋る事が出来るという。

 

「なぁ!? なんやここは……って誰やこいつらは!」

 

ずいぶん年季の篭った声質だ。少なくとも若くはないだろう。

 

「こいつらって失礼ね! あんたは私の使い魔なのよ!」

 

「!? はぁ? つかい……ま? ってなんやねん!」

 

「使い魔は使い魔よ! あんたは一生私と共に生きるのよ!」

 

この世界にとっては至極当然の事を言い放つルイズ。しかし猫……小鉄にとっては冗談ではなかった。いや、それよりも。

 

「……おかしいな。なんで人間にワシの言葉が通じとるんや?」

 

どう考えてもこちらのしゃべった事を理解している。まさか猫語を話している?

 

「(まさかな……リミッター越えた百合根はんやないんやし)」

 

ジュニアの飼い主である百合根光三は酒量が限界(平均一升以上)を越えると人間を止めるほど凶暴化する。その凶暴さはヤクザ十数人をものともしない野蛮人テツですら恐れるほどだ。更に凶暴化と一緒の弊害として猫語を喋りだす。

 

「(……夢か? にしちゃえらいリアルやのう)」

 

頭が痛くなってきた小鉄だった。

 

 




※小鉄の毛色…アニメ、FCゲームでは焦げ茶色ですが原作、フィギュアでは灰色なのでそちらを採用しました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。